21世紀の日本と国際社会 浅井基文Webサイト

「香港事態」を判断する視点

2019.02.04.

<「香港事態」の二面的性格>
6月以来の香港における事態は、アメリカでの「2019年香港人権民主法」(以下「法律」)の成立によって、その前後においてまったく性格を異にするものになりました。香港事態にははじめからアメリカの深い関与があり(運動リーダーとアメリカNGOとの深い結びつき、デモ主導者のアメリカ議会における証言等)、したがって「香港問題」としての性格と「米中問題」としての性格が含まれていましたが、この法律が成立するまでの主要矛盾は「香港問題」で、「米中問題」は副次的矛盾でした。しかし、法律成立は「米中問題」を主要矛盾とさせ、「香港問題」は副次的矛盾に変質したということです。日本国内主要メディアを中心とする一般的受け止め方は「香港の民主化を求める運動とそれを弾圧して押さえ込もうとする香港政庁・中国本土との対立」とする見方で一貫しており、国民の間で支配的な反中・嫌中感情を背景にして、「民主化運動=善、香港政庁・中国大陸=悪」と決めつける見方が圧倒的に支配的です。中国に批判的な米欧主要メディアの論調に支配されている日本主要メディアの「決めつけ報道」は国民の「香港事態」に関する見方を大きく規定しているのです。
<11月選挙と問題の変質>
 私も、11月の選挙で「民主派」が8割以上の議席を獲得して圧勝した事実(ただし日本の衆議院総選挙と等しく、これは小選挙区制のなせる結果であり、実際の得票率では「民主派」と「親中派」の得票率は6:4だったことに要留意)は重いと思います。私は、選挙結果に接する前は「民主派」の運動が過激化・暴力化し、香港警察の取り締まりも苛烈になっていく事態を市民(有権者)がどのように判断するかに注目していましたが、選挙結果は「民主派」に軍配を上げたという結論は不可避です。私は人民日報(評論員文章、鐘声文章)、新華社(論評、時評等)、中央電視台(国際鋭評)そして環球時報(社説)がこの選挙結果についていかなる判断を示すか注目してきましたが、これまでのところ、今回の選挙結果を受け止めた上で論評しているのは環球時報社説だけです(折を見て環球時報社説については紹介したいと思っています)。中国メディアの主要論調がこの選挙結果に触れないという事実自体、中国当局がこの事実を受け止め切れず、咀嚼し切れていない状況を反映していると思います。
 しかし、最初に指摘したとおり、今や香港事態は米中問題としての性格を著しく強めていることは事実であり、したがって中国メディアの主要論調がこぞって中国内政に公然と干渉するアメリカに対する批判に集中することは当然と言えます。アメリカでは、共和党右派を代表するティ・パーティに属するポンペイオ国務長官が新疆問題、南シナ海問題等に関して露骨な中国内政批判を展開してきましたが、香港事態に関しても早くから中国批判を繰り広げ、選挙結果を受けてからはますます激しい対中国批判を行っています。アメリカ議会も、共和党はもちろんのこと、中国の台頭を押さえ込むことにすこぶる熱心な民主党も負けておらず、そのことは法律が議会の圧倒的多数で承認された事実が雄弁に示しているとおりです。むしろ対中姿勢という点では、米中貿易交渉で早く実利・成果を挙げたいトランプ大統領は、法律署名(法律は大統領の署名によって成立)にためらいを示したように、議会とは若干距離を置いている節が見られました。しかし、最終的にはトランプもアメリカ国内に充満する「中国たたき」ムードには抵抗できなかったというわけです。
 アメリカがなにゆえにかくまで「中国たたき」に熱中するのかについては詳細な吟味が必要です。しかし、覇権大国としての地位にしがみつき、自らの覇権を脅かす可能性のある存在を認めることができないというパワー・ポリティックスの発想がアメリカのエスタブリッシュメントの根底にあることは間違いないところでしょう。イデオロギーとしてのパワー・ポリティックスの発想とは本質的に無縁なトランプ(彼の信条はマネー・ポリティックス)はこのようなエスタブリッシュメントが支配してきた従来の内外政策と一線を画すことに異様にこだわってきたことは今や公知の事実ですが、さしものトランプも法律の成立をあくまで拒否するだけの蛮勇は持ち合わせていなかったということでしょう。
 しかし、中国からすれば、国内問題である香港問題に対してアメリカの国内法に過ぎない法律で公然と干渉するというアメリカの行動に強く反発するのは当然です。すでにアメリカは、「台湾関係法」によって台湾問題に干渉してきましたが、今や香港事態を利用して香港問題にまで容喙する行動に乗り出したということであり、中国としては、アメリカを後ろ盾とする香港「民主派」の諸要求に譲歩することはあり得ないと断言できます。
 反中・嫌中感情が満ち満ちている日本国内では、中国が困難な状況に陥れば陥るほど「よしよし」とする雰囲気が瀰漫しています。しかし、現在進行している米中貿易戦争が日本経済に悪影響を及ぼしていることには懸念が広がっています。香港問題で米中が激突するまでに事態が悪化するときの日本に対する深刻な影響は推して知るべしです。「人権」というだけですべてを割り切ってしまうには、米中関係はあまりにも複雑かつ深刻なのです。
<香港「民主派」の行動>
 今回の「香港事態」の直接の発端は「逃亡犯条例」の改訂でした。特に、容疑者の引き渡し先に中国大陸(及びマカオ)が含まれたこと(中国はこれを支持)に対して香港の裁判の独立性を脅かす可能性があるとして反対の声が上がり、香港の「民主派」による抗議活動へと発展しました。つまり、「一国二制」における制度部分、香港に高度の自治を認める建前が崩される恐れがあるとして反対の声が上がったというわけです。この初動における香港政庁(及びそのバックにある中国大陸)の「勇み足」、そして反対の声が高まってもなかなか撤回に踏み切らなかったという情勢判断の誤りが事態の悪化を引き起こしました。私は、この点に関して中国の主要メディア論調が一切無言を貫いていることは大きな間違いだと思います。
 他方、抗議活動の激化と香港警察の取り締まり強化が悪循環に陥る中で、抗議活動側は、①条例改正案の撤回、②デモの「暴動」認定の取り消し、③警察の暴力に関する独立調査委員会の設置、④拘束したデモ参加者の釈放、⑤林鄭月娥行政長官の辞任のいわゆる「5大要求」を掲げました。この中でも特に⑤は中国政府によって任命される行政長官の辞任を要求するものであり、「一国二制」の「一国」部分に触れるものです。香港政庁・中国本土側に初動における誤りがあったとすれば、抗議活動側にも「一国二制」の「一国」を突き崩す意図が当初から含まれるという問題があったことは指摘する必要があると思います。
しかも、選挙後初の抗議活動側主催のデモにおいてアメリカの星条旗が林立し、法律に署名したトランプに謝意を表する垂れ幕を前面に出すという異様を極めた光景をテレビで接したとき、私は抗議側、特にその主導グループが今や公然とアメリカの庇護を当てにして、「一国二制」の根幹を突き崩そうとする「親米派」に変質したことを実感せざるを得ませんでしたし、彼らの対米認識の幼稚性に失笑せざるを得ませんでした。「アメリカは本気で自分たちの運動を支持し、中国と全面対決してくれる」と彼らが信じているとすれば、それはアメリカのいわゆる「人権外交」の二重基準(ダブル・スタンダード)に対する彼らの完全な無知をさらけ出すもの以外の何ものでもないからです。
 さらに報道によれば、抗議派は「5大要求」の⑤については「普通選挙の実施」に変えたということです(産経新聞)。この報道が事実であるとすれば、抗議派は今や「一国二制」そのものをやり玉に挙げるに至ったというほかありません。もはや話し合いによる問題解決を彼ら自身が封じ去ってしまった、と言って過言ではないでしょう。
 アメリカの人権外交の二重基準の本質に関しては、私がくどくど説明するよりも、たまたま12月2日にポンペイオ国務長官がルイスヴィル大学で行った講演での発言内容を紹介する方がより説得力があるでしょう。以下はイランのファーズ通信が12月3日付で紹介した記事です。いちいち翻訳しませんが、ポンペイオは中南米諸国における政府とデモ隊との対立・衝突に関して、アメリカに楯を突く政府に対するデモは支持し、アメリカに従順な政府に対するデモに対しては、これを「暴徒」として容赦なく扱うとヌケヌケと述べているのです。香港事態に即していえば、抗議運動側はアメリカに楯突く中国本土と対決しているのだからこれを支持するのであって、抗議運動側の主張を是とするからでも何でもないということです。

Tue Dec 03, 2019 2:17
Pompeo: US to Help 'Legitimate Latin American Govts' to Prevent Protests from 'Morphing into Riots'
TEHRAN (FNA)- Secretary of State Mike Pompeo stated that the US will help "legitimate governments" in Latin America in order to prevent protests from "morphing into riots".
Pompeo made the comments while delivering remarks at the University of Louisville on Monday, RT reported.
He declared that US policy in Latin America is based on "moral and strategic clarity", meaning Washington "cannot tolerate" regimes it deems unsatisfactory in the region.
Pompeo said that protests in Bolivia, Chile, Colombia and Ecuador reflect the "character of legitimate democratic governments and democratic expression" and that governments in the region should respect that.
"We'll work with legitimate governments to prevent protests from morphing into riots and violence that don't reflect the democratic will of the people," he noted.
Pompeo added that the US will "continue to support countries trying to prevent Cuba and Venezuela from hijacking those protests".
He also accused Russia of "malign" influence in Latin America and of "propping up" the democratically elected Venezuelan government of Nicolas Maduro.
The eyebrow-raising comments come in wake of the November coup in Bolivia, which saw socialist President Evo Morales ousted while violent protests and attacks on politicians forced him to leave the country. Opposition leader Jeanine Anez has since declared herself an "interim president". The opposition-led protests began over alleged election irregularities.
Pompeo's distinctively frank comments are an admission of sorts that the US will encourage violent protests and regime change where it deems a government to be illegitimate, but will work to quash anti-government sentiment in countries it sees as obedient allies.
While the US wholeheartedly supported the Bolivian coup, as well as coup attempts in Venezuela earlier this year, it has all but ignored anti-government protests in Chile, where it blames "malign" Russian and Chinese influence.
In both Venezuela and Bolivia, Washington supports the unelected self-declared "interim presidents".
Pompeo concluded by saying there remains an "awful lot of work to do" in the region, referring to Latin America as the US's "back yard". He also warned against "predatory Chinese activities" in the region, which he claimed can lead countries to make deals that "seem attractive" but are "bad" for citizens.