ベラルーシ情勢は、①ルカシェンコ大統領が硬(反対派指導者に対する締め付け)軟(憲法改正指示)両面の措置を繰り出しつつ、ロシアの支持をバックに現職に留まる意欲を表明、②プーチン大統領は外相会談(於モスクワ)と首相会談(於ミンスク)を踏まえた首脳会談(於ソチ)でルカシェンコ政権支持を確認、③ルカシェンコ退陣の市民の抗議デモは衰えないが、調整評議会の国内基盤はほぼ崩壊、という展開を見せています。
 ルカシェンコは8月31日に最高裁判所長官に対して憲法改正案を提出するように述べ、自らが主導する形で局面を打開することに意欲を示しました。それと同時に、ルカシェンコは反対派の調整評議会のメンバーを拘束あるいは国外追放する強硬手段に訴え、スヴェトラナ・アレクシェヴィッチ(ノーベル文学賞受賞者)のみが拘束・国外追放を免れる状況(9月14日現在)に追い込みました。ルカシェンコのこの強硬姿勢は、9月2日の両国外相会談及び9月3日の両国首相会談により、ロシアの支持を確保したという自信に裏付けられていると見られます。彼の意気軒昂な様子は、9月8日に彼がロシアの・メディア代表団と行ったインタビューにおける発言から窺うことができます。
 ロシア・プーチン政権は、ベラルーシにおける市民の抗議活動の基調(ルカシェンコ独裁に対する反対と辞任要求)については引き続き理解を示しながらも、抗議活動を指導する調整評議会については、その成立経緯の曖昧さ・組織の合法性に疑問を呈するとともに、その指導メンバーの多くの反ロシア的バックグラウンド及び対西側傾斜姿勢に対して拒否の姿勢を明確にしました。プーチン政権がルカシェンコ政権主導による国内情勢沈静化への支持に傾きつつあるのは、チハノフスカヤ及び調整評議会に対する不信感が大きく働いていることが窺われます。
 極めて限られた報道に基づいているせいかもしれませんが、ベラルーシの市民の抗議活動と反対派指導部を自認する調整評議会とが一枚岩であることを示す材料は不足しています。チハノフスカヤの主張は、ルカシェンコ辞任と再度の大統領選挙実施を主張する点で、ベラルーシ国内の抗議活動と軌を一にしています。また、彼女を代表する立場で調整評議会メンバーになっているコレシュニコヴァに関しては、抗議活動する市民と行動を共にし、多くの市民が彼女に信頼を寄せる情景を伝える写真も掲載されました(イランの通信社)。ノーベル文学賞受賞者のアレクシェヴィッチについても同じような写真が掲載されています(同)。しかし、チハノフスカヤもそうですが、調整評議会の他のメンバーはウクライナ、ポーランド、バルト3国等への接近を公然としており、ロシア側の警戒・不振は理由がないことではないことを裏付けます。
 私は、プーチン政権はチハノフスカヤ及び調整評議会に対しては不信感が大きいと思いますが、ルカシェンコ支持で凝り固まっているかとなれば、これまた微妙であるような気がします。9月15日付けのロシア紙『イズベスチア』は、プーチンがルカシェンコに15億ドルの政府融資を行うことに合意したことを報じる記事の中で、2人の専門家の見解を紹介しており、私にとってはとても参考になりました(同日付タス電)。
 一人は、ロシア議会の旧独立国家共同体(CIS)問題ユーラシア統合等委員会副議長のヴィクトル・ヴォドラツキー(Viktor Vodolatsky)です。彼は、「今日のベラルーシで起こっている事態はウクライナで使われたシナリオである。5年から6年の頻度で、CISの状況を動揺させようとする新たなロードマップが用意される」と述べました。プーチン政権は、ベラルーシがウクライナの二の舞になる事態を阻止することを至上課題としていることは見やすい道理です。この最悪の事態を避けるためには、チハノフスカヤ及び調整評議会を「受け入れる」用意はまず考えられません。これが、西側との対決を前面に出すルカシェンコを支持する最大のゆえんだと思います。しかしだからといって、ルカシェンコと心中する覚悟を決めているとは結論できないでしょう。
 イズベスチアはもう一人、政治学者ヴラディミール・エフセイエフ(Vladimir Evseyev)の見解を紹介しています。エフセイエフは、ネットで調べたところ、「中佐、CISインスティテュートのコーカサス局長、公共政策調査センター部長、ロシア科学アカデミー調整評議会書記」とあります。かなり名の通った人物と見てよいと思いました。彼によると、表に出てくることはまずないが、両大統領の最重要テーマは、ルカシェンコの後継者問題(a key subject topping the talks between the two presidents is the question of who would be a potential successor to Alexander Lukashenko)であるというのです。そして次の発言が続きます。
「モスクワにとって重要なことは、ベラルーシ現職大統領を保全することではなく、大事なことは憲法改正後における権力の平和的移行である。後継者については、西側が事前にその人物に反対することがないよう、注意深く秘密にされている。ロシアにとって、ルカシェンコは個人的に多くの問題がある。それらは主に石油及び天然ガスにかかわっている。両指導者の会談の後は、このトピックに関するモスクワとミンスクの論争は静まっていく(subside)と思う。」
 私は、ルカシェンコが簡単に権力を手放す話に応じるかについては、これまでの彼の発言を見る限りにおいては、簡単ではないと思います。しかし、プーチン政権にとっては、ベラルーシ国内の雰囲気(ルカシェンコに飽き飽きした国民感情)を考え、かつまた、ベラルーシ国内の対ロ感情をつなぎ止める上では、ベラルーシ国内が受け入れ可能な後継者をルカシェンコにのませることが不可欠であることも容易に理解できます。エフセイエフの見方は鋭いと思いました。したがって、この問題に留意しながら、今後のベラルーシ情勢の展開をフォローしていくことが一つのポイントになると思います。
 以下では、8月31日から9月16日までの主立った動きを、記録に残す意味も含めて紹介しておきます。

8月31日 ルカシェンコが最高裁判所のスカロ長官に述べた発言(ミンスク発タス通信):国の現在のシステムは権威主義的であり、大統領に縛られないシステムを作る必要がある。「公共生活において若干権威主義的なシステムだが、大統領は裁判所を守り、保全している。しかし、それは個人的なことであり、ルカシェンコを含む個人的性格と関係なくシステムが動くようにしなければならない。新憲法では、過去4半世紀にわたる仕事の経験を裁判所システムに反映させなければならないと考えている。ただし責任感を持ってやって欲しい。あなたが提案を出したら、署名する。」(BelTA:Belarusian Telegraph Agency)この前に、ルカシェンコは、憲法改正を条件として、いくつかの大統領権限を譲り渡す用意があると表明していた。彼は、新たな選挙は新憲法が承認された後でのみ行うことができると述べた。
 BelTAは次のようにルカシェンコの発言を引用した。ルカシェンコはスカロ長官に対して、人々の議論に供するための憲法改定作業が進行中である、と述べた。ルカシェンコは、憲法裁判所判事を含む専門家が憲法改正に関して作業中であり、その後に改正案が人々の議論に供せられると通報した。「改正案は人々が議論し、意見を表明するために提出される。私は、すべてのもの、特に改正を要求しているものが、憲法についてのレフェレンダムにおいては、投票者(本日ミンスクの街頭で集まっている者を含む)は一人一票であることを強調したい。」ルカシェンコは、1994年憲法に回帰する可能性を排除した。「(1994年憲法への)回帰は、変化かもしれないが前進ではない。私は改正が社会を前に動かすようにしたい。我々はそうした変化を主張するし、そういう変化を国民に提案する。」
9月1日 ロシアの在ベラルーシのメゼンツェフ大使はタス通信の(反対派の協調評議会のメンバーであるラトゥシュコがロシア外交官との会合を要求したことに関する)質問に対して、「ロシア大使館員がいわゆる反対派の代表と会う計画はない」と述べた。彼は、ベラルーシ社会が直面している複雑な問題の解決は内政問題だと述べた。
同日、チハノフスカヤは、反対派の主要な要求はルカシェンコの辞任であると述べた。「政治的アジェンダを憲法改正の議論に換えてはならない。我々は人々が言っていることを聞くべきだ。人々の要求が第一に来るべきであり、公正な選挙の後にのみ可能となる改革はその後だ。」チハノフスカヤによれば、ババリコの発言には問題がある。なぜならば、ルカシェンコは今「曖昧な時間的スパンのもとでの曖昧な憲法改正について話すことで辞任を引き延ばそうとしている」からだ。(ミンスク発タス電)
 ババリコは8月31日、(明らかに6月に録音された)ビデオを公開した。その中で彼は次のように述べた。すべての反対共鳴者を結びつける「組織形態」を作らなければならない。この組織の役割は、憲法改正を行い、経済情勢を改善し、人々に「市民としての立場を行使する機会」を提供することでなければならない。(同)
同日、モスクワ関係大学におけるラブロフ外相の発言、要旨次のとおり(ロシア外務省WS)。
 「植民地システムが崩壊した後も、西側政治家のメンタリティには師弟関係とかボス-子分関係が大きく支配している。今日になっても、彼らはまだ、平等の立場で他者を相手にする必要性を認識することを拒絶し、多極的・多中心的な現実を当然なこととして認めることを拒絶している。今日彼らは、自分たちが作り出した経済支配のメカニズムを利用することではなく、完璧に違法なアプローチによって自分たちの優越性を守ろうとしている。そのアプローチとは、制裁、直接干渉、そして私たちがほぼ毎日多くの国家で見ているその他の行動である。
 彼らは、ある方法で一つの国家を支配することに失敗すると、「ケイオスの空間」と名づける状況を作り出し、自分たちの支配のもとでのケイオスに持っていこうとする。しかし、経験が示すとおり、ケイオスを管理することは不可能である。最初のケースは1999年のユーゴスラヴィアであり、その後にイラク、リビア、シリアその他の中東諸国が続いた。ウクライナに起こった悲しむべき事例は衆知のとおりだ。そして今日、ベラルーシの隣人たちが困難な時を過ごしている。
 我々はハッキリとロシアの立場を述べてきた。プーチン大統領はオープンに語った。我々を導いているのは、国際法及びロシアとベラルーシとの間に存在する諸約束である。当然のことだが、我々は、ベラルーシ人が外からの干渉なしに自分たちの問題を解決できることを願っている。
 多くの西側諸国、すなわち我が諸隣国及び海外の国々(アメリカとカナダ)は、ベラルーシの現状を解決するための方法を押しつけようとしている。しかし、我々は押しつけがましい仲介のサービスは求められていないと確信する。ルカシェンコは憲法改正を提案している。我々の共有する評価によれば、この動きは市民社会との対話のスタートにすることができるし、ベラルーシ市民の関心であるすべての問題の議論を可能にするはずである。
 最近、ルカシェンコは選挙前に憲法改正を行う必要性について語った。彼は、この改正は非人化されるべき(should be de-personified)で、誰が上に立つかと関係なくベラルーシの政治システムの安定を保証するべきだと語った。そういう改正のための提案の作成を始める用意があるとも語った。市民社会のメンバーもこの作業に関与するべきだと確信する。彼らがこの危機から抜け出すことを望むのであれば、関心を示さなければならない。ところが我々は、情勢をさらに不安定化させようとする動きしか見ていない。リトアニアの要求は度を超している。我々の見るところ、リトアニアとチハノフスカヤは、ベラルーシの主権を尊重する立場に基づかない、民主的方法からは程遠いやり方を行っている。」
9月2日 ロシアのラブロフ外相とベラルーシのマケイ外相の会談。以下は、同日のロシア外務省WSが掲載した両国外相記者会見におけるラブロフ発言。
 「外部の激しい干渉の中で、ベラルーシははじめて深刻な不安定化という脅威に直面している。我々は諸外国の圧力を非難する。これら諸国は同時に大統領選挙結果に不満な反対派を公然と支持している。疑わしい仲介とやらが同国、その人民と指導者に押しつけられている。その仲介にはOSCE経由のものもある。しかし、OSCEそのものが深刻な危機の中にあって改革を強いられているのだ。OSCEはまた、ベラルーシ大統領選挙の国際査察という義務の履行もできなかった。以上に加え、EUとNATOの極めて非生産的な声明もあった。
 当初からロシアは、ベラルーシの情勢展開に対して熟考を経た立場をとってきた。プーチン大統領が最近のインタビューで述べたとおり、大統領選挙は行われたと信じている。我々は、対話を通じて、及び現行ベラルーシ憲法の規範を尊重し、法と秩序を遵守する形で事態が速やかに正常に戻ることを希望する。いかなる内政干渉も、ミンスク及びベラルーシ指導者の主権的意思に反するいかなる差し出がましい仲介サービスの押しつけも受け入れることはできないと考える。ベラルーシ人民が独立して現在の状況を評価することを許されることが原則的に重要だ。
 これとの関連で、ルカシェンコの憲法改正を行うというイニシアティヴは極めて有望だと思う。我々は繰り返しこれに留意してきたし、プーチンもそう述べた。我々は、この政治的プロセスが国民的対話のための有効なプラットフォームになるし、現状を克服し、情勢を正常化し、社会を安定化するのにも役立つと確信している。
 (西側の)試みは、ミンスクが選挙結果をキャンセルして、反対派の勝利を全面的に承認することを要求するだけだ。これは挑発的アプローチだ。この種の試みは、ベラルーシとロシアを引き裂こうとする連中によって行われている。我々は、すべての問題はベラルーシ憲法に沿って、法と秩序を尊重して解決されるべきだという前提に立って動いている。
 (ロシア特派員の報道に言及しつつ)多くの興味深い観察が行われている。若者たちはなぜ広場にいるか、なぜ自分たちの声を反映してほしいかについて説明している。彼らはただ聞いて欲しいと願う平和的な人々だ。しかし、プレスにはない情報で、こういう平和的な抗議を対決的な渦巻きに持ち込もうとする人びとがいることも、我々は見ている。そういう活動がウクライナから行われているという確かな情報がある。ステパン・バンデラ・トリュズブ、S14、ライト・セクターなどのグループはミンスクその他の都市における過激な動きを積極的に煽り、資金を提供し、彼らが有望だと見なす過激な指導者たちをそそのかしている。我々の情報によると、ウクライナのVolvn及びDnepropetrovsk地方にはそういう過激派を訓練するキャンプがある。ウクライナで訓練を受けた約200人の過激派が現在ベラルーシにいると、我々は見積もっている。
 ミンスクのロシア大使館に会合の提案を持ってコンタクトしてきた協調評議会に関して言えば、我々はベラルーシを主権国家として扱っている。同国で設立されるいかなる組織も法を遵守するものでなければならないと見なす。しかし我々は、協調評議会がどのようにして設立されたかを承知していない。メンバーとされている人の中には、自分たちが知らないうちにメンバーにリスト・アプされていることを知ったものもいる。メンバー・リストから名前を外すことを要求しているものもいる。
 判断を下すつもりはないが、協調評議会メンバー・リストに載っている何人かの名前はよく知っている。彼らの多くはロシアとの文化的断絶を主張し、ロシア語弾圧のための「ベラルーシ化」のスローガンを唱えている。彼らは、ソ連崩壊後の組織との協力を少なくすることを主張し、集団安全保障条約機構(CSTO)及びユーラシア経済連合(EAEU)からの脱退を唱え、NATOに加入することを主張している。
 我々は、協調評議会の少なくとも一人のメンバーによる、ロシア人は「ならず者民族」であり、「ベラルーシ」はロシアではなくて常にポーランドであると主張した声明について知っている。このことは、少なくとも一定の参加者の立場を物語っている。また忘れてはならないのは、チハノフスカヤのWSに反ロ的志向を確認したプログラムが掲載されたことについて、このグループからなんの説明もないことだ。そのプログラムは速やかに消された。ところが、何が起こったのか、評議会の本当のプログラムは何なのかについてまともな説明はない。
 こういう状況のもとでは、彼らがベラルーシの法律に基づいて組織を設立するまでは、彼らの代表と会見する意味はないと考える。我々はさまざまな国の反対派と協力することがあるが、それは彼らが法律的に動いている限りにおいてのことである。
 協調評議会に関してはもう一つ特徴的なことがある。最初のデモが起こり、法執行機関との対決が起こったとき、法執行担当者たちは、誓約を破って「人民に与する」ように公然と誘われたというのだ。これは犯罪だと思う。
 だからまずは、ベラルーシ人の未来のチャンピオンだと自称する人々がどういう人々なのかを理解する必要がある。
 (ロシアの役割、政策に関する質問に答え)プーチンがルカシェンコとの電話会談の結果について話したように、選択肢は一つだけだ。すなわち、ベラルーシの内政に対するいかなる干渉もストップすることだ。国民的対話の一環として憲法改正を行うというルカシェンコのイニシアティヴを推進することは極めて有望だと思う。ベラルーシ指導部が行う用意がある国民的対話が必要とされている。
 何が何でも騒擾と法の破壊をそそのかそうとしている連中は、国民的対話によって自分たちが歴史の縁に置いていかれてしまうことをよく理解している。だからこそ彼らは、ベラルーシに正常な日常が戻らないようにするべく、すべてを過激な煽動と挑発へと持っていこうとしているのだ。我々はそうした試みを断固としてストップさせるし、ロシアとベラルーシをそうした挑発に引き込もうとしているさまざまな外国の試みは絶対に許さない。」
*以上のラブロフ発言は、「情勢を悪化させないために誰もが踏み越えてはならない境界線を設定したもの」(Chairman of the Board of the Valdai International Discussion Club's Foundation Andrei Bystritsky)という評価が行われた。
9月3日 ロシアのミシュスティン首相、ベラルーシ訪問。ルカシェンコは、ミシュスティンに対して、「二つの兄弟国家、ロシアとベラルーシは、これまで同意できなかった多くの問題について合意に達した。両国の立場が接近し、多くの問題に同意できるようにするために、昨日の両外相及び今日の両首相は大変なことをやってくれた」と述べた(タス通信)。
 この日の定例記者会見で、ロシア外務省のザハロヴァ報道官は、ポーランドがEUの先頭に立ってベラルーシ反対派を支援し、ベラルーシ内政に公然と干渉していると批判し、国際法の公認された規範に戻ることを強く促した(ロシア外務省WS)。
9月4日 プーチン、ロシア安全保障評議会常任メンバーとの会合。ミシュスティン首相のミンスク訪問結果について議論(ロシア大統領府WS)。
9月5日 ヴァレリ・ツェプカロ(かつて大統領選挙候補に名乗り出た)は、ベラルーシの多くの住民は「ルカシェンコ退陣」を望んでいるのであり、「我々はロシアと素晴らしい関係を有する民主国家を望んでいる」のだから、ロシア政府は「ベラルーシ人民の願望に反対する振る舞いをしない」ことが重要と発言。さらに、「政治犯は釈放されなければならず、ロシアを含む国際社会全体の監視の下で正常な自由選挙が行われるべきだ。ベラルーシの発展を望み、変化を求め、ベラルーシが民主的で繁栄することを願うすべての者を団結させるのは以上の原則だ」と述べた(ワルシャワ発タス電)。
9月7日 EUのボレル外交安全保障上級代表が包括的な国民的対話の必要性に言及。  同日、チハノフスカヤは、「ルカシェンコ政権は脅迫だけに訴えている。コレシュニコヴァ、ロドネンコフ、クラフトソフの拉致は協調評議会の活動を妨げようとする試みだ」、「しかし、政権が脅迫すればするほど、人々はますます街に繰り出す。我々は、拘束されたもの全員の釈放と新たな公正な選挙を求めて闘う」と発言(ミンスク発タス電)。
 協調評議会メンバーのパヴェル・ラトゥシュコはタス通信に対して、「当局は協調評議会を潰し、混乱させ、その活動をくじこうとしている。評議会はこの危機を乗り切ろうと努力を続けている」、評議会はメンバーに対する圧力が高まっているために活動方式の変更を余儀なくされており、評議会の3人のメンバーが消えたことは「法執行機関の圧力」だと述べた。彼は、市民社会が抗議を続けていることを賞賛し、「欧州及びロシアは如何に多くの人々が町に出ているかが分かるはずだ」と述べた(ミンスク発タス電)。
9月8日 コレシュニコヴァがウクライナ国境を不法に越えようとしているところを拘束された、とベラルーシのテレビ局が報道。ロドネンコフ、クラフトソフについては、ウクライナ国境警備当局がウクライナに入ったことをFBで報道。ウクライナ内務省次官は、両名がベラルーシから追放されたとFBに書き込んだ(キエフ発タス電)。その後、コレシュニコヴァはPrudokの施設に連れて行かれた(ババリコ陣営の情報。ミンスク発タス電)。9日にコレシュニコヴァの父親は、当局から「彼女は逮捕された」という通報を受けたと語った(ミンスク発タス電)。
 同日、評議会指導部メンバーのラトゥシュコはタス通信に、上記3人の事件にかかわって、「政府はその目的を達成していない。評議会はモラルを失っておらず、活動を続ける」と述べた。彼はさらに、評議会の核は数百人であり、さらに4000人以上の外郭があり、「ベラルーシ市民の広範な支持」が評議会の活動を支えているとつけ加えた。彼はまた「われわれはロシアとEUとの接触を使って国際的な法的手段を巻き込む」とも述べた(ミンスク発タス電)。
 同日、ロシア大統領府のペシュコフ報道官は、コレシュニコヴァの消息に関する詳細な情報は持っていないとし、「誘拐を認めることはできないが、誘拐と法的拘留とを混同するべきではない。彼女に何が起こったのかについては錯綜した報告が入っている」、「協調評議会についてはベラルーシ憲法裁判所がこの自称機関は憲法違反だと判断している。だから、それとの接触は問題にならない」、ロシアは「公衆との対話は憲法改正を議論するために近く開始されるとするルカシェンコの声明」に従っていると述べた(モスクワ発タス電)。
 同日、ルカシェンコはロシアの報道機関とのインタビューで次の内容を発言した(ロシア側諸報道のまとめ)。
○ルカシェンコは早めに大統領選挙を行う用意があると述べた。「憲法を改正するならば、憲法では大統領選挙を大切にしなければならない。しかし、それとは別に、早期に大統領選挙を行う考えに傾いている。その可能性を排除しない。」しかし彼は選挙の正確な期日は明らかにしなかった。「私は日にちについて語っているのではない。我々は憲法を採択し、選挙を行う必要がある。もし大統領選挙の時期を早めるのであれば、議会選挙より早く行うべきだろう。要すれば、新しい大統領が現れるまで、議会はそのままにしておくべきだ。議会選挙は、その時までに承認されている新しい憲法に従って行うことになるだろう。」
○ベラルーシの法執行機関が抗議者に対して手荒く対処したのはその時の熱に触発されたものであり非難されるべきではなく、そうしたことで彼らは「国を守った」。
○「私は協調評議会と話すつもりはない。彼らがどんな連中だか知らないから。彼らは反対派ではない。彼らがやろうとしているのはベラルーシと人民にとっての悲劇だ。彼らは、我が兄弟国ロシアと縁を切りたがっており、人民に対してヘルスケアと教育を負担させようとしており、産業施設が破壊されて労働者が職を失うことを臨んでいる。」
○「ルカシェンコが倒れたら、システム全体が崩壊し、ベラルーシも崩壊するだろう。」「私は何時か降りるだろう。しかし、私たちが人民とともに、数世代かけて作ったものを彼らに破壊させはしない。これが私の人生の仕事であり、この国が如何に変わってきたかということだ。」大統領選挙ではほとんどのベラルーシ人が自分を支持した。もっとも、多くの人は自分をうるさい人物だと見るようにはなっている。ベラルーシの人々が彼に反対していることを知って「もちろん面食らったし、悲劇的ですらあった。しかし、だからといって諦めたわけではない。なぜなら、私は問題を哲学的に見ているからだ。」ルカシェンコは、彼の統治の時代に達成した積極的成果を守ることが義務だと考えている。「我々の手で作ったものを守らなければならない。それを成し遂げた人々を守るのだ。彼らこそが絶対多数だ。彼らは私に投票した。うんざりし始めているものもいるかもしれないが、とにかく彼らは私を支持した。私はこのことに向き合わなければならない。」「たぶん、わたしは大統領の椅子にいるのが長すぎたかもしれない。しかし、今ベラルーシを守ることができるのは私ひとりだ。」
○ベラルーシの抗議には、アメリカがすべてバックにおり、ポーランド及びチェコを通じて組織している。「我々が理解する必要があるのは、この抗議はベラルーシについてということではないことだ。彼らのメインの目標はロシアだ。」「あなたたち(ロシア人)は警戒していた方がよい。ロシアで政治的な出来事が起こるかもしれない。多分、なんの理由もなしにだ。ロシア指導部と我々がどんな結論を出したか知っているか。今ベラルーシが崩壊すれば、次はロシアだ(ということだ)。」「ロシアのような豊かな国は対処できると考えるとするならば、それは間違っている。私はプーチンを含む多くの大統領に、抵抗するすべはないと話した。」
○ルカシェンコは、彼とプーチンが現状からいくつかの教訓を学び、過去の失敗を繰り返さないようにすることを望んだ。「我々は多くの決定を行ったが、その多くを実行しなかった。」「我々は、ガス戦争、ミルク戦争、キャンディ戦争そして石油戦争をしでかすまでになった。馬鹿げた時点にまで至った。私は、我々がこの状況から適切な教訓を引き出したと希望している。それは両国大統領に関することだ。6ヶ月前にプーチンと会談したとき、この問題を議論し、いかなる問題でも男らしく殴り合うとしても、防衛と安全保障は別格で、神聖であるということに同意した。」ルカシェンコは、ベラルーシの最近の出来事は今一度このことを証明したと述べた。「プーチンやあなた方が攻撃者に対する戦いを支持するべく立ち上がらなくてはならなくなるかもしれない、と私が言ったことを覚えているだろう。あのとき、あなた方は笑っていたが。あなたたちは冗談だと受け止めていた。いま、あなたたちは現実がそうなったことを見ている。」ルカシェンコはリラックスするのは早すぎるとした。「これは始まりに過ぎない。」「これ(事件)の背後にいるのはポーランド人ではない。それはポーランドの政策だ。ベラルーシは最初にその一撃を受けた。彼らはベラルーシを通じてロシアを叩くだろう。この背後にいる勢力を知っているか。何事も矮小化するのは間違いだ。」
9月9日 ロシア上院対外関係委員会の第一副議長キシュルヤク(Kislyak)は、「チハノフスカヤは母国に圧力をかけることを呼びかけている」、「ベラルーシの諸問題について動く代わりに、彼女と支持者は、母国及び指導部に対する圧力をかける支持を集めるために動いている」、「そのことに驚愕した」、「主要かつ議論のないことはベラルーシの絶対多数は大統領を支持しているということだ」、「ベラルーシ人自身に自らの将来を作るチャンスを与えることが重要だ」と述べた(パリ発タス電)。
 協調評議会スポークスマンのロドネンコフは、ベラルーシの特殊部隊がコレシュニコヴァを国外に去らせようとしたと述べた。「彼らの特殊作戦の目的はコレシュニコヴァを外国に運ぶことだった。」しかし、その作戦は失敗した。ロドネンコフは、彼女がパスポートを引き裂いたとつけ加えた。彼は、「コレシュニコヴァはどんな状況になってもベラルーシを離れないだろう。彼女は社会に対する責任を感じているからだ」とつけ加えた。
 同日、チハノフスカヤは、ベラルーシの抗議運動はロシアに向けられたものだったことはないと語った。彼女はロシアに向けたメッセージで、「いかなる段階においても、これはロシアに対する闘いではなかったし、そういうものにはならないことは確かだ」と強調した。彼女はロシア人に対して、両国人民の関係を傷つけるメディア報道や政治家を信頼するなと訴えた。彼女は、「宣伝メディアと政治家を信用するな。彼らに両国人民の関係を傷つけさせるな」と述べた。「ロシアとベラルーシの人民は常によき隣人であり、親密な友人である」し、将来もそうだ。彼女は、ベラルーシはすべての隣人と友好関係を追求するとともに、自国の主権を守ると強調した。彼女は、「ベラルーシ人民の自由への闘いを支持する」ロシア人に感謝した。ヴィルニスに滞在しているチハノフスカヤは初めて、「ロシに向けた」5分間の特別メッセージを投稿して、以上のように述べた(ヴィルニス発タス電)。
9月11日 ラブロフ外相は、中ロ外相会談後の記者会見で、記者からチハノフスカヤについてどう考えているかという質問に対して、次のように答えた。「チハノフスカヤに関しては、彼女は自分のことについてオープンに何でも話している。彼女は抵抗を呼びかけ、母国に対して制裁を科すように国際機関に要求している。彼女は多分、リトアニアの首都に滞在していることで影響を受けている。そして、リトアニアはベラルーシ及びその将来に関して野望を隠そうともしていない(ロシア外務省WS)。
 同日、オーストリアのシャレンベルク外相はウィーンで反対派のラトゥシュコと会談した。同国外務省はツイッターで、「外相は本日、調整評議会メンバーのラトゥシュコと実のある会話を交わした。両者は、調整評議会メンバーと平和的でも参加者に対する抑圧は直ちにやめなければならないことに同意した。ベラルーシにとっての唯一の前進の道は包括的な国民的対話を通じることである」と書き込んだ。(ウィーン発タス電)
9月13日 ロシア国防省、9月14日-25日にベラルーシとロシアがスラヴィック・ブラザフッド戦術演習をベラルーシで実施することを発表(モスクワ発タス電)。
 同日、ミンスクで数万人が抗議活動(ミンスク発タス電)。ベラルーシ内務省は、一人の警官が抗議集会中に威嚇射撃を行ったことを確認(同)。
同日、チハノフスカヤはユー・チューブを通じて、抗議者に対して実力行使しないことを呼びかけ、「数多くの歴史の例が示すとおり、平和的な抗議が政権打倒に導いた」、「我々の原則的立場は暴力に対抗して暴力を使用しないことだ」と述べた。チハノフスカヤによれば、反対派調整評議会の主要目標は新しい選挙を組織することである。(ミンスク発タス電)
9月14日 協調評議会は、プーチンとルカシェンコの首脳会談(ソチ)に向けて声明を発表し、ベラルーシにおける政治対話を支持するよう「ロシアを含むすべてのパートナーと同盟者」に呼びかけた。声明は、「我々にとって重要なことは、ベラルーシ社会の多くのものの意見が聞かれ、ロシアで考慮されることである。我々の対外政策のパートナー及び同盟者の立場はベラルーシ人民、ベラルーシの将来そしてベラルーシとロシアの関係の将来にとって疑いもなく極めて重要である。…また、フェイクではなくて真の政治対話を誠実に支持することは、ベラルーシ情勢の速やかな正常化及び両国関係の発展を容易にするだろう」と述べた。組織は、ミンスクとモスクワの関係を包括的に発展させることを唱導するとつけ加えている。「協調評議会は、ロシアとベラルーシの関係を悪化させる意図を一度たりとも表明したことはないし、今もそれを主張していない。…我々は、両国関係の全面的な発展を支持する。」
 この日、プーチンとルカシェンコはソチで会談を行った。ロシア大統領府WSが掲載した首脳会談におけるプーチン発言の大要は次のとおり。なお、ルカシェンコの発言も紹介されているが、紹介するに足る内容は含まれていないので割愛。
○私は大統領選挙でのあなたの勝利を書簡及び電話ですでに祝った。今もう一度お祝いしたい。ベラルーシにおける政治的出来事についての我々の立場については、あなたはよく理解している。すなわち、ベラルーシ人自身が外からの示唆や圧力なしに、静かに、互いの対話において、共通の決定に至るということだ。我々は、あなたが行った憲法に関する提案に留意している。ロジカルで、タイムリーかつ適切なことだと考える。憲法裁判所副委員長を長とする然るべき機関がすでに作られたと承知している。最高レベルで組織される仕事によって、ベラルーシの政治システムを改善する基盤が作られ、さらなる発展のための適当な条件が作られると確信している。
○ロシアは、連合国家条約及びCSTO条約によるものを含め、すべての協定にコミットしている。我々はベラルーシをもっとも親密な同盟国と見なしており、我々の約束はすべて守る。経済関係に関して言えば、ロシアはベラルーシ経済における最大の投資者だ。プロジェクトの一つである原子力発電所だけでも100億米ドルと見積もられている。ベラルーシの対外貿易の50%以上はロシアとのものである。ほぼ2500のロシア資本の企業がベラルーシで操業している。新コロナ・ウィルスで貿易は影響されたが、危機以前のレベルに戻すべく努力が必要だ。今日、我々は多くの提案がある。政府レベルでも、省レベルでも、さらには個々の企業レベルでも、今ある問題を克服し、前進するための条件を作り出すためにさらなる努力ができると思う。ミシュスティン首相が最近ベラルーシを訪れ、財政問題を含めて実りある会談を行った。モスクワがミンスクに15億ドルの政府融資を行うことに同意した。防衛分野でも協力を続けなければならない。昨年計画された共同軍事演習(Slavic Brotherhood Russian-Belarusian military drills)が今日スタートする。誤解を避けるために繰り返すが、この演習は昨年計画され、発表されたものだ。演習後には、ロシア部隊は常駐基地に戻る。
○最後に、緊急テーマとして、新コロナ・ウィルスに対抗する我々の努力について言いたい。すでに合意されたように、ベラルーシはワクチンを受け取る最初の国になる。ベラルーシは治験第3段階にすでに参加している。
 同日、チハノフスカヤは、ミンスクに提供される150億ドルの融資の返還は、ベラルーシ人ではなくルカシェンコが行うべきだと述べた。「私は、融資の返還は我が人民ではなくルカシェンコが行わなければならないことをプーチンが理解することを希望している。」(ミンスク発タス電)
 同日、チハノフスカヤの以上の発言に対するコメントを求められたロシア大統領府のペシュコフ報道官は、「(融資は)内政干渉と解釈されるべきではない。我々は内政干渉には絶対反対だ」と述べ、「(彼女の)提起の仕方は間違っている」、「今回の融資は、これまでのものと同様、同盟国であり、兄弟国であるベラルーシに与えられるものであって、ルカシェンコに対するものではない」、「ロシアはベラルーシ経済を支持してきたし、これからの支持を続ける」と発言した(ソチ発タス電)。
9月15日 チハノフスカヤは、 ワシントン・ポストで発表された文章の中で、8月9日の大統領選挙の結果を認めていないことを確認し、次のように述べた。
「私は大統領候補として投票の多数を獲得した」、したがって、反対派はベラルーシでの抗議を続ける計画だ。「我々は平和的な抗議を主張する。暴力に反対だ。」「多くの人はそれで十分かと尋ねる。」「答はイエスだと信じる。我々は国民としてポイント・オヴ・ノー・リターンを越えた。ルカシェンコは国家の指導者としての未来はなく、彼が権力を去るのは時間の問題だ。」反対派は大衆デモの継続を計画しており、国家機関に圧力をかけ、「国際社会の支持を求めている。」「我々は、ほかの国々の政府がルカシェンコ政権と協力するのをやめ、大統領選挙の結果を偽造し、市民に対して犯罪をおかした個人に対して制裁を科すことを要求する。我々は、現在の違法な政権と行ったすべての協定はその国の責任であり、将来の合法的かつ自由な選挙で選ばれた政府はそのような協定を遵守することを保証できない、ということを警告する。政権側のプロパガンダの主張とは異なり、時は我々の側にある。我々が勝利することは間違いない。」(ワシントン発タス電)
 これに対して、調整評議会のメンバーであるラトゥシュコはチャンネル・ワンのTVショー"ヴレーミヤ・ポカジェット"で、「新しい選挙委員会が選ばれ、そこで選挙結果をもう一度分析し、独立した投票カウントを行い、…すべての政治犯を釈放するならば、私個人としては対話のチャンスとなり得ると考える」、しかし、ルカシェンコは「絶対にそうはしないだろう」と主張した(モスクワ発タス電)。
9月16日 チハノフスカヤは、ルカシェンコが「平和的に」権力の座からおりるならば、「身の安全の保証」を提供する用意があると述べた。彼女は、ウクライナのジャーナリストの質問に対して、「議論できるだろう。もし彼が平和的に去るならば、そういう可能性はあるし、確実にそうだという。ただし、すべての人々の意見を考慮する必要はある」と述べた(キエフ発タス電)。彼女はまたウクライナの新聞(Levyy Bereg)とのインタビューで、「コレシュニコヴァだけでなく、チハノフスキー、ババリコも政治犯として囚われている」と述べた(同)。