米中関係を見ていると、米ソ冷戦の主原因がアメリカのソ連敵視政策にあったことがよく分かります。スターリン・ソ連の時は極度の秘密主義でしたし、スターリンが国内で大粛清の恐怖政治を行っていたことから、「アメリカ=善玉、ソ連-悪玉」というアメリカの宣伝は世界にすんなりと受け入れられる条件がありました。
 もちろん、習近平・中国についても、「全体主義」「一党独裁」「人権抑圧」「大国主義」「覇権主義」等々、ありとあらゆるレッテル貼りが行われており、日本を含む西側諸国では「社会主義=悪」という固定観念の働きがあり、さらに日本では中国に対する独特の複雑な感情が働いています。それにひきかえ、トランプ・アメリカに対しては、トランプの粗暴な言動、「アメリカ一国主義」に対してはみんなが眉をひそめますが、しかしだからといって、アメリカそのものに対する長年にわたるイメージがトランプの存在によって毀損されるには至っていない現実があります。みんなが密かに、今年の大統領選挙ではトランプは落選するのではないかと期待しており、バイデンになれば元のアメリカに戻るだろうと踏んでいるからでしょう。トランプが再選され、さらに4年間今のご乱行・アメリカが続くことになるとき、世界そして日本の対アメリカ観・イメージが変化するのか否かに私が関心を持つゆえんです(もっとも、その時になっても、「中国よりはアメリカの方がまだまし」という見方が支配するだろうとは思いますが)。話を戻せば、トランプがのさばっているにもかかわらず、「アメリカ=善玉、ソ連=悪玉」に代わる「アメリカ=善玉、中国=悪玉」というイメージは世界でも日本でも牢固たるものがあります。
 しかし、スターリン・ソ連と習近平・中国を決定的に隔てるのは、秘密主義・スターリンと改革開放・習近平という点にあります。中国の情報公開はめざましいものがあり、中国側の報道を丹念にフォローすれば、中国の本質をつかむことは可能になっています。貿易・経済問題及びそれに引き続く新コロナ・ウィルス問題をめぐっての米中関係の悪化が、もっぱらトランプの一方的な「仕掛け」によって引き起こされたものであり、習近平・中国は21世紀にふさわしいウィン・ウィンの新型大国関係をアメリカとの間で構築することを一貫して主張しており、トランプの対中攻撃には不本意ながらも防戦に追い込まれているのは間違いのないことです。その現実に対して、米中間に「第二の冷戦」が起こるのは不可避であるとする見方が力を増しています。中国国内でもそういう悲観的見方が示されるに至っています。
 国際的に見ると、米中冷戦においても「アメリカ=善玉、中国=悪玉」という図式・イメージが何の検証もなく堂々とまかり通る現実があります。しかし、私は、実事求是で見るとき、この図式・イメージは決定的に間違っていると思います。私がか細い声でつぶやいてもステレオ・タイプの図式・イメージをぶち壊す力はゼロであることは百も承知です。しかし、「アメリカ=善玉、中国=悪玉」という図式・イメージは間違いであることを指摘しておくことは、私の歴史に対するささやかな責任であると思います。
 環球時報の5月9日付け社説(WSには前日掲載)及び16日付け社説(WSには前日掲載)の中身は、中国がアメリカの敵意に対して長期的に身構えざるを得ない立場を明らかにするものです。すなわち、両社説は、あり得べき「米中冷戦」はアメリカの中国敵視政策によって引き起こされるものであることに関する生き証人であると思います。以下に紹介するゆえんです。

<5月9日社説「すごい剣幕のアメリカ 長期的対応の準備を強いられる中国」>
 中国を猛攻するのは主にトランプ政権、共和党議員及び親トランプの保守メディアであり、選挙対策という性格が明確だ。そのために、この反中ムードはトランプが選挙で勝利するためのものであり、選挙が終われば、この反中エネルギーは消えるのだろうかという見方が一部の中国人の間では出ている。
 間違ってもそのような幻想は持たないことだ。中国に対する敵意はこの数年間の発酵を経てアメリカ社会に拡散してきたものであり、現在の反中ムードには確かにトランプの選挙対策という要素はあるが、この反中ムードはアメリカの現実のイデオロギーとの結びつきがかなり強い。今回のムードは中国に対する敵意をさらに過熱させることはあっても、それ以外のことはあり得ない。大統領選挙後にアメリカの対中政策は、この惰性がさらに続くかあるいは調整されることはあるかもしれないが、「根本から正す」ことはあり得ない。
 トランプが再選されようと、バイデンが当選しようと、中国に対する「責任追及」は続くだろう。これはもはや、中国と競争し、駆け引きするためにアメリカ社会を動員する手段になってしまっているからだ。民主党政権になったとしても、トランプ政権と同じように「中国の責任を追及する」という旗を掲げるだろう。
 中国の台頭は、アメリカの政治エリート層の理性を失わせ、彼らの基本的な判断力をねじ曲げてしまっている。彼らは「中国の脅威」を深刻に誇張し、焦りと傲慢とが混ざり合った醜態を不断に示しており、アメリカ国内では中国の「ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)」を糾弾する動きが次第に形作られつつあり、以上のことは中国におけるさまざまな事柄に関するアメリカ社会の客観的認識を深刻に妨げることになっている。
 中国の体制とアメリカのそれとは異なるのだが、アメリカは自分の価値体系に基づいて中国の欠陥を暴き出すことに熱中し、時には国際場裏で中国を攻撃するというだけにとどまらず、自分たちのすべてが中国より優越していると信じ込んでいるのだ。
 彼らにかかると、中国の誰それの外交官が何かを口にし、主流メディアのどれかが何かを言っただけで大げさに取り上げられ、北京の「罪状」とされてしまう。しかし実情はどうかと言えば、中国は極めて隠忍自重しており、中米間の世論戦争はすべてアメリカが仕掛けてくるものである。しかも、アメリカは大統領、国務長官から議員まで集団で世論戦争に臨んでいるのに、中国で応戦するのは外交部報道官及びいくつかの主流メディアレベルにとどまっている。
 中国は長期的に応戦する準備を行う必要がある。我々がまず行うべきことは力を強化することであり、その中には中核的な科学技術力及び軍事的戦略的力量の建設が含まれる。アメリカが先端技術で中国の首を絞めにかかることはすでに大勢の赴くところであり、中国としてはこの分野におけるボトムライン思考と最悪のケースに対する備えがなければならない。中国近海におけるアメリカの通常兵力の優位性は次第に消えつつあるが、アメリカの核の優位性は相変わらず絶対的なものがあり、これがアメリカの中国に対する軍事的傲慢さの最大の支柱となっている。したがって、中国が核戦力を拡大し、戦略的打撃能力を強化することは一刻も猶予ならないポイントとなっている。
 我々はまた、世界のもっと多くの国々との団結を強化し、アメリカの同盟国・友好国に対するアプローチを含めた総合的な能力を確実に強化する必要がある。そのためには、各国との間の共通の利益を拡大し、これら諸国との間の共通のベースをさらに拡大し、違いを縮小するように努めていく必要がある。そうすることによって、強大な中国がこれら諸国の国家的利益に合致し、中国とこれら諸国との間のさまざまな違いがあっても中国はこれら諸国を尊重することには変わりがないことを、これら諸国が信じられるようにする必要がある。
 我々はまた、自らの心理についても調整する必要がある。対米関係が以前に戻ることはあり得ない。しかし、米中関係を米ソ冷戦的な対決に変じさせないことは十分に可能であり、その確率は高い。中国人が「アメリカを恐れない」ことの最善の表現形態はアメリカの挑発に簡単に激怒しないことであり、アメリカと戦略的に対応する上で十分な忍耐心を持つ必要がある。いま本当に焦っているのはアメリカであり、中国の反応は理もあり力もあり節度もある。冷静沈着こそは中国の自信がもっとも説得力を持つ表れである。
 もう一つ、中国人は多くの場合に「忍の一字」という戦略的矜持を持つ必要があり、これはアメリカだけでなくほかの国に対しても同じである。アメリカが「中国をやっつける」とき、そのチャンスにあやかって、中国に値段をふっかけ、我々を不快にする言動をとる国家も出てくるだろう。中国は反応することもあれば、戦術的に大目に見ることもある。我々が知っておくべきは、No.2であるということは極めて難しいことであるということだ。時によっては、相手を安心させる弱者を演じる方が楽なこともある。中国のマクロ的主動性がますます大きくなることは間違いないことであり、向上する過程でさまざまな試練に出会うだろうが、我々としては泰然自若で、ことに臨む必要がある。
<5月16日社説「対米反撃 厳しく持久戦で」>
 環球時報の理解するところでは、アメリカが華為に対してさらに「首を絞め」、TSMCによる華為に対するICチップ供給を阻止するならば、中国は強力に反撃し、アメリカの関連企業を「信用できない企業リスト」に載せ、法規に基づいてクオルコム、シスコ、アップル等企業に対して制限ないし調査を行い、ボーイングからの購入を暫定停止する等々の措置を講じるだろう。
 アメリカによる中国のハイテク企業に対する「首を絞める」行動は激しさを増す勢いであり、中国としては、アメリカがハイテク分野で中国との「つながりを完全に断ち切る」最悪の事態に対応するべく準備しなければならない。我々は独自の研究開発でブレークスルーを勝ち取るとともに、欧州、日韓との協力をさらに積極化する必要があり、これらのことは巨大かつ長期的な試練となるだろう。
 中国との「つながりを絶つ」というトランプ政権の脅迫は選挙対策という一面はあるが、「首を絞める」などの手段を通じて中国を制圧する過激な戦略はすでに布石が終わっており、流れとしてはもはやひっくり返すことは難しくなっている。
 中国の平和発展戦略にとっての大環境には重大な変化が起こっており、中国の内外政策及び我々の注意力の重心には調整を加える必要がある。アメリカによる制圧は中国の前進の道路におけるNo.1の挑戦になっており、相当長期にわたって内外の張力を解放し、アメリカがのさばるのを突き崩す必要がある。
 我々の対抗措置第一歩は、アメリカによる華為制圧は代価を伴うという態度を明確にすることだ。長期的には、中国市場が不断に拡大することはグローバル経済においてもっとも確実な流れの一つだが、アメリカが中国のハイテク企業と「つながりを絶つ」ということは、アメリカの科学技術及び巨大企業が中国市場を喪失し、そのグローバルな競争力を削ぐことに直結するのは必然のなりゆきである。
 科学技術における米強中弱のため、中国が速やかに勝ちを収める変身を遂げることはあり得ず、中国は困難な時期に直面することになるだろう。その間、国際的に不利な要素が増えるだろう。例えば、他の国々やパワーが中国の困難な境遇を利用して注文をつけ、そのために国際関係における中国のコストをつり上げることもあるだろう。
 中国としては大国としての戦略的気概を示し、何が我々にとって最重要で、何を手放して良いのかを明確にさせなければならない。我々は、グローバル規模で対処する能力と心構えを備える必要がある。中国文化の歴史的資源は、この時に当たって我々に多くの示唆を与えるはずである。
 我々は、アメリカの制圧に対抗することが今後の中国の国家戦略における最大の重心となることを明確に理解する必要がある。そのため、それ以外の摩擦、とりわけ国家の重大な利益にかかわらない摩擦についてはくよくよしないようにする必要がある。そうすることにより、多くの国々との協力を促進し、構築し、外部世界と「和して同ぜず」を維持する能力を強固にするのだ。アメリカは次のステップとして、中国を封じ込める国際線戦を構築しようとするだろう。我々はワシントンの計画が思いどおりにならないように確実な行動をとり、中米の駆け引きの中でアメリカが不断に孤立していくプロセスを勝ち取るべきである。
 中国は、中国と西側とのイデオロギー上の紛争を希薄化させる措置を取る必要がある。価値観は、アメリカが西側諸国を動員して中国を制圧する上でもっとも安価な道具であり、如何にして中国と西側とのイデオロギー上の違いが突出しないようにし、アメリカがほしいままに道具として使用できないようにするかは、中国としては真剣に探求するべき課題である。いずれの国家も自らの道を歩む権利があり、中国の道は人民に福をもたらし、かつ、西側諸国の実際的な利益に対して危害を加えない。中国と西側諸国が相互に尊重し合い、平和的に共存するということこそが基礎となるべきである。
 中国は国内において、科学技術創造刷新にとって有利となるメカニズムと雰囲気を大いに醸成する必要があり、また同時に、対米闘争が我が国の社会ガヴァナンスに「反作用力」を作り出すのを防止し、保守的考え方が台頭するのを断固として回避する必要がある。対米闘争は長期的であり、そのことは中国内部における真の団結を必要としており、それは我が国内部にさらなる活力と寛容がある基礎の上で作り出す必要がある。このような対米駆け引きのパラダイムであってこそもっとも後顧の憂いがないのであり、戦えば戦うほどますます強くなり、勇気が出てくるのだ。
 アメリカは猛々しい勢いだが、法則に逆らって中国を制圧しようとしている。したがって、中国が法則に従って自らのことをやれば、ワシントンの野心はまったく恐れるに足らない。仮にアメリカが本気でその一歩を踏み出すならば、中国はまずアメリカの関連企業をして痛い目に遭わせ、我が方の力と決意を見せつける。その後は心を静め、どのような変化に対応するかを真剣に考え、アメリカがキレて向かってくるのに対しては地べたに足をつけて対応し、持久戦を戦うのだ。