第11回米中貿易交渉
-堪忍袋の緒を切った中国の自信-

2019.05.18.

第11回米中貿易交渉開始直前(北京時間5月6日早朝)にアメリカが突然2000億ドルの対中国輸入品目の関税を10%から25%に引き上げることを公表しました。中国はそれでも予定どおりに劉鶴副首相をアメリカに派遣して同交渉(9日-10日)に臨みました。交渉終了後、劉鶴副首相は中国メディアを相手にこの交渉に臨む中国の基本的考え方を明らかにしました。5月11日付人民日報ワシントン電は劉鶴発言を大要次のように紹介しました。

 劉鶴は交渉終了後メディアに対して次のように述べた。中米関係は極めて重要であり、経済貿易関係は中米関係の「バラスト」及び「プロペラ」であり、両国関係だけではなく世界の平和及び繁栄にもかかわっている。協力こそが双方にとって唯一の正しい選択であるが、協力には原則があり、重要問題の上では中国は絶対に譲歩しない。…中国はアメリカの関税加徴のやり方に強烈に反対であり、これは中国及びアメリカにとって不利であるだけではなく、世界全体にとっても不利であり、中国は必要な対抗措置をとらざるを得ない。
 劉鶴は次のように強調した。双方の協議は必ず平等かつ互利でなければならず、重大な問題の上では中国は決して譲歩しない。現在、双方は多くの点で重要な共通認識を達成しているが、中国にとっての核心的利益である3つの問題は必ず解決されなければならない。一つは加徴関税をすべて取り消すことだ。関税は双方の貿易紛争の起点であり、交渉を達成するのであれば、加徴関税はすべて取り消さなければならない。二つ目は貿易購入額の数値は実際に符合する必要があり、双方がアルゼンチン(米中首脳会談)で貿易購入額についてすでに達成した数値に関する共通認識は勝手に変更するべきではない。三つ目は取極めの文章のバランス性を改善することであり、いかなる国家にも自らの尊厳があり、協定の文章は必ずバランスしたものでなければならず、現在なおいくつかのカギとなる問題については議論する必要がある。…双方の交渉がなお進行中の過程で勝手に「後退」したと非難するのは責任ある態度とは言えない。
 劉鶴は次のように述べた。中国にとってもっとも重要なことは自分のことをしっかりやることだ。中国国内市場の需要は巨大であり、サプライ・サイドの構造改革を推進することによって製品及び企業の競争力は全面的に向上し、財政及び通貨政策には十分な空間があり、中国経済の前途については非常に楽観している。大国の発展プロセスにおいて一定の曲折が現れることは良いことであり、我々の能力を検証することができる。習近平同志を核心とする党中央の確固たる指導の下、信念をうち固め、共同で努力すれば、いかなる困難も恐れることはなく、経済の持続的で健康的な発展という良好な状態を維持することができる。
 この劉鶴発言後、人民日報、新華社、環球時報以下の中国主要メディアは堰を切ったように米中貿易交渉に関する中国の立場を明らかにしました。これらの論調を通観する中で私がもっとも深く印象づけられるのは中国の揺るぎない自信ということです。この自信を支えるのは、①中国が21世紀国際政治経済関係の主潮(多国間主義、経済のグローバル化、国際関係の民主化・対等平等な国際関係)を代表している一方、トランプ政権の「アメリカ第一主義」は21世紀国際関係の主潮に対する異端であって長続きするはずはないという「歴史は自らを貫徹する」という確信、②中国経済の「能力・定力・韌力」、③「中国の特色を持つ社会主義」の制度的優越性及び「トップダウン設計」(中国語:「頂層設計」)を重視する習近平・党中央の指導力、そして④40年以上に及ぶ実績に裏付けられた改革開放政策(及びこれを揺るぎなく推進してきた中国共産党)に対する国民的支持です。
「歴史的法則」については、歴史的弁証法を踏まえるものであればともかく、「いま」にしか関心を持てない多くの日本人にとっては理解が難しいことでしょう。また、「中国経済の底力」「社会主義の制度的優越性」及び「中国共産党に対する国民的支持」に関しては、こと中国に関してはすべて疑ってかからなければ気が済まない今の多くの日本人にとっては「眉唾」の類いに属するとも思います。しかし、私たちが「日本的常識」というモノサシに固執する限り、米中貿易交渉(ひいては国際関係全般)に臨む中国の以上の自信の所在を理解・認識することは不可能だと思います。逆に言えば、中国の自信がホンモノであることを理解・認識するためには、私たちとしては「他者感覚」を働かせることが不可欠なのです。以下では、2つの文章(要旨)を紹介します。経済は素人なので、訳が適切でないところが多々あると思いますが、その点は大目に見てくださるようお願いします。
<5月13日付新華社評論員文章「風雨を恐れず全力で前進する」>
 中米の経済貿易摩擦を正確に認識するためには、中米関係発展の歴史的プロセスの中で見る必要がある。…
 世界は今過去100年でもかつてない大きな変化の中にある。ガヴァナンス、信任、平和、発展における赤字等の深刻な挑戦に直面し、人類の発展における十字路にあってどこに向かうのかという選択にも直面して、各国は天下を以て己の任とするという担当精神を持ち、発展のチャンスを共有し、ともに麗しい未来を創造するべきである。持続的平和、普遍的安全、共同の繁栄、清潔で美しい世界を建設し、人類運命共同体に邁進することが人類の出口及び希望の所在である。
 風雨を経ることなしにどうして虹を見ることができようか。中国の発展の道は決して順風満帆ではなかった。…大国の発展プロセスにおいて曲折が現れることは良いことであり、我々の能力を検証することができるし、さらには意志を磨き、能力を鍛錬することができ、より良い未来を勝ち取ることができる。リスクとチャレンジに直面して、新時代の中国は確固として改革開放を深化し、確固として人類運命共同体の構築を推進し、冷静沈着、淡々として従容に、全力で前進する。
 我々の確信は中国の発展に関する確かな実力と巨大な潜在力に由来する。習近平を核心とする党中央の確固とした領導、中国の特色ある社会主義の制度的優越性、全国人民の団結と奮闘、それがリスクとチャレンジに向き合う我々の最大の優位性と根本的保障である。…2018年には我が国経済は90兆元の大関門をクリアし、人口一人あたりのGDPは1万米ドルに近づいた。中国は今や「世界の工場」であるとともに「世界のマーケット」でもあり、世界で規模が最大で、成長がもっとも速い中間所得層を擁し、消費増大の潜在力は巨大である。多くの事実が証明するとおり、中国経済は韌性が強く、潜在力が大きく、後ろ盾も十分という基本を備えており、世界第2位の経済体である中国はショック及びリスクに対して強大な抵抗能力を備えている。
 我々の底力は改革開放を深化させるという確固とした選択に由来する。これまでの間に、雇用、金融、貿易、外資、投資、未来予測の安定にかかわる一連の政策的措置を講じ、サプライ・サイドの構造改革を着実に推進し、経済の質的発展を推進してきた。一国主義、貿易保護主義の台頭に対して、中国は確固として互利共嬴の開放戦略を奉じ、初めてとなる国際輸入博覧会を挙行し、外商投資法を制定し、関税の水準を引き下げ、外資による市場への進出許可を拡大し、各国の発展に対する新たなチャンスをもたらした等々、風にさらされ波に打たれてもしっかりとして微動だにしない。我が国の発展は引き続き長期にわたって重要な戦略的チャンスに遭遇する時期にあり、時と流れは我が方にある。戦略的定力を維持し、発展の信念をうち固め、改革開放という「カギとなるカード」を巧みに用い、確固として自らのことを巧みに行うことにより、中国経済は必ずやより明るい発展の未来を迎えることになるだろう。
<5月14日付光明日報所掲、中央党校マルクス主義学院院長・張占斌署名文章「大国の優位性と潜在力を持続的に解放する中国経済」>
 我が国経済の突出した優位性の特徴は韌性が良好、潜在力が十分、融通性が大きいということだ。
〇中国経済発展の韌性が良く、調整適応能力が強い
 経済発展の韌性が良いとは、経済発展における調整適応能力が大きいこと、並びにリスクに対する抵抗制御能力も強く、困難及びリスクに見舞われたときに適時に有効な措置をとることができ、経済が速やかに正常状態に回復することを推進できることを指す。
中国経済発展の韌性が良いことの原因は総合的なものだが、もっともカギとなるのは以下の3点である。
(1)中国の特色のある社会主義制度の優位性は経済の持続的かつ安定的発展を実現する重要な保証である。党の領導は中国の特色のある社会主義のもっとも本質的な特徴であり、中国の特色のある社会主義制度の最大の優位性である。…特に改革開放の40年、正に党の領導のもと、我々は経済建設を中心とし、経済制御能力を不断に高め、経済政策決定の効率及び工作執行力を不断に強化し、我が国経済は様々なリスク及びチャレンジに対応する非常に強力な能力を備えるに至った。例えば、マクロ・コントロールの領域においては、多年にわたる改革の模索を経て、市場経済のエネルギーを解放することに注力してそのマクロ・コントロールにおける重要な役割をより良く発揮せしめ、マクロ・コントロール政策において「ジャブジャブ灌漑」を行わず、「しずく灌漑」「噴水灌漑」によることで、政策の実行をより精緻で、弾力的、有効的にし、これに加え、各レベルの政府の改革も不断に鍛えることによって、政策執行水準を不断に高めた。
(2)改革開放は、時代とともに前進し、不断に前進する動力を取得する勝利の決め手である。…40年来、異なる時期に直面する矛盾及び主要任務に即し、改革開放を通じて不断に社会主義市場経済システムを改善し、生産力を解放、発展、保護し、改革のボーナスを有効に放出し、経済発展を推進した。…マクロ経済の発展を実現すると同時に経済の調整適応能力も不断に増強した。1998年のアジア金融危機に際しても2008年のサブプライムローン危機に際しても、我々は改革を通じて経済発展のカギと突破口を見いだし、最終的には危機の中に機会を見いだし、危険をチャンスとなし、危機を転じて安定とした。
(3)経済構造の最適化及び産業構造の高度化に依拠して新しい時代における経済発展の安定性と弾力性を強化した。18回党大会以後、サプライ・サイドの構造改革を不断に深化し、イノベーション主導を強化し、経済構造の重要な変革を効果的に推進した。すなわち、経済成長は従来の工業主導型から工業及びサービス共同主導型に転換した。本年(2019年)第1四半期においては、第二次及び第三次産業の付加価値が国民総生産に占める比重は96%に達している。経済牽引力は投資主導型から消費及び投資共同主導型へ転換した。さらに、我が国はすでに輸出大国から輸出入重視大国に転換している。…「一極独大」から「双輪駆動」への構造的変化は経済発展の安定性及び弾力性を極大的に増強せしめた。
〇中国経済発展の潜在力は十分であり、安定的に成長する広大な空間を有している
 中国経済発展の潜在力が十分であるのは、経済が安定的、持続可能的に発展することを支えるのに必要な様々な条件が十分であり、経済が質の高い発展を遂げるための広大な上昇空間を有しているからである。
(1)市場資源空間が広大である。…14億近い人口、9億の労働力、8億のネット・ユーザー、1.7億の高等教育を受け、技能を有する人材資源、1億以上の市場主体‥はグローバルな経済競争に参与するための重要な競争的優位性である。「市場が決定し、政府がかかわる」という要求に基づき、経済が安定的に成長するための膨大なエネルギーを放出することができる。
(2)内需潜在力が持続的に旺盛である。世界銀行の区分基準に基づけば、我が国の4億人以上が中間所得層のレベルにあり、消費環境の改善と供給における質の向上がともに改善するに従い、消費需要増大の潜在力特に住民消費増大には大きな空間がある。投資面では、本年第1四半期の固定資産投資は対前年同期比+6.3%であり、その伸び率は対前年比で+0.4%と、いっそう落ち着いている状態にある。他方で、インフラ及び民生部門のボトルネック解消の空間は相変わらず大きく、広大な中西部及び辺境地区の交通条件は引き続き遅れており、多くの地域の水利インフラも遅れが大きく、都市の地下パイプ網改造、農村道路の舗装、ゴミ汚水処理、農村家屋の抗震性強化、農村送電網改造等のインフラ建設の投資需要も相変わらず大きくかつ切迫している。次のステップとしては、精緻な脱貧及び汚染防止というハードコアの戦いがあり、カギの分野及びウィーク・ポイントに照準を定め、着実に弱点を補強するなど、投資増大を促進するさらに多くの内発的動力を生み出していく。
(3)新たな活力がみなぎっている。イノベーション主導型発展戦略の実施、大衆創業及び全民イノベーション政策の推進は社会全体の創業イノベーションという新たな活力を大いに生み出している。2018年、我が国の研究開発投入額はアメリカに次いで世界第2位であり、研究開発費総額は1兆9657億元に達し、対前年比+11.6%、総体経済の約2.18%を占め、すでにEUの平均水準を超えている。創業イノベーションは過去の人口有利性から人材有利性への転換を推進しており、これによって経済発展の活力、動力、潜在力が解放され、我が国経済のイノベーション力及び競争力を大いに向上させ、複雑な情勢に対処する能力を効果的に向上させるだろう。
〇中国経済発展の融通性の余地は大きく、戦略的縦深を備えている
 中国経済の融通性の大きさは、経済発展の傾斜度が際立っており、経済発展の進退空間が巨大であることに現れている。
(1)発展空間が大きい。中国の国土面積は約960万平方キロであり、地域的発展の傾斜度が明確である。一連の重要な地域発展戦略の効果的な実行及び地域協調発展の推進深化に伴い、発展のための潜在力を一段と解放し、新たな地域の成長を育成する伸びしろを高めた。本年第1四半期においては、東部、中部、西部及び東北という4大セクターは良性の相互作用を実現し、北京・天津・河北省の協同発展にも新たな進展があり、長江経済ベルト地帯の発展が加速し、長江デルタ一体化も着実に進展し、マカオ・香港・広東省大湾区発展計画綱要が発表され、海南自由貿易区も秩序だって建設が進むなど、空間的発展パラダイムはますます最適化に向かって進展している。このほか、地域ごとの発展レベルや直面している問題に大きなばらつきがあることは往々にして多くの発展チャンスを創造することを可能にしている。例えば、沿海地域で発展の優位性を失った産業でも内陸地域では相変わらず大きな発展空間を備えている。また、ある地域において大きな構造改革によって経済の下降圧力に直面したとき、ほかの地域では問題露呈が早く構造改革への取り組みが早く、構造高度化の効果で安定的成長に入っていることで、その効果的な発展の経験を下降圧力に直面している地域に輸出することによって、全体の発展水準を高めることができる。
(2)産業分野が網羅的である。…我が国は現在世界で唯一、国連産業分類に基づくすべてのカテゴリーの工業を擁する国家であり、世界の500の主要工業製品の220において生産量が世界トップであり、しかもサプライ・チェーンが極めて完備している。工業化によって重厚な物質的基礎が蓄積されており、我が国は他の国々が比肩できないだけの産業サポート力、技術成果転化力及びリスク抵抗力を擁しており、仮に一定の業種が外部からの影響を受けても、他の業種の発展強化を通じて、その業種の困難克服を補填、促進、支持することができるだけでなく、経済全体に対する影響にも有効に対処することができる。
(3)マクロ・コントロールの余地が大きい。市場経済は適時かつ適度に反循環的調節及び選択を必要とするが、我が国政府のマクロ・コントロールの「道具箱」には多くの政策的蓄積があり、選択に供することができる工具が多い。そのため、「複数の手段で対処する」こともできれば、目的対処型の施策もできる。1月~4月の公表された統計に基づけば、今後さらなるマクロ・コントロールを行う融通性は十分である。すなわち、この間の減税によるコスト・ダウン後の一般公共予算収入は+5.3%の伸びであり、財政政策には相変わらず十分な融通性があることが分かる。4月のCPIは2.5%の穏やかな伸びであり、M2は前年同期比で+8.5%であって、安定した物価及び先行指数から見て通貨政策にも幅を残している。この間の輸出入の伸びは+4.3%、4月末現在の外貨準備は3兆950億ドルであり、国際収支は引き続き安定的に推移しており、貿易及び為替レートに関しても政策的に余地があり、安定を維持することが可能である。

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