数ヶ月前までは「一強」を謳歌していたのに、新コロナ・ウィルス問題に対する拙劣な対応(典型が「アベノマスク」「定額10万円支給問題」)プラス法務省人事問題等で世論の支持率が一気に最低水準まで落ち込み、与党内部からも今や公然と批判の声が上がるに至った安倍政権ですが、ドイツでは、党首の座も降りて、もはや先はないと言われていたメルケル首相が同じ問題に対する的確な対応によって国民の72%という高い評価を受け、今選挙するならばメルケル再任とするものが64%という完全復活モードのようです。確かに、英仏伊西等諸国が軒並みコロナで苦戦している中で、ひとりドイツは死者数を抑え込む点で抜きん出ています。
 すなわち、今朝(6月1日)の朝日新聞によれば、感染者数では、ドイツはアメリカ、ブラジル、ロシア、イギリス、スペイン、イタリア、フランスに次いで世界8位(18万3189人)ですが、死者数は8530人で、感染者数上位8カ国の中では、ロシア(感染者数39万6575人に対して死者数4555人)に次ぐ堂々の第2位です。ちなみに、感染者数に死者数の占める割合は4.66%で、日本の5.29%(感染確認者1万6968人に対して死者数898人)よりも低い値です。
 5月31日の北京青年報は、国際問題学者・向長河署名文章「コロナで得点 メルケル政治生命の「二つ目の春」」を掲載しています。メルケル政権のコロナ対策を理解できる内容でした。一言でいえば、安倍政権がやろうとしないことをメルケル政権はすべてやっている、とまとめることができるでしょうか。要旨を紹介します。

 十数年前の世界金融危機に際して、メルケルが舵取りをしたドイツは従容と対処し、西側諸国では真っ先に苦境を抜け出し、その結果、メルケルは欧州政治でもっとも影響力がある指導者としての名声をほしいままにするに至った。そして今、コロナが世界を席巻するに際して、メルケル政権は初動の誤りを速やかに克服し、科学的な積極対応で再び西側トップの成績を上げ、彼女の名声は再び上昇し、政治生命も「第二の春」を迎えている。
 アメリカの『ニューズ・ウィーク』が明らかにした世論調査では、大多数のアメリカ人はドイツのコロナ対応が西側世界トップだと評価している。ドイツ・メディアが5月上旬に行った世論調査では、72%の回答者がメルケル政権のコロナ対応に満足していると答え、64%の回答者は現在選挙があれば、メルケルは引き続き首相となるだろうと答えた。
 メルケルはここ数年の難民危機への対応で支持率が低迷し、政権4期目の彼女は再任を求めないと公言し、党主席の座も降りた。しかし、メルケルのコロナ対応における手腕は誰もが認めるところであり、選挙民の支持を再び勝ち取ることになっている。
 メルケル政権のコロナ対策はどこが秀でているのだろうか。
 第一、犯した誤りを迅速に改めたこと。他の欧州諸国と同じく、コロナ発生当初はドイツもすこぶるアバウトな対応を行い、大幅な感染拡大を招いた。しかし、問題の所在を認識するやいなや、メルケル政権はさまざまな対応措置を果断に打ち出し、ロックダウンすべきはロックダウンし、隔離すべきは隔離し、検査すべきは検査し、ソーシャル・ディスタンスも厳格に実行した。ドイツ人は自己規律で世界に名を馳せているが、全国民が政府の取った対策を自覚的に遵守し、その結果、4月初の感染確認者数7000が下旬には3桁台まで下がった。西欧最大の人口数であり、当初は事態が深刻だったドイツの下降曲線は顕著だった。
 第二、科学尊重。物理学者出身のメルケルは科学的な防疫コントロールに忠実であり、ドイツの著名な疾病コントロール機関及び専門家と良好な意思疎通と協議を行っている。手段としては主に二つだ。一つは早期検査、大量検査だ。政府は科学研究機関による先進的なテスト・キット開発によって検査の敷居を低くした。ドイツの多くのレベルの実験室で検査を行うことができるほか、地域によってはドライブ・イン方式の簡易テスト場を設置している。4月下旬段階で、ドイツにおける一日当たりの検査能力は13万回のレベルに到達した。大規模な検査と隔離により、コロナ感染速度を減少緩和させ、患者に対してはベストな治療を提供し、重症患者数を抑え込んだ。しかもドイツは全国範囲の抗体検査も開始しており、その規模において欧州トップになっている。ドイツはまた、コロナ接触者追跡ソフトも開発し、防疫コントロールは大いに促進されている。
 もう一つの手段は重症医療保障水準の向上だ。コロナ発生以前の段階で、ドイツの重症医療保障水準はアメリカに次ぐ第2位であり、人口10万人当たりの重症患者用ベッドは約34床で、イタリアの4倍だった。ドイツには約2万8千の重症患者用病室があり、2.5万台の呼吸器が配置されていたが、呼吸器についてはコロナ感染拡大後は4万台以上に追加された。ドイツの先進的工業力は需要に応じて呼吸器を追加配備することを可能にしている。したがって、ドイツは一貫して「ベッド空き」の状態を維持し、フランス、イタリアから重症患者を受け入れる余力を保っている。こうした良好な医療が死亡率を低く抑えることを保証している。ドイツの死亡者数は8000人台であり、死亡率は5%に達せず、これは主要先進国最低だ。
 第三、思慮深く慎重であること。コロナ発生当初の段階で、メルケルは数千万人のドイツ人が感染する可能性があると警告し、人々を震撼させた。抑え込みに成功したことにより、ドイツはロックダウン解除の先陣を切り、ブンデスリーガはリーグ再開において欧州一番となった(無観客試合)。しかし、メルケルは繰り返し人々に防疫規定を遵守するように警告し、ソーシャル・ディスタンスを守らせ、その期間を6月29日まで延長する措置を取っている。地域的なクラスターが発生するたびに、メルケルは必ず警告を発しており、正に口を酸っぱくしている。
 第四、グローバルな協力の提唱。アメリカがコロナを政治化し、全力で中国に責任をなすりつけ、WHOを攻撃している時に臨んでも、メルケルはそれに動じることなく、グルーバルな協力を提唱し、世界コロナ対策におけるWHOの指導的役割を支持している。メルケルは過日、EUがコロナ対策でより多くの責任を担うこと、EUと中国の協力は重要な戦略的意義を持っていること、中国との長期投資協定を推進することを公式に表明した。
 以上、メルケルはコロナとの闘いで見事な勝利を収め、欧州で率先垂範する抗疫のリーダーとなり、国内外での声望は高まっている。メルケルが再任問題について再考しているかどうかは、今のところは未知数だ。本来であれば、4月にキリスト教民主同盟の党大会で新しい党主席を選挙することになっていたが、コロナのために延期されている。来たる党主席選挙はメルケルの去就に関するバロメーターとなるだろう。