新コロナ・ウィルスが露わにした国際社会の二大病根

2020.04.11.

4月9日付けの環球時報は、何偉文署名文章「自由市場経済が露わにした巨大な脆弱性」を掲載しています。また、同日付の中国網は、戚易斌署名文章「途上国の欠陥補填 人類の疫病との闘いにかかわる大仕事」を掲載しています。
何偉文は中国国際貿易学会専門家委員会首席専門家という人物です。私は経済の素人ですが、新自由主義市場経済が内包する致命的脆弱性に関する何偉文の指摘は、我が意を得たりの思いです。
また、戚易斌は中国網評論員です。彼の文章は、世界総人口の1/3を占めるアフリカとインドは医療水準の立ち後れ及び貧民窟の密集という二つの原因で新コロナ・ウィルスの大流行が懸念されることを指摘し、世界挙げての取り組みが求められていることを指摘しています。私も、この問題意識を深く共有します。
両文章を紹介するゆえんです。

<何偉文署名文章>
 アメリカはすでに新コロナ・ウィルスの重災(重度災難)地域となっている。ゼロ金利政策、救済のための巨額の財政支出もアメリカ経済の評価するところとはなっていない。3月後半の新規失業救済申請者数は1000万人近くに上っている。GDPはマイナス24%と予想され、1930年代の大恐慌水準に近づいている。
 アメリカは1980年代以後、サッチャー・レーガンの新自由主義経済モデルを推進し、政府の関与という目に見える手段を引っ込め、市場という眼に見えない手段にすべてを委ねた。現在、この自由市場経済は巨大な脆弱性を暴露している。
 第一、自由市場経済モデルは公共財の供給不足を作り出すが、クライシスとなるとその不足はますます明らかとなる。企業の行動は資本によって動かされるために、利益の薄いマスク、防護服、呼吸器は作らない。過去10年におけるイギリスの公共衛生支出は年率で1.4%しか伸びておらず、主要な衛生サービスは市場に委ねている。コロナが爆発して以来、米英仏等は例外なしに準戦時体制をとり、企業に医療物資の生産を命じている。スペインは全国の医療システムを国有化した。フランス財務相は、必要なときは基幹産業を国有化すると宣言している。
 第二、自由市場経済の利潤追求の本質は金融バブルを生み出すが、企業には十分な抵抗力がない。2008年の金融危機以来、アメリカのダウ指数は577%上昇し、GDPも累計で45%伸びたが、工業生産指数は2007年の水準を下回っている。なぜならば、実体経済の利潤は仮想経済に及ばないからだ。しかも、株式市場の繁栄は債券市場の繁栄によって支えられ、債券市場は借り入れに頼る債務経済で支えられている。したがって、いったんストップすると、債務チェーンが断ち切られ、直ちに大規模な失業及び企業倒産を引き起こす。如何に強大な企業といえども単独では耐えられないし、ましてや多数を占める中小企業はそうであり、簡単に連鎖倒産してしまう。
 第三、自由市場経済では資本主導の原則によって貧富の格差は拡大するばかりである。多数を占める中低所得者層がいったん失業すれば、消費力はたちどころに低下するし、社会的救済の負担も非常に大きくなる。アメリカ政府は万やむを得ず再び見える手を持ち出すほかなかったが、支払ったコストは巨額に上っている。
 アメリカ自由市場経済の今回の事態は歴史的教訓の再演に過ぎない。1920年代のアメリカ自由市場経済モデルは輝かしいものだった。1920年から1929年までの工業生産の累計成長率は52%だったが、工業における就業率はそれほど増加せず、労働者の時間当たり賃金は2%しか上がらなかった。その期間における農業は減収であり、農民の平均収入は非農業労働者の平均収入よりも30%も低かった。その結果、貧富の格差は急速に拡大した。人々の支払い能力を伴う消費需要と巨大な生産能力との間の矛盾は尖鋭となった。その結果、クレジット・セールが生まれ、消費者は前借りして食いつなぐこととなり、クレジットがこの穴を埋めることで表面的繁栄を生み出した。1929年になって消費者ローンの返済不能が起こり、銀行の倒産につながって株式市場に恐慌が起こった。 その結果、企業の減産と労働者解雇の大波が起こり、経済危機を触発することとなった。これは本質において、自由放任の資本運用の下における生産過剰危機であった。ところが、フーバー政権は相変わらず見えない手を信じ、財政支援に乗り出さなかったので、経済は数年に及ぶ不景気に見舞われることとなった。
 1933年、ルーズベルトは大統領に当選すると直ちに見える手を差し伸べてニュー・ディールを実行した。政府の投資による公共工事を起こして労働者を雇用吸収した。農業に対しては信用貸し付けと価格補助を提供し、農製品の信用貸し付け公社を設立した。また、住宅貸し付け公社を設立し、低所得者に対する住宅を保障した。さらに国家による買い付けで生産回復を支援した、等々。政府の関与によってアメリカ経済はやっとのことで大不況を脱することができた。
 今世紀初頭、小ブッシュ政権は大恐慌の教訓を忘れ、自由市場経済を実施し、金融コントロールを緩めたため、利益追求型の金融デリバティヴ・チェーンが拡張し、グローバルな金融危機を引き起こした。これにより、再び自由市場経済の重大な危機が引き起こされた。結果として、小ブッシュ政権及びオバマ政権は政府資源を動員せざるを得ず、多国籍企業やシティに大量の資金を注入し、ジェネラル・モーターズに資本参加して破産を防いだ。両政権は見える手で企業を救い、経済を回復させた。
 このように深刻な教訓を重ねたにもかかわらず、アメリカ政府は相変わらず古いやり方を改めようとはしていない。金融危機を乗り切ると、ホーマック国務副長官は再びアメリカ自由市場経済を賞賛しはじめ、「中国の国家資本主義は世界経済に対する深刻な挑戦である」と批判した。温故知新というが、今回の新コロナ・ウィルスと深刻な衰退が過ぎ去った後、アメリカ政府は再び自由市場経済に戻っていくだろう。
 実際には、ルーズベルトのニュー・ディール以後、厳格な意味における自由市場経済はもはや存在しない。サッチャー・レーガンの新自由主義市場経済は極めて欺瞞的である。それは1870年代以前の自由資本主義経済ではなく、計画経済と市場経済との複雑な混合型である。見える手は存在するだけにとどまらず、現在のアメリカにおいて極めて顕在的である。政府による関与は主に、国内では企業に対する補助、対外的には保護主義と計画経済を行っている。アメリカとメキシコの貿易協定では、米墨加三国間の乗用車貿易に関して、40-45%の生産は時給16ドル以上の労働者すなわちアメリカ人労働者によらなければならないと規定している。アメリカは中国に対して、2年以内に、2000億ドルの農産品、完成品、エネルギー及びサービス製品の輸入増加並びに年毎・大品目毎の具体的金額を定めることを要求している。これらは明らかに計画経済であり、自由市場経済とはまったく相容れないものだ。
 閑話休題。新コロナ・ウィルスが明らかにしたのは、自由市場経済は大規模な公共的災難及び大規模な経済衰退という二つのリスクに対応できないということであり、しかもこの二つのリスクは長期にわたって存在し続けるということだ。実践によって明らかになったのは、各国の経済システムの適応能力が問われているということであり、各国政府は責任を持ってこの挑戦に向き合い、解決することが迫られているということである。資本の利益を守るために明らかに問題がある自由市場経済を堅持するというのであれば、「レーガン経済の父」であるストックマンの予言が現実のものとなる可能性がある。すなわち、現在を出発点として、今後10年は「激動の20年代」となり、事態はますます深刻となり、最終的に、深刻な経済及び社会危機が現出するであろう。
<戚易斌文章>
 アフリカ疾病防止センターが7日公表したところによると、アフリカ54カ国中、新コロナ・ウィルス感染者が現れていないのはコモロとレソトの2カ国のみであり、大陸全体の感染者数はすでに1万人を超えた。インドにおける感染者はこの10日間で10倍である。さらに警戒が必要なことは、この疫病が貧民窟に急速に蔓延しつつあることである。
 アフリカとインドは世界人口の1/3を占める。アフリカは世界の疾病の24%以上を負担するが、衛生工作人員は世界の3%、財政資源に至っては1%未満である。インドの場合、公共衛生投資はGDPのわずか1.3%であり、世界最低の国家の一つだ。新コロナ・ウィルスが両地で大規模に爆発した場合、医療、疾病対策システム、公共衛生資源は極限的な圧力に直面し、世界における新たな「震源地」となり、人道上の大災難を引き起こす可能性が極めて高い。
 インドとアフリカ諸国はさまざまな対策を講じているが、その先行きに対しては楽観を許さないものがある。その原因の一つは、貧困者が多く、新コロナ・ウィルスが乗じるチャンスが大きいことだ。しかも、両地の都市周辺には大量の貧民窟が存在する。これらの地域では、人の流れが密であり、衛生条件は立ち後れ、人々の意識も高くない。医療資源が乏しい状況下で、貧民窟はいわば乾燥した火薬庫みたいなものであり、わずかなウィルスが入り込むだけでたちまち大引火が発生するだろう。
 しかも、経済的に貧しいため、都市封鎖、夜間外出禁止、空港閉鎖、生産停止などの措置を取った場合、国家財政、経済成長にマイナスの影響が出る。経済問題は往々にして失業問題を引き起こす。南アフリカ中央銀行は、同国で37万人の就業機会が奪われると予測している。その結果、難民問題及び食糧危機が加速するだろう。
 疫病のグローバルな蔓延を押さえ込むことができるかどうかは、対策に成功している国や医療条件が傑出している国によって決まるのではなく、対策に成功していない国及び医療条件が劣る国によって決まる。人類が新コロナ・ウィルスに勝利するか否かは、衛生資源が不足し、医療施設及び医療サービスが手薄な国家の抗疫能力如何にかかっている。これらの国々がウィルスにまといつかれるならば、世界の平和はまずない。
 危機を前にして、途上国の自救行動は欠かせないが、国際社会が手を差し伸べることも急を要する。(中国の行動を述べた後)今回のグローバルなウィルス阻止撃退の戦いは人類運命共同体にとってもっともカギとなる、そして最良の時でもある。UNDPは国際的に5億ドルの基金を募集することを明らかにし、アフリカ諸国を含む100カ国の途上国の対策に投入し、疫病収束後はこれらの国々の社会経済発展に充てることを発表した。世界銀行は、エチオピア、ケニア、コンゴ(ブラザビル)等の途上国に対する、総額19億ドルの新コロナ・ウィルス対策用の緊急援助項目を批准した。アフリカ開発銀行も疫病対策に200万ドルを送ることを表明している。
 指摘しなければならないことは、アフリカ及びインドの医療衛生条件が劣っているのは遅れた経済力によるものであり、その遅れの根本原因はかつての苦難に満ちた歴史と分かちがたく結びついているということだ。途上国、なかんずくグローバルな公共衛生安全にとっての「アキレス腱」であるアフリカの途上国に対しては、国際社会はさらに団結し、智慧と勇気を持って歴史的責任を担い、時代の命題に回答を出さなければならない。