21世紀の日本と国際社会 浅井基文Webサイト

朝鮮半島情勢:ロシアと中国の動き

2019.06.18.

最近、ロシア発の情報が足りないこと(毎朝チェックするのはロシア大統領府とロシア外務省のWSのみ)に物足りなさを感じて、通信社タスのWSもチェックする対象に加えました(ちなみにイランについても、これまでのチェック対象だったIRNAのWSがアクセス不良になったこともあり、通信社ファルスのWSを対象に乗り換えました)。その効果は直ちに現れました。6月15日、タジキスタンの首都ドゥシャンベで開催のアジア信頼醸成措置会議(CICA)でスピーチを行ったプーチン大統領は朝鮮半島情勢に言及して次のように述べました(同日のタス・ドゥシャンベ電。ロシア大統領府WSもプーチンのスピーチを紹介していますが、私は内容まで詳しくチェックできないでいました)。ここで留意しておくべきことは、プーチンは金正恩との会談後に北京に直行し、習近平と朝鮮半島情勢を含めて意見を交わした事実です。

 プーチンは次のように指摘した。「朝鮮半島情勢に関しては、平和的外交努力以外の方法はあり得ない。」プーチンによれば、この問題解決に関する露中ロードマップは正にそれに基づいている。ロシア指導者は「4月にウラジオストックで金正恩国務委員長と話をしたときもこの考え方に基づいていた」と指摘した。
 同日のタス・モスクワ電は、「モスクワと北京、朝鮮半島に関して新たなイニシアティヴ」と題して、6月17日にモスクワで行われる予定の露韓外相会談について次のように報じました。
 15日のロシア外務省声明(浅井注:ロシア外務省の英文WSには掲載されていません)は、ラブロフ外相と康京和外相は6月17日の会合で朝鮮半島情勢解決のための新たな露中イニシアティヴについて議論するだろう、と述べた。声明は次のように記している。「協調を加速するため、朝鮮半島問題の包括的解決を目的とするアクション・プラン、すなわち露中の新たなイニシアティヴの中で両国が提案した諸措置を十分に議論する予定である。これらの諸措置は2017年の露中共同ロードマップをさらに拡大したものであり、他の当事国もあらかじめ歓迎しているものだ。」
 ロシアと中国は2017年、朝鮮半島核問題を解決するためのロードマップを含むイニシアティヴを提起した。このイニシアティヴには、米韓合同軍事演習の削減と引き換えに北朝鮮がミサイル及び核活動を中止することが規定されている。ロードマップはまた、平壌とワシントンとの対話及びすべての関係当事国による協議を呼びかけている。
 6月17日のロシア外務省の英文版WSは、この日に行われた露韓外相会談後に行われた共同記者会見におけるラブロフ外相の声明を紹介しました。朝鮮半島に関する部分は次のとおりです(ただし、韓露外相会談について報じた同日の韓国・連合通信モスクワ電は以下のラブロフ発言についてまったく言及していません)。
我々は鉄道トランジット及びガス・パイプラインと電力輸送網の建設に関するDPRKとの三国間協力の可能性について議論した。今のところは紙上での議論に留まっているが、朝鮮半島における諸問題解決の進展のための条件を作るため、現実的考慮に値すると確信している。…
 国際問題を議論した際、我々は朝鮮半島情勢および東北アジア全般に特別の関心を傾けた。すべての当事国の間で朝鮮問題解決の交渉プロセスをさらに促進する必要性について共通の理解があった。韓国及びロシアは、朝鮮半島問題解決を促進する唯一の可能な道は平和的、政治的解決を通してであり、このプロセスにおける相互的ステップを起案することであると確信する。
 我々は相手側に対して2017年ロードマップに関する露中イニシアティヴ-朝鮮半島問題の包括的解決に関する行動計画-への関心を呼びかけた。我々はすでにこの問題のカギとなる国々及び韓国を含む主要なパートナー諸国にこのロードマップについて説明している。交渉当事国の立場を近づけるべく、ソウルがかつて行った提案に関する考慮も含めてこれら諸国が議論に参加することを主張した。
 同じ6月17日、朝鮮中央通信は「朝鮮労働党委員長で朝鮮国務委員会委員長である金正恩同志の招請によって、中国共産党中央委員会総書記で中国国家主席である習近平同志が6月20日から21日まで、朝鮮を国家訪問する」という短い文章で習近平主席の朝鮮訪問を報じました。この報道が示すように、党関係が国家関係に先行することを受け、中国では中共中央対外聯絡部が同日、習近平の朝鮮に対する公式訪問に関するメディア・ブリーフを行いました。内容概要は以下のとおりです。
 中聯部の宋涛部長と外交部の羅照輝副部長(浅井注:駐日大使になった孔鉉佑の後任者)が党総書記・国家主席の習近平の朝鮮に対する公式訪問に関して紹介した。
宋涛は次のように述べた。金正恩労働党委員長・国務委員会委員長の招請に応じ、習近平党総書記・国家主席が6月20日から21日に朝鮮を公式訪問する。今回訪問は、我が党・国家の最高指導者による14年ぶりの訪朝であり、18回党大会以後における習近平の初めての訪朝である。この訪問は中朝国交樹立70周年に当たっており、両国関係にとって重要な意義を有する。
 宋涛は次のように指摘した。過去1年に満たない間に習近平は金正恩と4回会見し、中朝関係、半島情勢等について突っ込んだ意見交換を行い、一連の重要な共通認識を達成し、中朝関係は新たな一ページを開いた。
 宋涛は次のように指摘した。双方は半島における対話と緊張緩和という得がたい流れを大切にし、半島非核化実現という方向を堅持し、半島の平和と安定を擁護し、対話協議を通じて半島問題を解決することを促す。中国は、経済発展、民生改善に精力を集中し、自国の国情に合致した発展の道を確固として歩むという朝鮮が実施する新戦略路線を支持する。両国指導者は、過去70年の両国関係発展プロセスを総括し、新時代の中朝関係発展について突っ込んだ意見交換を行い、両国関係の今後の方向を導くことになる。双方は半島情勢についてさらに意見交換を行い、半島問題政治解決プロセスが新たな進展を得ることを推進する。
 羅照輝は中朝両国の各分野における協力状況を紹介し、中朝関係及び両国人民の友誼の長期かつ安定的発展は地続きという地縁的優位性並びに良好な政治関係、民間の友好的基礎及び経済的相互補完性に基づくと述べた。本年双方は中朝国交樹立70周年を祝う一連の活動を行い、歴史を回顧し、将来を計画することを通じて、新時代の中朝関係の発展に新たなエネルギーを注入することを取り決めている。
 中国側の以上の発表内容からはロシア(プーチン及びラブロフ)が強調した中露ロードマップに関連する言及は見つかりません。しかし、6者協議の中露両国代表による協議を含め、中露両国は朝鮮半島問題について、トップ・ダウンで足並みをそろえたアプローチを行っていることは疑問の余地がありません。南北首脳会談及び米朝首脳会談もトップ・ダウンで進められてきたことをあわせ考えるとき、今後の朝鮮半島情勢は総じてトップ・ダウンで進められることが予想されます。この点は過去にはない大きな特徴です。
 私は6月8日のコラムで、金正恩・朝鮮が二つの可能性(米朝直接交渉と多国間協議方式)について二段構えで対米交渉に臨もうとしていると指摘しました。この指摘に関しては次のことを付け加えておく必要を感じています。それは、この二つの可能性は対立するものというわけでは必ずしもなく、相互補完的でありうるということです。
 そもそも2003年に開始された6者協議においても、北南、朝米、朝日の二国間関係については二国間の交渉・解決が織り込まれていたわけです。現在の状況でも、例えば大統領選挙に向けた「実績」作りの一環として朝鮮との間で成果を上げたいとトランプが判断し、金正恩が6月12日(第1回首脳会談)に親書を送ったチャンスを捉え、新たな合意を行うこととなれば、それを新たな起点として次なるステップ(さらなる直接交渉あるいは新たな多国間協議)を考えればいいわけです。プーチン・ロシアも習近平・中国も、いずれは多国間協議方式に持ち込まなければいわゆる朝鮮半島問題の全面的解決はあり得ないと判断しているわけですが、米朝直接交渉が進展すること自体には異議があるわけではありません。
 ちなみに韓国外交部は6月17日、ロシアを訪問中の康京和外相が6月16日にポンペイオ国務長官と電話会談し、6月末のトランプ訪韓について協議したことを発表しました(連合通信ソウル電)。以上の諸事実を背景にしてみるとき、アメリカも多国間協議に向けた中露両国の積極的姿勢に直面しつつあることは間違いないでしょう。もちろん、トランプがポンペイオ、ボルトンを泳がせる姿勢を崩さない限りはいかなる進展も考えられません。しかし、とにかく大統領選挙に向けた「実績」作りで動いているトランプです。トランプはありとあらゆる選択肢をテーブルに乗せているでしょうし、その選択肢の中にトップ・ダウンの典型としての「朝鮮半島問題に関する関係諸国首脳会談・会議」が含まれるとしても驚くべきことではありません。私たちにとって必要なことは、トップ・ダウンを特徴とする現在の朝鮮半島情勢のもとではいかなる可能性(たとえ外交的常識では考えられないとしても)にも対応できる柔軟な思考力・判断力を備えておくことだと思います。