WHOから「韓国モデル」と賞賛されてきたのに、8月に入ってから感染者が急増し、8月16日、文在寅大統領は、新型コロナ・ウイルスの感染再拡大の兆しが出ていることについて、非常に重大な状況であり山場だとした上で、国家総ぐるみで感染拡大の阻止に乗り出すよう指示するとともに、「集団感染が相次いでいる教会に対し防疫ルールを徹底的に守りながら宗教活動を行うよう特別な協力を求めるとともに、集団感染が発生した教会に対しては信者の検査、疫学調査、自主隔離など地域社会への感染防止に向けた全ての措置を取るべきだ」と述べました。また8月21日には、「新型コロナ・ウイルスが韓国に流入して以降、最大の危機で、ソウルの防疫が崩れれば全国の防疫が崩れる」とし、「ソウルの防疫を死守し、韓国全体の安全を守るという決意で臨んでほしい」と危機感を露わにしました。
 8月16日の文在寅発言に見られるとおり、今回の感染拡大にはプロテスタント系宗教関係者が多く含まれていることが一つの特徴です。さらに事態を複雑にしているのは、8月15日の光復節(日本による植民地支配からの解放記念日)に野党主催の文在寅退陣を求める2万人規模の集会が行われ、これに集団感染が起きた教会(特にサラン第一教会)の信者が多数参加したことです。文在寅はこれら信者の参加について、「国家の防疫システムに対する明白な挑戦であり、国民の生命を脅かす許しがたい行為」とフェイスブックに投稿し、強く批判しました。ハンギョレ新聞もサラン第一教会に対する批判を展開しています。
しかし、8月に入ってからの感染拡大の原因と8月15日の野党主催の大集会がさらに感染拡大を加速させる可能性の問題とは区別して考える必要があるように思います。聯合通信は毎日の感染者数及びその内訳について紹介していますが、首都圏(ソウル市、仁川市及び京畿道)を中心とした市中感染の急激な増加は8月15日以前に起こっているのです。すなわち、8月1日:8人、2日:8人(首都圏6人)、3日:3人(3人)、4日:13人(10人)、5日:15人(8人)、6日:23人(16人)、7日:9人(9人)、8日:43人(?)、9日:30人(26人)、10日:17人(16人)、11日:23人(13人)、12日:35人(32人)、13日:ソウル32人、14日:85人(72人)、15日155人(145人)、16日:267人(245人)、17日:188人(163人)、18日:235人(201人)、19日:283人(252人)、20日:276人(236人)、21日:315人(244人)、22日:315人(239人)です。
 8月に入ってからの感染急拡大の原因については、高麗大学九老病院感染内科のキム・ウジュ教授による厳しい指摘があります。キム・ウジュ教授は、大韓感染学会で2013年から15年まで理事長を務め、感染症分野における韓国の最高権威と言われており、盧武鉉政権時代の2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)対応のための政府諮問委員を務めたのを皮切りに、2004年の鳥インフルエンザ、2009年の新型インフルエンザなど感染症が流行するたびに政権の傾向とは関係なく政府諮問委員を務め、2015年の中東呼吸器症候群(MERS)流行時は官民合同対策班の共同委員長を務めた、という紹介があります(8月19日付け朝鮮日報WS)。文在寅政権に対する批判の急先鋒である朝鮮日報の記事ですので、その点は考慮しなければならないと思うのですが、キム教授の以下の指摘には首肯できるものがあります。

 「キム・ウジュ教授は最近の新型コロナ・ウイルス首都圏再拡散の根本的な原因として、同時多発的に出された政府の間違った政策を挙げた。まず、7月24日から教会など小グループの集会禁止を解除し、スポーツ競技の観客入場を限定的に許可した措置だ。さらに、低迷している消費者心理をよみがえらせるため8月14日から利用可能な外食・公演クーポンを配ると発表した。キム・ウジュ教授は「政府が教会の小グループによる集会を可能にし、外食クーポンを配ると発表したことで、国民に『気を緩めてもいい』という一種のシグナルを出してしまった。明らかに誤った政府の判断により、このような事態が起こったのだ」と批判した。
 また、今回のサラン第一教会など特定の集団が再拡散の原因として指摘されていることも批判した。キム・ウジュ教授は「防疫に穴が開くと、政府はすぐに特定の集団を攻撃する行動を見せた。かつて新型コロナ・ウイルス感染拡大で新天地イエス教会やソウル・梨泰院の性的少数者のクラブを糾弾したのとまったく同じだ」と言った。さらに、「毎回、一集団を取りざたして葬ることで状況を終わらせ、防疫システムにどのような問題があったのかはきちんと診断しないことが、危機が繰り返されている根本的な原因だ」と分析した。
 キム・ウジュ教授は、政府がこのほど「ソーシャル・ディスタンス(社会的距離・感染防止のため人と人の間に距離を取ること)確保」を第2段階に強化したことも、「迅速に対応したが、問題がある」と言った。原則上、第2段階では室内50人以上、室外100人以上の人員が集まる行為を禁止しているが、政府は禁止ではなく「自粛勧告」だけを出したのだ。キム・ウジュ教授は「十分でないだけでなく、政府が公言した原則を自ら変えてしまった点に、より大きな問題がある。マニュアルを朝令暮改式に変えれば、政府を信じて従う国民がいるだろうか」と言った。現在の状況で必要な対応策については「政府は10人以上の集まりを禁止するなど、『ソーシャル・ディスタンス第3段階』に引き上げなければならない。それと同時に、過去の失策を素直に認めて国民の助けを求めるべきだ」と語った。」
 以上のキム教授の発言で特に重要なのは、文在寅政権も防疫と経済という2つの活動の両立を図らざるを得ず、「政府が教会の小グループによる集会を可能にし、外食クーポンを配ると発表したことで、国民に『気を緩めてもいい』という一種のシグナル」を出したことが今回の感染拡大の引き金になっているという指摘です。これは、ひとり文在寅政権に限らず、安倍政権さらには世界各国でも見られることです。
 しかし、大邱の新天地イエス教会を震源とした流行の際の文在寅政権の「韓国モデル」対応能力(早期発見、早期隔離、早期治療の「3つの早い」)からすれば、8月前半の流行規模に対しては十分に対処可能だったのではないかという疑問がわきます。この疑問に対する答は8月16日の聯合通信の以下の報道から得ることができるようです。
 丁世均首相は16日の中央災難(災害)安全対策本部の会議で、首都圏の教会を中心に新型コロナ・ウイルス感染が急拡大していることについて、2月に新興宗教団体「新天地イエス教会」の南東部・大邱の教会を中心に感染が爆発的に広がった事態が首都圏で再現されるのではないかとの懸念があるとしながら、感染再拡大を防ぐため可能な全ての措置を講じると表明した。
 丁氏は一部教会が防疫当局の疫学調査や隔離措置、ウイルス検査などに非協力的な姿勢を見せていると指摘し、「共同体の生命と安全を脅かす違法行為を徹底的に調査し、法と原則に基づいて厳しい措置を取る」と強調した。
 その上で、宗教界は責任ある姿勢で自発的な防疫措置を一層強化し、各教会と信者は防疫ルールを徹底して守ってほしいと呼びかけた。
 このところ首都圏の教会を中心に感染者が急増しており、16日正午までにソウル市城北区の教会で計249人、京畿道竜仁市の教会で計126人の感染が確認されている。
 要するに、「一部教会が防疫当局の疫学調査や隔離措置、ウイルス検査などに非協力的な姿勢を見せている」ために、「韓国モデル」の核心である「3つの早い」が機能していないということです。どうして一部の教会が「非協力的」なのか。19日付けの中央日報・日本語WSは、その点について次の記事を掲載しました。保守的な中央日報が報じた内容なので、間違いないでしょう。
 ソウル市によると、19日午前0時基準で新型コロナ新規感染者が前日より151人(海外流入1人含む)増え、新型コロナの国内上陸以来の最多を記録した。このうち城北(ソンブク)区のサラン第一教会関連の感染者が84人で、全体の55.6%を占めて最も多く、龍仁(ヨンイン)ウリ第一教会関連が3人、蘆原(ノウォン)区アンティオキア教会関連3人など、教会関連の集団感染が続く様相を見せた。これにより、15~19日(0時基準)5日間、ソウル内の感染者は593人に及んだ。
   特に8日と15日に景福宮(キョンボクグン)と光化門(カンファムン)一帯で開かれた大規模な集会関連の感染者が全国で続出したことを受け、ソウル市は集会参加者全員に検査を強制する「検査実施行政命令」を発表した。徐正協(ソ・ジョンヒョプ)ソウル市長権限代行(行政第1副市長)は19日、緊急記者会見で「8月8日と15日に光化門一帯の集会に参加したソウル市民は1人の例外もなく最寄りの保健所や指定された病院を訪問して検査を受けなければならない」とし、「もし検査を受けず、集会参加が確認された場合、感染症予防法により300万ウォン(約27万円)以下の罰金が科され、防疫費用が請求される場合がある」と述べた。
 ソウル市は、集団感染が発生したサラン第一教会をはじめ、信徒個人に対しても求償権を請求するなど、強硬に対応するという計画も明らかにした。徐権限代行は「検査および疫学調査の過程で、忌避・偽証・不服などで行政力と予算の浪費を招いたため」と説明した。ソウル市はサラン第一教会のチョン・グァンフン牧師が自己隔離命令を受けたにも関わらず光化門の集会に参加した点と、ソウル市に正確でない感染者名簿を提出したことを挙げ、感染症予防法違反の疑いでチョン牧師を告発した。
 サラン第一教会の信徒・訪問者等の検査対象者4066人のうち所在が確認できていない人員は404人にのぼる。前日まで住所不明および電話不通など所在が確認できていない検査対象者は合計550人だったが、通信会社・警察の協力などを通じて146人の住所は追加で確認された状態だ。中央防疫対策本部が把握しているサラン第一教会の累積感染者は同日正午までで623人にのぼる。
 8月19日に付けのハンギョレ・日本語WSはさらに生々しい教会の「非協力」の実体を次のように伝えています。
 新型コロナ・ウイルス感染症(COVID-19)の拡散を遅らせるためには、迅速な検査と接触者の追跡をもとに「時間との闘い」が重要だが、サラン第一教会の一部の信者が検査・治療を拒否しているうえ、防疫当局の疫学調査が全国的な感染拡大のスピードに追いつけず、難航している。さらに、今月15日に光化門(クァンファムン)で行われた保守団体の集会に参加した人たちが、「携帯電話の電源を切って防疫当局の追跡から逃れなければならない」と督励し合ったことも明らかになった。追跡のスピードが拡散のスピードに追い付かなければ、医療システムが患者に対応できなくなるという懸念の声もあがっている。
 18日、キム・ガンリプ中央災害安全対策本部第1総括調整官は「同日午前0時基準で、リストを確保した城北区(ソングクク)のサラン第一教会の関係者約4000人のうち約3200人に対して隔離措置を取り、約2500人に対して検査を実施した」とし、「しかし、連絡先と住所が確認されていない約590人や連絡がつかない約200人など、およそ800人に対する検査と隔離が難しい状況」だと述べた。検査を受けた2500人のうち感染が確認された人は434人で、陽性率は17%に達する。検査に応じていない人たちに陽性率を単純に適用すれば、教会関係者のうち約250人の感染者がさらに存在する可能性もあるということだ。…
 15日の光化門集会の参加者に対する迅速な検査と感染者の隔離措置も重要な課題だ。しかし、取材の結果、当日午前から保守系のキリスト教団体のメンバーの間では、「(集会前後に)携帯電話の電源を切り、現金を使ってクレジットカードは使わないように」という情報の出所が不明な指針が、携帯メールや各種メッセンジャー、インターネットブログなどさまざまな経路でシェアされた。ソウル陽川区(ヤンチョング)のある教会の信者で、15日の集会に参加した60代の男性はハンギョレに「集会参加者と私たちの教会の信者が加入しているグループチャットで、15日にこのようなメッセージをシェアし、周りにも伝えた」とし、「防疫関連の政府発表を信じておらず、保健所と警察の追跡を受けたくなかった」と話した。15日午後1時ごろ、ネイバーのBAND(グループコミュニケーションアプリ)でこのメッセージをシェアしたKさん(64)は「感染者の動線が把握されないよう、緊張感をもって、緻密に動かなければならない」と付け加えた。
 これにより、当時光化門周辺の交通カードの使用内訳を分析し、参加者らを追跡しようとした警察の計画にも支障が生じた。警察は「集会参加者の大半が昨年から保守集会に参加してきた人たち」だとし、「採証映像や集会参加者たちがアップロードしたユーチューブ映像、監視カメラ(CCTV)資料を分析・対照する」と述べた。しかし、これにはかなりの時間がかかるものと予想される。中対本の分析によると、サラン第一教会関連者のうち少なくとも10人が今月8日の景福宮集会と15日の光化門集会に参加した。
 逃走や脱出の事例も相次いでいる。坡州市(パジュシ)では陽性判定を受けて病院で隔離治療中だった50代の男性が同日0時18分頃病院を脱出し、防疫当局が追跡している。前日、浦項(ポハン)では15日、光化門集会に参加した40代の女性が、医療院への移送を控えて自宅から逃げ出し、4時間後に逮捕された。キム・ガンリプ第1総括調整官は「治療を拒否したり、脱出したりすれば、隔離措置違反になる」とし、「刑事処罰が科せられる可能性もある」と警告した。クォン・ジュヌク中央防疫対策本部副本部長は「防疫に協力せず、感染が疑われる患者の検査が遅れると、米国や欧州各国のように韓国も大流行状況を迎えるかもしれない」とし、「今そのような危機の瀬戸際にある」と述べた。
 要するに、「3つの早い」の最初の「追跡」が「一部の教会」の非協力によって効果を発揮できないために、感染拡大を招いてしまっているということです。次ぎに起こる疑問は、「一部の教会」がなにゆえにこれほどまで文在寅政権に対して非協力なのかということです。その点を理解するための前提として、韓国プロテスタント教会が一枚岩ではないことを理解する必要があるようです。8月22日付けのハンギョレはチョ・ヒョン宗教専門記者の解説記事を掲載しています。それによると、韓国プロテスタント界は当初「進歩的な韓国基督教教会協議会(NCCK)と保守的な韓国基督教総連合会(韓基総)に分かれて」いました。しかし、韓基総に内紛が起こり、「(大教団加入の)韓国教会総連合会(韓教総)と(中小教団加入の)韓教連」が設立されました。特に今回問題となっているサラン第一教会を率いるチョン・グァンフン牧師は、保守的な韓基総の代表会長を務めています。韓教連は韓基総と袂を分かってできた組織ですが、文在寅政権に対抗する点では韓基総と類似した行動を取っています。
 もう一つ考える必要があるのは、「プロテスタント教会が新型コロナ感染拡大の源となった理由」です。この点に関しても、8月20日付けのハンギョレ・日本語WSがチョ・ヒョン宗教専門記者の解説記事を掲載しています。長いですが、とても興味深い内容なので、そのまま紹介します。
 カトリック教会の聖堂でも多数が集まってミサを行い、仏教寺院でも法会が開かれる。なのに、プロテスタント教会で新型コロナ・ウイルス感染症(COVID-19)の感染者が多く発生している理由は何か?
 集合施設を運営している点では各宗教が共通しているが、その内容を詳しく見てみると、違いが存在する。韓国の宗教を説明する際、聖堂は公務員組職、寺院は公企業、プロテスタント教会は自営業に喩えられる。「法王庁-教区-聖堂」という中央集権式組織の安全弁のもとにいる司祭は、公務員同様、個人の成果にこだわらない。ミサに必ず出席するよう信者を督励したり、献金を強要することもない。曹渓宗が多数を占める仏教の場合、「総務院-教区-寺院・庵」と形式上は中央集権システムだが、カトリックのように厳格ではない。自由を追求する僧侶の特性上、縛られることを嫌うため、信者の管理も比較的緩い。一方、プロテスタント教会は数百の教団が乱立しているうえ、 それぞれの教会的特性が強い。各教会の成否が牧師の力量にかかっているため、信者の管理や宣教、献金への情熱が他の宗教よりはるかに強い。韓国政府がCOVID-19の感染拡大状況に応じて宗教施設での会合を制限するたびに、カトリックと仏教はあまり異議を唱えることなく従ってきたが、プロテスタントの牧師たちは「なぜ食堂や居酒屋、カフェは営業を続けられるのに、教会の会合は禁止するのか」と不満の声を上げてきたのも、このためだ。
 特に、韓国のプロテスタント教会は他国のクリスチャンたちが驚くほど熱心だ。毎朝教会に集まって早朝の祈りを捧げ、礼拝の後は食事も共にする。他の国のプロテスタント教会では見られない風景だ。早朝の祈祷は毎朝甕置き場の上や台所に清めの水を用意して祈祷を捧げた韓国の伝統文化と類似している。食事は本来寺院で行うものだったが、プロテスタント教会にも食堂が設けられ、礼拝後に食事をする教会が増えた。客間に集まって会話を交わしてきた伝統が受け継がれたものと言える。韓国の教会でよく行われる通声祈祷(全員が声を出しながら一緒に祈ること)も米国南部のバプテスト教会やアフリカなどで一部見られるが、欧州とアジア圏では珍しい。しかもプロテスタント教会は建物の面積当たりの信者数が寺院・聖堂に比べて多いため、小規模会合でマスクを脱いで賛美歌を歌ったり、通声祈祷を行ったり、食事を共にする場合は飛沫が飛ぶ可能性が高い。特に、大規模のプロテスタント教会は10世帯前後の区域と100世帯程度の教区をまとめた点(細胞)組織で構成される。彼らは毎週数回は会合を開くため、信者間の接触頻度は他の宗教とは比べ物にならない。
 今年2月、大邱(テグ)新天地イエス教会を中心としたCOVID-19の感染拡大以降、多くのプロテスタント教会が政府の防疫指針に従って、礼拝堂内の参加者を減らし「距離置き」を行い、オンライン礼拝を並行してきた。信者数56万人を持ち、単一教会としては世界最大の汝矣島純福音教会は、日曜日7部の礼拝のうち午前9時・11時の礼拝には平均1万2千人が参加してきたが、今年2月以降その数が10分の1に減った。日曜日に6部礼拝を行う京畿道の龍仁新エデン教会も、礼拝当たり4千~6千人だった出席者数が500人~1千人に減少した。このため、信者が離脱するかもしれないという懸念が教会と牧師の間で高まっている。韓国教会総連合(韓教総)が5月31日を「韓国教会礼拝回復の日」と定め、「全信者が再び以前のように教会に出席して礼拝をおこなおう」というキャンペーンを展開したのも、こうした危機感によるものだった。
 韓教総所属のある牧師は「出席信者数と献金が減り教会の運営が厳しくなっていても、ほとんどの教会が防疫指針を順守して小規模会合と食事を控えているが、一部の教会が熱狂的に賛美と祈祷を行い、寝食を共にする復興会や修練会を開いて、多数の教会にまで被害を及ぼしている」と語った。プロテスタント教会がCOVID-19の感染拡大の震源地として浮上したが、「新型コロナによって最も大きな被害を被った」とし、一日も早く新型コロナ以前に戻ることを熱望しているのも、ほかでもなくプロテスタント教会である。
 要するに、多数の教会が乱立するプロテスタント教会では、信者囲い込みのためにも「三密」が当たり前であるということのようです。7月24日に文在寅政権が教会に対する規制を緩めたことが取り返しのつかない敗着だったことが分かります。特に、文在寅政権に対してもともと批判的であり、野党勢力と緊密な関係を結んでいるサラン第一教会のチョン・グァンフン牧師が、8月15日に開催された文在寅政権批判の大集会にも積極的に参加してことさらに挑戦的態度を取ったのは、政治的理由と経済的理由とが合わさった確信犯的行動であることが理解できます。
 以上長くなりましたが、「韓国モデル」がなにゆえに今回の感染拡大に対して機能していないかという疑問は、大雑把ではありますが、ある程度理解できたと思います。今後はさらに深刻な事態が待ち受けていると考えられます。8月20日のハンギョレ・日本語WSによれば、「今月15日にソウル都心で開かれた保守団体の集会の参加者から、新型コロナ・ウイルス感染症(COVID-19)の感染者が相次いで確認されている中、この日の集会参加者のうち、かなりの数が全国各地から貸切りバスで来ていたことが分かった。2万人あまりが集まったと推定される同日の集会に参加するために、数千人が狭い貸切りバスに乗って移動したことが事実だとすると、全国的な連鎖感染は避けられないだろうとの懸念が出ている。」という指摘がそれです。現実に、8月22日の感染者315人の内訳は、ソウル127人、京畿道91人、仁川21人、江原道16人、大邱9人、光州9人、慶尚南道8人、全羅南道7人、忠清南道6人、大田4人、全羅北道4人、慶尚北道4人、釜山3人、忠清北道2人、済州道2人、蔚山1人、世宗1人と、韓国全域を網羅するに至っています。
 文在寅政権は正念場を迎えていると言っても過言ではないでしょう。「韓国モデル」の成功によって文在寅大統領に対する国民の支持率は70%を超えました。しかし、住宅政策のつまずきで「岩盤支持層」と言われる30歳代及び女性層が離反し、最近は支持率が40%台にまで落ち込みました(ともに民主党の支持率も最大野党・未来統合党に逆転を許しました)。ところが、8月以来のコロナ感染急拡大に対する対応により、文在寅支持率は再び上昇し、支持率(47%)が不支持率(45%)を上回っています。これには、感染拡大の「元凶」は最大野党に近いサラン第一教会等のプロテスタント教会であるという認識が国民によって共有されたことも働いているという指摘もあります。
 とは言え、感染がこの規模まで拡大し、今後もさらに急拡大が続く場合、果たして「韓国モデル」が機能するのかという疑問が提起されます。中央防疫対策本部の鄭銀敬(チョン・ウンギョン)本部長は21日の定例会見で、「現在の流行の規模、感染拡大の速度を防疫措置だけで抑制するのは限界がある。(新型コロナは)発症前に感染力を持つため、人と人の接触を減らさない限り現在の流行を統制するのは非常に難しい」と述べました。さらに、秋美愛(チュ・ミエ)法務部長官、陳永(チン・ヨン)行政安全部長官、韓相赫(ハン・サンヒョク)放送通信委員長(閣僚級)は21日に国民向けの談話を発表し、新型コロナ・ウイルスの防疫活動を故意に妨害する行為に対して強硬な対応を取る方針を表明しました。文在寅政権があらゆる手段を講じて今回の危機を克服しようとしていることが窺えます。
 最後に、文在寅政権にも失敗・問題があることを指摘してきましたが、やっぱり文在寅「韓国モデル」と安倍晋三「日本モデル」とは違うことをつくづく実感させられます。何度も言ってきたことですが、「政府の果敢な取り組みを前提に国民の協力を呼びかける」文在寅政権と、「政府は何もしないでひたすら国民の「お上」に対する従順な行動を要求する」安倍政権という違いです。民主政治を旨とする文在寅と民主政治を歯牙にもかけない安倍晋三との本質的違いです。