ハメネイ師「祈りの説教」

2020.01.18.

イランの最高指導者ハメネイ師は1月17日、8年ぶりとなる金曜礼拝の説教を行い、ソレイマニ暗殺に対する報復としてイランが在イラク米軍基地に対して行ったミサイル攻撃の意義(及び英仏独3国がイラン核合意(JCPOA)に関してトリガー条項を発動する声明を行ったこと)を取り上げて発言を行いました。
私は1月9日のコラムで「イランが自制的な反撃を行ったので、トランプは救われる形になり、さらなる報復に訴える最悪の事態に向かうことを回避できた」という趣旨の判断を紹介しました。しかし、米軍基地に対するゲリラ攻撃はともかく、主権国家が米軍基地に対して公然と自衛反撃を行ったことは未だかつてないというイラン軍関係者の発言(直近では、ハメネイ師の軍事問題最高顧問のサファヴィ少将が1月16日に行った講演において、「第二次大戦後、イランは米軍基地を攻撃した最初の国家である」とその意味を強調)に接して、イランが行ったミサイル報復攻撃は、自制的なもので「アメリカのほっぺたをひっぱたく」(ハメネイ)程度のものという位置づけではあるにせよ、ソレイマニ暗殺に相応する(proportionate)だけの重大な意味を持つ行動であることは間違いなく、世界に対してイランとして「誇るに足る行動」と位置づけられている点に関する認識が1月9日のコラムでは欠けていたと反省しました。1月17日の説教でハメネイは、「ソレマイニ葬儀に際してあれだけの規模の大群衆が参列した日」及び「IRGCがミサイル報復攻撃を行った日」は「神の日」(Days of God)であると規定しました。このことは、イランにとって今回の軍事行動が如何に重要な意義を持つものと位置づけられているかを改めて示したものです。
日本のマス・メディアは、ウクライナ機誤撃事件に関してテヘランなどで政府批判デモが起こったことを大きく取り上げ、政権の土台を揺るがせる可能性があるなどと分析しています(私が直接読んだのは朝日新聞イラン特派員の報道)。今回の説教の中でハメネイは、犠牲者の遺族の悲しみに寄り添う趣旨の発言も行っています。また、ハメネイの説教についてロウハニ大統領、ラリジャーニ国会議長そしてライシ司法長官、つまり三権の長が発言したことをIRNAが報じています。「イスラム革命というより高い目標のために団結と統合が必要だ」(ロウハニ)、「あらゆる分野で団結し、抵抗することが重要であり、我々は強くあるべきだ」(ラリジャーニ)、「人民の抵抗に関するハメネイの発言は戦略的な意味を持つ」(ライシ)という発言からは、イランの最高指導部が政府批判デモを深刻に受け止めていることを窺わせます。ロウハニ大統領はまた別の場で、事実関係の発表が遅れたことについて率直に遺憾の気持ちを表明した上で、しかし、隠蔽するという意図によるものではなかったことについて人々の理解を求めました。ハメネイ自身は、1月7日の説教の中で、2月21日に予定されているイラン議会選挙で、できるだけ多くの人民が投票に向かうことがイランの制度(establishment)に対する人民の支持を証明することになると表明しました。
政府批判デモをことさらに無視する、あるいは隠蔽するのであれば、イラン政治の先行きに対する厳しい見方が出るのも故なしとしないと思います。しかし、以上の最高指導部の率直な発言・対応を見る限り、アメリカ・トランプ政権がありとあらゆる制裁を行い、政権潰しに全力を挙げる極限的な状況がある(仮にアメリカが日本に対してそのような形で襲いかかってきたとしたら、日本は国中が「黒船来襲」とてんやわんやになること間違いなしです)にもかかわらず、よくもこれほど冷静沈着に対応していられるな、と私などはむしろ感心するぐらいです。
ちなみに、ハメネイが批判した英仏独3国(E3)のJCPOAに関するトリガー条項の発動(イランの合意不履行について安保理による制裁再発動をにらんで、イランに対する圧力をかけようとするもの)に関しては、3国が行動を起こさない場合、アメリカは25%の制裁関税を発動するとトランプが脅迫したことに屈したためであるというワシント・ンポストの報道があり、ドイツの国防相がその事実を認めた(ロシアのラブロフ外相発言)という背景があります。ロシアと中国は、イランが5段階のJCPOA義務不履行措置に訴えたのはアメリカの一方的なJCPOA離脱、そしてアメリカの対イラン制裁(アメリカも賛成したJCPOA遵守に関する安保理決議に違反)にほかの国々の参加を強要していることに対する対抗行動であり、E3がとるべきはアメリカの対イラン制裁に与することではなく、アメリカの政策転換を迫ることだとして、E3の行動を厳しく批判しています。
以上、1月9日のコラム内容に関する反省を込めて、最新のイラン政情について紹介しました。