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「西側デモクラシー」と「中国デモクラシー」の違い

2019.09.16.

習近平・中国を胡錦濤・中国以前から隔てる最大のポイントは中国社会主義に対する確固とした自信・確信にあると思います。特に「中国デモクラシー」に関しては、胡錦濤・中国までは西側の攻勢に対する受け身的・防衛的議論が主調であったのに対して、習近平・中国においては、近年における西側諸国のデモクラシーが様々な問題を露呈しているのに対して、中国の国情を踏まえた独自のデモクラシーに関する積極的・肯定的主張が明確に行われるようになっています。しかし、日本(というよりいわゆる西側諸国)における中国政治に対する見方は「強権」「独裁」という既成観念で凝り固まっており、このことは中国政治の実情を正確に理解することを妨げていると思います。私はかねがねこのコラムで「中国デモクラシー」について紹介したいと思っていたのですが、正直言って私には手に余る難題であり、なかなか作業に着手することができないでいました。そうした中、最近、私の頭もすっきり整理される格好の文章に出会いました。
 すなわち、建国70周年に当たり、中国共産党の理論誌『求是』は「中央網信弁」(国家互聯網信息弁公室)と組んで、思想理論界の専門家の執筆による「中国穏行前行」と題する一連の文章を発表しています。9月2日付の求是網は、「中国民主の道程の4つの経験」と題して、中国社会科学院政治学研究所所長・房寧署名文章を掲載しました。
房寧文章は、①中国共産党の領導体制が中国政治にとって不可欠な理由、②西側デモクラシーがコックを指名する(料理内容はコックに任せる)ことを特徴とする(「選挙デモクラシー」)とすれば、中国デモクラシーはコックと料理内容を相談して決めることに特徴があると比喩的に形容することができること(「協商デモクラシー」)、③人権は一気呵成に実現するものではなく歴史的プロセスを経ることは、中国だけに限ったことではなくいわゆる西側諸国においてもそうであること、④中国の改革開放は前例のない道を目指し、歩んでおり、したがって試行錯誤であり、それ故にこそ取り返しのつかない過ちを犯さないためにも「石橋をたたいて渡る」ことが重要であること、などについて論じています。それが「中国民主の道程の4つの経験」ということです。「中国デモクラシー」の「西側デモクラシー」との違いがどこにあるかを理解する上での重要なポイントを指摘していると思います。以下にその大要を紹介する次第です。

<人民の権利の保障と国家権力の集中との同時推進>
 中国共産党の領導、人民の「当家作主」及び依法治国の有機的統一を基本内容とする中国の政治モデル及び基本的制度の枠組みは、人民の権利を保障し、国家権力を集中するという二重の機能を提供する。
 人民の権利を保障するということの意味は、制度という形で普遍的な社会的行動規範を定めると同時に、政治及び経済活動における予期値を形成し、生産及び創造的活動に従事する人々の積極性、主動性を促し、渙発することにある。このことは、世界各国が工業化、現代化のプロセスにおいて社会的進歩を促進してきた普遍的経験である。改革開放は中国人民にかつてない経済的、社会的自由をもたらし、権利の開放及び保障をもたらし、人民が幸福な生活を追求する積極性、主動性及び創造性を大いに引き出した。
 しかし、権利の保障は改革開放及び民主政治の一面であるに過ぎない。世界各国の民主政治にはすべて権利の保障という要素が含まれており、それは中国だけのことではない。中国の民主政治の今ひとつの面である国家権力の集中は、現代中国民主政治及び政治的発展の道のりにおけるもっとも特色のあるものである。それは主に国家権力の機能を集中することを指し、市場経済活動を調節し、経済発展の戦略的計画を制定し、地域の発展を協調させ、インフラ建設を推進することなどが含まれる。
 中国政治制度における「国家権力の集中」という顕著な特徴に関しては重要な背景及び原因がある。中国は巨大規模の後発国家であり、中華民族は輝かしい歴史と文化的記憶を持つ民族である。したがって、中国における工業化、現代化は国家の落後した様相を変化させるだけでなく、世界の先進的レベルに追いつく必要がある。そのためには、西側先進諸国の後をひたすら追うのではなく、独自の道を歩む必要がある。
 中国共産党による長期にわたる執政という地位すなわち「中国共産党の領導」は、国家権力集中の制度的体現である。これは社会主義現代化及び中華民族復興を実現するもっとも鍵となる要素である。党の領導のもと、中国は統一したかつ強力な中央政権を形成し、国家の法律及び政策の統一性、権威性を備え、政権及び大政方針における安定性と一貫性を持つこととなった。
 政治制度の機能面から見ると、中国政治モデルは歴史的原因に基づいて形成され、中国人民の全体的、長期的及び根本的利益を代表する政治的核心を持ち、この核心すなわち中国共産党によって国家及び社会の発展に関わる重要な政策決定を行う。この正当性、合法性及び権威性は人民の「一括的授権」に基づくものであり、「人民的選択」「歴史的選択」と称される。このような政治的核心の存在により、重要な政策決定プロセスにおいて、市場経済の条件下における異なる利益集団間の利益交換のコストを最小に引き下げることができる。このこともまた中国デモクラシーと西側デモクラシーとの一つの重要な違いである。
 特殊な歴史及び国情さらには後発国家という立場により、中国は「戦略的発展」とも言うべき特殊な工業化の道を実行する必然性がある。それはすなわち、戦略的計画を通じて、資源を集中し、開発を強化し、しかも一貫して長期的に堅持し、執行するということである。実のところ、成功を収めた発展途上国・地域もまた同様な歴史を持つ。例えば、日本、韓国及び東南アジア諸国であり、台湾も含まれる。
 工業化プロセスにおいては2種類の社会的インセンティヴ・の仕組みが生み出される。一つは分配的インセンティヴである。すなわち、選挙、政党政治を通じて分配ルールを変更し、「政権交代」を通じて社会的利益を獲得する。もう一つは生産的インセンティヴである。すなわち、人々は生産経営活動を通じて社会及び個人の発展を実現する。資本主義政治体制は権利の保障及び国家権力の開放(つまり選挙)という双方向性デモクラシーを採用しており、政党間、利益集団間の排斥、攻撃を生み出し、社会的齟齬を拡大する傾向を生みやすい。  豊かで安定した西側諸国ではこのような弊害を一定範囲・程度にコントロールすることができるが、工業化、現代化のプロセスにおいて社会矛盾が多発する発展途上国においては、西側政治制度の欠陥が突出して現れる。成功を収めている発展途上国は例外なく社会的権利は開放し、国家権力は集中する開発戦略を採用している。このことは、分配上のインセンティヴの弊害を回避し、安定的状況下で経済社会開発を実現するのに有利である。
<現段階における中国民主政治の重点は協商デモクラシー>
 デモクラシーを形式において「選挙デモクラシー」と「協商デモクラシー」とに区別することは、中国によるデモクラシーに対する理論的創造である。西側の学者の中にも競争的選挙の欠陥及び問題に着目するものがいる。中国は改革開放のプロセスの中で賢明にも、この歴史段階における民主政治を発展する方向及び重点として協商デモクラシーを選択した。
 鄧小平はかつて「積極性を動員することが最大のデモクラシーである」と述べたことがある。これこそは中国と西側のデモクラシーの理念における重要な違いである。西側のデモクラシーの理念はその形式をより重視し、権利と自由を重視する。しかし中国のデモクラシーの理念はその社会的機能をより重視し、民生に対する働きかけを重視する。
 比喩を用いて西側デモクラシーと中国デモクラシーの違いを説明しよう。西側デモクラシーはあたかも、レストランで食事をするとき、客はコックを指名するというようなものだ。イタリア料理のレストランに行けば、コックはピザを作り、中華レストランに行けば、コックは宮保鶏丁を料理するだろう。中国デモクラシーはあたかも、客がレストランで食事をするとき、料理を何にするかについて相談するというようなものだ。協商デモクラシーの本質は、政策を行う上で人々の意見を吸収するということであり、結果を重視するデモクラシーであって、デモクラシーの形式だけにこだわるものではない。
 ある国家がいかなるデモクラシーのスタイルを実行するかは、当該国家の社会的発展段階、社会が当面する主要任務及び国際環境によって主に決まる。同時に、その国家の歴史、文化、伝統の影響にも一定程度左右される。中国は、当面する情勢及び任務に鑑みて、協商デモクラシーをもって民主政治建設の重点として選択したのであり、「選挙デモクラシー」をもって重点とはしなかったのである。
 比較的に言うならば、協商デモクラシーの長所・メリットは極めて明らかである。協商の前提及び基礎は各人の地位の平等であり、協商の内容は利益の相交わるところを求め、最大の「公約数」を求めるということであり、協商の機能は各人の利益を考慮し、共同の利益を形成することを促進することにある。特に、矛盾が多く、容易に発生する時代においては、協商デモクラシーは社会矛盾を協調させることに有利であり、小異を残して大同につき、共通認識を拡大することに有利である。今日の中国は社会主義現代化及び中華民族復興の鍵となる時代にあり、協商デモクラシーは現段階にもっともふさわしいデモクラシーの形態である。
<段階的漸進的かつ不断の人民の権利拡大>
 中国政治の発展プロセスにおいては人民の権利を保障することが重要な内容である。しかし、人民の権利の実現及び拡大は必ずしも簡単に実現するものではない。人民の権利は憲法及び法律によって確認し、保護する必要があるが、法定の権利が規定から実現に至るのは一つの実践プロセスである。権利は経済社会文化の発展に伴って不断に拡大し、増大するものであり、生まれながらに備わっているということではないし、単純に政治闘争によって獲得するというものでもない。権利は歴史的、社会的、現実的なものであり、備えられた条件という状況の下ではじめてそれにふさわしい権利が可能になる。
 我が国は社会主義法治国家であり、我が国における依法治国、依憲治国は西側における憲政とは異なる。西側憲政のポイントは憲法の司法化ということにある。しかし歴史的事実が示しているように、ある国家において、憲法から法律、法律から社会的現実に至るのには非常に長く、困難なプロセスを必要とする。
 アメリカを例に取ろう。アメリカは建国してから80年以上になって、アメリカの建国の基本原則である「人は皆平等」を憲法においてやっと確認したのであり、アメリカ憲法が最終的に各州の法律にまでなるにはおよそ200年の過程を経た。中国の憲法が最終的に各法律に、そして法律が社会の現実にまで行き渡るまでの過程で守り従うロジックとは、人民の権利の実現は経済社会の発展にしたがって段階的に拡大していくのであって、人為的に超スピードの方法を採用することはできず、理想化をもって現実に代えることはできないということだ。
 西側の権利観は、権利をアプリオリなものさらには生まれつき備わっているものと見なすいわゆる「天賦人権」説、あるいは権利とは法律によって付与され、法定の権利は神聖不可侵とするものである。しかし、西側の政治の発展における経験が証明するとおり、権利の実現は長期的な社会的プロセスであり、憲法及び法律による確立は権利の起点に過ぎず、終着点ではないということであり、憲法と法律自体も権利実現の歴史の一部であるということだ。多くの発展途上国で「デモクラシーの失敗」に見舞われる重要な原因の一つは、人民の権利の拡大が政治制度及び体制の許容能力を超過し、そのことが政治システムの混乱を招くことにある。
 人民の「当家作主」の権利を保障することは中国の特色ある社会主義民主政治が根本的に追求するものである。しかし、この目標を実現する実践においては、我々は未だかつて具体的な歴史条件を離れて権利を神聖化、絶対化、抽象化したことはなく、先験的、教条主義的な態度で人民の権利という問題に対処したこともない。中国における人民の権利を発展させる根本的道筋は、経済建設を中心とし、社会的生産力を大いに発展させ、経済、社会、文化の発展を不断に促進することを通して、人民の権利の発展にとって有利な条件を創造し、ステップ・バイ・ステップで民主的制度をよりよくし、人民の権利を着実に発展し、拡大することである。以上のことは、経済社会が急速に発展し、人民の権利意識が不断に高まるという複雑な社会環境のもとで、中国が依然として社会の安定を維持することができるという重要な経験の一つである。
<中国政治発展道程における戦略は「石橋をたたいて渡る」>
 改革開放以後、中国の政治発展及び政治体制改革のアプローチは、イメージ的に「石橋をたたいて渡る」とするものである。すなわち、実践の中でぶつかる問題から出発するということであって観念から出発するということではなく、実験を通じて分散的に進めるということであって「一括的」方法は安易にはとらないということである。問題から出発するとは、改革の起点を具体的問題において設定し、現象から着手するということだ。物事の本質を認識していない状況の下では、本質に関わる現象の範囲をマルバツ式で狭めていき、表面から内面へ、浅いところから深いところへと改革のテストを進め、部分的に問題を解決することを通じて、量的蓄積から質的変化へと向かうのだ。
 我々は改革過程においては問題指向型を堅持し、具体的問題の解決から着手するのであり、これが常々いうところの「問題推動」である。これは非常に貴重な経験である。「問題推動」のよいところはほかにもあるか。それはリスクをコントロールすることができることだ。改革は前例のない事業であり、リスクを伴う。かつてのソ連のごとくいわゆる「一括的」改革を行った場合、リスクや問題が現れたときに挽回しようとしても困難となる。しかし、中国の改革はテスト・ケース(試点)を通じて徐々に拡大展開するものであり、誤りを正し、調整するゆとりがある。
 「石橋をたたいて渡る」ということの本質は実践の重要性を強調するということであり、このアプローチの具体的な含意は「問題推動」、「テスト・ケース経由」、「統籌兼顧」とまとめることができる。「問題推動」とは、現実の中の問題から出発し、実際の問題を解決することから突破口を選択するということであり、実に賢明な行いである。現実問題を解決すれば、その方法が正しいことを証明し、初歩的な成功を収めることとなる。小さな成果を蓄積して大きな成果にしていくことにより、主観的認識の局限性及び判断の過ちがもたらすリスクを減らすことができる。「テスト・ケース経由」とは、実践によって政策及び理論を検証することによって誤りを正すチャンスが得られ、リスクを分散するという意味合いがある。政治体制の改革においては「一括的」方法はもっとも避けるべきである。いったん間違ったら全局失敗となるからだ。試点を経ることにすれば大きな間違いをすることはなく、改革に失敗したとしてもさらに大きな間違いを回避したことを意味する。「統籌兼顧」とは、政治問題においては「局所的な小さな動向が、全体の大局的な動きの引き金になってしまう」ことを考慮し、政治改革の部分的な成功が必ずしも大きな価値を持っているとは限らず、ある面では成果が得られるとしてもほかの領域では新たな問題を引き起こすこともあるから、政治体制の改革においては全体的な効果を評価することに重きがあるということだ。
 第18回党大会以来、我々はトップによる設計と「石橋をたたいて渡る」ことを結びつける方法を提起している。なぜならば、状況が複雑になればなるほど、政策相互間のケンカを防止するために、政策間、法律間の協調性を強化する必要があるからだ。社会という領域においては、全体的設計には一定の必要性があるが、実際に執行する中では必然的に曲折が起こる。政治の本質は利益の総合であり、一つの考え方に基づいて突っ走ることはできない。コンセンサスを達成したときに政策を打ち出すことができるのだ。トップによる設計とは政策間の協調性を強化するということである。
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 中国は現在、社会主義現代化の鍵となる段階にあり、「百里を行く者は九十を半ばとする」。成功に近づけば近づくほどますます容易になるのではなく、ますます難しくなるのであり、ますます安全になるのではなくますますリスクが大きくなるのだ。このことは、世界的な工業化及び現代化の発展プロセスにおいて現れた比較的普遍的な法則である。中国の工業化、現代化を実現するもっとも鍵となる段階においては、我々はますます政治的な定力を保ち、中国民主政治における以上の4つの経験を堅持し、発展させる基礎の上で、中国の特色ある社会主義政治制度を確固として堅持し発展させ、中国の特色ある民主政治を発展させる道筋に沿って、国家のガヴァナンス・システム及びガヴァナンス能力の現代化に着実に邁進し、中華民族の偉大な復興という事業を持続的に推進していくべきである。