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「安倍外交」のお粗末な本質
-対イラン「仲介」外交-

2019.06.08.

トランプ大統領が訪日中に、安倍首相のイラン訪問の可能性が両者の間で取り上げられたという報道に接したときは、正に絶句、二口がつけない思いでした。報道(AFP)によれば、トランプは「イランは交渉を望んでいると信じており、イランが望むのであれば我々も交渉したい」、「安倍とイラン指導層との関係は非常に緊密であることを知っている」、「誰も恐ろしいことが起きることは望んでおらず、自分は特にそうだ」と述べたといいます。イラン放送WSは5月27日にトランプの訪日中の発言とともにハメネイ師のこれに対する反応を次のように報道しました(要旨)。

 トランプはイランの政権交代を求めてはおらず、むしろ交渉したいと述べて、一時期の好戦的なトーンの変更のシグナルを送った。トランプは安倍とイランとの良い関係を利用して自分が作り出した危機から抜け出す方途を見つけようとした。トランプは安倍首相が仲介者として動くことができるとも述べた。トランプは「首相及び日本はイランと非常に良い関係を持っていることを知っており、何が起こるかを見てみよう」、「安倍首相はそのことについて私に述べたし、イランが話したいことも知っている。もしイランが話し合いたいならば、我々も話し合いたい」「どうなるか見てみよう。誰も恐ろしいことが起きるのを見たくはない」と述べた。…
 ハメネイ師は最近行った演説の中で、アメリカとの交渉は「有害」だと述べた。「アメリカが今のままである限り、交渉は毒のようなものであり、現政権との間ではさらに有害だ。」「イラン国民の断固とした選択はアメリカに対する抵抗であり、この対決においてアメリカは退却を強いられるだろう。」
 イランの内外政策の最高決定機関であるイラン最高安全保障委員会(the Supreme National Security Council (SNSC) of Iran)のスポークスマンであるケイヴァン・ホスラヴィ(Keivan Khosravi)は6月6日、イランの通信社Farsに対して記したメモにおいて次のように述べました(翌7日付のFNAが「安倍のテヘラン訪問の成功を保証するのはアメリカを核合意に引き戻すことと制裁の撤廃」というタイトルで報道したものの内容)。ちなみに、SNSCはイラン憲法第176条に基づいて1989年に設立された機関であり、国家安全保障政策の決定、国内政策の安全保障政策への同調確保、脅威からイランを防衛するための資源配分の3つについて責任を負っています。またSNSCの決定は最終的に最高指導者ハメネイ師の確認を経なければならないとされています。SNSCのメンバーは12人であり、シャムハーニ(Shamkhani 秘書長兼最高指導者代表)、ロウハニ(Rouhani 大統領)、ラリジャーニ(Larijani 議会議長)、ザリーフ(Zarif 外相)、ライシ(Raisi 司法長官)、ジャリーリ(Jalili 最高指導者代表)、バケーリ(Baqeri 軍参謀長)、サラーミ(Salami IRGC司令官)、ムサヴィ(Mousavi 陸軍司令官)、ファズーリ(Fazli 内相)、アラヴィ(Alavi 情報相)、ノバクト(Nobakht 計画予算機関局長)によって構成されています(以上、United States Institute of PeaceのWSによる)。
 SNSCのホスラヴィ報道官は、安倍首相がアメリカを核合意に引き戻し、ワシントンの制裁を取り除く努力を行うという二つの原則が、彼の来たるべきテヘラン訪問の成功を保証することができると述べた。
 ホスラヴィ報道官はFNAに対して書いたメモの中で、「イラン・日本関係は政治経済分野でバランスのとれたかつ安定したレベルと発展とを保ってきた」と記した。彼は、「外交政策における日本のアプローチは国際社会によって承認された法的政治的規範を支持することに基づいている」と強調し、東京は「外交政策において過激主義及び無気力という傾向とは多くの場合において無縁である」と付け加えた。彼はまた、「国際システムにおける日本の政治的経済的立場を確保し、高めることは、国民のアイデンティティで織り交ぜられた日本の資産であり、日本が強くこだわり、従ってきたものである」と強調した。
 イランの安全保障担当高官は、「安倍晋三の来たるべきテヘラン訪問は、様々な分野における両国関係を強化し、拡大する上で間違いなく重要な出来事である」と特記した。ホスラヴィは、「日本の行政トップは同国の政治的信頼性を増進する機会を捉えることは間違いないだろう」と強調した。彼は、「安倍晋三はアメリカが権限を与えた仲介者としてイランを訪問するといわれている」とし、「アメリカをJCPOAに復帰させ、国際社会に受け入れられてきた原則である、イランに加えられた損害を補償させ、ワシントンのイランに対する域外制裁を取り除かせる努力を行うことが、この訪問の成功を保証することができる」と強調した。
 私が疑問に思うのは、安倍首相が果たしてイラン側の以上の極めて高い「期待値」を理解し、認識した上でイランを訪問しようとしているのかということです。「安倍外交」の中身のなさについては最近の朝日新聞の特集記事においても指摘されるに至っています。プーチン大統領との間で6月までに平和条約についての基本合意を取り付けると大言壮語していたのに、ロシア側の問題意識(安倍首相が日米同盟のもとでアメリカに追随し、自主独立のかけらもないことを見抜いているロシア)の前にあえなく雲散霧消したこと、トランプの対朝鮮前のめりに直面して、「拉致問題の解決なくして日朝国交正常化なし」と言い張ってきたのに、今では唐突に前言を翻して「無条件で金正恩と話し合う用意がある」と言い出していること(朝鮮は鼻から信用せず相手にもしていない)、対日要求の構えにあるトランプ政権に対して接待・「おもてなし」外交で参議院選挙後まで待ってもらおうとする「その場限り」外交等々、私は「安倍外交」の中身はスカスカで何の実体もないと判断せざるを得ません。そして今回の対イラン「仲介」外交です。
 確かに日本はこれまでイランとの間で友好的な関係を維持してきました。この大切な財産は今後の両国関係にとっての大切な財産です。その大切な財産を、トランプに対して「いい顔」をしたいだけのために「浪費」するのはとんでもないことです。もちろん、安倍首相がイラン側の要求(アメリカのJCPOAへの復帰及び対イラン制裁撤廃)を踏まえてトランプ政権に対して働きかけを行う意思を持っているならば話は別です。しかし、どう見ても安倍首相がそれだけの意思、決意を持っているとは考えられません。言ってみれば、アメリカに対して徹底的な不信感を抱き、しかもトランプ政権の軍政経全面にわたる強圧政策に全面的に身構えているイランに対して、極楽とんぼさながらに「御用聞き」に伺う脳天気の極致なのです。
 しかも安倍首相の脳天気ぶりは、ロウハニ大統領だけではなく最高指導者ハメネイ師との会見まで要求する厚かましさにまで昂じています。さらにあきれてものも言えないのは、安倍首相は事前にイスラエルのネタニヤフ首相と電話会談し、イラン訪問について「理解を求めた」ということです。イランにとって、ネタニヤフ首相はある意味ではトランプ大統領以上に絶対に赦すべからざる存在です。しかも念の入ったことに、安倍首相はサウジアラビア及びUAEの指導者とも事前に連絡を取って「理解を求める」と言われています。サウジアラビアとUAEはアラブ諸国の中での反イラン急先鋒であり、近年イスラエルと反イランで急接近中です。こうしたことを秘密裏に行うのであればまだ情状酌量の余地があるのかもしれませんが、日本のメディアがおおっぴらに報道しているところを見ると、安倍首相としては「自らのきめの細かさ」を自慢しているつもりかもしれません。しかし、イランからすれば、「安倍は一体何をしに来るつもりなのか」と不信感を昂じざるを得ないでしょう。
 安倍首相の中身空っぽの「パフォーマンス外交」は、来る参議院選挙(あるいは「対イラン訪問外交」を成果にして衆参同日選挙も目論んでいる?)対策なのかもしれませんが、百戦錬磨のハメネイ師及びロウハニ大統領の目をごまかせるはずはありません。私の個人的気持ちとしては、安倍首相が「仲介」役を果たせる能力も意思もないことを見越して、また、安倍首相のネタニヤフ首相(及びサウジ、UAE)との「事前了解取り付け」に嫌気がさして、イラン側から安倍首相のイラン訪問「延期」を通報してきてくれないかな、というところです。

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