対ナチズム戦勝75周年:プーチン首脳外交

2020.05.09.

5月8日のロシア・タス通信は、プーチン大統領とドイツのメルケル首相が欧州及び世界のナチズムからの解放75周年を電話で祝ったことを伝えています。クレムリンによれば、「二人は、当時の悲惨な出来事に関する歴史的な記憶を保全することの重要性を強調し、両国がナチズムに対して戦ったドイツの愛国者のことを忘れない」としました。同通信はまた、ドイツ政府のザイベルト報道官が、第二次大戦の記憶を保全することの重要性について両首脳が見解を共有し、両首脳が「数百万人の犠牲者の記憶を大事にし、ナチス・ドイツが引き起こした戦争による計り知れない苦難を記憶する」としたこと、また、両首脳は「戦争及びその恐怖に関する記憶は永久に保全されなければならない」としたことを明らかにしたことも伝えました。
 同日のタス通信によりますと、プーチンは、フランスのマクロン大統領、イギリスのジョンソン首相、イタリアのコンテ首相とも電話で会談し、75周年を祝う言葉を交わしました。また中国外交部WSによりますと、中国の習近平主席からの祝福の電話に答えたプーチンは、「ロシアと中国の人民は第二次大戦の勝利に大きな犠牲を払った。この75周年の歴史的時点に臨んで、ロシアは中国との全面的な戦略パートナーシップを強化し、共同で世界平和を擁護する決意を明らかにし、歴史を書き改め、これを忘れようとするいかなる企みをも許さない」と述べました。
 私は特に、プーチンとメルケルの会話の内容及びプーチンが習近平に述べた発言に感慨を覚えます。会話・発言の中身に特別に新しい内容があるわけではありません。しかし、私の中では、安倍首相の言動の残像が残っているのです。
安倍はもともとモスクワで行われる予定だった75周年行事に参加することにしていました。しかし、新コロナ・ウィルスの来襲で同行事は延期されました。そして、ロシアでは第二次大戦終結日を9月2日から3日に変更する法案が成立し、プーチンは4月24日にこの法案に署名しました。そしてロシアでは、9月3日に延期された記念式典を行う案が提起されています。これに対して安倍は反応し、9月3日の開催ならば出席できないと、ロシア側に伝達したというのです(4月28日朝日新聞デジタル)。
 これは新聞報道ですが、それが事実であるとすると、安倍は日本が第二次大戦に敗北したという歴史的事実を承認することを拒否するのと同義です。朝日の記事は、「ロシア政府が延期した対独戦勝75周年記念式典について、ソ連時代に「対日戦勝記念日」だった9月3日に開催する案が浮上している。北方領土をめぐる主張を正当化する狙いもあるとみられ、日本政府は9月3日の開催なら、安倍晋三首相は出席できないとロシア側に伝達した。政府関係者が明らかにした。」という内容です。しかし、「北方領土」についても、日本はポツダム宣言第8項を受け入れたわけですから、本来何も言える筋ではないのです。「北方領土」に拘るということは、ポツダム宣言を受け入れないというに等しいのです。ポツダム宣言を受け入れないというのは第二次大戦の敗北を承認しないということです。
 第二次大戦の敗北を素直かつ謙虚に認めるメルケルとかたくなに史実を拒否する安倍(もう一ついえば、ドイツにはナチズムに対して戦った愛国者がいたけれども、日本にはそれすらいなかったことも歴史的な事実です)。そういう安倍に対するプーチンの基本認識を示すのが、彼が習近平に述べた言葉です。プーチンの「歴史を書き改め、これを忘れようとするいかなる企みをも許さない」という言葉は、正に安倍・日本に向けられたものでもあります。