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金正恩・朝鮮の新外交戦略

2019.04.21.

金正恩委員長は4月12日に最高人民会議第14期第1回会議で施政演説を行いました。特に対外政策部分で私が注目したのは以下の発言です。

<情勢認識>
「昨年、われわれが3度にわたって歴史的な北南首脳の対面と会談を行い、北南宣言を採択して北南関係に劇的な転換をもたらしたことは、刻一刻と戦争の瀬戸際に近づく重大な情勢を転換させ、祖国統一のための新しい旅程の出発を宣言した、非常に大きな意味がある出来事でした。」
「民族最大の悲願である祖国統一のためのわれわれの歴史的闘争は今日、新しい局面を迎えています。」
アメリカは南朝鮮当局に「速度の調節」を露骨に強いており、北南合意の履行を自分たちの対朝鮮制裁・圧迫政策に服従させようとあらゆる面にわたって策動しています。
そのためわれわれは、朝鮮半島の緊張を緩和し、北南関係改善の雰囲気を持続させるか、さもなければ戦争の危険が深まる中、破局へと突っ走った過去に戻るかという重大な情勢に直面しています。」
<対韓国:文在寅に対する「警戒心」と要求>
「今、全民族は歴史的な板門店宣言と9月平壌共同宣言が忠実に履行されて朝鮮半島の平和的雰囲気が持続し、北南関係が絶えず改善されていくことを切に願っています。」
「南朝鮮当局と手を取り合い、北南関係を持続的で揺るぎない和解・協力関係に転換させ、全同胞の一致した願いどおり、平和的で共に繁栄する新しい民族史をつづっていくというのは私の確固不動の決心であることを今一度明らかにしておきたいと思います。」
「現在の好ましからざる事態を収拾し、北と南がやっとのことでもたらした関係改善の好ましい雰囲気を盛り上げ、それが平和と統一の意味のある結実となるようにするためには、自主精神を曇らせる事大的根性と民族共通の利益を侵す外部勢力依存政策に終止符を打ち、すべてのことを北南関係の改善に服従させなければなりません。」
「私は、南朝鮮当局が真に北南関係の改善と平和、統一を願うのなら、板門店対面と9月平壌対面の時の初心に立ち返り、北南宣言を誠実に履行して民族に対する自分の責任を果たすべきだと思います。」
南朝鮮当局は、成り行きを見て左顧右眄し、せわしく行脚して差し出がましく「仲裁者」、「促進者」のように振る舞うのではなく、民族の一員として自分の信念を持ち、堂々と自分の意見を述べて民族の利益を擁護する当事者にならなければなりません
北南関係改善の雰囲気を引き続き生かしていくためには、敵対的な内外の反統一・反平和勢力の蠢動を粉砕しなければならないというのが、われわれの一貫した主張です。」
「一方的な強盗さながらの要求を前面に持ち出し、関係改善に人為的な障害をもたらしているアメリカの時代錯誤的な傲慢さと敵視政策を根源的に清算することなしには、北南関係における進展や平和・繁栄のいかなる結実も期待できないということを、手遅れにならないうちに悟ることが必要です。」
「南朝鮮当局が真に北南関係の改善と平和、統一の道へ進むつもりなら、われわれの立場と意志に共感して歩調を合わせるべきであり、言葉ではなく、実際の行動によってその本意を示す勇断を下すべきです。」
<対アメリカ:トランプに対する「信頼感」と要求>
「第2回朝米首脳会談は、われわれが戦略的決断と大勇断を下して踏み出した歩みが果たして正しかったかという強い疑問を抱かせ、アメリカが真に朝米関係を改善しようとしているのかという警戒心を抱かせる契機となりました。」
「最近、アメリカは第3回朝米首脳会談を開くことを考えており、対話による問題解決を強く示唆していますが、新しい朝米関係樹立の基本的方途である敵視政策の撤回には依然として背を向けており、かえってわれわれに最大の圧迫をかければ屈服させることができると誤判しています。」
「われわれも対話と協商による問題解決を重視していますが、自分の要求だけを一方的に押し付けようとするアメリカ式対話法には体質的に合わず、興味もありません。」
「朝米間に根深い敵対感情が存在している状況の下で6・12朝米共同声明を履行していくためには、双方が互いの一方的な要求条件を取り下げ、各自の利害に合致した建設的な解決法を見いださなければなりません。そのためにはまず、アメリカが今の計算法を捨て、新しい計算法を持ってわれわれに近寄ることが必要です。」
「トランプ大統領がしきりに述べているように、私とトランプ大統領の個人的関係は両国の関係のように敵対的なものではなく、われわれは依然として良好な関係を維持しており、思い立ったらいつでも互いに安否を問う手紙をやりとりすることもできます。アメリカが正しい姿勢でわれわれと共有できる方法論を見いだした上で第3回朝米首脳会談の開催を提起するなら、われわれとしてももう一度は会談を行う用意があります。…ともかく今年の末までは忍耐強くアメリカの勇断を待つつもりですが、この前のようによい機会を再び得るのは確かに難しいでしょう。」
「今後、朝米双方の利害に合致し、双方がともに受け入れることのできる公正な内容が紙面に記されてこそ、私はためらうことなくその合意文書に署名するであろうし、それは全的にアメリカがどのような姿勢で、いかなる計算法を持って出てくるかにかかっています
明白なことは、アメリカが今の政治的計算法を固執するなら、問題解決の展望は暗いであろうし、危険きわまりないだろうということです。
私は、アメリカが今日のような重要な時点で賢明な判断を下すものと期待し、かろうじて止めた朝米対決の秒針が永遠に二度と動き出さないことを願っています。」
<対中国・ロシア>
「共和国政府は、わが国の自主権を尊重し、わが国に友好的に対する世界各国との友好と協力のきずなを強化発展させるとともに、朝鮮半島に恒久的で揺るぎない平和体制を構築するために、世界のすべての平和愛好勢力としっかり手を携えていくでしょう。
敵対勢力の制裁解除の問題などにはこれ以上執着しないであろうし、私はわれわれの力によって繁栄の道を開くでしょう。」
 私が理解する金正恩の情勢認識における最大のポイントは、祖国統一のための「歴史的闘争は今日、新しい局面」を迎えていると指摘していることです。その「新しい局面」とは、アメリカが「北南合意の履行を自分たちの対朝鮮制裁・圧迫政策に服従させようとあらゆる面にわたって策動」しており、そのために「朝鮮半島の緊張を緩和し、北南関係改善の雰囲気を持続させるか、さもなければ戦争の危険が深まる中、破局へと突っ走った過去に戻るか」の岐路にあるということです。要すれば、文在寅・韓国がトランプ・アメリカの圧力に対して、金正恩・朝鮮との間で板門店宣言・平壌宣言を成立させたときの初心を貫いて、毅然と立ち向かうことができるかどうかが、金正恩のいう「新しい局面」です。
 私は、2度の南北首脳会談によって金正恩と文在寅との間には揺るぎない相互信頼関係が確立したと思っていました。しかし、私の評価は甘すぎたようです。金正恩の文在寅に対する要求内容、すなわち「自主精神を曇らせる事大的根性と民族共通の利益を侵す外部勢力依存政策に終止符を打ち、すべてのことを北南関係の改善に服従」させなければならない、「板門店対面と9月平壌対面の時の初心に立ち返り、北南宣言を誠実に履行して民族に対する自分の責任を果たすべきだ」、「成り行きを見て左顧右眄し、せわしく行脚して差し出がましく「仲裁者」、「促進者」のように振る舞うのではなく、民族の一員として自分の信念を持ち、堂々と自分の意見を述べて民族の利益を擁護する当事者 にならなければならない」、「アメリカの時代錯誤的な傲慢さと敵視政策を根源的に清算することなしには、北南関係における進展や平和・繁栄のいかなる結実も期待できないということを、手遅れにならないうちに悟ることが必要」、「言葉ではなく、実際の行動によってその本意を示す勇断を下すべき」等の発言からは、文在寅に対する「不信感」とまではいわないとしても、強い警戒心が余すところなく示されています。
 もちろん、文在寅にも言い分はあるはずです。トランプに対する周到な「根回し」をし、トランプの理解と支持を得たからこそ、金正恩との首脳会談開催にこぎ着けることができたのであるし、二つの宣言を実行に移し、南北関係を前進させるに当たっても、国連安保理制裁決議に基づく「拒否権」を持つトランプの理解と支持が不可欠であるという事情にはなんら変わりはないからです。2度の南北首脳会談の時のトランプは「物わかりがよかった」のに対し、ヴェトナム・ハノイでの米朝首脳会談で突然「ビッグ・ディール」を持ち出してからのトランプは「物わかりが悪い」トランプになってしまった、というのが文在寅の偽りのない気持ちでしょう。
 しかし、勇猛果敢に物事を推し進めてきた金正恩としては、文在寅が最初から最後まで剛毅木訥を貫くことによってしか北南関係の真の改善はあり得ないとする立場でしょう。それが今回の施政演説における文在寅に対する遠慮会釈のない以上の要求となったのだと思われます。後述するように、金正恩はトランプとの「個人的関係」は良好と言っていますが、文在寅に対してはそうした発言は一切なく、「南朝鮮当局」という呼称で一貫している点にも、金正恩の文在寅に対する認識・姿勢が反映しています。
 おそらく頭脳明晰な金正恩は、「物わかりの良い」トランプと「物わかりの悪い」トランプが南北関係の明暗を分けていることについては百も承知だと思います。実は「明」のシンガポール米朝首脳会談と「暗」のハノイ米朝首脳会談を分けたのも「物わかりの良い」トランプと「物わかりの悪い」トランプの存在だったのですから。もっと言えば、今後の朝鮮半島情勢の命運は、これまでのようなトライアングルの構図(米朝・米韓・南北)が維持され続ける限り、気まぐれ(支離滅裂)なトランプ次第という最悪のパターンになるということです。
 金正恩としては、これまでのトライアングルの構図を前提にする限り、「物わかりの悪い」トランプをなんとかして「物わかりのよい良い」トランプに引き戻す以外に事態転換のカギはないと認識しているはずです。それが故にトランプに対して精一杯の好意を表明し、今後の可能性につなげようとしているのだと思います。しかし、トランプの金正恩に対する「好意」がホンモノかどうかは誰も知るよしもなく、仮に今はホンモノであるとしてもいつ何時「君子豹変」するかも分かりません。金正恩はそれも見極めているでしょう(「今年の末までは忍耐強くアメリカの勇断を待つつもり」「それは全的にアメリカがどのような姿勢で、いかなる計算法を持って出てくるかにかかっています」「アメリカが今の政治的計算法を固執するなら、問題解決の展望は暗い」)。したがって、いつまでもトライアングルの構図の中で勝負するのはもはや限界であることも認識したのではないでしょうか。金正恩のそういう認識を反映するのが、施政演説の最後のわずか数行の発言です。
 すなわち、金正恩は朝鮮半島の非核化及び朝鮮半島の平和と安定の実現という目標を実現するためには、トランプに振り回されるトライアングルの構図ではなく、中国及びロシアを巻き込んだ多極の構図による以外にないと認識したはずです。トランプの暴走と予測不可能性をコントロールするためにも習近平・中国とプーチン・ロシアの存在は不可欠です。「共和国政府は、わが国の自主権を尊重し、わが国に友好的に対する世界各国との友好と協力のきずなを強化発展させるとともに、朝鮮半島に恒久的で揺るぎない平和体制を構築するために、世界のすべての平和愛好勢力としっかり手を携えていくでしょう」という金正恩の発言は正にそれを指しているに違いありません。
 金正恩が国務委員長に再任されるや、習近平は間髪を入れず以下の祝電を送りました。
尊敬する金正恩委員長同志
あなたが朝鮮最高人民会議第14期第1回会議で朝鮮民主主義人民共和国国務委員会委員長に再び推戴されたのは、あなたに対する朝鮮の党と人民の信任と支持となる。
私は、あなたに熱烈な祝賀と心からの祈りを送る。
われわれは、近年、委員長同志の指導の下で朝鮮の経済および社会発展において新たな成果が次々と収められ、社会主義偉業が新しい歴史的段階に入ったことについて喜ばしく思っている。
私は、委員長同志が打ち出した新たな戦略的路線に従って、朝鮮人民が国家建設と発展を目指す全ての事業で必ず新しくてさらなる成果を収めるということを信じる。
中朝両国は、山と川がつながっている親善的な隣邦である。
私は、伝統的な中朝親善・協力関係を高度に重視している。
昨年から、私は委員長同志と4回の対面と会談を行い、一連の重要な共通認識を遂げたし、共同で中朝関係の新たなページを開いた。
私は、委員長同志と共に両国の外交関係設定70周年を契機に中朝関係をさらに発展させ、両国と両国の人民により立派な福利を与えることを願う。
貴国の隆盛・繁栄と人民の幸福と安泰を願う。
委員長同志が健康で、活動で成果があることを願う(浅井注:中国外交部WSが報道した祝電ではこの一文はありませんが)。
 金正恩も長文の答電を習近平に送りました。次のとおりです。
尊敬する総書記同志は、わたしが朝鮮民主主義人民共和国国務委員会委員長として引き続き活動するようになったことに関連して真っ先に真心こもった温かい祝賀の挨拶を送った。
これは、私に対する総書記同志のまたとない信頼と友情の表しになると同時に、わが党と政府と人民の社会主義偉業に対する確固不動の支持と鼓舞になる。
私は、これについて心からありがたく思うとともに、総書記同志に心からの謝意を表する。
総書記同志が言及した通り、われわれは1年余りの間に4回にもなる対面と会談を通じて朝中関係の新たなページを共同で開いたし、一家族のように互いに助けて大事にする朝中関係の特殊性と生命力を内外にはっきり誇示した。
この過程に、私と総書記同志は互いに信頼を取り交わし、頼る最も真実な同志的関係を結ぶようになったし、これは新時代の朝中関係の柱をしっかり支える礎石に、朝中親善の成長、強化を促す力強い原動力になった。
今年は、わが両国にとって外交関係設定70周年と中華人民共和国創建70周年を迎える意義深い年である。
朝中両国の社会主義偉業と朝鮮半島情勢の流れがきわめてかなめの時期に入ったこんにち、朝中親善・協力関係をより大事にし、絶え間なく前進させていくのはわれわれに提示された重大な使命である。
私は、総書記同志と結んだ同志的信義を変わることなく守り、両党、両国の親善・協力関係を必ず新たな高い段階へ昇華、発展させるために努力の限りを尽くす。
私は、総書記同志を中核とする中国共産党の賢明な指導の下で、兄弟の中国人民が中華繁栄の新時代、富国裕民の新時代を早めるための大長征でさらなる成果を収めると信じる。
習近平総書記同志が健康で幸せであることを心から願う。
温かい同志的挨拶を送る。
 両者の電報には朝鮮半島非核化及び半島の平和と安定の実現に関する具体的な言及はありません。しかし、「伝統的な中朝親善・協力関係を高度に重視」「私は委員長同志と4回の対面と会談を行い、一連の重要な共通認識を遂げたし、共同で中朝関係の新たなページを開いた」「委員長同志と共に両国の外交関係設定70周年を契機に中朝関係をさらに発展させ、両国と両国の人民により立派な福利を与えることを願う」(習近平)、「われわれは1年余りの間に4回もなる対面と会談を通じて朝中関係の新たなページを共同で開いたし、一家族のように互いに助けて大事にする朝中関係の特殊性と生命力を内外にはっきり誇示した」「私と総書記同志は互いに信頼を取り交わし、頼る最も真実な同志的関係を結ぶようになったし、これは新時代の朝中関係の柱をしっかり支える礎石に、朝中親善の成長、強化を促す力強い原動力になった」「朝鮮半島情勢の流れがきわめてかなめの時期に入ったこんにち、朝中親善・協力関係をより大事にし、絶え間なく前進させていくのはわれわれに提示された重大な使命」(金正恩)というエールの交換は重要です。
 朝ロ首脳会談を間近に控えているプーチンも金正恩に祝電を送り、金正恩も答電を返しました。以下のとおりです。
<プーチン>
尊敬する金正恩閣下
私は、あなたが朝鮮民主主義人民共和国国務委員会委員長に再び選挙されたことに関連して、心からの祝賀を送る。
私は、国家最高首位でのあなたの活動が今後も、わが両国と両人民間の友好的で善隣的な関係の発展と、そして朝鮮半島の平和と安全の強化に資することになると確信する。
私は、差し迫っている双務および地域問題に関連して、あなたと共同で活動する用意を確言する。
私は、あなたが新たな成果を収めることと、あわせて健康で幸せであることを心から祈る。
<金正恩>
私は、私が朝鮮民主主義人民共和国国務委員会委員長に再び選挙されたことに関連して、あなたが温かい祝賀を送ってくれたことに深い謝意を表する。
先代指導者たちによってもたらされ、長い歴史的根源を有している朝露友好関係を引き続き強化し、発展させていくのは、わが両国人民の共通の利益に全的に合致する。
私は、伝統的な朝露友好関係を新時代の要求に即して持続的に、建設的に発展させていき、朝鮮半島と世界の平和と安全を守るためにあなたと緊密に協力する用意がある。
私はこの機会に、あなたが健康で強いロシアを建設するための責任ある活動でさらなる成果を収めることと、あわせて親しいロシア人民に福利と繁栄があることを願う。
 朝ロ首脳間のメッセージ交換には、「私は、差し迫っている双務および地域問題に関連して、あなたと共同で活動する用意を確言する」(プーチン)、「朝鮮半島と世界の平和と安全を守るためにあなたと緊密に協力する用意がある」(金正恩)という、正に喫緊の課題に対する相互の意思疎通が含まれています。まもなく開催される朝ロ首脳会談が儀礼に留まらず、ハノイ米朝首脳会談で暗礁に乗り上げている朝鮮半島の非核化及び平和と安定の実現という問題に関する両首脳の突っ込んだ意見交換になるであろうことは容易に想像できます。
 トライアングルの構図から多極の構図への転換を目指す金正恩の新外交戦略は始まったばかりです。習近平・中国とプーチン・ロシアが金正恩の新外交戦略に積極的に協力することは疑問の余地がありません。しかし、トランプがこれにいかなる反応を示すか、文在寅は金正恩に呼応して行動できるのかについては予断を許しません。また、中国とロシアが本格的に参画するということは、トライアングルの構図では取り上げられてこなかったアメリカによるTHAAD韓国配備という問題がアメリカと中ロの間における焦点として浮上することを必然にします。金正恩としては、朝鮮半島問題解決の長期化が避けがたいことを織り込んでいるのでしょうか。
 なお、金正恩が施政演説の最後に言及した「敵対勢力の制裁解除の問題などにはこれ以上執着しないであろうし、私はわれわれの力によって繁栄の道を開くでしょう」という部分に関しては、別の見方も可能だと思います。つまり、中国もロシアも朝鮮に対する安保理制裁決議の緩和には積極的です。中ロ両国は、自国の政策遂行に邪魔であれば安保理決議を無視する(例:イラン)のに、政策遂行に都合の良いときだけは安保理決議を振りかざす(例:朝鮮)トランプ政権の身勝手さに腹を据えかねているはずです。トランプ政権も支持した板門店宣言及び平壌宣言に基づく南北間の経済協力事業(開城工業団地再開、金剛山観光事業、南北鉄道道路連結)について制裁対象から外す、朝鮮労働者の極東・シベリアでの就業許可、石油禁輸緩和など、中ロ両国が安保理を舞台にしてアメリカに譲歩を迫るなどの動きをとることは十分考えられます(米中貿易交渉が解決するまでは中国の動きは制約されるでしょうが、米ロ全面対決状態のロシアにはそういうしがらみがありません。ヴェネズエラ問題に対する中ロの対応の違いに見られるように、プーチン・ロシアが習近平・中国以上に朝鮮問題でも大胆かつ果断なアプローチを採る可能性も十分に考えられます)。