イランにおけるコロナとの戦いは、アメリカの対イラン制裁が医療機器、医薬品にまで及んでいる中で、大変厳しい状況下にあります。検査キット、医療用防護マスクなどについてゼロからの国産化を強いられるなど、涙ぐましい努力を重ねています。幸い、感染のピークは越えたようですが、イラン衛生部の発表では、新しい感染者は5月19日2111人、20日2346人、21日2392人で累計129341人、死者数は19日62人、20日64人、21日66人で累計7183人、21日現在の累計治癒者100564人、と高止まりです。5月19日までのPCR検査数は71万人以上に上っており、早期発見、早期隔離、早期治療を徹底しています。もちろん、ソーシャル・ディスタンシングも徹底しています。21日までに約1万人の医療関係者が感染している(死者も出ている)といいます。 しかし、イランの状況は明らかに改善に向かっており、ラマダン明けの5月24日前後にはレストランなどの営業再開が認められると報道されています。また、イランのサッカー試合は6月11日に再開されると発表されました。ただし、その前に選手及び関係者全員のPCR検査が義務づけられています。
 以上の状況を受けて、ロウハニ大統領は5月19日にメディア責任者たちとの会合の中で、イラン国民の団結がコロナとの闘いで、対イラク8年戦争当時と同じ歴史的な奇跡を起こしたと称える発言を行いました。同日のイラン大統領府WS(英語版)は同大統領の発言を紹介しています。
 私がイランの取り組みについて感心するのは「人命最優先」原則を徹底していることです。私は5月20日に八王子市からの「特別定額給付金」に関する通知を受け取りました。同封されていたのは、「新型コロナウィルス感染症による医療崩壊を防ぐために」というペーパー、また、八王子市が、医療崩壊を防ぐために市の中に「地域医療体制整備チーム」を設置したという案内でした。人命については一言の言及もないのです。私がコラムで度々批判してきたことですが、「人命よりも医療体制崩壊阻止」という厚労省のあけすけな立場が末端にまで浸透していることを思い知らされました。ロウハニ発言の温かみこそ、安倍政権にもっとも欠落しているものです。ロウハニ発言は断片的なのですが、その内容は感動的です。中国ほどではありませんが、イランについても西側メディア報道によって、悪いイメージが先行しがちです。短いですが、要旨翻訳の上紹介するゆえんです。

 イラン国民は、団結、誠実、連帯のもとでコロナとの闘いにおいて歴史的な奇跡を引き起こしている。団結、連帯、人々の政府及びコロナ・タスク・フォースとの協力はこの厳しい闘いで我々を勝利に導いている。団結した統治の経験は我が国家を輝かしい地平へと導いている。我々は過去3ヶ月間にそのことを経験した。(イラクとの)8年間の神聖な防衛戦争時代の勝利は団結した統治によるものだったが、コロナとの闘いにおいてもこの成功した経験を再び見届けている。83%の国民が健康プロトコールを守ってきたという事実は人々の政府との協力を示す証左であり、この協力のためにすべてのメディアが重要な役割を担ってきた。我々がコロナとの闘いに勝利できた三番目の理由は団結した医療チームがいることである。医療関係スタッフの不眠不休の努力が、当初は何も分からなかったコロナをほぼコントロールする段階にまで導いた。
 政府が行ってきたインフラ面での努力に関しては、病院におけるベッドの数は国の全歴史を通じた数の2倍に増え、コロナのピーク時においてもベッドが足りなくなる状況を生み出さなかった。アメリカによる不法な制裁と経済的圧力という厳しい条件であるにもかかわらず生産はストップすることはなく、小麦その他の農産物の自給等の偉大な成果を見届けている。ガソリン、ガス、ディーゼルの生産でもいまや自給を達成しており、こうしたことがコロナとの闘いに貢献した。
 政府は、コロナに関して正直、完全な透明性を心がけ、国民には真実を語ってきた。メディアも良い仕事を誌、外国メディアのウソとデマとに抵抗してきた。メディアには国民に情報を伝達する重い責任がある。社会に平和をもたらし、人々の心配を取り除くことはメディアの重要な仕事である。批判は良いのみならず、効果的かつ建設的である。誠実な批判は大いによろしい。しかし、その批判は政府に対してのみ向けられるものであってはならない。