EUは7月1日から、一部の域外諸国との旅行制限を解除する措置に踏み切りました。対象国(アルファベット順)は、アルジェリア、オーストラリア、カナダ、ジョージア、日本、モンテネグロ、モロッコ、ニュージーランド、ルワンダ、セルビア、韓国、タイ、チュニジアそしてウルグアイの14カ国です。このほか、相互主義の条件をつけて中国も載っています(中国がEU諸国民の入国を認める場合には、EUも中国からの入国を認める)。タス通信によると、EUの対象国決定に当たっての基準としては、ソーシャル・ディスタンスなどの封じ込め措置を取っているかどうか、経済的社会的考慮そして疫学的状況があげられています。
疫学的状況に関しては、①2020年6月15日現在のEU平均と比較して、過去14日間における新規感染者数及び10万人当たりの新規感染者数がEU平均を下回るか同等であること、②この期間における新規感染者数がそれ以前の14日間との比較で安定しているかまたは減少していること、③検査、調査、追跡、封じ込め、治療及び報告等の全体的なコロナ対応、があげられています。
 対象となった国々をグループ別に見ると、欧州に近いマグレブ3国(モロッコ、アルジェリア、チュニジア)、南東欧3カ国(モンテネグロ、セルビア、ジョージア)、西側3カ国(カナダ、オーストラリア、ニュ-ジーランド)、アフリカ(ルワンダ)、南米(ウルグアイ)及びアジア3カ国(日本、韓国、タイ)となります。それぞれの感染者数、/100万人、回復者数、死亡者数は次のとおりでした(Google統計、7月2日現在)。

  感染者数 /100万人 回復者数 死亡者数
モロッコ      12636       352      9062       228
アルジェリア      14272       332      9594       549
チュニジア       1175       100      1038        50
モンテネグロ        576       926       315        12
セルビア       4836      2130      12464       281
ジョージア        931       250       794        15
カナダ      194271      2745      67744       8615
オーストラリア       7920       309       7063       104
NZ       1528       307       1484        22
ルワンダ       1042        84        470         3
ウルグアイ        943       268        825        28
タイ       3173        48       3059        58
韓国      12994       2232      11613       282
日本      18723       149      16731       974
中国      85227        61         ?         ?
 マグレブ3国は欧州に近いことが主要理由だと思われます。アルジェリアを含めるのには数字的に疑問が残りますが。南東欧3国のうち、モンテネグロ、ジョージアについては数字的にも納得できます。感染者急増中のセルビアを含めたのは、ロシアに親近感を示す現政権を引き寄せようとする政治的考慮の匂いがプンプンします。西側3カ国については、オーストラリア、ニュージーランドは数字的にも納得できますが、数字的には大いに問題があるカナダが含まれているのは、やはり政治的考慮が加味されているのかなという感じです。ルワンダ及びウルグアイについては、感染者が急増しているアフリカ及び南米の中での優等生ということで選んだのでしょう。
 特にウルグアイに関しては、7月2日付けの新華社モンテビデオ電が、南米における優等生として取り上げているほどです。この記事によれば、ウルグアイの好成績の原因は、①初動における果敢さ(3月13日にイタリアからの入国者3人に感染が見つかるとすぐ、公共活動及び集会を禁止し、商店・銀行などを一時的に閉鎖し、ソーシャル・ディスタンスを国民に呼びかけた、②感染者の厳重隔離、濃厚接触者追跡発見、③全国統一の優れた衛生政策、④優れた検査追跡体制、等だそうです。
アジア3カ国の中のタイと韓国については数字的に問題ありません。中国も同じです。しかし、日本が含まれているのはまったく理解できません。というのは、日本におけるPCR検査数の低さは世界に知れ渡っており、したがって、日本の数字の信憑性には重大な疑問符が世界的につけられていることをEUは知悉しているはずだからです。
 疫学的状況でEU諸国に匹敵するかそれ以上のアジア諸国・地域としては、マレーシア、スリランカ、ヴェトナム、ミャンマー、カンボジア、マカオ、香港などがあります。これら諸国の数字は次のとおりです。これらの国々・地域も追々対象国・地域に含められていくと思われます。
  感染者数 /100万人 回復者数 死亡者数
マレーシア      8640        264      8375       121
スリランカ      2054         94      1748        11
ヴェトナム       355          4       335         0
ミャンマー       303          6       222         6
カンボジア       141          9       131         0
マカオ        46         68        45         0
香港      1265         66       260        16
 PCR検査実施数が極端に少ない日本を含めるとするならば、「私も含めてください」と主張しても当然なのが台湾です。台湾の数字は日本よりはるかに優等生です。日本と台湾を比べると次のようになります。特に100万人当たりの感染者数は日本のほぼ1/10です。
  感染者数 /100万人 回復者数 死亡者数
台湾       447        19       438         7
日本      18723       149      16731       974
 中国の環球時報及び新華社の記事なので、どこまで正確に報道しているかは疑問が残りますが、台湾の中でも、多くの国が台湾を旅行制限除外対象国(地域)から軒並み外していることについてさまざまな議論が出ているようです。
例えば、7月1日付けの環球時報WSに掲載された記事は、6月30日の台湾『中国時報』が、EUが7月1日から18(浅井注:ママ)の国家・地域の旅行者の入境を認める開放措置を取ったけれども、台湾は、コロナの状況が厳しいアメリカ、ブラジル、ロシアとともに開放対象リストから外されている(中国は条件づきで含められている)と指摘し、台湾大学公共衛生学院の詹長院長が、「台湾の検査数が少なすぎて、諸外国を信用させられない」ことを原因として指摘した、と紹介しています。またこの記事は、台湾中時電子報が、「インドネシア、タイ及び日本が入境制限を緩和した際、インドネシアとタイは中国大陸を含めたのに、台湾を含めなかった、また、ギリシャ、ニュージーランド、オーストラリアも台湾を開放リストに含めていない」と報じたことも紹介しています。その上でこの記事は、台湾『聯合報』が、「民進党当局は自らを「コロナ防疫模範生」と称しているが、今回もEUから横面をひっぱたかれることになった」と論評したと紹介しています。
 6月28日付けの新華社台北電が伝えた記事はより辛辣でした。すなわち、日本人の台湾短期留学生(2月から4ヶ月間の滞在)が日本に帰国した際、PCR検査で感染が確認されたというのです。このニュースが伝わると、台湾世論が大騒ぎになり、「台湾当局のデータによれば、台湾ではすでに70日以上感染ゼロであり、人々も台湾での感染はほぼあり得ないと言ってきたのに、この日本人留学生のウィルスはどこから来たのか。島内各界は、速やかに詳しく調査して、コミュニティで広まっているウィルスを突き止めるべきだ」という議論で賑わっているといいます。
 県境をまたぐ旅行制限が解除されて以後、東京からの帰省者・訪問者によって他県で感染例が出るケースがひっきりなしに伝えられています。最近の東京における感染者数がうなぎ登りであることから見ても、これまで検査対象から外れて野放しになっていた「忍者」「一匹狼」が感染を広げてきたことが原因であることはほぼ明らかです。厚労省主導のこれまでの「クラスター」中心主義のツケがいよいよ出てきたということでしょう。
 私は、今日本国内で起こっていることは、遠からず日本の旅行者によって欧州諸国でも起こることだと思います。その時点で、EU(欧州諸国)は日本を旅行制限対象国から外したことについてほぞをかむことになるだろうと思います(日本は自らのいい加減さを外にさらけ出すことになります)。そういう意味では、日本と同じようにPCR検査を手抜きしているが為に外見上「優等生」に見える台湾にとって、日本人短期留学生のケースは「自らを省みる」良い機会になるだろうし、やるべきこと(徹底したPCR検査)をやらなければいけないことを認識する機会にするべきでしょう。