安倍政権のコロナ対策「成功?」の怪(フォリン・ポリシー文章)

2020.05.16.

5月14日の米誌『フォリン・ポリシー』(電子版)は、ウィリアム・スポサト(Sposato)署名文章「日本の中途半端なコロナ対策 とにかく機能している」(Japan's Halfhearted Coronavirus Measures Are Working Anyway)を掲載しています。この文章は、「日本がやっていることはすべてダメダメに見える」という書き出しで、「しかし、死亡率は世界最低の部類であり、医療システムは負荷過重を回避しており、奇妙なことにすべてがうまくいっているように見える」として、次の諸点を指摘しています。

○5月14日現在、コロナによる死者は687人で、人口百万人当たり5人である。百万人当たりの死者数は、アメリカ258人、スペイン584人で、成功事例とされるドイツでも94人である。日本の医療専門家は、公式数字は実際よりも低い可能性があるとしつつも、肺炎などの関連する病気での死者数も異常に伸びてはいないことを指摘している。
○PCR検査の範囲は国際標準からすると極めて低い。5月14日現在で233000を若干上回る程度だ。この数字はアメリカでの検査数の2.2%にしかならない。 ○爆発的増加を免れている国・地域は、高温地帯(浅井注:台湾、ヴェトナム、カンボジア)とか若い層が人口に占める割合が高い国・地域(浅井注:ネパール、ヴェトナム、カンボジア、ラオス、ニカラグア)だが、日本はいずれにも当てはまらない。
○日本は緊急事態宣言を出したが、欧州諸国のロックダウンとは比べものにならないぐらいに規制は緩やかである。
○他人を気にかける習性、人から距離を置く習慣、握手する習慣はないこと、衛生習慣等の日本的文化が良好な成績に貢献しているとみられる(確たる証拠はないが)。しかし、この日本的文化は医療関係者や患者に対する差別的言動ともなって現れる(欧米とは真逆)。
私も、安倍政権の徹底した無為無策にもかかわらず、日本においてコロナの大爆発が起こっていない(表面的に見る限り)のは不思議でなりません。高温地帯に属する国・地域で爆発が起こっていないところも、以上に指摘したようにあるにはありますが、エジプト、インド、フィリピンでは大爆発に近い勢いですし、アフリカ、中近東は感染発生が遅いですから、これから爆発的に伸びる可能性は十分にあります。
 私は大爆発が起こっている米欧諸国では、スキンシップの習慣があることが大きな原因なのではないかと思います。日本はそういう習慣がないですから、それが米欧のような大爆発を引き起こさない原因の一つになっている可能性は十分に考えられると思います。そういう意味で、日本人の文化習慣に着目したスポサトの指摘には一理あると思います。
また、インドでは貧民窟の存在が大爆発の一因になっています。最近感染者が急増しているシンガポールや湾岸諸国では、出稼ぎの外国人労働者が密集して住んでいる住環境が原因の一つとして挙げられています。日本ではそれらに該当する地域・場所がないことが幸いしている可能性もあります(かつて高度成長期には「ドヤ街」と言われる地域がありましたが、近年は再開発されたりして昔の面影は薄いと聞きます)。
中国・武漢における大爆発の原因としては、中国の研究者は家庭内感染の比重が大きいと指摘しています。特に、便座が感染源として重要だったと指摘しているそうです。私自身は、中国人の家庭の食事時に、みんなが大皿で箸をつつく食習慣も関係しているのではないかと思います(最近の人民日報に、大皿で食べる習慣は太古から不変なわけではなく、一人一人のお皿で食べる時代もあったとして、食事のスタイルを変えることを薦める記事が載っていました)。便座については私たちも気をつけなければならない点だと思います。他方、大皿で箸をつつく習慣は日本人家庭では基本的にありません(鍋の時を除く)。
このように、多くの国で爆発を引き起こしている原因が存在しないことが日本に幸いしてきたことは考えられます。しかし、私は「日本だけがコロナのお目こぼしに与る」幸運にこれからも恵まれ続けるとはとても思えません。いったん抑え込みに成功した韓国でも最近集団感染が発生していますし、中国でも、吉林で集団感染が新たに起こっています。日本でも同じことが起こる可能性は大といわなければならないでしょう。
ただし、韓国・中国と日本が決定的に違うことがあります。前者においてはPCR検査を徹底的に行って一匹狼・忍者(引っかからないで徘徊する感染者)をもほぼ割り出して対処済みであるために、いったん新たな感染が起こっても、徹底した追跡で感染者及び濃厚接触者を割り出すことが比較的容易です(日本的な「クラスター」しらみつぶし方式が適用できる)。これに対して、PCR検査を怠ってきた日本は一匹狼・忍者をほぼ野放しにしているため、何時どこで集団感染が起こるかまったく読めないわけです。尾身茂氏(新型コロナウイルス感染症対策本部新型コロナウイルス感染症対策専門家会議副座長。ちなみに彼は、昨日(5月15日)のコラムで記した厚労省「医系技官」出身で、後にWHO西太平洋事務局長となった経歴の持ち主です)ですら国会答弁で、実際の感染者は10倍、15倍、20倍いるか分からないと述べているぐらいです。したがって、遅きに失したとは言え、今からでもPCR検査を格段に強化しなければならないわけです。