安倍政権が国家安全保障戦略の見直しに着手したことについて、アメリカと連携して中国に対処する意図が明確であるために、中国は重大な関心を示しています。中国は最近まで、習近平の日本訪問の可能性という重要な外交的考慮もあり、安倍政権の対中政策の「軌道修正」を肯定的に評価して日本を刺激することを避けてきました。しかし、安倍政権が香港問題,台湾問題で中国に対する批判姿勢を明確にし、自民党内から習近平の国賓としての訪日に反対する声が公然と上がるようになった変化を背景に、中国が安倍政権・自民党政治に不信感を強めていることは容易に理解できます。6月30日付けの環球時報に掲載された中国社会科学院日本研究所の呉懐中副所長署名文章「憂うべきニュース 日本の戦略調整」は、本年においては最初の、日本政治に関する本格的な批判的分析です。私も呉懐中の指摘に同感です。要旨を紹介します。

 日本は6月に2013年制定の「国家安全保障戦略」改定に着手することを決定した。報道によると、日本の国家安全保障会議(NSC)は、新たなミサイル防衛、経済安保、ポスト・コロナ時代の国際ルールという3つの領域について重点的に検討し、年内に完成するという。新戦略は、外交、安全保障、経済等の領域を統合し、国家戦略としての性格を備えるものである。
<注目するべき2大政策指向>
 もろもろの事象から判断するに、今回の改定には2つの大きな政策的指向性が明らかにされている。すなわち、軍事安全保障の「正常化」と「攻撃型への転換」そして経済安全保障の「政治化」と「戦略化」である。
 まず、軍事安全保障においては、新戦略は重大なタブーの明文化、政策化及び「正常」化を実現して、「専守防衛」というこれまでの国策を正面突破することを意図している。安倍政権は、陸上配備「イージス」システム計画の停止を理由に、敵基地攻撃能力を保有することを考えている。つまり、「攻」を以て「守」に代え、ハイ・スペックの攻撃手段によるデタランス及び反撃用の通常戦力を構築するというものである。実際、自衛隊はすでに相当な打撃力及び精鋭攻撃作戦能力を擁しており、第二次安倍政権のもとで、防衛分野で「ソフトウェア」を大幅に解禁し、緩め、ハード面でもハイテク兵器を意欲的に展開してきている。今やろうとしているのは、現在の基礎の上にさらに高みを目指すということだ。
 次に、経済安全保障面では、経済貿易問題を戦略化、政治化、安全保障化しようとするのが新戦略における要注意点である。その主な表れは次の諸点に見られる。第一、資本撤退と企業移転。日本企業に対して本国回帰を奨励し、対中投資展開を縮小させる。第二、科学技術協力、教育交流、知識交流に制限を設ける。第三、経済と安全保障の統合・処理のメカニズムを作る。2019年に国家安全保障局内に「経済班」を作り、国家安全保障の角度から重要経済問題を審査するようになった。同時に、「経」を以て「政」を制し、「政」を以て「経」を領するという「トランプ化」が安倍政権にも現れており、そのことは日韓関係においてすでに顕著となっている。
 以上はまだ新戦略調整における可能性にとどまっており、結果がどうなるかは多くの政治勢力間の駆け引きによって決まることになるだろう。こういう方向を取ることで国家の安全を保障することができるかどうかについては、日本国内でも疑問視する声が上がっている。朝野各界からは、安倍政権が「平和憲法」と「専守防衛」を根っこから空洞化することに対する懸念が表明されているし、このような動きは軍備競争を刺激し、地域の安全を悪化し、日本の安全保障環境にも大きなリスクと挑戦をもたらすという声も上がっている。同時にまた、日本国内の多くの研究によっても、経済原則に逆らい、経済問題を極端に政治化し、「ディカップリング」と「脱中国化」を人為的に強行しようとすることは、不可能であるし日本のためにもならないことが示されている。
<対中政策の偏向が含むリスク>
 日本が戦略調整に突き進むからといって、近隣諸国がその指図どおりに動かなければならないということではないが、この調整の中で漏れ出している「対中聯米」というシグナルを無視することはできない。安倍政権が計画を早めて安保戦略を改定するということ自体、その意図は中国対処にあると考えられている。5月に明らかにされた2020年版防衛白書草案では、中国が推進する「秩序構築」及び「国家競争」を安全保障領域における課題として「重大な関心を寄せる」と称している。この戦略調整においてはまた、日本が対米追随、日米連携で動くということがますます明確にされている。
 「聯米制華」思考に基づく日本の今回の戦略調整は中日関係に影響を及ぼすことを不可避としており、この思考はまた近時における安倍政権の対中姿勢における微妙な変化の背後にある原因でもある。コロナ爆発前後までの安倍政権の対中姿勢はそれなりに慎重であり、2017年以来の関係改善の流れを維持しようとするものだった。ところが大体5月以来、コロナにかかわる協力が必要となった時から、日本の対中政策は「偏向」の兆しが現れ、両国関係を刺激する動きがひっきりなしに現れるようになった。
 安倍政権がそういう行動を取るのには「やむを得ない」部分もあることを理解したいと思う。コロナは国家安全保障の範囲と意義を大幅に再定義させるものであり、グローバル化及びサプライ・チェーンの安全性について改めて考え直し、必要な調整を行うという課題はひとり日本だけの問題ではない。「アメリカの圧力」を受け、中米間で間合いを取り、対中姿勢で偏りが出るというのも日本だけではない。これらのことはまだ中日関係のボトム・ラインから逸脱するまでには至っておらず、中国としては他国の関心と「窮状」について度量を示す余裕がないわけではない。
 しかし、最近の一連の事態が示すのは、日本が戦略の根本的調整を考えていないわけではないということであり、それこそが我々の注目し、憂慮することである。日本は陰に陽に中国に対して安全保障上の対決、軍事的威嚇、経済的「ディカップリング」と「切り離し」を推進し、台湾、香港、釣魚島等では常軌を逸した言動を露骨にしており、国際情勢の変化と「ポスト・コロナ」情勢の判断を誤り、賢明でない方向に向かおうとしている兆しがあるように見受けられる。対中政策を調整しようとする東京の動きは、アメリカの中国に対する地政学的競争・対抗に加わろうとしているように見える。これが戦略的デザインであり、方向性の転換であるのであれば、中日関係の合理的範囲を逸脱し、内包するリスク指数はあまりにも大きいものがある。
<焦燥にとらわれず、先見性を具えるべし>
 日本の戦略層とエリート層はすべて、日本の最大の対外的課題は「中国問題」と考えている。中日が国交を正常化したときの重大な教訓は、日本はアメリカの言うがままに動くべきではなく、日本の対中政策についてアメリカに左右されるがままになってはいけないということだった。日本はグローバルな情勢の大変化及びアジアの新たな現実を認識し、この未だかつてない複雑な情勢をバランスよく手綱を取るすべを学び取る必要がある。西側国家が「馬鹿でかい」中国に直面するのははじめてのことだが、日本はそうではなく、中日関係の悠久な歴史の中で、中国と交際する経験をすでに学び取ってきたはずであり、当然ながらもっと先見性を持ち、動じず、自信を持つべきである。しかるに今の日本は、焦り、動揺し、争う姿が見え見えであり、これはまことに遺憾であるし、残念でならない。
 2020年の春から夏にかけての時期は平坦、平凡でないことは間違いなく、日本の国家戦略及び対中政策は重要な選択に直面するし、このことは必ずや日本の安全保障そして中日関係にも影響を及ぼすことになるだろう。安倍政権も次第に終わりに近づいており、仮に残すことになる政治的遺産が安全において不安増大、近隣関係において「風月天を同じくすること難く、山川畢竟するに異域なり」("风月难以同天,山川毕竟异域"。下記注参照)となってしまうならば、新時代である「令和」に託された麗しい意味を無にするだけでなく、歴史が安倍に付与した首相としての貴重かつ長期執政の時間をも無にすることになるだろう。
(注)呉懐中が"风月难以同天,山川毕竟异域"と引用したのは、"山川异域,风月同天"をもじったものと思われます。"山川异域,风月同天"は、日本の中国語能力試験を行うHSK事務局が湖北省の大学に送った支援物資(マスクと体温計)の入った箱の荷札に記載されていたものです(中国検索サイト「百度」)。「国は違うけれども、天を同じくする」という連帯激励の意味が込められているものとして、「百度」はこの荷札を写真入りで紹介し、"山川异域,风月同天"の箇所は大文字で特記する念の入れ方です。中国側の感激のほどが窺われます。呉懐中も以上を念頭に、安倍首相が日中間の連帯提携を裏切ることがないようにという意味を込めたものと思われます。