「中国モデル」(中国の特色ある社会主義の道)は、歴史的、ガイド的、発展的、革新的、文明的及び理論的な貢献,以上6点において世界的歴史的意義を有すると主張する論文に接しました。中央党校の一級教授である韓慶祥が7月3日付けの光明日報WSに掲載した「中国の道の世界的貢献」と題する文章で指摘したものです。
「一級教授」とは、検索サイト「百度」によれば、中国における大学教員の等級は13段階に分かれており、1~4段階(正教授)の中の最高位です。「専門家工作室」の「筆頭専門家」というタイトルも紹介されています。韓慶祥の専門はマルクス主義理論および哲学であり、中央党校の副教育長兼哲学部主任でもあるという紹介(人民網)から見ても、トップ・クラスの学者であることが理解されます。別に肩書きに恐れ入るわけではないですが、「中国モデル」がひとり中国だけのものではなく、世界的意義を具えているとする中国の自信に満ちた認識・主張の発表を担うにはふさわしい人物であることが分かります。また、この文章を発表するに当たり、光明日報WSは、「実践新論」専欄を開設し、今後さまざまな文章を発表していくことを予告しており、そのトップ・バッターとして韓慶祥のこの文章を持ってきたことからも、力の入れ方が分かるというものです。
 私はかねてからこのコラムで、中国は大真面目で社会主義の道を目指していることを指摘してきました。中国は今日なお自ら認めるとおりの開発途上国ですが,同時に世界第2位の経済大国へと急台頭しています。その急台頭を可能にしている最大の原因は「中国モデル」にあることも間違いありません。アメリカを筆頭とする西側諸国が中国の台頭を警戒し、ひいては脅威と見なすのも、中国が社会主義建設を目指していることを公言しており、資本主義に固執する西側諸国の伝統的な世界的覇権的地位を脅かすと認識しているからにほかなりません。韓慶祥文章は、そういう西側諸国の認識が理論的に正しいことを説き明かしています。
 私は、「人間の尊厳」という普遍的価値を奉じるものとして、利潤追求を本質とする資本主義は肯定できず、人間解放を本質とする社会主義(マルクス)こそが肯定されるべき経済制度であると確信しています。そういう基本的立場から、私は従来から「中国モデル」の可能性に注目してきました。そういう私にとって、韓慶祥文章ははじめて真正面から私の期待に理論的に応えるものでした。ここにその大要を紹介する所以です。

 中国の特色ある社会主義の道は、改革開放40年余の実践の中で歩み出でてきたもの、中国成立70年余の持続的探究の中で歩み出でてきたもの、近代以来の180年余にわたる中華民族の発展の歴史的旅程の深刻な総括の中で歩み出でてきたもの、中華民族の5000年余にわたる悠久な文明を伝承する中で歩み出でてきたものであり、重厚な歴史的淵源と広範な現実的基礎とを具えている。この道(以下「中国モデル」)は世界の発展に重要な貢献を行っており、それであるが故に、世界的歴史的意義を有し、歴史的貢献、ガイド的貢献、発展的貢献、革新的貢献、文明的貢献及び理論的貢献を具備している。
<中国モデルの歴史的貢献:中国モデルは現代中国において科学的社会主義に溌剌とした活力を渙発せしめている>
 中国モデルは科学的社会主義及び世界社会主義に対する歴史的貢献である。「共産党宣言」発表を標識として、科学的社会主義は誕生してすでに170年余になる。20世紀の80年代から90年代にかけて、社会主義ソ連解体及び東欧激変の後、一度は停滞に陥り、「社会主義失敗論」、「中国崩壊論」、「歴史終結論」などが一時期やかましく喧伝された。しかし、中国共産党はさまざまな波風及び圧力に持ちこたえ、中国の特色ある社会主義の道を堅持し、時代とともにこの道を発展し改善し、不断に中国の奇跡を創造し、それにより、この道をますますおし広め、現代中国において科学的社会主義に溌剌とした活力を渙発せしめてきた。鄧小平は12回党大会の開会挨拶で「中国の特色ある社会主義建設」という思想をはじめて提起し、歴史の総括から得た結論であると指摘した。この時以来、中国共産党は確固として中国の特色ある社会主義の道を歩むこととなった。
 中国共産党数代の一貫したリレーによる探求を経て、中国の特色ある社会主義は新時代に入っている。新しい時代において、中国共産党は、一時たりとも怠慢になることのない精神と勇猛邁進する姿勢を以て強くなることを実現するために持続的に奮闘し、中華民族の偉大な復興という偉大な夢の実現を目指して堂々と前進し、科学的社会主義及び中国の特色ある社会主義を含む社会主義をピークに向けて歩ませている。
<中国モデルのガイド的貢献:中国モデルは途上諸国の現代化に向けた道筋を切り開いている>
 中国モデルは途上諸国の現代化に対するガイド的貢献である。現代化実現は世界各国の願いだ。途上国は如何にして現代化に向かうか。これは実践上の課題であるとともに,世界的課題でもある。「ラ米現象」は以下のことを示している。すなわち、多くの途上国の現代化は西側モデル方式への依存に陥り、西側の「靴」を自国の「足」に無理矢理当てはめる結果、最終的に困難に陥ってしまう。往時のラ米諸国は我先にと西側のモデルに走って、自国の発展問題を解決できないだけでなく、両極分化、環境汚染を招き、発展は停滞した。中国共産党は、1978年以来、自国の歴史、文化、伝統、国情に基づき、自主的に自国の発展の道を選択し、その道を堅持し、「未発達」問題を解決するとともに、長期にわたって西側モデルがリードし、発言力を独占していたパラダイムに変化をもたらし、「グローバル化=西洋化、西洋化=現代化、現代化=市場化」というステレオタイプと「神話」を打破し、中国人民を豊かにするだけではなく、「富国」から「強国」への偉大な飛躍を迎えている。
 中国モデルが途上国に与えている最大のヒントは次のことだ。すなわち、世界にはこれしかないというような発展モデルはないのであり、各国が現代化に向かう道筋は一つ限りのものではないということ、途上国が現代化に向かうに当たっては、二度と西側モデルを踏襲するのではなく、自国の歴史、文化、伝統、国情に基づき、自主的に自らの発展の道を選択し、かつ、確固としてその道を歩み、自国の発展の道における内因性、独立性、自主性及び主体性を重視すること、である。こうすることによってのみ、自国の生存及び発展における主動権と主導権を獲得することができる。
<中国モデルの発展的貢献:中国モデルは速やかな発展と独立性の維持を求める国家・民族に新たな選択を提供している>
 中国モデルは自国の発展問題の解決を求める国家・民族に対する発展的貢献である。途上国はすべて、発展を早めることを願うとともに、独立を維持することをも願っている。この2点をともに達成しようとするとき、中国モデルからヒントを得ることができる。中国モデルは共産党の領導を堅持し、歴史的な方位に基づきかつ時代の変化に対応して戦略目標を確定し、しかも、効果的な全体戦略と最終まで青写真を描き出す恒常的な力を以て戦略目標を実現し、さらには市場配分メカニズムを重視することによって発展を速めることに資している。同時に、中国モデルは中国共産党領導という前提のもと、党政の主導的力量、市場配分メカニズムそして人民の主体的力量の諸力を束ねることによって、中国の発展の独立性をも維持している。
 途上国は、自らの速やかな発展を願うのであれば、自国の執政党の正しい領導を堅持し、歴史及び時代の発展と変化そして発展を実践することから生まれる新しい要求に基づき、自国の発展戦略目標及び戦略目標実現のための全体方針を正確に確定し、合理的な方式によって市場経済を発展させるべきである。同時に、自国の発展の独立性を維持するためには、自国の歴史、文化、伝統、国情に基づき、自主的に発展の道を選択し、自国の発展の主動権と主導権をしっかりと自らの掌中に収めるべきであり、同時にまた、自国の執政党の正しい領導を堅持し、自国の人民を中心とする発展思想を堅持し、自国人民にしっかり依拠し、すべてを自国人民のためにし、自国人民が至上であることを堅持するべきである。
<中国モデルの革新的貢献:中国モデルは麗しい社会制度を目指す人類の模索に中国の智慧を貢献している>
 中国モデルは人類の発展に対する革新的貢献である。2008年の国際金融危機後、世界全体が3つの根本的難題に直面した。すなわち、グローバル経済成長のためのエネルギー不足、グローバル経済の発展不均衡、グローバル・ガヴァナンスの立ち後れであり、いわゆる「開発、平和、ガヴァナンスの赤字」である。中国モデルは「エネルギー、バランス、ガヴァナンス」という3種類の基本メカニズムを包含し、3大難題の解決に中国の智慧を貢献することができる。
 中国モデルは発展のエネルギー問題を重視しており、強力な発展の動力を内包し、強大な発展のエネルギーを凝縮し、不断に生成する動力メカニズムを備えている。すなわち、中国共産党の堅強かつ正しい領導を堅持し、党政の主導的力、市場配分メカニズム及び人民の主体的力量を整合することを重視し、歴史的方位及び時代とともに歩む戦略目標を確定することを重視し、さらに効果的な全体方針を採用して実行する。こうすることによって強大な発展のための動力を集合させるのである。
 中国モデルはまた発展のバランス問題を重視しており、バランスと調和を維持する要素を内包し、不断に生成されるバランス・メカニズムを備えている。すなわち、中国共産党の領導を堅持することを強調するのは、この領導では経済社会の発展の動力を刺激することを重視し、また、経済社会の発展のバランスをも重視するからである。確定する戦略目標と全体方針においてもバランス、調和、安定という問題に対する配慮を内包している。また、人民を中心とすることを強調するが、人民を中心とするということはすべては人民のためであり、人民の良好な生活に対する憧れを奮闘目標とするということであり、良好な生活ということは当然に、発展と和諧社会の追求、人民大衆の獲得感、幸福感及び安全感に対する配慮、そして相互利益と普遍的恩恵に対する憧れを内包している。
 中国モデルはさらにガヴァナンス・メカニズムをも包含している。なぜならば、中国共産党の領導を堅持するということは、中国共産党による国家及び社会に対するガヴァナンスを包含しているからである。中国モデルは、歴史的方位に立脚し、時代とともに進むことを堅持し,国家のガヴァナンス・システム及びガヴァナンス能力の現代化を推進し、「4つの全面」(注1)という戦略的配置の推進を協調的に行う。そして、この戦略的配置の中には、人民に依拠して国家及び社会のガヴァナンスを積極的に行うことが含まれている。
 以上3つのメカニズムは、グローバル経済の経済成長エネルギー不足、グローバルな発展の不均衡及びグローバル・ガヴァナンスの立ち後れを解決するために中国の智慧を提供することができる。ところで近年、西側諸国には多くの困難が現れている。資本主導が西側の困難の根本原因である。
資本主義の本質及び遺伝子は、西側諸国が各分野で資本主導のロジックに必然的に従うことを決定づける。資本主義が西欧で興って以来、世界近代史は、資本主導のロジックが牽引するもとで資本主義がグローバルに拡大する歴史だった。歴史的に見れば、資本が近代工業文明を創造し、世界の発展を推進してきた。しかし、その本質についていえば、資本の本性は運動を通じて価値の増殖を実現することであり、しかも資本の運動は止まることがないのであって、価値の増殖を実現することができるところであれば、資本は必ずそこに出現する。資本主導のロジックは、全世界において剰余価値を追求、獲得することを目的としているが、西側がその主導する世界システムの中で超過利潤の略奪を過度にほしいままにし、グローバル市場において社会需要が深刻に不足となり、そして、ある段階において市場スペース及び技術革新の配当が略奪され尽くすとき、資本主義は必ず困難に見舞われることになる。この種の困難は、経済分野においては実体経済の不振となって現れ、政治分野では調整力のなさとなって現れ、社会分野では貧富の格差の拡大となって現れ、イデオロギー分野では偽善性の暴露となって現れる。
 中国は、経済のグローバル化に参与し、世界のために生存、発展、平和、文化の各面で貢献してきた。その核心的原因は、中国共産党の領導のもとで、中国が中国の国情に立脚し、中国の問題を解決し、成功裏に中国の特色ある社会主義の道を探し当てたことにある。中国モデルは、人類がより良い社会制度を模索することに対して中国が提供する中国の智慧である。その智慧とはすなわち、資本を利用することを重視するが資本の奴隷にはならず、資本の運用は重視するが資本が主導することを許さないということである。
<中国モデルの世界に対する文明的貢献:中国モデルは世界に貢献するべく現在形成中の中華新文明である>
 中国モデルは世界に対する文明的貢献である。「地域的歴史」時代に形成された文明は、本質的に「地域文明」あるいは「民族文明」であり、真の意味における世界文明あるいは人類文明ではない。西側文明を「普遍文明」と主張するものがいるが、歴史的判断力、実践的判別力及び理論的思考力を備える者であれば、西側文明は本質において「地域文明」であることが分かる。地域文明を普遍文明と主張するのは、一般と個別との弁証的関係を混同し、「いかなる一般もすべて個別(一部、一面)である。いかなる一般もすべての個別の事物をあらかた含んでいるに過ぎない。いかなる個別も一般の中に完全に含まれるものではない」(注2)ということを認識するに至っていない。こういう主張は前提において間違っている。歴史と実践も証明するように、西側の「靴」を無理矢理自分の「足」にあてがえば、往々にして失敗で終わる。
 マルクス・エンゲルスは「ドイツ・イデオロギー」において、統治階級は「自己の目的を達成するために、自己の利益を社会のメンバー全体の共同の利益と言い含めざるを得ない。つまり、このイデオロギー上の表現により、自らの思想に普遍的な意味合いを与え、理性に合致し、普遍的意義がある唯一の思想と描き出す」と指摘している。資本の運動ロジックが世界の市場及び交流を不断に拡大するときには、「地域歴史」を次第に「世界歴史」に向かわせる。世界歴史の出現は、ロジックとして、「地域文明」を「世界文明」あるいは「人類文明」へと必然的に向かわせる。
 今日の世界においては、自国、地域の「地域文明」に固執して他の文明を排斥することによって「文明衝突論」を作り出す。しかし今日の中国は、世界歴史の発展の趨勢を自覚的主動的に反映し、中華伝統文明における和諧、和合、和而不同、世界大同を相対的に重視する基礎の上で、時代とともに歩む中で時代精神と人類意識を体現し、中国文明の足りない部分を克服し、他の文明と学び会うことを通じて、「和平発展、合作共嬴、共創共建、各美其美、美美与共、世界大同」を核心理念とする中華新文明を徐々に創造しつつある。中国モデルは、各国の発展の道の内生性、独立性、自主性、主体性及び多様性を強調し、「世界多様」「国家平等」「文明5鍳」「包容発展」「互利普恵」という人類文明の遺伝子と心情とを包摂する。これらの遺伝子と心情は、中華新文明の要素を包摂しつつ、不断の扶育及び成長を経て中華新文明を形作っていくことができる。
<中国モデルの世界的な理論的貢献:中国モデルは「西側中心論」「歴史終結論」を終結させ、現代化の道に関する西側の解釈権の独占を打破し、世界の現代化の道を単一選択問題から多数選択問題へと変える>
 中国モデルは世界に対する理論的貢献である。中国の改革開放初期には「西側中心論」「歴史終結論」が勢いを増し、羽振りをきかせていた。この主張においては、西側が世界全体の中心であり、西側モデルが世界最良であり、西側標準が世界標準であり、西側の今日は世界の明日であり、西側の歴史は人類歴史の管制高地であり、西側以外の国家は西側モデルによってのみ未来があるとした。
 しかし、2008年の国際金融危機以後、西側諸国は次第に自らが克服できない一連の矛盾、難問を暴露することとなった。それと時を同じくして、非西側諸国なかんずく東方諸国が次第に勃興しはじめた。改革開放以来の中国の発展は驚異的であり、次第に西側先進国との距離を縮め、世界歴史の発展に対する影響もますます強まり、「世界の100年間で未だかつてなかった大変化」を出現せしめた。この事実は、現代化という方向性は迂回することはできないが、モデルは選択することができることを表している。
 中国モデルは、中国の歴史的実践の中で論理必然的に生まれ出たものであり、完全に自主的な知的財産権を有する「中国の知的産物」である。同時に、中国モデルは、まっさらな現代化の道筋として、現代化の道に関する西側の解釈権の独占を打破し、世界の現代化の道に関して単一選択問題から多数選択問題へと変えさせ、「西側中心論」「「歴史終結論」の神話を終結せしめた。中国モデルは、非西側諸国が独立自主の現代化の道に歩み出す上での有益な模索であり、中国の世界に対する理論的貢献である。
(注1)「4つの全面」:全面的に小康社会を建設する、全面的に改革を深化させる、全面的に法により国を治める、全面的に厳格に党を治める。習近平の提起による、中国共産党の治国理政の全体的フレームワークを表す言葉。
(注2)検索サイト「百度」で検索したところ、レーニン「弁証法を論ず」からの引用と思われます。