習近平武漢視察(環球時報社説)

2020.03.11.

中国の習近平主席は3月10日に新コロナ・ウィルスの発源地(?)であり、中国で患者数・死亡者数でも圧倒的な湖北省武漢市を視察し、その後会議を開催してスピーチを行いました。湖北及び武漢の情勢はいい方向に変化しはじめたとし、局面の安定及び転換という目標を実現したと述べるとともに、勝利を収める重点は「防」にありとし、カギである現在これを堅持していくと指摘しました。また報道は、「民生が安定すれば人心も安定し、社会も安定する」と強調し、湖北、武漢等の状況が深刻な地域では、人々がかくも長期にわたって隔離が続いてきたことによって「情緒的にたまったものがあることを理解し、寛容に包み込む必要がある」として、社会的弱者を中心にしたきめ細かい施策を行うように指示する、習近平の温かい肉声(?)も紹介しました。習近平はさらに、短期的には湖北省の経済及び社会に陣痛がもたらされたが、長期的にはよい方向に向かうことには変化はないとし、疫病に対する防止とコントロールを強化する前提のもと、これからは差別化政策をとることにより、条件が生まれたところから経済活動を回復していくという方針を示しました。また今回の事態はガヴァナンスのシステム及び能力に対する一大テストだったが、経験と教訓を得たと総括し、中国共産党は内憂外患の中で生まれ、試練困難挫折の中で成長してきた党であり、困難に打ち勝ち、克服する中で大きくなってきたとして、今回も合格答案を出すと締めくくりました。
 湖北省以外では新たな患者がほとんど発生しなくなり、湖北省でも武漢市以外では発生数を押さえ込んだ段階で習近平自らが武漢市を訪れたことは、中国指導部が事態掌握に自信を持ったことを示すものであることは明らかです。また、習近平自身が武漢市を訪問することによって、中国社会に対する最大の安心材料を提供することを意図したと思われます。
 環球時報は10日付けで「中国の体制、リスク対処の中で力を強める」、11日付けで「経済活動、春のこの時期に全面再開」と題する社説を発表しました。10日付け社説は、今回の一大試練を乗り切ることを通じて中国の体制の力量が力強く発揮され、この荒波の中でも14億人が乗る船を安全に守ったとして、このリスクを乗り切ることで体制はさらに力強くなったと評価します。ただし、手放しの自己評価ではありません。そのことは、「中国は完全無欠の国家ではない。しかし、我々の過ちを正す能力は前進を保障する補修材だ」、「我々は過ちを犯す可能性があるが、そのたびに道を正すことができるというのはこの国家が力を合わせて事に当たる結果である」と指摘していることにも見られます。また同社説は、「生命はもっとも尊い、だから我々は対策に最大限の力を投じた。また、損失はできる限り最小にしたい。だから、経済活動再開に力を尽くす。国際市場がどんなに動揺しようとも、また、中国にどれほどの影響が及ぼうとも、中国としてはこれまでどおりの戦略及び計画を実現するべく歩んでいく」として、中国の路線はこれまでどおりであることを確認しました。
 11日付け社説は、情勢が落ち着いてきたことを確認するとともに、そのことによって「政府が情勢をコントロールし、民衆の利益を脅かす脅威を取り除く能力に、人々は信頼を強めている。武漢の初動での過ち、国家が出動してから迅速に事態をばん回したこと、そして諸外国がコロナの渦中に陥っていること、この三つの事実は中国の国家としての能力に対する人々の認識を改めさせている。総じていえば、中国人の集団的確信が強まっている。人々が見たことは、武漢が犯した過ちは諸外国も同じように犯す。しかし、中国がやってのけたことを諸外国はこれまでできていないということだ」と述べて、中国全体の自信回復の所在を表しています(この点について社説は、「中国一般民衆は大騒ぎすることが好きだが、真実についての理解に影響することはない。中国世論は今回の事態の変化に伴って変化してきた」とも紹介しています)。その上で社説は、今後の課題は経済活動を回復し、軌道に乗せることだと指摘し、4点にわたる提案を行っています。第一、流動人口(農民工など)の移動を妨げている14日間の隔離規定を速やかに取り消しまたは緩和すること。第二、実情に応じて全面封鎖の管理を終結させること(浅井注:湖北省のホンダ工場も再開決定が出ました)。第三、新コロナ・ウィルス対策措置の簡易化及び迅速化。第四、サービス業現場の活性化と消費刺激。
 以上、2つの社説のさわりを紹介しました。習近平の武漢訪問と合わせると、中国が今回の全土を巻き込んだ「激震」から立ち直り、自信を回復している様子が手に取るように分かります。世界各国で事態が深刻を増す中、「震源地」の中国がいち早く立ち直りつつあることは数少ない明るい材料です。
 もう一つ、私は1月以来の中国の取り組みについて毎朝ネット検索を通じて観察してきました。ひるがえって日本の有様を見ると、安倍政権の対応は後手続きで、事態収束の展望はおろか、「一寸先も闇」の状態です。一言で表すならば、「不言実行」の習近平政権、「有言不実行」の安倍政権です。何もできないくせに「緊急事態宣言」で国民を縛ることだけに執心の安倍首相には、「○○につける薬はなし」というほかありません。