7月17日に中ロ外相電話会談が行われましたが、中国外交部の新聞発表(日付は7月18日)が王毅外交部長のアメリカに対する感情をむき出しにした激しい言辞をそのまま紹介(中国外交部の公式文献ではこのようなことは始めてではないでしょうか)、しかも、ラブロフ発言を紹介する中でも激しい対米批判の内容を伝えている (ロシア側の事前の了承を取っての上だとは思いますが) ことに度肝を抜かれました。さらに、3日遅れでロシア外務省英文WSに掲載されたロシア側新聞発表(日付は7月17日。ロシア語ではもっと早く出されていたのかもしれませんが、確認できません)の内容との違いの大きさにびっくり仰天の思いを味わいました。私の関心は、中国側新聞発表の両外相の発言部分をロシア側がどのように扱うかという野次馬的なものだったのですが、見事に肩すかしを食らわされました。国際政治の本質にかかわることではないのですが、国際関係では「こういうことも起こるのか」と、変に新鮮な気分を味わった次第です。まずは、両国外務省の新聞発表の内容を紹介します(強調は浅井)。
 ちなみに、両国の元首及び外相が他国のカウンターパートと電話会談をする場合、ロシア(大統領府WS及び外務省WS)も中国(外交部WS)も、相手側の求めに応じた電話会談の場合はその旨を記すのが普通です(中国の場合は「応約」という表現ですし、ロシアでは"at the initiative of (相手)"になります)。ところが、今回の中ロ外相会談については、中ロ双方の新聞発表にその旨の記述がありません。つまり、どちらのイニシアティヴで今回の電話会談が行われたのかは不明です。大したことではありませんが、度肝を抜かれ、次いで肩すかしを食らったあげくに、この「おまけ」も加わったということで付記しておきます。

<中国側新聞発表>
 2020年7月17日、王毅はラブロフと電話で話した。
 王毅は次のように述べた。両国元首の戦略的牽引は中ロ関係の最大の政治的強みである。先週、ロシアで国民投票が順調に行われた後、両国元首は再度電話で話し、引き続き相互に確固と支持することを確認し、中ロ関係を自国の外交における優先的方向にすることを強調した。双方は、両国元首の共通認識をさらに実行し、各レベルの交流の流れを維持し、抗疫及び実務における協力を深化させ、重要国際問題における戦略的協力を強化するべきである。
 王毅は次のように強調した。アメリカは自国優先政策をむき出しにし、利己主義、ユニラテラリズム、お山の大将主義の極みを尽くしており、もはや大国としてあるべき姿のかけらもない。アメリカは自らの責任を転嫁し、疫病に仮託して他国に泥を塗り、責任をなすりつけ、ありとあらゆるあくどい手を用い、さらには国際関係に争いと対決を作り出す始末であり、もはや理性、道徳、信用を失ってしまっている。
 王毅は次のように述べた。アメリカは対中政策において、悪名高い「マッカーシー主義」ととっくに過去のものとなった「冷戦思考」を再び持ち出し、悪意をもってイデオロギー対立を引き起こそうとしており、国際法及び国際関係の基本原則のボトム・ラインを突き破っている。中国はアメリカの反中勢力のペースにはまることはあり得ないが、自国の正当な利益と尊厳は断固として守るだろう。
 王毅は次のように語った。中ロは責任ある大国であり、両国関係を引き続きさらに高いレベルに引き上げるだけではなく、客観的かつ公正な立場を堅持するすべての国々とともに、国際秩序を破壊し、歴史の潮流に逆らういかなる行動にも反対し、世界の平和と安定を共同で擁護し、国際の公平と正義を擁護し、グローバルな進歩と発展を擁護するべきである。
 ラブロフは次のように述べた。ロシアは、両国元首の共通認識に牽引されて、防疫コントロールが常態化する背景のもとで露中実務協力を強化することを支持し、ユーラシア経済同盟と「一帯一路」建設との連結を推進することを希望している。ロ中は、安保理常任理事国及び責任ある大国として、国際問題における協調と連携をさらに緊密化させ、国際法と両国の共同の利益を擁護するべきである。
 ラブロフは次のように語った。アメリカは一貫して「アメリカ例外主義」を信奉し、唯我独尊であり、最近に至っては取り繕うことすらかなぐり捨て、はばかることなく、何事につけても脅迫し、制裁という棍棒を振り回している。ロシアは、国際関係においてユニラテラリズムを実行するやり方には反対する。
 双方はさらに、安保理5常任理事国サミット、国際的戦略的安定の擁護、地域情勢の変化及び共通に関心のある国際的なホット・イッシューについて突っ込んだ意見交換を行った。
<ロシア側新聞発表>
 7月17日、ラブロフは王毅と電話で会話を行った。
 両外相は、国連安保理常任理事国サミットの準備、グローバル・セキュリティ、世界各地の事態、ユーラシアにおける統合プロセス、本年ロシアが議長国を務めている上海協力機構及びBRICSの活動を含む、二国間及び国際間の多くの問題について議論した。
 ラブロフは、戦略的安定を維持する脈絡において、軍備管理に関するロ米対話の進展について王毅に通報した。
 王毅は昨日(16日)行われた中国+中央アジア(C+C5)外相ビデオ会議の結果について紹介した。
 両外相は、WHOその他のマルチの場におけるものを含め、新コロナ・ウィルス(COVID-19)との戦いで緊密な協力を続ける双方のコミットを表明した。
 会話は信頼に基礎を置く建設的な雰囲気で行われ、討議したすべての問題における見解の整合性、グローバルな問題を平等な対話のみを通じて解決することに対する双方のコミット、国連憲章の諸原則を尊重して利益のバランスを目指すことを確認した。
 中国は、トランプ政権、なかんずく中国の内外政のありとあらゆる問題について敵意むき出しの発言をエスカレートさせているポンペイオ国務長官、に今や怒り心頭の状態です。新コロナ・ウィルス対策の無為無策が生み出したアメリカの惨状を「中国のせいだ」と責任をなすりつけ、香港、新疆、チベットは言うに及ばず、最近では、前政権までは一応中立の立場(いずれの国の主張も支持しない)を維持していた南シナ海問題で中国の主張を不法と断じ、南シナ海で米日豪3国の演習を公然と行い、「中共」と「中国」を使い分けして中国国内の分断を煽り、中国と対決するための国際的包囲網の結成を公然と呼びかける等々、確かにトランプ政権の対中言動は完全にたがが外れてしまっています。大統領選挙で勝利を収めるためにはなりふり構わないトランプ政権の異常体質が対中言動においてさらけ出されているのです。王毅そして中国外交部としては、外交慣行をあえて無視してでも、中ロ外相会談の中身を明らかにする形で、アメリカに一歩も退かないというメッセージをトランプ政権に突きつけることに眼目があったのだろうと思われます。
 ロシア側の新聞発表に「討議したすべての問題における見解の整合性」というくだりがあることから見て、ラブロフも中国側新聞発表で自らの厳しい対米発言が引用されることについては事前に了承していたとは思われます(仮に事前了承なしとしたら外交的には大変なことです)。しかし、自制の効いたロシア側発表と感情むき出しの中国側新聞発表からは、アメリカの敵意と制裁にとっくの昔に慣れっこになっている「すれっからし」のロシアと、トランプ政権になって始めてアメリカの敵意と制裁に直面することになった「うぶな」中国との違いが図らずも浮き彫りになっています。こういうことも、国際関係を観察することの醍醐味とであり、だから一時たりとも気を抜くことができない、ということにもなるわけです。