新型コロナ・ウィルス問題を考える

2020.02.24.

昨年12月31日に中国当局は原因不明の肺炎の発生をWHOに通報、本年1月7日に新型ウィルスによるものであることが確認されました。1月26日に武漢市長は、春節(旧正月)または新型肺炎を理由として同市を離れた市民が500万人以上、同日時点の同市滞在者数が900万人と発表しました。武漢市人口は1100万人なので、この時点での他地域から同市への訪問者数は300万人だったことになります(春節明けには再び他地域に戻る)。私は、この発表を聞いたとき、中国全土及び(武漢からの海外旅行者による)世界各地での新型肺炎流行は避けられないと直感し、その後の事態はそうなってしまいました。
 中国の初動は確かに遅れましたが、その後の国を挙げての湖北省及び武漢市に対する果断な取り組み(省・市の全面封鎖、全国各地から4万名以上の医療関係者を武漢に救援派遣、2専門病院急ピッチ建設と10カ所以上の臨時収容施設設営、省・市のトップ交代人事等)及び他省における対策措置徹底により、他の省での流行にはすでに歯止めがかかり、各省で新型肺炎対策と同時に経済活動再開への本格的取り組みが段階的に開始されつつあるようです。日本におけるメディア報道は、「中国あら探し」の本性に基づき、ここぞとばかり批判してきましたが、中国の取り組みは、日本をはじめとする諸国の後手に回る対応と比較しても、高く評価されてしかるべきです。現実にWHO事務局長は中国の取り組みは世界に例を見ないものと絶賛しています(アメリカの有力メディアの中には、WHOは中国の拠出金額が多いので批判ができないなどとケチをつけているものもありますが、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」の好例でしょう)。
 他方、日本、韓国、イラン、イタリアを筆頭に、世界各地に新型肺炎が広まる勢いを示しており、情勢は予断を許しません。2月24日の中国・人民日報系列の環球時報社説は日本等の対応の遅さに懸念を表明し、①新型コロナ・ウィルスの伝染力が極めて強いことへの警戒感不足、②中国のような強力な措置を短期間に集中的に取ることが体制的に困難なこと(中国は社会主義だからこそできた)、③経済活動への影響を恐れて対策が後手に回る可能性が高いこと等を挙げました。
 環球時報社説は日本における問題点を客観的に鋭く指摘したものと言わなければなりません。安倍政権の伝染力の強さに対する認識・警戒不足は、ダイヤモンド・プリンセスに船客・乗員全員を速やかに下船させ、収容すべきだったのに、受け入れ施設がないという本音の理由を押し隠し、全員を船の中に封じ込め、感染者をいたずらに急増させたことに端的に示されています。安倍政権が果断かつ強力な措置がとれないことは、感染者急増の神奈川、北海道等における病棟不足懸念が早くも指摘されているのに、何の具体措置も示し得ないという一例で直ちに明らかです。経済活動への影響を恐れて対応が後手に回る点については、ただでさえ景気後退が明らかな中で、「経済を売りにする」安倍政権が人命優先に舵を切ることも期待薄と言わなければならないでしょう。厚労省は「発熱がある人は仕事を休むように」と呼びかけていますが、会社、上司に気兼ねし、熱があるのに仕事を休めない人が多いという実情にすら手をこまねいている政権の優柔不断が目立つばかりです。
 ちなみに、中国で最大人口を抱えるのは約8300万人の四川省ですが、2月24日0時時点での患者確定数は527例、23日だけでは1例にとどまるそうです。明らかにストップがかかっていることを示しています。これに対して人口約1億3000万弱の日本の国内感染者数は838人ですが、23日だけで新たに12人増えました(24日0時現在 NHK調べ)。中日いずれの取り組みが優れているかは一目瞭然です。この非常時を前にして中国を嘲る悪習慣はいい加減にやめ、日本は、メディアも国民も「中国から学ぶべきは学ぶ」姿勢を身につけるときだと思います。
 環球時報社説は、自国の経験を踏まえ、諸外国に参考を提供しようとする意図に出るもので「上から目線」のものではありません。一読の価値がありますので以下に紹介します。

<環球時報社説「対応行動が遅い国々に懸念する」>
 現在、中国以外でもっとも深刻な国々は日本、韓国、イラン及びイタリアであり、その人口規模はおおむね中国の一つの省に相当し、日本だけがやや多いぐらいだ。これらの国々における流行状況を湖北省以外の省・自治区と比較するとき、軽微だとは言えない。これらの国々も一定の措置を取り始めているが、中国の中等レベルの省が取った措置のレベルにも達していない。心配なのは、これらの国々のいまの措置では足りないのではないかということだ。中国の状況が示したことは、新型コロナ・ウィルスの伝染力は極めて強く、公共スペースへの伝播が極めて簡単だということだ。
 武漢では、新型コロナ・ウィルスの深刻性に対する認識から事態が手につけられなくなり、湖北省・武漢市の医療システムをお手上げにさせるまでに数週間しかからなかった。不幸中の幸いは、中国の医療システムの全体規模が巨大であったことである。全国は急ピッチで数百の医療チームを動員し、総員で4万人以上の医療看護関係者を武漢及び湖北に派遣し、武漢だけで2カ所の専門病院を急ピッチで建設し、10カ所以上の臨時の施設を開設した。世界のどこかで第二の武漢が発生する事態が現れた場合、以上のような大規模な支援体制を組むことができるとは考えにくく、となると事態は恐ろしいものになるだろう。
 また、国によってはまだ新型コロナ・ウィルスに対する監察態勢が整っておらず、新型コロナ・ウィルス患者をインフルエンザ扱いしている国がある可能性も排除できない。アメリカでは流感患者及びその死亡例が特に多いが、新型コロナ・ウィルスの診断手段に問題があるとも指摘されており、アメリカにおける新型コロナ・ウィルス患者数は極めて少数とされているだが、この数字は正確かという疑問が多くから提起されている(朝日テレビの報道を紹介)。
 各国が武漢の二の足を踏まないことを希望する。新型コロナ・ウィルスは発症する前に一定期間の潜伏期があり、これが極めて面倒だ。状況がすでに深刻な国々は、もっと果断な措置を取り、ウィルスが知らない間に伝播する可能性を遮断する必要がある。要すれば、「ウィルスの前に立つことでイニシアティヴを握ることができるが、ウィルスの後を追っかける事態になると受け身に追い込まれるばかりだ」ということだ。
 各国が経済社会発展の正常局面を重視するあまり、潜在的な大規模流行のリスクのために手をこまねくことは非常に理解できる。しかし、中国における新型コロナ・ウィルスの破壊力は我々の想像力をはるかに超えていたのであり、一定の予防的犠牲を払ってその拡散を防がないと、結果的に払うことになるコストは数倍にもなるだろう。
 中国の状態もまだ決定的に好転したわけではないが、もっとも困難な時期は越え、湖北省以外では防疫と経済とを同時的にやる局面がすでにできつつある。中国は殷鑑を提供し、防疫のための貴重な経験も提供したのであり、世界各国の参考に値すると思う。