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人民日報・鐘声署名文章-アメリカ「必敗」9篇-

2019.06.01.

5月27日のコラムで、中国共産党機関紙・人民日報が米中貿易戦争に関して本格的にアメリカ・トランプ政権批判に乗り出したことを紹介しました。その段階ではアメリカ「必敗」を副題とする文章は5月23日(「規則無視」)、24日「零和博弈」)、25日(「逆勢而動」)及び26日(「拒絶競争」)の4篇でしたが、その後も27日(「唯我独尊」)、28日(「双重標準」)、29日(「言而無信」)、30日(「一意孤行」)、31日(「自作聡明」)と5篇のアメリカ「必敗」論が立て続けに発表されました。そして6月1日に以上9篇の文章を要約する文章が人民日報海外版に掲載されました。その冒頭の文章は以下のとおりです(5月27日のコラムでは新華社が紹介した日にちに拠っていましたが訂正します)。

 5月23日から31日まで本紙は連続で鐘声署名評論を発表した。評論は、ルール無視、ゼロサム・ゲーム、趨勢に逆らう動き、競争拒否、唯我独尊から、信用のない言辞、独断専行、独りよがりまで、アメリカが何が何でも「とことんやる」というのであれば、それは自暴自棄の道を選んだということであり、その道の終着点は失敗ということしかない、という認識を示した。
 その上でこの総まとめの文章は9篇の文章それぞれについて要約を行っています。重要な指摘の部分を簡単に紹介します。私がもっとも重要だと思うことは、①「ならぬ堪忍するが堪忍」で対米交渉に臨んできた習近平・中国は今や持久戦を覚悟しているということ、したがって②トランプ政権がこれからも従来どおりの対中アプローチをとり続ける限り、中国としては絶対に屈することはあり得ないこと、そして③トランプ政権が米中貿易戦争を終結させるためには根本的な戦略転換(戦後アメリカが主導して作り上げてきた国際経済貿易ルールに回帰すること)に応じる以外にないこと(具体的には、劉鶴副首相が提起した3つの条件-加徴関税の廃止、中国の対米輸入額に関する米中首脳間合意への回帰、協定規定における対等平等性-の受け入れ)、以上3点です。
<5月23日「国際秩序は勝手気ままな行動を許さない-ルール無視は必ず失敗する-」>
 1年来のアメリカの行動はまるで「陶器店内に突進してきた牛」みたいなもので、ルールを基礎としたマルチの貿易システムをかき乱し、国際社会最大の「問題児」になった。中米貿易戦争発端の本質は、アメリカがWTOの紛争解決メカニズムを迂回し、米国内法に基づいて貿易摩擦を引き起こしたことにある。これは自らが承認したWTOルールの無視したわがままだ。しかしヘゲモニーの時代はもはや戻っては来ない。ルールを基礎としたマルチ貿易体制は国際社会の根本的利益である。アメリカの傍若無人は人心を得るものではなく、最終的には何も得ることはあり得ない。
<5月24日「公平な協力のみが正しい選択-ゼロサム・ゲームは必ず失敗する-」>
 (人が取り返しのつかない災難に陥るのは往々にして自らの愚かさの故である、という西側歴史学者の言をひいて)冷戦思考、ゼロサム・ゲーム時代の思考に留まっている米政治家は正に今日の例証である。覇権追求が世界を熱戦、冷戦に陥れ、人類に深刻な災難をもたらした。そういう苦難を経たからこそ、人類は協力共嬴、共同福利を大切にするようになった。今日の世界、国家関係は相互依存、人類運命共同体である。中国の発展は自国人民が良い日々を送るようにするためであり、世界各国の人民にも良い日々が送れるようにすることができ、誰々とゼロサム・ゲームを行うというものではない。これは歴史の正義、世界の潮流を代表するものであって、誰もこれを阻止することはできない。ゼロサム・ゲーム及び冷戦的発想で国際関係を処理しようとするアメリカは自ら「戦略的落とし穴」に落ち込むことになるだけだ。
<5月25日「暴風豪雨も大海をひっくり返すことはできない-勢いに逆らって動けば必ず失敗する-」>
 アメリカの記者ジョージ・パーカーは「グローバル化を拒否するのは太陽が昇ることを拒否することだ」という警告をしたことがある。ところが一部の米政治家は「グローバル主義ではなくアメリカ第一主義が我が信条だ」と公然とうそぶいている。しかし、「他人のろうそくを消そうとして自分の髭を焼く」というように、貿易戦争は「米国商品すべての値上がり」「消費者負担」をもたらしている。2018年の米農民の純所得は前年比-16%と10年前の国際金融危機発生当時の水準に下がっている。WTOは2019年の世界貿易成長率を3.7%から2.6%に引き下げた。世界の流れは蕩々たるものがあり、従えば栄え、逆らえば滅びる。今日の地球村はかつての原始村ではなく、鎖国して過ごす日々はもはや戻らない。世界経済という大海を孤立した湖沼、小河川に引き戻す試みには出口はない。歴史の潮流に逆らえば必ず失敗する。
<5月26日「科学技術覇権の行動は発展進歩を阻害する-競争を拒絶すれば必ず失敗する-」>
 世界の科学技術強国であるアメリカは科学技術発展のルール及び市場競争の利点を分かっているはずなのに、今の米政治家はこの常識を無視し、ノーマルな科学技術協力と市場競争に人為的に干渉している。干渉する口実が見つからないと「国家安全保障」を持ち出す。しかしそれは中国企業を弾圧し、中国の科学技術の発展を押しとどめるための口実に過ぎない。これこそは「自分の発展だけを認め、他人の進歩は許さない」という覇権的心理状態に他ならない。市場経済の基本的特徴は競争である。強権とヘゲモニーで中国の科学技術の進歩を押しとどめようとしても無駄なことだ。
<5月27日「強権をもてあそべば道理に外れ支持を失う-唯我独尊は必ず失敗する-」>
 西側のことわざに「自らを知ることはもっとも得がたい知識だ」というものがある。ところが米政治家は己が分からず、世界の大勢も分からず、唯我独尊、強権政治の古くさい道にしがみついている。その根本原因は「強権即真理」の旧観念を相変わらず信奉し、世界観が「ジャングルの法則」時代のままで、国家関係については「文明衝突」の旧思考に留まっていることにある。また、米国内の不平等の原因は自らの間違った政策にあるのであって、経済のグローバル化のせいにするべきではない。人類の歴史が今日まで発展した中では、相互尊重、互利共嬴こそが各国共存の道である。
<5月28日「「アメリカ例外」は有害な文明優越論-ダブル・スタンダードは必ず失敗する-」>
 「アメリカ例外」の本質は一種の文明優越論である。その根底にあるのはヘゲモニー的発想だ。アメリカのダブル・スタンダードは夙に国際社会の知悉するところとなっている。相互依存がますます緊密になっている地球村で各国に求められるのはルール意識の強化であり、協力を通じて人類社会が直面するリスクと挑戦に共同で対処することだ。コロンビア大学のジェフリー・サックス教授が言うとおり、「アメリカ例外」論はアメリカを「21世紀のならず者国家」にする可能性が大きい。
<5月29日「信用破産は最大の破産-口先だけで約束を守らなければ必ず失敗する-」>
 中米貿易交渉の中でのアメリカの口先だけ、コロコロ変わるスピードは本のページをめくるよりも速い。その原因はおそらく、国家間の交流を純粋な商売投機活動と見なし、国家間ではゼロサム・ゲームしかないと間違っていることにある。こうした政治家が考えるのは如何にして自分の利益を最大にするかということだけだ。しかし世界経済という大海の中では、頼るものは信用という帆と規則という錨である。相互信用こそが国際関係における最良の接着剤だ。ワシントンの政策決定者は言行一致、表裏一体、信用を重視し、約束を守るという軌道に戻らなければならない。
<5月30日「壁にぶつからなければ引き返さないとでもいうのではあるまい-独断専行は必ず失敗する-」>
 米国内でもこのような独断専行には各界からの厳しい非難と反対がある。最近も、アディダス、ナイキ、ピューマ等靴製造業者・販売業者170社以上が連名で米国の加徴関税は米消費者、靴製造業者及び米経済に深刻な結果をもたらすと指摘する書簡を送った。アメリカが華為に対する禁止命令を出すと、欧州の多くの国々と政治家が明確に反対したのはなぜだろうか。道義にかなえば助けが多く、道義に背けば助けは得られない。
<5月31日「あらゆる計略をめぐらしてもむなしいだけ-独りよがりは必ず失敗する-」>
 アメリカの独りよがりは様々な小細工を弄してより多くの利益を獲得しようとするものに他ならない。アメリカは全世界に向かって発砲すると同時に自らに対しても発砲している。アメリカの独りよがりの根っこにあるのはゼロサム・ゲームの発想だ。しかしアメリカはほかの国々が核心的利益を擁護する能力と決意を過小評価している。歴史を読めば直ちに明らかなように、真の知恵は協力共嬴にあり、独りよがりの道はますます狭くなる。米政治家が歴史の大勢を理解できなければ、いかなる計略をめぐらしてもむなしい結果に終わることは間違いない。