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米朝交渉打開に向けた韓国の取り組み
-「包括的合意、段階的履行」という枠組み-

2019.04.02.

4月10-11日に訪米し、トランプ大統領との首脳会談を予定している文在寅大統領が、「包括的合意、段階的履行」という大きな枠組みによって米朝交渉を再び軌道に乗せるべく積極的に局面打開を図ろうとしています。文在寅は4月1日に青瓦台(大統領府)で首席秘書官・補佐官会議を開き、米韓首脳会談に向けた自らの考え方を次のように明らかにしました(同日付聯合ニュース)。

文在寅大統領は‥11日にトランプ大統領と首脳会談を開催することについて、「朝米両国は過去のように緊張が高まらないよう状況を管理し、対話を続ける意思を見せている」として、「2回目の朝米首脳会談が物別れに終わり、朝鮮半島の平和プロセスの進展が一時的に困難となったが、南北、米のいずれも過去に後戻りすることを望んでいないという事実が確認されている」と述べた。北朝鮮に対しては「韓米両国の努力に北も応じることを期待する」と呼びかけた。
 文大統領は「朝鮮半島の平和プロセスは南北米が共に歩む容易ではない旅程」として、「過去70年成功できなかった道のため、紆余曲折がないとむしろおかしい」との見解を表明。「韓米の溝を広げ、朝鮮半島平和の流れを後戻りさせようとする試みがある」とし、「(米朝)対話が始まる前の緊迫していた危機状況を考えると実に無責任なこと」と指摘した。その上で、「今の対話が失敗に終われば状況はさらに悪化する」との認識を示した。
 今回の韓米首脳会談に関しては、「トランプ大統領と朝米対話の再開や朝鮮半島の完全な非核化、南北関係と朝米関係の好循環など、朝鮮半島の平和プロセスを進展させるための韓米の連携について深く議論する」と説明した。
 今回の訪米を実りあるものにするため、文在寅大統領は外交・安全保障担当の高官を次々と訪米させ、アメリカ側のカウンター・パートとの事前の打ち合わせ・話し合いを進めさせています。すなわち、康京和外交部長官が3月29日にポンペイオ国務長官と会談したのに続き、4月1日には金鉉宗(キム・ヒョンジョン)青瓦台国家安保室第2次長が国家安全保障会議(NSC)のクーパーマン副補佐官と会談し、韓米首脳会談の議題を調整するほか、鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)国防部長官も4月1日にシャナハン国防長官代行と会談することが明らかにされています。特に注目されるのは、文在寅が「包括的合意、段階的履行」という大きな枠組みによって局面の打開を図ろうとしていることです。その点について詳しい分析記事を掲載したのが4月1日付のハンギョレ・日本語WSです(韓国語原文は3月31日付)。
ちなみに、この「包括的合意、段階的履行」という大きな枠組みの要諦は、手前味噌になりますが、私が3月3日付のコラムで指摘したように、「朝鮮の非核化措置とアメリカの対応措置とのバランスを測る米朝共通の目安・モノサシが欠落しているために、アメリカは朝鮮の要求が過大だと見なすし、朝鮮はアメリカの要求が過大だと見なす結果になった」ことを踏まえ、「最終ゴールを設定し、ゴールに至るプロセスの各段階で米朝それぞれがいかなる措置をとるかという見取り図・枠組みに関する合意を行うこと」を意図するものであることは間違いありません。剛毅木訥の文在寅の面目躍如であり、私は高く評価します。
ただし、これも私が繰り返し指摘していることですが、朝鮮半島の非核化と半島の平和安定の実現という課題は中国及びロシアを抜きにしてはあり得ません。文在寅がその点を認識していないはずはないと思うのですが、文在寅・韓国が金正恩・朝鮮、習近平・中国及びプーチン・ロシアとどの程度の事前調整、すりあわせを行っているのかについては判断する材料は今のところ不足しています。
 以上の2点を指摘して、以下にハンギョレ記事を紹介しておきます。
[ニュース分析]韓米調整後に南北対話の手順…朝米の包括的合意を引き出せるか
 文在寅大統領とトランプ米大統領が11日にワシントンで行う韓米首脳会談を控え、韓米の調整作業が本格的に進められている。…ヴェトナムのハノイで開かれた第2回朝米首脳会談の合意が見送られてから、約40日ぶりに開かれる韓米首脳会談の最初のポイントは議題、つまり朝米対話の再開に向けてどのような方策をまとめるかだ。政府は「包括的合意、段階的履行」という大きな枠組みを目指している。朝米が非核化の概念▽最終段階の姿▽それに至るロードマップに関して合意した後、履行は相応の措置とともに段階的に進めていくという構想だ。
 北朝鮮がこの構想に参加するよう説得するための方策として、まず取り上げられるのが開城工業団地と金剛山観光の再開だ。政府高官は29日、ワシントンで記者団に「南北間合意の持続的な履行を目指す韓国の意志や必要性について、米国も十分理解している」と述べた。同高官は、カン長官とポンペイオ長官の会談で開城工団と金剛山観光問題を「包括的に協議した」としながらも、「具体的な事案まで明らかにできない」と述べた。開城工業団地と金剛山観光は、金正恩委員長も今年初めの新年の辞で「条件なしの再開」を言及するなど、関心を示した事案であるだけに、北朝鮮が非核化措置に乗り出すよう誘導するのに主要なカードとされる。
 「スナップバック」、すなわち制裁緩和はするものの北朝鮮が非核化の約束を履行しなければ制裁を復元する案も有力視されている。北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官が最近、「トランプ大統領がハノイで肯定的な立場を示した」と明らかにし、スナップバックに言及したのは、北朝鮮もこれに相当な関心を持っているためと見られる(注)。キム・ヒョンジョン次長は30日、スナップバックの問題について、今回米国と協議する予定なのかという記者団の質問に対し、「それについてはノーコメント」と答えた。
 政府は朝米対話がこれまでと同様、トランプ大統領と金委員長の「トップダウン」(上から下へ)方式を維持していくべきという点にも重点を置いている。米政府内の強硬派の勢いに朝米対話が揺さぶられる危険性を最小化し、対話のモメンタムを継続していかなければならないという考えに基づいている。キム次長は「トップダウンで進めてきたからこそ、ここまで結果が出たと思っている」とし、「トップダウン方式の軌道内で対話が維持されることが重要だ」と述べた。
 トランプ大統領も続けて友好的なメッセージを送っている。彼は最近、ツイッターで「対北朝鮮追加制裁の撤回」を指示した理由について、29日「私と金委員長は互いを理解している。できる限り良好な関係を維持することが非常に重要だ」と述べた。また「北朝鮮は非常に苦しんでいる。現時点で追加制裁は必要ない」と強調した。
 文大統領がトランプ大統領に会う前に、金委員長の状況評価と対米メッセージを確認するかどうかも注目される。キム次長は「韓米首脳会談前に対北朝鮮特使を送る計画はあるか」という質問に対し、「シーケンシング(順序)を言うなら、同盟国の米国と先に調整してから(南北が)会うのも良いアイデアだと思う」と述べた。今のところ、「韓米調整後に南北対話」の手順を念頭に置いているものと見られる。しかし、11日以前に南北間の高官級接触が実現する可能性も排除できない。
ワシントン/ファン・ジュンボム特派員
(注)「崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官が最近、「トランプ大統領がハノイで肯定的な立場を示した」と明らかにし、スナップバックに言及した」とあるのは、朝鮮総聯中央本部広報室が3月26日、「南のインターネットメディアNEWSISが、3月15日に平壌で記者会見を行った朝鮮外務省の崔善姫次官の発言文(全文)と質疑応答の録音(一部)を入手し、25日報道した」として紹介した次の箇所を指しています。
「会談でわれわれが現実的な提案を提示したところ、トランプ大統領は合意文に「制裁を解除しても、朝鮮が核活動を再開する場合には制裁は可逆的である」という内容を含めるならば、合意が可能かも知れないという、伸縮性ある立場を取りましたが、米国務長官のポンペイオやホワイトハウス国家安保補佐官のボルトンは既存の敵対感と不信の感情で、両首脳間の建設的な交渉努力に障害がもたらし、結局、今回の首脳会談では意味ある結果が出ませんでした。」

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