中国の核戦力:中国国内の議論

2020.05.12.

5月8日、環球時報編集長の胡錫進はブログで次のように書きました。

 中国は比較的短期間で核弾頭を1000のレベルまで上げる必要があり、その中の最低限100は東風-41戦略ミサイルにする必要がある。我々は平和を熱愛しており、核兵器を先制使用しないことを約束しているが、アメリカの戦略的野心及び中国に対する衝動を抑えるためには核ミサイルをもっと増やす必要がある。そんなに遠くない将来、我々は強い意志で挑戦に立ち向かう必要が出てくるだろうが、我々の意思は東風及び巨浪というシステムの支えを離れてはあり得ない。
 幼稚であってはならない。核弾頭は平時には必要ないとは考えないことだ。我々は日々彼らのお世話になっている。黙々と彼らを使って、アメリカのエリートたちの中国に対する態度を形成しているのだ。専門家が、核兵器はあるだけで十分だと話すのを聴いたことがある。彼らはまるで少年先鋒隊員のように単純だと思う。
 この書き込みを見て、胡錫進は戦争狂だと罵る人もいるかもしれない。彼らが罵るべきは中国を敵と見なすアメリカの政治屋どもだ。私は中米が永遠に友好的であることを望んでいる。しかし、国家観の平和共存は望んだからといって得られるものではなく、戦略的道具で作り出すものだ。特に、我々が直面しているのはますます非理性的になっているアメリカと困難を極めるインタラクションを行うことであり、相手は実力しか信じていないのだ。核兵器を増やすべきか否かについての無駄話をしている時間はあまりないのであって、我々は一刻を争ってこのこと(核兵器増強)をやる必要がある。
 その日の中国外交部定例記者会見で、ロイター通信の記者が以上の胡錫進発言を取り上げ、トランプがプーチンとの電話会談(5月7日)の中で、米露軍備管理交渉に中国も加わるべきだと述べたことと併せて、中国側の見解を質しました。
 華春塋報道官の回答は次のとおりでした。
 これは胡編集長の個人的意見である。彼には言論の自由がある。貴方は本人に聴くべきであり、環球時報に申請して、彼と交流し、からの国際問題に関する見方を聴いてはどうか。
 核軍備管理問題に関する中国の政策は一貫している。最大の核兵器を保有している国家は特別の責任を持っており、大幅に核兵器を削減するべきである。中国は一貫して核兵器先制不使用政策を厳守しており、核に関する政策は極めて節度ある、責任あるものである。
 以上に関連して、5月9日の環球網は、「中国核拡充の必要の有無 専門家:国家の核安全保障を維持するに十分な能力保有」と題して、2人の軍事専門家の意見を紹介する記事を掲載しました。一人は胡錫進寄りの意見、いま一人は現行政策で良いとする意見です。この記事は両者の意見を並行的に紹介していますが、現行政策を支持する立場に力点を置いていることは、読めば直ちに明らかになると思います。核政策に関する数少ない記事ですので、大要を紹介しておきます。
最近、アメリカは中国周辺の軍事プレゼンスを不断にエスカレートしている。このことを背景に、ネット上では中国が核戦力を増強するべきだとする主張が出始めている。現在の中国の核戦力は脅威に対して十分か。「核兵器増強」という主張をどう見るべきか。
軍事専門家の宋忠平は、中国は引き続き「少数精鋭」の戦略核兵器を構築するべきであり、核兵器の数量を適当に増加することは中国の国家安全保障上の実際的必要に見合ったものであると述べた。これに対して、軍事専門家の楊承軍は、中国の核兵器の数は核大国に比べると極めて少ないが、国家の核安全保障を守るには十分な能力であると述べた。
 宋忠平は、新型戦略核兵器を研究開発する必要は極めてあると述べ、二つの理由を挙げた。まず、今日の世界は太平ではなく、アメリカは新しい世代の核兵器を構築しつつあり、中国に対する脅威は非常に大きい。また、中国の核兵器も世代交代が必要であり、「我々は少数精鋭の戦略・量を維持しており、"精鋭"に意を用いる必要がある」のであって、中国の特色ある戦略核戦力を構築することは極めて重要である。
 楊承軍は、今日の世界の核兵器開発の流れは小型化、低汚染そして打ち上げプラットホームの多元化にあると述べた。楊承軍によれば、1990年代以前は、核兵器の威力は通常数百万から数千万のTNT換算量だったが、このような核兵器を使用した場合、破壊面積は極めて大きく、使用に伴う付随的破壊も巨大なものとなって、国際社会の非難に直面することとなる。楊承軍はさらに、アメリカ、ロシアを含めた核大国は中性子爆弾や劣化ウラン弾などの戦術核兵器の研究開発に成功しており、「これらの国々は戦術核兵器ならば何時でも使えると考えているので、ますますきな臭さが増している」と紹介した。
 宋忠平は、アメリカが小さい威力の核兵器をもって中国を威嚇する主要な力としようとしている時、中国としても歩調を合わせ、より先進的な核兵器を開発する必要があると述べた。彼は、質だけではなく量も増やす必要があり、そうすることによってのみ、アメリカの中国に対する核攻撃、核威嚇を抑え込むことができると指摘した。宋忠平は、「我々はアメリカと核軍備競争をやりたいわけではないが、特にアメリカからの脅威はますます増大しているので、核兵器の数を適度に増やすことは中国の国家安全保障上の必要性に合致している」と述べた。
 楊承軍は、核兵器の数という点ではより慎重な見方である。彼は、中国の核戦略は「精強にして効果があるもの」ということだが、「精強とは、核兵器の数と部隊の規模における精強ということ、また、効果があるものとは、核兵器先制不使用の前提のもとで、敵の核による第一撃をしのいだ上でさらに効果的な反撃を行う能力があることをいう」と説明した。彼は次のような極端な仮設を挙げた。すなわち、アメリカが中国に核攻撃を仕掛けた場合、中国の核兵器の数はアメリカよりも少ないが、現有の核兵器による反撃でアメリカを「討ち滅ぼす」ことができればそれで足りる、と。
 楊承軍が特に強調したのは次のことだった。核兵器についていわゆる「効果がある」ということについて大いに語るべきだ。「どういう場合に効果があると言えるだろうか。どれだけの数、いかなる突破能力、いかなるダメージ効果、いかなる命中精度があれば、効果があると言えるのか。その意味するところは非常に含意が多い。」我が国の核政策の核心的内容は、永遠に核大国と数及び規模を競わないということだ。「我が国の核弾頭数は第3位だが、我が生産能力、潜在力にはまったく問題ない」と彼は述べた。
 中国の核兵器の質に関して、宋忠平は、我が国の核兵器の質は米露に及ばない、だから、中国は核兵器の質及び数を強化し、核戦力を適度に高める必要があると考えている。しかし、楊承軍の考えは違った。彼は、我が国の核兵器の質は「まったく問題ない」とし、「我が核兵器の生存能力、核攻撃を耐える能力、突破能力及び速やかに反応する能力はすべて問題ない。もし、いずれかの国が中国に対してあえて核兵器を使用する場合、我々には相手に壊滅的な核報復反撃を行うに十分な自信があり、相手を平らげることができる」と述べた。
 楊承軍は、「中国は人類史上に核戦争が起こることを永遠に望んでいない」、「中国は事を起こさない、しかし、事が起こることを恐れはしない」と述べた。 楊承軍は次のように述べた。中国はかねてから核戦力の建設と開発を重視し、核戦力の数及び規模に関する研究、論証及び計算を緻密に、組織的に行ってきた。その中では、中国の核兵器の数、生存能力、発射成功率、突破能力、爆発確率、服役有効期間、運搬手段、基本火力単位数量規模、生産能力及び潜在的開発力等の多くの要素を総合的に考慮している。中国の核思想、核政策、核戦略並びに核兵器建設目標及び運用原則は非常に明確であり、中国の核兵器の数は核大国よりもはるかに少ないが、極めて効果的であり、国家の核安全保障を守る上で完璧な手段と能力がある。「我々には国を思う将軍、専門家がおり、日夜祖国の核安全保障を担っている。みなさん、心配無用である。」