7月20日の新華社、7月22日の人民日報及び光明日報WSは、6月11日(感染確認第1号)から7月19日(7月20日から北京市の危険度をレベル2からレベル3に引き下げることを発表)に至る約40日間の北京市の「対コロナ戦争」を総括する記事を掲載しました。この事実からは、中国が北京のコロナ対策の成功を極めて重視しており、今後起こりうる集団感染における「対策モデル」として活用していく意図を読み取ることができます。
人民日報の記事は、「発見→手配→ロック・オン→隔離→管理取り締まり→PCR検査→追跡→治療→市民サービス→情報公布・提供」の10の重要ポイントについて、北京市が取った行動を記しているのが特徴です。また、光明日報WSは、なにゆえに北京市は緊張したか(最重要理由は震源地が北京最大の卸売市場という、人口移動が大量でかつ激しい極めて厄介な場所だったこと、北京の鉄道、航空及び陸路での出京入京数は年間4000万人以上)、感染者を一網打尽にするためにいかなる対策を取ったか(PCR検査能力の急速な拡大と判定迅速化、出京・入京者の厳格な規制等)等で見るべき内容があります。しかし、総合的には新華社の報告記事がもっとも参考になります。
 中国の取り組みの最大の特徴は、「4つの早い(発見・報告・隔離・治療)」原則に基づき、「感染者は1人も見逃さない」徹底した取り組みを妥協することなく行うことにあります。そこにあるのは、徹底したPCR検査によって無症状感染者を含めて根こそぎにし、後顧の憂いを断ち切るという強い政策的意志です。もちろん、中国も他のすべて(特に経済活動)を犠牲にしてでも「完全ゼロ」実現を至上課題にしているわけではありません。しかし、基本的にゼロ実現を目指し、防疫コントロール対策に移行することによってはじめて、経済活動に力を注ぐことができるようになる、というのが「北京モデル」の教えるところです。コロナ対策を中途半端にしたまま経済活動再開に踏み切ればどうなるか。アメリカ、ブラジル、インド、南アフリカの惨憺たる現状は答えを明確に示しています。
安倍政権・小池都政の最大の問題は、初動を誤ったのに、感染者数、死者数が少なかったという奇跡にあぐらをかいて反省もせず、国民・都民の自覚ある行動を求める以外は、事実上何らの積極的なコロナ対策を講じていないことにあります。初動の誤りとは、「医療崩壊を防ぐ」ために「クラスター」対策に問題を矮小化し、「忍者」「一匹狼」を野放しにしたことにあることは、これまでコラムで度々指摘してきました。ちなみに、WHOは繰り返し、早期の発見・隔離・治療が対策のカギであることを強調しています。
今、東京及び全国各地で起こりつつある感染者数激増は、野放しにされた「忍者」「一匹狼」による市中感染の広がりの結果であることは見やすい道理です。この深刻を極める事態に直面してもなお安倍政権・小池都政が相変わらず無為無策のままであり、安倍政権に至っては火に油を注ぐ以外の何ものでもない「Go Toキャンペーン」に固執する様を見ると、もはや絶望感に襲われます。「Go Toキャンペーン」の本質(感染拡大を政策的人為的に促す犯罪行為)を批判せず、「東京除外」という枝葉末節を針小棒大に取り上げるマス・メディアも同罪です。これはもはや、手の施しようのない状況に至らない限り目が覚めない「精神的鎖国」というほかありません。
社会主義・中国のような取り組みは不可能にしても、「北京モデル」から学ぶべき点は少なくないと確信します。新華社記事(要旨)を紹介するゆえんです。

<迅速対応(中国語:「響応迅速」」>
 6月11日に感染者第1号が確認されてからわずか16時間で、夜を徹した疫学調査は新発地卸売市場が重要なリスク発生場所ととりあえず結論することを可能にした。24時間体制でPCR検査を行い、新発地市場で働く1.18万人全員の検査を完了した。全市「戸別訪問」、ローラー式捜査を通じて新発地市場に行ったことがある31.6万人を割り出した。その上で、北京市の危険度をレベル3からレベル2に引き上げ。湖北の抗疫経験をくみ取った北京は、疫学的発生源追及、PCR検査、医療、コミュニティでの防疫コントロールから物資供給保障までの各分野で緊急行動を取り、主動的に対応した。
 2100万人以上の常住人口を抱える北京で疫病拡散を防止する上では、大規模なPCR検査を実施することが最大の急務だった。当初の検査能力が6万人程度しかなかった北京市は巨大な圧力に直面したが、短期間に北京市内外の潜在力を発掘し、各地からの増援を得て、PCR検査機関を短期間に75から194に引き上げ、ピーク時には485の検査地点を設け、8765人の検査人員を確保し、1日の最高検査数は121.2万人、20日余で1100万人以上の検査を行った(光明日報WSによれば、PCR検査数は、6月16日50万人超、6月18日累計100万人超、6月25日累計500万人超。7月2日累計1000万人以上、7月5日累計1100万人以上)。その結果、6月24日には新発地に直接関係する流行状況を基本的に抑え込んだと発表、7月13日には市内の高リスク地区はゼロに、18日には重症患者ゼロになった。そして19日に北京市の危険度をレベル2からレベル3に引き下げる発表となる。
<精確高効率(「精準高効」)>
 北京は短時間で伝染拡大を抑え込み、しかも、精確に地域を絞り込む対策を講じることで、市民生活及び経済活動への影響を最小限度に抑えることに成功した。この経験は、防疫コントロールと経済活動とを同時的に進める上での参考にすることができる方法を提供した。次の3点は国内的世界的な参考となる。
① 精確対応(「精準戦疫」)
 今回は、患者第1号から100号発生までわずか5日という感染急拡大だった。したがって、コロナに対して先手を取るためには科学的方法を要するとともに、それ以上に政府のガヴァナンス上の効率能力が問われた。真っ先に、新発地等3つの市場の周辺55ブロックに対して閉鎖的管理を実行し、10.6万人の住民全員に対して自宅観察処分をとり、中高リスク地域における区分は通り・街まで細かく分け、閉鎖に関してはアパート等居住単位まで細かく指定し、濃厚接触者は全員を集中隔離し、人によって14日、14日+7日、14日+14日等異なる隔離観察措置を取った。このほかに、北京市はビッグ・データを活用して感染者の行動軌跡を確定し、大規模なPCR検査を実施し、「4つの早い」原則(発見・報告・隔離・治療)を実行した。今回の335人の感染者中、「濃厚接触者からの感染発見」及び「積極的PCR検査」という2つの手段で発見した感染者の割合は75%であり、感染者の発見を平均で3~5日速めることになった。
② 結束対応(「同心抗疫」)
 感染流行が始まってすぐ、国家衛生健康委員会は北京に専門家を派遣して防疫コントロールの指導に当たらせた。国家発展改革委員会と商務部は北京への野菜調達に当たり、価格安定を保障した。12の省市は全部で420人からなる20のPCR検査医療隊を派遣し、中国疾病コントロール・センター及び江蘇、浙江、山東、河南各省はそれぞれ10人からなる疫学調査担当者を派遣した。中央及び各省市の大がかりの支援は、北京が今回の戦いに勝利を収める上で大きな力となった。
③ 全員対応(「衆志成城」)
 コミュニティの防疫コントロール第一線では、9.9万人の幹部及び工作者が任務を分担し、162万人のボランティアが参加した。抗疫に当たって傍観者はなく、自覚を持った北京市民が大局を重んじ、積極的に支持し、主動的に防疫コントロールに関与した。多くの市民は進んでPCR検査に列をなし、正に全市あげての全員対応となった。
<疫病との戦いは継続中>
 今後再び捲土重来する可能性のあるコロナ再流行さらには未知の突発的公共衛生事件に如何にして従容に対処するか。北京市は長期的に考えるべきこういう問題に直面している。北京はすでに行動を起こしている。すなわち、公共衛生観察システム、医院発熱外来バージョン2等を策定し、公共衛生応急システムを強化することに取りかかっている。また、今回の実践を通じて模索する中で生まれた有効な制度・措置をマニュアル化するとともに、取り組みの中で露呈した問題・欠点に対処するための「北京市突発公共衛生事件応急条例」の制定にも取り組んでいる。