「クラスター対策班西浦教授試算公表」の欺瞞性

2020.04.16.

4月15日に、厚生労働省クラスター対策班の西浦博・北海道大学教授(理論疫学)は、「人と人との接触を減らすなどの対策をまったくとらない場合、国内で約85万人が重篤になるとの試算を公表しました。うち約42万人が死亡する恐れがあるといいます」(16日付けしんぶん『赤旗』)。この記事はマス・メディアが一斉に取り上げるところとなりました。
しかし、この発表がいわんとするのは、感染者が増えるか否かは私たちが政府の「要請」(「接触8割減」)に応えるかどうかにかかっていることを強調することにあります。8割減を実現すれば感染者数増を止めることができ、医療機関は現有能力で対処できる、というわけです。
 しかし、この発表が暗黙の前提としているのは、発生したクラスターに重点的に対応するという、もはや破綻していることが明らかな、現在の「対処方針」を維持することです。つまり、潜在的感染者、私のいう「一匹狼」(本庶佑京都大学名誉教授は、テレビ朝日の今朝の番組で「忍者」と表現)を野放しにする現在の無責任な方針を維持する、ということが前提なのです。これでは、いつまで経っても根治につながるわけがありません。私は上記西浦発言をテレビでたまたま見て、本当に吐き気を催しました。御用学者には我慢ならないからです。
 他方、上記の本庶佑博士の発言とか、今日(16日)の朝日新聞(24面)が掲載した「日本 PCR検査少ないのは」特集記事とか、日本政府の対策の最大の問題はPCR検査対象を押さえ込んでいることにあるという指摘が見られるようになりました。朝日新聞は、人口1千人当たりのPCR検査数として、アイスランド105.は別格としても、イタリア18.2、ドイツ16.0、韓国10.2、アメリカ8.9、イギリス4.5に対して、日本はわずか0.7という超低水準であることを示しています。
私は、こうした正論、と言うより国際的常識が日本的常識にならない限り、安倍政権の犯罪的行動を変えさせることはできないと思います。考えたくもないですが、安倍政権の政策を徹底的に批判する流れが生まれないと、欧米諸国が感染のピークを脱した後になってから、先進国の中で日本だけが、アフリカ、中東、インドなどとともに感染者の激増に見舞われるという悲劇的状況が現出する可能性は極めて高いといわなければならないでしょう。新コロナ・ウィルスが日本だけを特別扱いするはずはありません。
 ちなみに、昨日(4月15日)のイラン大統領府WSは、新コロナ・ウィルスに対する闘いにおいてイラン政府が講じてきた5つの対策に関するロウハニ大統領の閣議における発言を掲載しています。その第一の対策として大統領が挙げたのは、「社会への広がりを防止することを目的とした、感染者の特定と社会からの隔離そして治療」でした。4月13日のコラムで紹介した中韓両国のアプローチ、すなわち早期発見、早期隔離、早期治療の「三つの早期」をイランも実行しているということです。
日本では、感染者、特に軽症者・無症状者の収容先で大騒ぎしています。軽いものは自宅待機ということがおおっぴらに語られています。しかし中国は、自らの失敗(自宅待機は家族への感染を必然にし、感染者数を増やすだけ)に鑑み、軽症者なども徹底隔離するべきだと強調します。イランも、野戦病院まがいの臨時施設をたくさん作って収容しています。そういう地道な努力の結果、イランはピークを乗り越えつつあるのです。
上記朝日新聞がジョンス・ホプキンス大学の集計に基づいて紹介しています。15日6時現在のイランの感染者数は74,877人、死者数は4,683人です。感染者数では、アメリカ、スペイン、イタリア、ドイツ、イギリス、中国に次いで8番目に多いですが、増加数は減りつつあります。また死者数では、中国3,346人、ドイツ3,495人に次いで低い水準です。しかも、この数日間では死者数が二桁まで下がってきているのです。
 また、世界の国々の取り組みに関する報道を見ても、日本のようなとんでもない取り組みを行っている国はほかにありません。例えば、貧民窟を都市周辺に数多く抱えるインドは、蔓延の危険性がもっとも高い貧民窟住民を対象とした検査に乗り出したという報道がありました(15日)。ロシアも感染者が急増していますが、昨日(15日)のタス電は、ロシアの検査対象者が150万人を超えた(世界第2位)としています。中国や韓国に支援・援助を求める国々も検査キットを要請するものが多いです。とにかく一匹狼(忍者)をあぶり出し、隔離しないことには今回の危機を乗り越えられない、という点で国際的なコンセンサスがあるのです。
 本庶佑博士のように正確に問題を捉えている学者は日本にもいるはずです。しかし、政府にとって都合の良いことを言うものだけが「召し抱えられ」、政府に耳障りなことを直言するものは遠ざけられるという、いまの腐敗しきった安倍政権では、国際的に如何に軽蔑されてもまったくお構いなしという、私たちを馬鹿にしきった、と言うより、国民の生命・安全を完全に無視する、許されてはならない政治が行われているのです。冒頭の西浦博教授「予測発言」はその最たるものと言わなければなりません。原子力行政で御用学者が日本を誤らせていますが、今回の新コロナ・ウィルス対策においても同じことが繰り返されています。「いい加減に目を覚まそう、そして怒ろう、我が親愛なる日本人同胞よ!」