イラン・アメリカ関係(ザリーフ外相発言)

2020.01.28.

イランのIRNA通信は、イランのザリーフ外相がドイツのシュピーゲル誌によるインタビューに応じて行った発言の記事を掲載しました。私は常々ザリーフ外相は世界にあまたいる外相の中でも傑出していると評価していますが、今回の発言内容で改めて彼の明晰かつバランスのとれた発言に感銘を受けました。またザリーフは、シュピーゲル側のどぎつい質問に対しても冷静な受け答えをしています。私たちはとかく、中国、朝鮮となると、あら探しばかりする癖があります(いい点は素通りする)が、欧州側のイランに対する基本姿勢も同じようなものだと感じます。
もう一つ私が特に印象深かったのは、イランは千年の歴史を持っているから(対米決着を)急がないと、ザリーフが述べたことです。こういう発言は中国人からよく出てくるものです。古い文明の歴史を有するイランは、やはり中国と同じような発想になるのだなと感じ入りました。改めて思わされるのは、歴史の古さという点では日本も負けていないはずなのに、日本人にはこういう悠揚迫らぬ発想はおよそ出てこず、都合の悪いことはひた隠しにし、目先の利益しか追求しないのはなぜかということです。やはり日本人の歴史認識には根本的な問題が潜んでいるということでしょう。丸山眞男のいう歴史意識における執拗低音(「いま」がすべて)の働きに他なりません。
それはともかく、第一級の読み応えがあるインタビューなので、大要を訳出して紹介します。

(問)今回ほどの危機的状況が過去にあったか。
(答)過去40年間、何度も戦争間際ということはあった。しかし、今回はとりわけ深刻だった。米政府はイラン政府の官吏に対してテロ作戦を行った。こんなことはいままで起こったことがない。
(問)さらなるエスカレーションは間近か。
(答)攻撃は誤った判断に基づいて行われた。アメリカはソレイマニ司令官を暗殺することによってこの地域における地位を改善できると信じていた。しかしこの攻撃はこの地域に非常に難しい契機を作り出した。アメリカがこのことで利益を得ることはあり得ない。
(問)イラン指導部はソレイマニ殺害に対する復讐をすると誓った。すでにイラクの基地に対するミサイル攻撃が行われた。さらなる攻撃を行う可能性はあるか。
(答)アメリカが作戦を行ったイラクの基地に対する攻撃はイランの公式な軍事対応だ。ミサイル攻撃で損害を与えるという意図はなく、我々は(米側攻撃に)比例する形での自衛権を行使した。しかし、本当の答はアメリカの行動に断固とした嫌悪感を示したこの地域の人民から来るだろう。アメリカ人は、殉教者ソレイマニはソレイマニ司令官よりすごいことを知ることになるだろう。
(問)アメリカの強硬派は今回のイランの穏健な反応をイランの弱さの表れと見なす可能性はあるか。
(答)イランがアメリカに与えた損害は広範囲なものだ。なぜならば、アメリカの軍事力をもってしても米軍基地に対するイランのミサイル攻撃を防げなかったからだ。このことはアメリカがいかに脆弱であるかを示している。しかし、アメリカはこの地域の人々の憎しみを自分で作り出してしまうという本当の損害を招いてしまった。ソレイマニ暗殺はアメリカのプレゼンスの終わりの始まりである。イラクではもちろんだが、この地域のどこにおいてもそうだ。それは明日ではないかもしれないが、我々には千年の歴史があり、急いでいるわけではない。
(問)緊張のさなかに、アメリカのイランにおける利益代表部であるスイスを通じて、あなたはアメリカと意思疎通を行った。これはどういうことだったのか。
(答)ポンペイオ国務長官はいい外交官ではない。彼のメッセージは挑発的、侮辱的かつ恐喝的だった。私にはエスカレーションを止めようとするものには読めなかった。我々は報復攻撃後にスイスを通じて適切な反応を送ったが、それは大げさでもなかったし、胸をぐさりという類いのものでもなかった。我々がアメリカに言ったのは、行動は終わったこと、アメリカがさらなる行動をとらないのであれば、我々もこれ以上の行動はとらないということ、そして他人の行動(浅井注:レバノンのヒズボラ、イラクのシーア派民兵等)についてイランは責任を負わないということだ。
(問)ソレイマニの死は、イラン及びイランの地域政策にいかなる意味を持つのか。
(答)ソレイマニ司令官は非常に重要な人物だった。彼の死はイランそして私個人にとって取り返しのつかない損失だ。私は親しい友人を失った。しかし、彼の死がイランのこの地域における政策に影響を与えることはない。
(問)ソレイマニは、この地域の同盟者に軍事的支持を提供することを通じて地域に対する影響力を行使するというイランの戦略の設計者だった。アメリカは、ソレイマニがイラクにおける数百人の米兵の死について責任があると非難している。
(答)米欧及び国際社会全体が、ソレイマニによるイスラム国(ISIS)に対する勝利に借りを負っている。アメリカにはこの地域の実情は理解不能である。彼らは常に代理人について語るが、イランはいかなる代理人も持ってはいない。代理人がソレイマニの死を悼むために数百万人もの人々を街頭に繰り出させることはできっこない。
(問)しかし、イランの影響についても人気はない。この地域でますます困難に直面しているのは、アメリカだけではなく、イランもそうだ。イラクでは反イランのスローガンが現れたし、レバノンでは、イランの同盟者であるヘズボラに反対する抗議活動が行われている。
(答)イラク及びレバノンでは政府の腐敗及び問題に対する抗議があり、反イランのスローガンもあった。しかし、ソレイマニ暗殺後の感情激発こそがイランと両国との真の関係を示している。いかなる政策に対しても支持者と反対者がいるものだ。
(問)イランについても同じことが言える。ソレイマニ死後の国民的団結は短く、人々はいまウクライナ機を誤って撃墜した革命防衛隊に抗議している。
(答)まず、人々が悲しむことは極めて正統なことだ。彼らは事故で多くの優秀な若者が失われたことにショックを受けた。多くの学生は知り合いを失った。感情的な状況だった。
(問)撃墜後、政府の発表まで3日間もかかったのはなぜなのか。
(答)込み入った時の複雑な状況だったのだ。ほかの連中はもっと時間がかかった。約32年前にアメリカはイランの旅客機を撃墜した。今日に至るまで、アメリカは公式の謝罪もしていない。撃墜したアメリカ人は勲章までもらった。それに対して、ウクライナ機を撃墜したイラン人はいま獄中にいる。
(問)その説明はイラン政府が過ちを認めるのに3日かかったことに対する説明にはならない。
(答)人々は情報が提供されなかったことについて不満を言うことは正しい。しかし、遅れたことについて、政府には責任はない。
(問)あなた自身はこの間違いをいつ知ったか。
(答)事件が起こってから2日以上たった金曜日だ。その時点で軍の高層部が、この事件は誰かのミスで起こったという最終結論に達したのだ。この結論が最高指導者に報告されると、最高指導者は公にすることを要求した。それが土曜日の朝だった。非常に苦痛を伴う時間だった。
(問)あなた方は撃墜について「アメリカの冒険主義」を非難した。しかし、攻撃が起こった夜、空域を閉鎖しなかったイラン当局は無責任だったのではないか。
(答)それは技術的決定でもあり、政治的決定でもあった。テヘランは敵対行動の地域に含まれていない。我々がイラクと8年間戦った時も空域を閉じたいことはなかった。
(問)国際的な調査は行われるのか。
(答)我々は機体保有国のウクライナ及びボーイング社を招いている。ほかの参加にもオープンだ。我々は、国際的な要件に基づいて適切な調査を行っている。
(問)11月にはイランで大衆の抗議があり、いまは学生たちがデモを行っている。政府に対する彼らの抵抗はどれほど強いのか。
(答)私は、人々の怒りと焦燥、犠牲者への痛みを理解している。亡くなった学生たちは大いなる敬意に値するし、悼んでいる人たちの正統な関心を軽んじようとしているわけでもない。しかし、もしあなたが以上をもって政府に対する反対のバロメターに考えているのであれば、ソレイマニ葬儀との間のバランスを考えるべきである。不満の声、反対の声、そしてアメリカの経済制裁で命を奪われた人々の声を無視すべきではない。同時に、テロと戦い、国を守った人物に敬意を表すべく街頭に繰り出した人々もいる。イランは一枚岩の国ではない。我々にはさまざまな声が存在する。そして、人々はデモを行い、抗議を表明する権利を有する。
(問)11月に人々がガソリン値上げに抗議する権利を行使した時、多くの人が殺された。1000人以上が殺されたという報道もある。
(答)これらの事件は我々にとって最悪の時のものに属する。しかし1000人という数字は間違いで、実際はその1/3だ。調査も行われている。また、言論の自由の権利を行使する人々と商店を略奪し、ガソリン・ステーションに火をつける連中とは区別しなければならない。公安部隊には公共の秩序を維持するという責任もある。
(問)弾圧は必要だったというのか。
(答)いや、そんなことは言ったこともない。私は過激なやり方を正当化したくないということだ。暴力を行使したものは法で裁かなければならない。
(問)2018年5月にトランプがイランとの核合意からの脱退を発表し、過酷な制裁をイランに科した。いま、イランがますますその合意を遵守しなくなっているために、最近、EUは国連の制裁をイランに再適用することにつながるプロセスを開始した(浅井注:中国とロシアの強い反対もあり、欧州側は専門家による30日間の検討を行うことに同意)。
(答)不幸なことだが、欧州側はイランをパートナーと見ていない。イランは2018年に紛争解決を起動させた。そのことの結果として、欧州諸国、ロシア、中国そしてイランは2018年6月に声明を出した。その中では、イランがJCPOAによる経済的利益を得ることが不可欠だという内容もある。しかし、欧州側は何もしていない。自分たちの義務を履行していないのだ。欧州側は高圧姿勢をやめるべきだ。
(問)欧州諸国はイランが合意を違反しはじめたことに対応しているだけだ。
(答)イランは合意に違反していない。イランはJCPOAに従って行動している。以下のことを欧州側に明確にしておきたい。彼らが義務を履行するのであれば、イランは直ちにJCPOA完全遵守に戻る用意がある。しかし義務の履行とは、JCPOAにコミットしているという声明を行うということだけではない。イランも同じ声明をすることができる。イランは合意にコミットしている。合意を愛している。ずっと有効であり続けてほしい、と。言葉は安っぽい。欧州は一つの行動を示すべきだ。しかし、彼らは何をしただろうか。
(問)欧州側はアメリカの制裁にもかかわらずINSTEXを設立した。
(答)INSTEXは基本的に会計事務所だ。アメリカがJCPOAを脱退してから1年半以上が立つのに、欧州側は取引を一つも遂行することに成功していない。
(問)核取引は死んだのか。
(答)ノー。イランの活動に関する査察と透明性は合意の重要な要素であり、今なお行われている。EUは合意の一部分を満たしておらず、イランも一部分を履行していないが、だからといって死んだことを意味しない。
(問)イランが30日以内に欧州側と合意に達しないと、問題は安保理に移り、国連の制裁が再びイランに科されるだろう。そうなれば合意の終わりとなる。
(答)欧州側がこのメカニズムに訴える正統な根拠はない。自分たちは欧州人で青い目を持っているからというだけで、安保理に何かを訴えることはできない。そのように考えているのはイランだけではなく、ロシアも中国もそう考えている。欧州側は大きな壁と向き合っている。
(問)あなたがEUから期待するのは何か。
(答)欧州がかくもアメリカに従属的であるというのは災難だ。単独主義(=アメリカ第一主義)を受け入れるものは単独主義を助けていることになる。欧州側は、ごめんなさい、私たちは何もできませんと言っている。欧州はトランプには何もできないでおいて、イランには強者であるかのように振る舞っている。
(問)国連の制裁が再び科されたら、イランはどう反応するのか。
(答)ロウハニ大統領は条約当時諸国に対する書簡の中で、我々がとる行動を明らかにした。
(問)読者のために説明してほしい。
(答)貴誌の読者は、欧州側にすべての責任があるということを知るべきだ。
(問)国連の制裁が再び科される場合には、イランは核不拡散条約(NPT)から脱退すると脅迫している。
(答)書簡ではそう言及した。
(問)ということは、イランは核兵器製造に向かうということなのか。
(答)ノー。核兵器を製造しないというイランの決定はNPTから出てくるのではない。その決定はイランの道義的及び戦略的な確信に基づくものだ。
(問)ソレイマニ殺害によってこの戦略的考慮を変えるということはないか。
(答)ノー。道義的確信は他者の不法な行いによってどうこうされるものではない。
(問)イラン指導部の中には、核兵器のみがアメリカからイランを守ることができると信じているグループがいる。彼らはいま、自分たちの主張に対する補強材を得たのではないか。
(答)先ほどもいったように、イランは一枚岩ではない。イランにおけるほとんどの問題について満場一致ということはない。しかし、最高指導者は大量破壊兵器を禁止するファトワを出した。
(問)ソレイマニ虐殺により、アメリカとの交渉の可能性を排除することになるのか。
(答)ノー、人々がアプローチを変え、現実を認める可能性を排除したことはない。我々にとっては、誰がホワイトハウスにいるかということは問題ではない。重要なことは彼らがどのように振る舞うかということだ。トランプ政権は過去を正し、制裁を解除し、交渉のテーブルに戻ってくることができる。イランはいまでも交渉のテーブルにいる。テーブルを離れたのは彼らだ。アメリカはイラン国民に多大な危害を加えてきた。アメリカがそのことについて補償しなければならなくなる日は来る。我々は辛抱強いのだ。