日露関係:朝日新聞5月6日報道とロシア外務省コメント

2020.05.13.

5月12日のロシア外務省英語版WSは、5月6日の朝日新聞朝刊が掲載した記事に対して5月8日付けのコメントを掲載しました(ロシア語コメントはもっと早い段階で掲載していると思います)。5月6日の朝日の記事を念のため紹介し、その後にロシア外務省情報報道局コメントを翻訳して紹介しておきます。
ロシア外務省コメントの内容は、例えば昨年(2019年)11月24日のコラムで私が紹介したラブロフ外相発言と軌を一にするもので、なんら目新しくはありません。ロシア外務省としては、朝日新聞の報道を看過するわけにはいかず、日本側に改めて釘を刺しておくという趣旨だと思います。私もコラムに記録を残す意味で紹介する次第です。

<朝日新聞記事>
「四島入っているか?」2度確認した首相 73年日ソ首脳会談、極秘議事録見つかる
 日本政府が北方領土交渉の基本方針とする「四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結」を口頭で確認した、1973年10月の日ソ首脳会談の極秘議事録が見つかった。当時ソ連を訪れた田中角栄首相が、領土問題の議論に応じないブレジネフ書記長から、共同声明案の文言に領土問題が含まれるとの認識を引き出す様子が詳細に記されていた。
 外務省でソ連を担当していた東欧1課が作成した文書「田中総理訪ソ会談記録」で、「極秘 無期限」と記載。当時副総理だった三木武夫元首相が保管しており、死後母校の明治大学に寄贈された文書の中にあった。73年の日ソ首脳会談の議事録全体が明らかになったのは初めてだ。
 議事録によると、田中氏のソ連滞在中4回あった首脳会談の3回目に、ブレジネフ氏が領土問題の対立で未締結の平和条約とは別に「平和と協力に関する諸原則を作ったら」と打診。田中氏は領土問題が棚上げにされかねないとみて拒んだ。
 田中氏は平和条約締結交渉の対象に「歯舞(はぼまい)、色丹(しこたん)、国後(くなしり)、択捉(えとろふ)の四島」と明記せねば会談後のコミュニケ(共同声明)に応じないと主張。これにはブレジネフ氏が「不可能だ。交渉継続が受諾できないならコミュニケに入れなくてよい。日本の問題だ」と反論した。
 最後の会談でも、ソ連側の共同声明案の「第2次大戦時からの諸問題を解決し平和条約を締結する」というくだりをめぐり、両首脳は「諸問題」とは何かで応酬。田中氏が「その(諸問題の)中に四つの島が入っていることを覚えておいてもらいたい」とただした。
 ブレジネフ氏は「ヤー ズナーユ(知っている)」と発言。田中氏が「諸問題の中に四つの島が入っていることにつき確認をもう一度得たい」と詰め、ブレジネフ氏は「ダー(そうだ)」とうなずいた。共同声明はソ連案で落ち着いた。
 当時の東欧1課長で首脳会談に同席した新井弘一氏は朝日新聞の取材に「ヤー ズナーユという言葉では弱かったので、『もう一度ご確認を』と書いたメモを隣の大平正芳外相(当時)を介して首相に渡した」と話す。
 この会談で口頭確認された「四島の問題を解決し平和条約を締結」という方針は、93年の日ロ首脳会談の際の東京宣言で明文化され、2013年に安倍内閣が閣議決定した初の国家安全保障戦略でも「一貫した方針」として確認されている。一方、政府は北方領土交渉について今もロシアと継続中であることを理由にソ連当時からの記録を開示していない。今回の記録について外務省は「民間が所有する文書に関しコメントする立場にない」としている。(編集委員・藤田直央)
 ■北方領土をめぐる動き
 <1945年> 第2次大戦末期にソ連が参戦し四島占領
 <56年> 鳩山一郎首相訪ソ。日ソ共同宣言で国交回復
 <73年> 田中角栄首相訪ソ。日ソ共同声明
 <91年> ソ連崩壊。領土問題はロシアとの協議に
 <93年> エリツィン大統領訪日。東京宣言
 <2016年> プーチン大統領訪日。四島での共同経済活動へ協議開始で安倍晋三首相と合意
 (肩書は当時)
<ロシア外務省情報報道局コメント>
 5月6日の朝日新聞が掲載した、1973年10月にブレジネフ書記長と田中角栄首相との間の「極秘」会話の記録内容を明らかにしたと称する記事について、我々は以下のとおり述べたい。
 この記事は、露日平和条約にかかわる問題に関する、乱暴な憶測によって交渉における日本側の立場を強化しようという、あからさまな目的で仕掛けられたものだが、初めての疑似爆弾(暴露)からは程遠いものである。この記事の仕掛け人(日本の当局の関与の可能性を排除できない)は希望的考えに基づいていると、我々は指摘せざるを得ない。
 この時点で念のために言っておく。優先されるべきは、二国間関係を質的に新しいレベルに引き上げるための全般的な露日協力の進展である。両国人民に見える形でこのような結果を達成した場合にのみ、多くの敏感な問題について実質的な対話を行うための条件が出てくる。
 我々はまた、我が国が戦後一貫して維持してきた立場、すなわち、平和条約は日本が、南千島諸島に対するロシアの否定しようがない主権を含めて、第二次大戦の結果を全面的に承認するか否かにかかっている、ということを強調しておきたい。この主題について、特にかつての日本の指導者の「私的文書」を引用して(別の内容を)ほのめかすというのは不適切である。