5月25日の緊急事態宣言を全国で解除することを発表した安倍首相が、「日本モデルの力を示した」と述べるのをテレビで小耳に挟んだとき、「こいつ、本当にバカじゃないのか」と我が耳を疑う思いがしました。もうそれだけで御託を並べ続ける発言に付き合う気持ちが消え失せました。今朝(5月26日)の朝日新聞によれば、「日本ならではのやり方で、わずか一ヶ月半余で今回の流行をほぼ収束させることができた。日本モデルの力を示した」という発言だったようです。
 安倍の言う「日本モデル」とは、①医療崩壊回避が至上命題で人命後回し、②入院者数を極力最小限にするためにPCR検査を受ける「資格」をつり上げる(37.5度以上の発熱が4日間以上続く)、③入院者数を最小限に抑えるためにPCR検査対象をクラスターに限定(世界スタンダードの早期発見・早期隔離・早期治療を無視)、以上3点に要約できるでしょう。①は言語道断。②から当然に帰結するのは、重症患者が増える(入院ができず野垂れ死にする、入院したときには手遅れ)ということであり、③から当然に帰結するのは、忍者・一匹狼(感染していながら検査に引っかからないままで動き回る人たち)の放任、ということです。
 今朝の朝日新聞もさすがにあきれたのか、日本で感染が広がらなかったことに対する海外メディアの反応を報じるとともに、感染者・死者数を世界と比べたりしています。要すれば、上記①②③からなる「日本モデル」は世界的にはあり得ない(あってはならない)最悪の無為無策ということが、世界が日本に対して下している厳しい判断です。安倍が「日本モデル」などと吹聴するのは、世界に賞賛される「韓国モデル」が気にくわない安倍が、おそらく経産省出身の取り巻き「ブレーン」の入れ知恵で、「韓国モデル」の向こうを張って精一杯の虚勢を張ったものでしょうが、その浅はかさには本当に怒りがこみ上げます。
 事態が楽観するには程遠い状況にあることは、次の諸事実からあまりにも明らかです。
第一に、日本には一体どれほどの忍者・一匹狼がいるかまったく分かっていない。中国・武漢市では、1100万人市民を対象にしたPCR検査を実行中です。全員をしらみつぶしにしているのです。韓国では、忍者・一匹狼を基本的に捉える綿密なPCR検査を行ってきたため、今回の第二次感染に際しては追跡しやすくなっています。ひるがえって日本では、今後いつ何時どこで感染爆発が起こるか誰も予想もつかない。そういう中での緊急事態宣言解除というのは正にバクチ以外の何ものでもないのです。
第二に、感染者数と死者数が少ないというが、感染者の死亡率は極めて高い。一般的には(朝日新聞が行っているように)人口10万人当たりの死者数を比べます。しかし、「日本モデル」の②の深刻な意味について考えるためには、感染者数に対する死者数の比率を見る必要があります。特に、日本とほぼ同じ時期に感染者が現れた韓国の取り組みと日本のそれとを比較する上では、この比率を比べることが重要だと思います。日本は感染者16623人に対して死者数が843人で、5.07%です。韓国は11206人に対して267人で、2.38%です。日本は韓国に比して実に2倍以上の死亡率なのです。韓国の場合は、正に世界で「韓国モデル」と賞賛されるにふさわしい中身があるのです。逆に言えば、安倍の言う「日本モデル」は悪の標本であることが分かるというものです。(ちなみに、中国は82985人に対して4634人で5.58%、イランは137724人に対して7451人で5.41%、日本の率はほぼ中国、イランに匹敵するものです)。
 緊急事態宣言が解除になっても、日本の先行きはまったく不透明です。私も感染爆発の第二波、第三波が起こらないことを心から願う者の一人ですが、残念ながらそれは「苦しいときの神頼み」の類いにしか過ぎません。5月15日のコラムで紹介した上昌広氏も東洋経済オンラインで警鐘を鳴らしていることをつけ加えておきます。