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9.11事件後18年の世界とアメリカ(環球時報社説)

2019.09.11.

2001年の9.11事件から18年になるのに当たり、環球時報は「世界はアメリカを助けたのに、アメリカは世界に恥じるところがある」と題する社説を掲げて、アメリカのメディアがアメリカの対テロ戦争の得失及び現在のアメリカ対外政策上の利害について総括、反省を加えていることを有意義なことだと指摘した上で、アメリカの立場からの評価と世界的な立場からの評価は自ずと異なるとして、後者の立場からの評価を行っています。歴史的民としての中国ならではの評価であることはもちろんですが、それ以上にトランプ・アメリカに対する世界史的観点から行っている厳しい評価は私たちとしても首肯できる内容であると思います。要旨を紹介するゆえんです。

 アメリカの角度からすれば、対テロ戦争は効果的であり、国際テロ組織による9.11式の大規模テロ実行能力は大いにそがれ、アメリカ本土は相対的に安全になった。しかし他方からすると、テロリズムはがん細胞のように世界中に拡散し、世界各地の問題を自分たちの動力及び燃料とすることで、より多くのかつ具体的な目標を得ることにもなっている。
 もっとも重要なことは、世界における憎しみと隔たりは減っておらず、そのことはテロリズムを根治することをますます困難にしているということだ。根治は不可能で対症療法しかなく、そのために各国はテロリズムに対処するために膨大な資源を投入することになっている。仮にこれらの資源を発展途上の国々の経済発展や貧しい人々を援助するために用いることができているならば、世界規模のガヴァナンスはまったく違った展開を示すことができていただろう。
 今日の世界で最強最大の国家であるアメリカは、この世界のハーモニーを増進し、より平和でより秩序だった世界にするために格別な責任を負っていると思う。ところが遺憾なことに、アメリカはそのためにふさわしい努力を払っておらず、その行動・振る舞いはエゴであり、狭量であり、気まぐれであり、さらには野蛮ですらあって、多くの点で国際社会にとっての悪い見本となってしまっている。
 改めて対テロ戦争について見れば、アメリカの国際テロリズムに対する闘いはテロの根治とは結びついておらず、テロ組織を「拡散」させているだけである。近年におけるテロ活動は分散しているのみならず、ますます多発しており、そのことによって各国の深層矛盾は多様化し、参加する過激分子もますます多様化している始末だ。
 中東情勢に関しては変化が生まれており、もともとの内部構造に変化が生まれるとともに、イスラム世界内部の宗派的対立は未だかつてなく突出するようになっている。アメリカはもともとイスラム諸国と対立するイスラエルを支持していたのだが、今では対立する一方を公然と支持し、また、選択的に域内の「民主運動」を支持することによって短期的利益を得ようとし、それによって中東地域全体をますます混乱させている。
 (トランプ政権のもとでの)この2,3年間は、世界中で「アメリカ第一主義」の政策を推進し、過去においては想像することも難しいような、すべてをひっくり返すやり方を取ることで、もともと脆弱な世界秩序に極端なまでの打撃を与え、平和を脅かす様々なリスクが全面的に蓄積される新たなプロセスを生み出している。
 第一に、アメリカは脱冷戦後の協力を主とした大国関係を深刻なまでに破壊し、中国とロシアを戦略的競争相手と公式に宣言し、この新しい定義を行動に移し、クレージーな対中貿易戦争を発動し、国際関係全体に空前の緊張を生み出した。
 第二に、ワシントンはスーパー・パワーとしての責任と義務を履行することを公然と拒絶し、一連の国際条約及びシステムから離脱し、もともとの国際協力をボロボロにし、停滞させ、さらには麻痺させて、グローバル・ガヴァナンスを維持することすら難しくさせている。
 第三に、ホワイト・ハウスは公の交渉において、最大限の圧力と前言の翻しという戦術をこれ見よがしに実行し、国際関係の基本原則を深刻にむしばみ、国際秩序の攪乱者となっている。
 アメリカは、自らの意のままに国際関係及びグローバルな利益配分を再編し、それによって「アメリカ第一主義」原則を根付かせようとしているようだ。しかし、これは一種の傲慢とうぬぼれであり、現代の技術的条件の下で世界がますます混乱するとき、アメリカがこのような混乱を制御し、自らの利益を最大にすることに有利となるような秩序を生み出すことは至難である。グローバル化の時代にあっては、「世界のリスク=第一大国のリスク」なのだ。
 アメリカが様々な分野を引っかき回したことにより、至る所で激動と不確実性とが現れ、自由で開放的な国際経済秩序と軍縮軍備管理システムに基づいた国際的な安全保障の枠組みが粉々になろうとしている。ワシントンが長期的にアメリカの蓄えてきた元手を湯水のように使うことにより、至る所で新たな不満さらには憎しみを生み出している。明らかにこのようなことはアメリカの長期的利益に合致するものではないが、ワシントンの政策決定者はアメリカ・ナショナリズムを煽動することによってこのような非理性的な対外政策を維持しようとしている。
 9.11は巨大な悲劇である。願わくは、18年前の世界が攻撃を受けたアメリカにいかに同情し、これを助けたかについて、ワシントンの政治エリートが真剣に回顧し、今のアメリカのやることなすことが世界に対していかに恥ずべき所作となっているかを考えてほしいものだ。今日の世界はあたかもマンハッタンのトウィン・タワーのごときであり、いかなるものもこのタワーにぶち当たるような破壊力となってはならないのだ。