<北京市の取り組み>
6月17日のコラムで北京・新発地卸売市場で発生した新コロナ・ウィルス集団感染問題について紹介しました。6月14日に視察した孫春蘭副首相(コロナ担当)は23日に再び視察を行い、「北京が効果的な防疫コントロール諸施策を講じて積極的な成果を上げた。重点地区の閉鎖管理、濃厚接触者の追跡により、新発地と直接関連する疫病の流行は基本的に抑えられた。ただし、家庭等における集団感染の患者(浅井注:6月24日の人民日報は、最近の患者の事例として、マーケットの個人販売者、レストラン店主、食品会社社員、テイクアウト・ライダーなどが含まれ、その行動履歴が複雑なものもいると指摘しています)も発見されており、防疫コントロールについていささかも気を緩めることがあってはならない」と述べました。彼女はまた、PCR検査が「4つの早い」(早い発見、早い報告、早い隔離、早い治療)という要求及び無症状感染者のスクリーニングにおける第一線の防衛ラインであると指摘しつつ、北京市のPCR検査能力が大幅に向上したことを評価しました。
 孫春蘭の2回目の視察と以上の発言は、北京における集団感染が基本的に制御可能範囲内に収まったことを示すものと言えます。それを受けて、24日及び25日の中国各紙は、北京における状況をさまざまな角度から総括する記事を掲載しています。中国のコロナ対策の徹底ぶりには改めて驚かされます。各紙報道から注目される内容をとりまとめて紹介します。
○22日、北京市は会議を開き、新発地卸売市場及びこれと密接な関係がある者、各種自由市場・食べ物屋・レストラン・デリバリー・宅配・物流等に従事する者、リスク度が中高の街区、医療従事者、防疫第一線の者、交通・スーパー・銀行等のサービス業の従事者に対しては全員PCR検査を行うことを確認(24日付け人民日報)
○中国疫学の大家・鐘南山は23日、中央テレビの取材に対して、次のように発言しました。
「今年の冬から来春にかけてコロナがなくなることはないだろうし、増える可能性もあると思う。しかし、全世界が体験している現在のような大爆発は起こらないだろう。コロナのものすごさは分かってきており、それへの対応のあり方も分かってきている。特に、中国の「4つの早い」のシステムはもっとも有効である。
今回北京では、冷凍した肉や魚のある環境でコロナが現れたので、国外及び各地から搬入されたもの、さまざまな環境及び食物の検査を是非するべきである。」(24日付けの中央テレビ・クライアント端末記事)。
○国家衛生健康委員会は24日、北京のPCR検査能力を高めるため、12の省(湖北省を含む)から検査人員を北京に派遣することにしたと発表(25日付け中国新聞網)。
○北京市は6月23日現在のコロナ患者256人に関する8つの特徴を紹介(25日付け人民日報)。
-98.8%の患者が新発地集団感染と明確な関係がある。
-感染速度が極めて速かった。第1号発見から100人目までわずか5日。武漢の時より2倍の速度。
-発病時間が6月9日から15日までに集中しており、全体の61%を占めている。
-早い時間に患者が増加し、感染速度が速かったことから見て、感染源が同じである者と人から人への感染という二つの原因が混ざり合っている可能性がある。
-主に15キロ範囲内での感染。新発地からの同心円で、5キロ以内のものが160人で63%、10キロ以内になると194人で76%、15キロ以内になると238人で93%。
-PCR検査で発見された感染者数は137人で、全体の53%。
-軽症・中症が多く、重症・超重症は少ない。
-新発地市場閉鎖前に感染した者の数は下降傾向にある。
○24日の北京市による発表(25日付け新京報・北京青年報)
-6月13日に新発地市場を閉鎖したことから計算すると、最長14日の潜伏期間に達しておらず、引き続き防疫コントロールを強化する必要がある。
-256人の患者に関して、PCR検査による発見137人(53%)のほか、自分から医者の診断を受けた者81人(32%)、濃厚接触者38人(15%)。最寄りの2日間で見ると、それぞれ9人(45%)、3人(15%)、8人(40%)。PCR検査で見つかった者が明らかに増えている。
-256人のうち新発地卸売市場と関係がある者が253人(98.8%)であるのに対して、さらに調査が必要な者は3人(0.2%)。
-256人の患者の感染確定時期を見ると、6月11日-14日が79人(30.9%)、15日-19日が126人(49%)、20日-23日が51人(20%)。
-発病日については、もっとも速い者が6月4日、6月7日から増加傾向で、13日にピーク、6月9日-15日に発病した者が全体の61%。
-すべての患者は地壇病院に収容。同病院の収容可能ベッド数は1070。同病院には、市所属の18病院から102人の医療従事者が応援派遣。治療に当たっては、「一人一例」治療方式を採用。現在までのところ、重症、超重症の患者の容体は安定しており、すでに4人が改善に向かっている。
○PCR検査における状況(25日付け法制日報)
-市民が安心できるよう、北京の宅配業者は10.3万人の宅配者全員のPCR検査を実施中。
-中高リスク街区及び新発地卸売市場の関係者は北京を離れることを禁止。その他の者で北京から他の地域に行く必要がある者は7日以内にPCR検査結果陰性の証明が必要。
-6月22日現在、北京市内でPCR検査実施能力を備える機関が128に達した。一日当たりの検査能力は40万人以上。6月12日から22日0字までの累計サンプリング者294.8万人、累計検査者243.2万人。
-北京市常住人口は2153.6万人(2019年末現在)であり、PCR検査に関しては「供給が需要に追いつかない」状態が続いている。検査機関の多くが7月上旬まで予約で埋まっている。すなわち、
*6月14日より、北京は5月30日以後に新発地卸売市場を訪れた者及び同市場と濃密に接触した者全員にPCR検査を行うことを決定。
*6月17日、北京市は、新発地を含むコロナに関連する市場及びコミュニティ(高リスク4,中リスク37)の関連者、中高リスク街区居住者、医療衛生従事者、公共サービス従業者、学生教職員など6種類のグループに対して組織的にPCR検査を実施することを決定。
*6月22日、新発地卸売市場及びこれと密接な関係がある者、各種自由市場・食べ物屋・レストラン・デリバリー・宅配・物流等に従事する者、リスク度が中高の街区、医療従事者、防疫第一線の者、交通・スーパー・銀行等のサービス業の従事者に対しては全員PCR検査を行うことを確認(すでに紹介した24日付け人民日報報道と同じ内容)
<専門家・呉尊友講演(6月25日付け光明日報)>
 6月17日のコラムで紹介した、中国疾病予防コントロール・センターの呉尊友が行った講演内容を6月25日付けの光明日報が紹介しています。北京におけるコロナ再発の原因、感染源、現状及び「中国モデル」の価値について詳しく述べており、参考になります。注目点を紹介しておきます。
(コロナ感染のウィルス学的視点)
 呉尊友は3つの視点からコロナの感染について説明しています。
 第一は「伝播動力学」。ここでは「伝播係数」が問題となります。「伝播係数」とは、一人のコロナ感染者が他の健康人と接触したときに、健康人の何人が感染するかを示します。「伝播係数」が1以上であれば感染者が増え、1以下であればウィルス感染が制御されることになります。世界的に見ると、1.9から6.5までで、平均的な「伝播係数」は2~3です。このことは、コロナの感染速度が速く、感染効率も非常に高いことを示します(ちなみに、「伝播係数」はマスクをつけない、ソーシャル・ディスタンスを守らないなどの人為的関与がない場合のケースが前提です)。既往例からいうと、臨床例のほとんどが濃厚接触による感染・伝播です。濃厚接触者の約1~5%が感染するとされています。中国の特徴は、家庭における集団感染が特徴になっており、全体の75~85%を占めます。
 第二は「二代続発率」。「二代続発率」とは、一人のコロナ感染者が平均100人と接触した場合に、何人が感染するかを示します。流行初期の「二代続発率」は約10%です。防疫措置が取られ、「早期診断、早期隔離」が行われ、感染源を家庭及びコミュニティから隔離することにより、「二代続発率」は3%まで引き下げることが可能になります。
 第三は「ウィルス学的特徴」。「ウィルス学的特徴」とは、コロナに感染してからどれぐらいの期間ウィルスを排出するか、つまり感染力を持つ時間の長さです。コロナ患者の場合、臨床的症状が出る前後が特に強いとされます。つまり、潜伏期間でも感染させる可能性があるということです。コロナと違い、SARSの場合は症状が出てから5日前後でピークを迎えます。したがって、健康人からすると、マスクをつけることが感染予防に良いということになります。
(北京のケース)
 6月11日に最初の患者が発見され、6月12日には新発地市場が封鎖されたことにより、主な感染源は遮断されました。その後の力点は、感染者の特定、及び感染者の濃厚接触者の特定におかれ、短期間に感染経路を特定することによって感染拡散を抑え込むことになりました(浅井注:表見的には日本が行ってきた「クラスター」特定作業と同じ。ただし、決定的な違いがあります。北京は基本ゼロの上で「クラスター」対策を行うのに対して、日本の場合は不特定多数の感染者がいることを「見てみないふり」をして「クラスター」対策を行うことです。北京は、クラスターを退治すればゼロに戻りますが、日本はクラスターを退治しても不特定多数は放置されたままです)。
 北京におけるコロナ発生によって引き起こされる問題は二つです。
 まず、56日間もコロナが発生しなかったのに、なにゆえに新発地にコロナが現れたかということ。今回のコロナは欧州起源であることが分かっています。しかし、4月以来に中国で流行したのも欧州起源が中心です。ということは、国外から入ってきた可能性と中国国内の他の地域から入ってきた可能性とが考えられます。
 もう一つの問題は新発地で働いているさまざまな業種の人員に対する検査の結果、地下一階の牛羊肉売り場の水産物を売っている環境におけるPCR陽性率が比較的高いことが分かっています。しかし、どうしてそうなのかはまだ分かっていません(浅井注:6月17日のコラムでは、呉尊友が「海外を含む外地からの海産物・肉類が新コロナ・ウィルスに汚染されていた可能性」を指摘したことを紹介しましたが、この見方には異論も提起されており、呉尊友は今回触れていません)。
北京のコロナはすでに転換点を迎えたのかという問題に関して、(呉尊友は、「転換点」に関する専門家の判断(発病日に基づく患者数または報告された患者数が下降に転じる日にち)と一般の見方(コロナ発生前の正常な生活状態に戻れる日にち)とは違うことを指摘した上で)専門家の判断では転換点はすでに訪れたと言えます。しかし、防疫コントロールが決定的に勝利し、防疫措置を緩めても良いのかといえば、それは違うということになります。
(「中国モデル」)
 中国の感染者数は8万人強、死亡者数は4000人強、病死率は5.6%に達していません。中国の人口は世界の約1/5,中国の感染者数は世界の1%強ということからすれば、中国は成功例であると言えます。その「中国モデル」が世界の参考に供することができるのは以下の8点です。
○科学的防疫コントロール。科学的防疫コントロールこそは、中国が勝利した非常に重要な基盤です。
○基本的公共衛生サービス措置の実行。このことは高度の先端的内容は含まれていませんが、防疫上は非常に重要です。
○コロナ対策上のボトルネックの重点的解決。第一の問題はベッドであり、中国は新病院建設、臨時病院開設によって解決しました。
○コミュニティの呼応・動員及び全民参与。
○情報の公開透明性。ここで何が起こっているか、今何をしているか、コロナの状況がどのように変化しているか等について、政府が毎日情報を提供し、毎日防疫コントロールの施策の進展を報告することで、人々が了知するようにすること。
○国際協力。伝染病には国境がなく、いずれの国家も世界の国々と協力してのみ世界的流行を抑え込むことができる。
○強力な領導、多部門の協調、多部門の合作。コロナは単なる衛生問題ではなく、多岐にわたる社会問題であり、防疫コントロールにも多部門の協力が必要である。これこそが中国の重要な経験である。
○ロジスティックスの保障。コロナ対策は多岐にわたり、施設、設備、人員各面の保障が要求されるのであり、全国一体の統一的調整配備が要求される。