9月22日のコラムで紹介した雲南省瑞麗市の新コロナ・ウィルス感染者出現に対する9月14日(封鎖)から22日(解除)までの対応について、現地入りした中国新聞社、中国青年報、新京報、新華社の記者による取材リポートが22日(中新網)、23日(中国青年報)及び24日(新華社、新京報)に掲載されました。瑞麗という場所の特殊性、7日間の現地の雰囲気、わずか7日間で大団円という劇的成果を挙げるまでの取り組みなどを知ることができる貴重なルポですので、4記事によりながら要旨を紹介します。中国がコロナ撲滅、完全ゼロ実現に全力で取り組んでいることを理解することができると思います。
<雲南省瑞麗市>
 私も地図で確認して驚いたのですが、瑞麗市は雲南省の最南西端にある、東、西、南の三面をミャンマーに囲まれた(いわばミャンマー側に突き出した感じの)人口20万人強の小都市です。瑞麗は中国でもっとも繁華な翡翠のライブコマース及び交易の市場があり、2019年の交易額は100億元を突破したそうです。辺境とは言え経済的には豊かなことが窺われます。瑞麗とミャンマーとの国境線は169.8キロに達し、この一帯の村落は半分が中国に属し、半分がミャンマーに属するものが多く、現地では「一村両国」と呼ばれ、人々は国をまたいで居住し、「気をつけないとすぐ入国してしまう」ほどだそうです。とはいえ、高速道路はこの最南西端の小都市にも通じているとのこと、改革開放当初の中国しか知らない(2000年代初めまでは大学の校外実習で学生と、雲南省大理-大理と瑞麗は高速道路で結ばれている-を含めいくつかの土地を訪れましたが、それっきり)私には想像もできない変化がこの国の隅々まで及んでいることを改めて思い知らされました。
 瑞麗に接するミャンマー国内で最初のコロナの確定診断を受けた患者は3月23日で2人でした。8月19日に第二波が起こり、その後は一日平均174例というスピードで増加し、9月21日8時現在で累計5805例となりました。ミャンマーでは、コロナは南西部から北の方向へと拡散し、中国国境沿いの地域でも広がりつつある状況だとされています。したがって、瑞麗にとっての最大の圧力は陸路及び水路を通じたコロナ感染者の流入であり、対処に失敗すると、雲南省ひいては全国に拡散するリスクがあるということになります。
<最初の感染者>
 9月3日、32歳の女性(姓が楊なので中国人?)が3人の子供及び2人のお手伝いさん(裕福ぶりが窺える)とともにミャンマーから不法入国しました。6人は瑞麗の姉宅に落ち着いた後、女性は野菜マーケット、公園、フィットネスクラブを訪れました。9月10日になって嗅覚と味覚がないことに気づき、病院に行ってPCR検査を受け、12日に感染の疑いがあると診断され、姉宅が所在する区域は封鎖管理されました。
<瑞麗市の対応>
9月14日、瑞麗市当局は彼女を含めた2人が新コロナ・ウィルス感染の確定診断を受けたと発表します。瑞麗市政府は直ちに、市全居住者に対するPCR検査実施(費用は、ミャンマー人在住者等を含め全額政府負担)、特別の理由がない限り瑞麗を出入りすることを禁止(暫定的に一週間)、全員自宅隔離という措置を発表します。封鎖措置が発表されたのは14日深夜(22時)で、多くの住民は翌15日朝になって封鎖を知るという状況でした。「2人の不法入国者が町全体を封鎖した」という怒りの声が上がったといいます。なお、瑞麗市は中国-ミャンマー間の最大の陸路による出入国地点で、今回の事件が起こるまでは一日当たりで4.9万人以上が出入国しているといいます。賑わいが窺われます。
 瑞麗市は9月15日から19日にかけてPCR検査を実施。19日夜開かれた記者会見で、瑞麗市当局は同日10時30分までに瑞麗市全員287254人(瑞麗市民22万人以上、ミャンマー籍5万人以上)のPCR検査を完了し、全員陰性だったと発表します。発表した際、瑞麗市党委員会の龔雲尊書記は興奮気味に「やった!」と叫んだといいます。9月21日の記者会見で、瑞麗市当局は正式に市全員のPCR検査が陰性の結果だったこと、最初の2人以外の感染者はゼロだったことを発表。同日22時から市民を対象とした自宅隔離措置を解除(不法入国した女性が滞在した地区はさらに2回のPCR検査を経て26日に自宅隔離措置解除)するとしました。なお、封鎖期間中は学校、配達、公共交通、商店、ライブ配信はストップしました。ただし、日常生活に必要な物資は市が配給等で確保するため、住民は落ち着いてこの7日間を過ごしたとあります。
ちなみに、PCR検査を支援するため、近隣地域から1000人以上が瑞麗に派遣されました(「有事」に際しての近隣地域からの増援は武漢、大連、ウルムチでも行われ、今や中国のどの場所で感染者が発生しても、すぐさま対応できるシステムが構築されていることが窺われます)。PCR検査地点は2カ所から12カ所に増加。検査能力は当初の一日2500人から25万人にまで増加。整然と検査を実施するため、全市を554に区分、採取地点を360設け、5700人以上の党員幹部がさまざまな業務に従事しました。
 瑞麗市は15日にPCR検査を開始して21日に「勝利」宣言をしたわけで、この間7日間という超スピードでした。この7日間というのには意味があります。9月18日に国務院聯防聯控システム2020年秋冬季新コロナ・ウィルス防疫コントロール監督検査工作動員訓練会が開催され、同システム総合チーム組長の馬暁偉が、集団感染が発生した場合、5-7日以内に所在地域全員のPCR検査をやり遂げて、コロナの蔓延拡大を抑えることを要求したばかりでした(9月18日新華網)。瑞麗市は馬暁偉の提起をやり遂げたというわけです。瑞麗市の場合は集団感染には至っていない状況でしたが、瑞麗市党委員会の龔雲尊書記が「やった!」と叫んだのはそういう背景もあったからだと思われます。
<雲南省の対応>
 なお、直接の対応は瑞麗市でしたが、雲南省も総指揮に当たりました。詳しくは分かりませんが、9月14日、雲南省の8国境州(市)、25国境県(市)は防疫戦時状態に入ることを宣言、9月19日には省全域が戦時状態に入ると宣言しています。また、国境沿いの巡邏警戒態勢を強化したともありました。