全国人民代表大会は5月28日、香港特別行政区に「国家の安全を擁護する法律制度及び執行メカニズムを設立する決定」を採択しました。日本をはじめとする西側諸国及びメディアは一斉に、この決定は「一国二制」の原則を揺るがし、香港の高度の自治を奪いあげるものとして批判しました。
 私は、昨年(2019年)12月9日のコラムで、香港の事態は「香港問題」としての性格と「米中問題」としての性格が含まれること、11月選挙前までは香港民主化運動という「香港問題」としての性格が主だったけれども、選挙後はアメリカの露骨な介入によって「米中問題」としての性格が主要なものとなったことを指摘しました。今回の全人代の決定はアメリカの介入を排除することを目的としています。  また、理由の如何を問わず、中国が香港に対して一方的にその意思を押しつけることは「一国二制」の原則を踏みにじるものであるとする批判に対しては、全人代決定提案説明は、香港行政区が香港基本法第23条に基づく立法措置(「23条立法」)を講じてこられなかったこと、そのことが今日の香港事態を招いたことを指摘し、中国憲法関連規定に従って中国が今回の決定を行うことは正当であると主張しています。私は、アメリカの中国に対する批判は、香港問題を含めて、常軌を逸するものであり、露骨な内政干渉であることを踏まえ、以上の中国の主張に納得し、これを理解します。全人代決定提案説明(王晨全人代常務委員会副委員長)の要旨を以下に紹介する次第です。

 「一国二制」を実践する過程で新しい状況・問題に遭遇し、新たなリスクと挑戦に直面している。現在もっとも突出した問題は、香港にかかわる国家安全保障上のリスクが日増しに突出していることである。特に、2019年以来、反中乱(香)港勢力が「香港独立」、「自決」、「住民投票」などの主張を公然と鼓吹し、国家の統一を破壊し、国家の分裂を図る活動を行ってきた。さらに、ここ数年、一定の外国勢力が公然と香港問題に干渉し、立法、行政、NGOなどさまざまな方法で介入し、かき乱し、香港の反中乱港勢力と共謀結託し、彼らの後ろ盾となって勢いづかせ、黒幕となって、香港を利用して中国の国家安全保障に危害を加える活動を行っている。これらの行動と活動は「一国二制」原則のボトムラインに対する深刻な挑戦であり、断固たる措置を取ってこれを防止し、懲らしめなければならない。
 香港基本法第23条は次のとおり定める。この規定がいわゆる23条立法である。
 「香港特別行政区は、国家に背き、国家を分裂させ、反乱を煽動し、中央人民政府を転覆し、国家の機密を盗み取るいかなる行為をも禁止し、外国の政治的な組織または団体が香港特別行政区で政治活動を行うことを禁止し、香港特別行政区の政治的組織または団体が外国の政治的組織または団体と関係を作ることを禁止する立法を自ら行うべきである。」
 23条立法は、香港特別行政区に対する国家の信任を体現するとともに、香港特別行政区が国家の安全保障を擁護する憲政上の責任と立法義務を負っていることを明確にしている。しかし、香港復帰後の20余年間、反中乱港勢力及び外部勢力の妨害によって23条立法は一貫して完成していない。しかも、2003年に23条立法が挫折してから、この立法は他心ある連中によって深刻な汚名を着せられ、悪魔扱いされ、香港特別行政区が23条立法を完成することは実際問題として非常に困難になっている。法律制度以外にも、香港特別行政区は国家の安全を擁護する法律制度及び執行メカニズムに関して、明確な「欠陥」問題があり、このことにより、国家の安全を損なうさまざまな活動はますます激しくなり、香港の長期的繁栄と安定を維持し、国家の安全を維持することはもはや無視することができないリスクに直面している。
 憲法(浅井注)及び香港基本法に基づき、国家レベルで香港特別行政区における国家の安全を擁護する法律制度及び執行メカニズムを作るさまざまな方法があり得る。その中には、全人代及び常務委員会による決定作成、法律制定、法律改正、法律解釈、全国的法律を香港基本法付則三に盛り込むこと、中央人民政府による指令発出等が含まれる。中央及び国家関連機関は、さまざまな要素に対して総合的な分析、評価及び検討を行った上で、「決定+立法」の方法をとり、二段階で推進することを提起した。
 第一段階は、全人代が憲法及び香港基本法の関連規定に基づき、法律制度と執行メカニズムを作る決定を行うことで、関係する問題に関して若干の基本的規定を設け、同時に、全人代常務委員会に対して法律制度及び執行メカニズムについて関係する法律を制定することを授権する。
 第二段階は、全人代常務委員会が憲法、香港基本法及び全人代授権決定に基づき、香港特別行政区の具体的情况と結合して、関係する法律を制定し、及び、当該法律を香港基本法付則三に盛り込み、香港特別行政区が公布し、実施する。
(浅井注)
 王晨説明は憲法の関連規定として第31条及び第62条(2)(14)(16)をあげています。両規定は次のとおりです。
第31条:国家は必要なときに特別行政区を設立しなければならない。特別行政区で実行する制度は、具体的情况に従い、全国人民代表大会が法律によって定める。
第62条:全国人民代表大会は以下の職権を行使する。
(2) 憲法の実施を監督すること。
(14) 特別行政区の設立及びその制度を決定すること。
(16) 最高国家権力機関が行使するべきその他の職権。