中国人権白書:生活向上と各種権利

2020.04.20.

4月14日のコラムで中国の人権概念について「中国人権事業発展70年」白書(国務院新聞弁公室 2019年9月22日)の内容を紹介しました。この白書の人民生活水準の向上と人民権利の向上という各論部分の要旨を紹介しておきます。
中国は「一窮二白」(貧乏で何もない)から出発して今日の世界第二位の経済大国にまで這い上がってきました。その成果は確かにめざましいものがあります。しかし、中国の内陸部(中西部)はなお巨大な貧困問題を抱えていますし、成果と言ってもまだ限られていることは以下の白書の内容から読み取れると思います。
中国が国家全体として途上国の段階を抜け出すためにはなお数十年のたゆまぬ努力が必要でしょう。その間は「安定団結」が至上課題であり、国家の安定を揺るがしかねない人権主張に対しては厳しい対応をとらざるを得ない国情にあることを、「他者感覚」を働かせて理解する必要があると思います。

<人民生活水準の向上>
 中国は世界最大の途上国である。如何に食住問題を解決するか、食住解決の基礎の上でさらに如何に発展させ、人民生活がより幸福になるようにするか、これが一貫して中国共産党のもっとも根本的な執政上の任務である。中国は生存権と発展権を最重要な基本的人権とすることを堅持しており、人民の福祉を発展、増進することを通じて、さらに十分な人権保障を実現することに努めている。
 食料の権利は有効に保障されている。新中国成立当時は多くの人が食糧不足で栄養不良の困難な状況にあった。長年にわたり、中国政府は農村土地制度の改革を通じて農村土地請負制度を安定的に改善し、農地水利施設建設を大々的に推進し、農業総合生産能力を不断に向上させ、主要農産品の生産量を安定的に向上させてきた。中国の食糧総生産は1949年の1億1318万トンから2018年には6億5789万トンに、耕地灌漑面積は1949年の1594万ヘクタールから2018年には6810万ヘクタールに増加した。穀物、肉類、落花生、茶葉、果物等の生産量は長年にわたって世界一である。中国は、全世界の淡水資源の6.6%、耕地面積の9%を以て世界の20%近い人口を養っており、飢餓は根本的に解消し、人民の栄養水準を継続的に改善してきた。
 絶対的貧困は基本的に消滅した。貧困は、中国人民が人権を実現する上での最大の障害である。国家の積貧積弱、人民の貧困如洗は、旧中国が世界に与えた印象だった。新中国成立以来、貧困除去に多大な努力を行ってきた。特に改革開放以来、中国は農村における扶貧開発を中心とする貧困削減を継続的に展開してきた。18回党大会以来、中共中央は貧困人口の脱貧を小康社会全面建設の底線任務及び基本的標識とし、2020年までに農村貧困人口が脱貧を実現し、貧困県をすべてなくし、地域的な全体的貧困を解決する戦略的政策を打ち出した。中国農村貧困人口は、1978年の7.7億人から2018年には1660万人に減少し、農村貧困発生率は1978年の97.5%から2018年の1.7%まで下がってきた。2012年から2018年にかけて、中国では毎年1000万人以上が安定的に脱貧している。中国は世界で減貧人口が最多の国家であり、国連が設定したミレニアム発展目標中の減貧目標を最初に完成した途上国であり、グローバルな減貧貢献率は70%を超えている。
 人民の生活水準は大幅に向上した。1952年当時の中国のGDPはわずか679億元、一人当たりGDPはわずか119元だった。2018年のGDPは90兆309億元、不変価格で計算した場合の対1952年比174倍である。一人当たりGDPは64644元、一人当たり国民総収入は9732米ドルであり、中間所得国家の平均レベルより若干高い。1956年当時の全国住民平均可処分所得はわずか98元、一人当たり消費支出はわずか88元であった。2018年には前者が28228元、対1956年比実質で36.8倍、後者は19853元、対1956年比実質で28.5倍だった。全国住民のエンゲル係数は28.4%であり、対1978年比で-35.5%となった。2018年において、都市住民家庭平均100戸当たりの自動車保有量は41両、農村住民家庭平均では22.3両である。全国住民平均100戸当たりの移動電話保有量は249.1個である。18回党大会以来、農村住民可処分所得の実質伸び率は長年にわたって都市住民のそれより大きく、都市と農村の収入格差は一貫して縮小し、その格差は2018年には2.69まで下がった。
 飲用水の安全は確実に保障されるに至った。2005年から2018年にかけて、農村の5.2億人の住民の飲用水の安全性を解決し、農村の水道普及率は81%に達し、給水サービスを受ける農村人口は9.4億人に達した。また、2018年時点での水道給水を受ける住民家庭の比率は90.0%である。
 人民の基本的居住条件は顕著に改善した。改革開放後、都市住宅制度の改革を行い、住宅の商品化、社会化を推進したことで、住宅保障能力は継続的に上昇し、都市住民の住居条件は大幅に改善した。2018年には、都市住民一人当たりの住宅面積は39.0平方メートル、対1956年比で+33.3平方メートル、5.8倍となった。農村住民の一人当たり平均住宅建築面積は47.3平方メートル、対1978年比で+39.2平方メートル、4.8倍となった。都市及び農村の居住環境の改善も進め、エコ建築、環境に優しい建築、農村における汚水処理、ゴミ収集等の建設も進めている。
 人民の移動はより便利でスピーディになっている。1953年から1977年にかけては、青海-チベット・ハイウェー、武漢長江大橋、首都国際空港、北京-上海間鉄道などが建設された。1990年代以後は交通運輸発展が重要戦略目標と設定された。2018年までに、鉄道営業距離は13.1万キロ、対1949年比で5倍、そのうち、高速鉄道は2.9万キロで、世界の高速鉄道距離の60%以上を占める。全国道路の距離は、2018年で485万キロ、そのうちハイウェーが14.3万キロである。
 国民の健康水準は継続的に向上している。1970年以来、中国政府は公共衛生部門に対する投資を増やしてきた。中国人の平均寿命は、新中国成立時は35歳だったが、2018年には77歳に伸びた。住民の健康水準は高收入国家の平均レベルを超えている。人口1000人当たりの医療施設ベッド数は1949年の0.16床から2018年には6.03床に伸びた。都市及び農村の基本的医療衛生サービス・システムは基本的に完成している。ガン対策も進み、最近10年間で、5年生存率が30.9%から40.5%に改善している。
 生活保護制度は不断に改善している。中国の生活保護は、最低生活保障、特別貧困者対策、被災民救助、医療援助、教育援助、住宅援助、就業援助及び臨時救助を主体とし、社会による参画を補助とする制度システムを構築している。2019年3月現在では、都市住民の最低月額保障は590.6元、農村住民の場合は495.3元である。
 郵便電話通信は全面的にレベル・アップしている。全国のインターネット人口は8.29億人、インターネット普及率は59.6%、移動電話によるインターネット接続は98.6%に上る。2019年6月現在、光ケーブルが4545万キロ、光ケーブル使用戸数は90%超である。移動電話使用者数は15.86億人である。
<人民のさまざまな権利の確実な保障>
 新中国成立70年以来、人民の経済、政治、社会、文化、環境の権利保障水準は不断に向上し、さまざまな人権が全面的に発展している。
 人格権及び尊厳を尊重し、保障している。人格権及び尊厳は人権保障の基本的内容である。憲法は公民の人格権を確認している。19回党大会は、人民の人身権、財産権、人格権を保護することを強調し、人格及び尊厳の保護を明確にした。民法は人民の人身権に関する規定を専門に設けている。戸籍制度の改革を鋭意推進し、戸籍移動政策上の制限を緩和し、都市で安定的に就業する能力を有する常住人口の市民化を段階的に進めている。住宅が侵犯されないこと、通信の自由、情報セキュリティを法律によって厳格に保障している。
 労働者のさまざまな権利を保障している。18回党大会以来、6年連続で都市新規就業者1300万人以上の増加を実現している。都市における登録失業者数は長年にわたり4.1%以下の低い水準にある。労働者の年間休日は115日、有給休暇は5日-15日、労働組合は1952年の20.7万から2018年には273.1万に増加した。労働組合員は1952年の1002.3万人から2018年には2.95億人に増えた。
 人口カバー世界最多の社会保障制度を実現している。2019年3月現在、基本養老保険加入者数は94118万人、労働災害保険加入者数は23894万人、失業保険加入者数は19697万人、出産保険加入者数は2億人以上、労働者基本医療保険、都市住民基本医療保険を含む基本医療保険加入者数は13億人以上であり、全民医療保険が基本的に実現している。2005年以後、連続15年間企業退職者の基本養老金水準が上昇している。
 教育普及水準は向上している。新中国成立初期には教育レベルは低く、全国の80%が文盲だったが、1982年には22.8%まで下がった。2018年には、小学校入学率は99.95%、9年義務教育定着率は94.2%である。2018年現在の高校在学生は3934.7万人。高等教育も普及化段階であり、2018年の大学生募集数は791万人、在学生総数は3833万人である。
 人民は真の民主的権利を取得している。中国憲法は、国家の一切の権力は人民に属すると定める。人民の当家作主は社会主義民主政治の本質であり、核心である。人民の国家権力の行使機関は全国人民代表大会と地方各レベルの人民代表大会である。選挙は、普遍、平等、直接の選挙と間接選挙との組み合わせ及び複数立候補選挙の原則を堅持し、満18歳以上の中国公民が選挙権及び被選挙権を有する。国情及び現実的かつ継続的な選挙制度改善に基づき、都市及び農村において、人口比率に基づいて人民代表大会代表を選挙することを段階的に実現し、同時に、各地域、各民族及び各方面が適正数の代表を持つようにしている。2016年に開始された県及び郷レベルの人民代表大会代表選挙においては、10億人以上の選挙人が登録し、250万人の県及び郷の人民代表大会代表を直接選挙で選出した。都市及び農村の基層民主は段階的に発展しており、市町村(城郷村)住民自治を核心とし、民主選挙、民主協商、民主的意思決定(民主决策)、民主管理、民主監督を主要な内容とする民衆自治制度が基本的に建設され、不断に改善されている。
 人民の知る権利(知情権)、参加権(参与権)、意志表示権(表達権)、監督権を確実に保障している。2018年までに、国家立法機関は全部で172県の法律草案について公開で社会の意見を聴取し、1.5億人以上から510万以上の意見を受領した。法律に基づいて政策を決定するメカニズムを健全化し、公衆参与、専門家論証、リスク評価、合法性審査、集団による討論決定を重要な行政政策決定の法定手続きとし、政策決定の科学化、民主化、法治化のレベルを向上している。協商民主の広範かつ多層な制度化の発展を推進し、協商内容、協商手続きを規範化し、協商民主の形式を開拓し、協商の密度を増加し、協商の効果を高め、経済社会発展の全局にかかわり、人々の身近な利益にかかわる実際的問題を内容とする広範な協商を繰り広げている。健全な投書・請願(信訪)制度を建設している。民意表明チャンネルを闊達にし、大衆監督方式を革新し、簡便かつ効果的なネットによる意思表明プラットフォームを建設し、公民がネット上で積極的に政策提言を行い、意思を表明し、社会の管理に秩序的に参与するようにしている。矛盾及び紛争を多元的に解消するメカニズムを改善し、大衆がタイミング良く、その場で問題を解決できるようにしている。
 宗教及び信仰の自由を法律に基づいて保障している。中国における、仏教、道教、イスラム教、カソリック、及びプロテスタント等の信者数は2億人近く、宗教職人員は38万人以上、登記済の宗教活動場所は14.4万カ所、宗教観系学校は92カ所である。
 環境権の保障はますます強化されている。18回党大会以来、中国は生態文明を「5元1体」(=経済建設、政治建設、文化建設、社会建設、生態文明建設)の総体的配置に組み入れた。2018年には、天然ガス、水力発電、原子力発電、風力発電、太陽エネルギー発電等のクリーン・エネルギーの総消費量はエネルギー消費量の22.1%であり、対1978年比で+15.5%である。2018年には、全国338地点におけるPM10平均濃度は2013年から42%低下し、二酸化硫黄濃度は68%低下した。