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「社会主義市場経済」の優位性(『求是』掲載文章)

2019.09.24.

市場経済は資本主義と不可分であって計画経済の社会主義とは相容れない、という理解をごく当然と受け止めていた私のような世代の人間にとっては、改革開放以後の中国が推進する「社会主義市場経済」という提起をすんなりと受け止め、受け入れることはなかなか難しいことです。「中国はもはや社会主義ではなく、資本主義に堕した」という批判が日本国内で結構受け入れられる素地はここにあると思います。しかしアメリカなどでは相変わらず、「社会主義」中国に対する違和感、ひいては敵視がまかり通る状況があります。
 「社会主義市場経済」とは何ものであるかについて、9月21日付の「求是網」は、南開大学マルクス主義学院教授の劉鳳義教授署名文章「社会主義市場経済の制度的優位性」を掲載しました。この文章は、「社会主義市場経済」とは何ものであるかに関する説明を行っており、私のような経済にずぶの素人でもそれなりに理解できる内容となっています。
 しかし、この文章の目的は、題名の示すとおり、「社会主義市場経済」に関する説明にとどまらず、「社会主義市場経済」が「資本主義市場経済」より優れた制度であることを明らかにしようとしている点にあります。2008年の国際金融危機以後、先進資本主義諸国が軒並み低迷し、資本主義市場経済制度を採用する途上諸国が深刻な状況に見舞われる中で、ひとり中国だけが高度経済成長を実現し、しかも広範な人民の生活向上を実現してきたことがその自信の裏付けとなっています。
 私が刮目するのは、改革開放初期の中国は鄧小平流の「黒猫白猫」論のレベルにとどまっていましたが、今や理論的思想的に自らを定位しようとする高みを目指しているということです。もちろん、ケチをつけることは簡単です。しかし、社会主義市場経済の優位性に関する7点にわたる理論的主張を先入主なく吟味する価値はあるのではないでしょうか。
 なお、今回紹介する文章は、9月16日付で紹介したように、「求是網」が連続で掲載している文章の一環で、第29回目のものです(9月16日付のコラムで紹介した文章は9月2日付の第12回)。ほかにも興味を覚える文章が陸続として掲載されていますので、機会を見てまた紹介します。

 新中国成立70年特に改革開放以来、中国経済建設の成果は巨大である。なにゆえにわずか数十年の間に中国はこのような奇跡を創造したのか。一つの鍵となる要素は社会主義市場経済を大いに発展させ、市場経済のメリットを発揮させるとともに、社会主義制度の優位性をも発揮させたことである。
 市場経済は一種の資源配置方式であり、異なる制度と結合させることができる。資本主義制度と結合すれば資本主義市場経済を形成し、社会主義制度と結合すれば社会主義市場経済を形成する。資本主義市場経済は歴史的に積極的な役割を発揮し、巨大な生産力を創造した。今日の発達した資本主義国家では、アメリカを代表とする自由市場経済モデル、ドイツを代表とする社会市場経済モデル、日本を代表とする法人独占資本主義モデル、スエーデンを代表とする福利市場モデル等がある。実践が証明するとおり、これらの異なる市場経済モデルにはそれぞれ長短があるが、そのすべてに共通するのは両極分化、経済危機、資本独占、発展不均衡等の深刻な矛盾と病弊である。2008年の深刻な金融危機により、資本主義市場経済モデルは非常に見劣りするものとなった。資本主義市場経済を採用する多くの発展途上国においては、経済社会の発展が長期にわたって立ち後れた状況にあったが、資本主義市場経済の矛盾と病弊はことさら突出することとなった。これらの矛盾及び病弊を克服することによってのみ、生産力の解放と社会の全面的な発展とをよりよく促進することができる。
 したがって、問題の鍵となるのは、市場経済を取るか否かではなく、いかなる市場経済を取るかということにある。改革開放以来、我が国が経済の持続的かつスピードある発展、総合的国力の大増強及び人民生活水準の大幅な向上を実現し、世界が注目する経済発展の奇跡を創造することができた鍵は、我々が社会主義市場経済を大いに発展させ、社会主義市場経済システムを不断に改善し、市場経済の発展のために広大なスペースを作り出し、その巨大な優位性を顕示したことにある。
<社会主義市場経済のメリットと優位性>
 ①人民の良好な生活に対する要求を満足することを社会主義的生産の根本目的とすること。資本主義的生産の根本目的は資本家の金儲けであり、資本主導の下における生産関係は金儲けのための生産であって、最終的に民生福利のためではない。社会主義的生産の根本目的は人民の日増しに増大する良好な生活の要求を満足することであり、我々が市場経済を発展させるのは、市場経済が備える情報の機敏性、効率の高さ、インセンティヴの有効性、調節の弾力等の優位性を十分に発揮させ、経済発展の活力を増強し、経済発展の効率を高め、人民の要求をよりよく満足するためである。新中国成立70年にして14億近い人口を貧困から脱出させるということは、発達した資本主義国が数百年かかってもなしえないことである。我々がなしえたのは社会主義制度を堅持しているからである。我々が人民を中心とする発展思想を堅持し、新発展理念を堅持し、質の高い発展を推進し、サプライ・サイドの構造改革を推進してきたのは、とどのつまりは生産力をよりよく解放し、発展させ、人民の日増しに増大する良好な生活への要求をよりよく満足させ、社会主義的生産という目的をよりよく実現するためである。
 ②公有制を主体とし、多種類の所有制経済の共同発展という基本的経済制度。今日の世界では、資本主義国家であれ、社会主義国家であれ、所有制に関わる仕組みはすべて多元的な混合形態であり、純粋な単一所有制形態は存在しない。違いは次の点にある。資本主義国家においては生産手段の私有制が主体的地位にあり、国有経済は私的資本の補完的形態であるに過ぎず、私的資本の落ち穂拾い的役割であって、その有無を問わず、多少をも問わない。これとは異なり、中国の特色ある社会主義経済は公有制を主体とし、多種類の所有制経済の共同発展という基本経済制度を実行しており、このことは中国の特色ある社会主義制度の重要な構成要素であるとともに、社会主義市場経済システムを改善するための必然的要請でもある。公有制の主体的地位を堅持し、国有経済が国民経済の中で主導的な役割を担うようにさせることにより、経済発展が中国の特色ある社会主義の道に沿って前進し、社会の成員全体の共同富裕を着実に実現することを保証する。多種類の所有制の共同発展を堅持することは、各経済主体の利益を保障し、各経済主体の積極性、主動性及び創造性を引き出し、経済発展を推し進める上での強力な相乗効果を生み出す。
 ③労働に応じた分配を主体とし、多種類の分配方式を併存するという基本的分配制度。資本主義市場経済は私有制を基礎とし、最大限の資本増殖を実現することを目標としており、市場の自発的作用のみに依存しているため、富の寡占を必然的に引き起こす。先進資本主義国の中で、アメリカは自由市場経済をもっとも信奉する国家であるとともに、貧富の格差がもっとも大きい国家でもある。我が国社会主義市場経済が取るのは労働に応じた分配を主体とし、多種類の分配方式が併存する分配制度であり、この制度は両極分化を防止し、労働者の労働に対する積極性及び創造性を引き出すのに有利である。
 ④発展の理念を分かち合い、ともに豊かになる道。分かち合うとは社会的富の分かち合いということであり、一定の社会制度の基礎の上で樹立する必要がある。労使関係が根本的に対立する資本主義私有制のもとでは、分かち合うということは資本主義制度の内在的属性とはなり得ない。社会主義制度ではそうではなく、生産手段の公有制及び労働に応じた分配が分かち合いに対する制度的保障を提供する。分かち合いは中国の特色ある社会主義の本質的要求であり、社会主義制度の優越性の集中的体現であり、誠心誠意人民に服務するという党の根本原則の重要な体現である。
 ⑤「効率的な市場」と「有能な政府」という両面における優位性の発揮。市場経済の数百年の発展において、政府と市場の関係をいかに解決するかということは理論的にも実践的にも一大課題であった。中国の特色ある社会主義は、経済的配分において市場経済に決定的役割を担わせることを模索すると同時に、政府が役割をよりよく担うことについても模索してきた。社会主義市場経済における政府の役割は、西側国家の政府が資産階級の利益を代表するのとは異なり、市場の失調を補い、公共財を提供することを通じて資本が最大の利潤を獲得するための条件を作り出すことにある。社会主義市場経済における政府は、生産手段公有制及び人民全体の利益の総代表として、社会的生産及び再生産のプロセスに参与することを通じ、また、経済計画、長期的企画等を通じて人民の需要を満足させるという根本的目的に従い、社会的範囲で社会資源を合理的に配置し、経済の全面的、協調的、持続的な発展を促進する。社会主義市場経済におけるマクロ・コントロールは、単に「消防員」の役割を果たすにはとどまらず、現代市場経済の一般的原則に従い、社会主義制度の独自の優位性をも体現して、マクロ・コントロール方式を不断に刷新し、短期と長期、供給と需要、効率的な市場と有能な政府を有機的に結合させる。
 ⑥開放拡大と人類運命共同体構築推進。経済のグローバル化は時代の潮流であり、科学技術の進歩及び生産力発展の必然的要求である。しかし、長期にわたり、経済のグローバル化は先進資本主義国家が主導するグローバル化であり、明らかに「諸刃の剣」的性格を帯びていた。すなわち、一方ではグローバル化が生産力の発展を促し、物質的富の不断の蓄積をもたらし、科学技術の日進月歩を促し、人類文明は歴史的最高水準に到達した。しかし他方では、地域紛争が頻発し、テロ、難民などのグローバルな問題があちこちで発生し、貧困、失業、収入格差拡大等、世界が直面する不確実性が増大した。我々が展開する社会主義市場経済は、独立自主の堅持と経済のグローバル化を結びつけ、「進出」と「導入」を結びつけ、国内と国際の両市場を十分に利用し、より高いレベルでの開放型経済を発展させ、人類運命共同体の構築に力を入れ、公正で合理的な国際経済秩序の建設を推進し、経済のグローバル化が互恵共嬴の方向に発展することを推進し、開放型の世界経済を構築することを推進し、世界経済が力強い、持続可能な、バランスのとれた、包容的な成長を遂げることを促進し、自らの発展を促進すると同時に世界の発展のためにも貢献するものである。
 ⑦中国共産党の領導が社会主義市場経済の制度的優位性であること。中国共産党の領導は中国の特色ある社会主義のもっとも本質的な特徴であり、また、社会主義市場経済の制度的な優位性でもある。中国共産党は一貫してもっとも広範な人民大衆の根本的利益を代表し、人民を中心とする発展思想を堅持し、人民の福祉の増進、人の全面的発展の促進、共同富裕に向かっての着実な前進をもって経済発展の出発点及び着地点としている。経済工作に対する党の集中統一領導を堅持することは、経済と政治の有機的統一を実現するのに有利であり、市場の活力を刺激し、経済の効率を高めることができるとともに、社会主義制度の優位性を発揮し、各方面の積極的要素を十分に引き出し、社会の公正正義を促進することができる。改革開放以来、我が国の経済及び社会が衆目の認める偉大な成果を実現し、人民の生活水準が大幅に向上することができたのは、我々が確固として党の領導を堅持し、各レベルの党組織及び党員全体の役割を十分に発揮させたことと不可分である。
 中国の特色ある社会主義は新しい時代に入り、改革開放も新しい時代に入ったが、我々は社会主義市場経済の改革開放を堅持し、改革を全面的に深化させ、対外開放を拡大し、不断に社会主義市場経済体制を改善し、社会主義の基本制度と市場経済の結合について引き続き工夫を凝らし、両方面の優位性をともによく発揮させ、経済及び社会の着実な前進及び健やかな発展を推進するべきである。