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「習近平思想(習近平新時代中国特色社会主義思想)」について

2019.03.23.

「習近平新時代中国特色社会主義思想」(以下「習近平思想」)が2017年10月の中国共産党第19回全国代表大会報告で提起され、党規約総則に盛り込まれました。同年10月21日付の雑誌『瞭望』は「習近平思想は何故に誕生したか」と題する文章を掲げ、その「必然性」について多くの識者の発言を紹介しました。しかし、正直なところ、私の中で「ストン」と落ちる説明はありませんでした。このモヤモヤ感はその後ずっと続いて今日まで来ています。私もかねてより、中国歴代最高指導者の中で、習近平は毛沢東、鄧小平に続くもっとも傑出した指導者であると認識しています。しかし、だからといってそこまで「祭り上げる」ことはないだろうというのが私の偽りのない実感だからです。
 しかし最近、習近平が中国の伝統思想を重視し、それを今日に活かす意義を盛んに強調していることに注目するようになりました。というのは、丸山眞男に学んだことですが、日本にはいわゆる「政治思想」と名づけうるものはなく、すべての政治思想が外来であり、しかも日本人が外来政治思想を受容するに当たっては、彼のいう「執拗低音」による変容・変質を経た上で「日本化」した政治思想となるという指摘が私の頭の中を占めているからです。これに対して中国では、欧米由来の政治思想(マルクス主義、ナショナリズム、デモクラシーを含む)に相応する要素は中国の伝統政治思想の中にもともと存在しているものが多く、習近平は今日的条件の下で伝統政治思想に新しい意義を付与することでマルクス主義、デモクラシーの「中国化」を意識的に推進しているといえると思います。
 私が一貫して不満なのは、日本国内のいわゆるリベラル、革新的、市民的と言われる人々が国家、民族、ナショナリズム(中国の「愛国主義」)に関わる問題を遠ざける姿勢です。これらの要素が長らく権力によって独占されてきたという歴史的事実に対する反発が1945年の敗戦と相まって、人々をますますこれらの要素から遠ざけていることは理解します。しかし、保守的思潮がますます人心に浸透する今日、これらの要素を独占している自民党以下の保守勢力のいわゆる「市民派」に対する優位性はますます動かしがたいものになっていると思うのです。
 しかし、国家、民族、ナショナリズムは元来価値中立的です。私たちが真に日本という国家の主人公(主権者)となるためには、国家、民族、ナショナリズムを我が物とすることが絶対に必要だと確信します。私は以下に紹介する鄭必堅の文章(特に「二つの前衛」としての中国共産党の自己規定の部分)を読むことによって、丸山眞男の以下の指摘の重要性を改めて認識しました。

 「中国は支配層が内部的な編成替えによって近代化を遂行することに失敗したために、日本を含めた列強帝国主義によって長期にわたって奥深く浸潤されたが、そのことがかえって帝国主義支配に反対するナショナリズム運動に否応なしに、旧社会=政治体制を根本的に変革する任務を課した。…
 日出ずる極東帝国はこれと対蹠的な途を歩んだ。…近代化が「富国強兵」の至上目的に従属し、しかもそれが驚くべきスピードで遂行されたということからまさに周知のような日本社会のあらゆる領域でのひずみ或いは不均衡が生れた。そうして、日本のナショナリズムの思想乃至運動は…根本的にはこの日本帝国の発展の方向を正当化するという意味をもって展開して行ったのである。従ってそれは社会革命と内面的に結合するどころか、…革命の潜在的な可能性に対して、ある場合にはその直接的な抑止力として作用し、他の場合にはそのエネルギーの切換装置たる役割を一貫して演じてきた。しかも他方それは西欧の古典的ナショナリズムのような人民主権ないし一般にブルジョア・デモクラシーの諸原則との幸福な結婚の歴史をもほとんどろくに知らなかった。むしろそれは上述のような「前期的」ナショナリズム(丸山:「国民的な連帯意識というものが希薄で、むしろ国民の大多数を占める庶民の疎外、いな敵視を伴っていること」、「国際関係に於ける対等性の意識がなく、むしろ国内的な階層的支配の目で国際関係を見るから、こちらが相手を征服ないし併呑するか、相手にやられるか、問題ははじめから二者択一である」)の諸特性を濃厚に残存せしめたまま、これを近代ナショナリズムの末期的変質としての帝国主義に癒着させたのである。かくして日本のナショナリズムは早期から、国民的解放の原理と訣別し、逆にそれを国家的統一の名においてチェックした。そのことがまたこの国の「民主主義」運動ないし労働運動において「民族意識」とか「愛国心」とかいう問題の真剣な検討を長く懈怠させ、むしろ挑戦的に世界主義的傾向へと追いやった。そうして、それはまたナショナリズムの諸シンボルを支配層ないし反動分子の独占たらしめるという悪循環を生んだのである。」(丸山眞男集第5巻 「日本におけるナショナリズム」1951.1.pp.64-66)
 以上の問題意識のもとで「伝統」をキー・ワードにして中国の検索サイト「百度」で検索していたところ、鄭必堅署名文章「中華民族文明伝統と中国共産党」(2017年1月18日付人民日報掲載)にぶつかりました。鄭必堅はかつて胡耀邦総書記の筆頭政務秘書を務めていた人物で、胡耀邦訪日(1983年11月)に随行して、当時外務省中国課長としてその実務を主管していた私は彼の知遇を得たのでした。胡耀邦が国会演説を行うことが中国側の強い希望でしたが、中国共産党総書記の肩書きで訪日した胡耀邦が国会演説を行うことに対しては自民党の台湾ロビーを中心にして抵抗が多く、一時はその実現が危ぶまれました。私は安倍晋太郎外相(当時)に結構可愛がられていました(?)ので直訴し、彼が私のいる前で台湾ロビーの当時の重鎮である藤尾正行に電話をかけ、国会演説に反対しないように説得し、胡耀邦の国会演説が実現したのでした。中国側はその経緯を知っていたので、鄭必堅は私のことで私をそれなりに評価していたのでしょうか。胡耀邦の国会演説の内容について彼から意見を求められたなど懐かしい記憶があります。胡耀邦訪日は大成功しました。もっとも、中曽根-胡耀邦の信頼関係を過信した中曽根首相(当時)が1985年8月に靖国参拝を行い、結果的に胡耀邦は失脚に追い込まれました。
 胡耀邦が失脚した後は、「百度」によれば、鄭必堅は中国社会科学院副院長兼マルクス・レーニン主義毛沢東思想研究所所長、中共中央宣伝部副部長、中共中央党校副校長を歴任し、鄧小平のいわゆる南巡講話(1992年。天安門事件に対する西側諸国の制裁のもとで苦境に陥った中で、鄧小平が広東などを視察し、改革開放政策堅持の大号令をかけたもの)の「整理執筆者」の役割を担ったとも紹介されています。中国理論界の大重鎮であることが分かります。
 余談が長くなりました。鄭必堅のこの文章は、①中国共産党の本質特に党と中華民族との関係、②党の政治路線と中華民族文明伝統の継承、③第19回党大会以後の「伝統継承」の特徴について論述しています。特に③の部分は、第18回党大会以来、習近平を中心とした党中央が今日的条件の下で伝統思想に新しい意義を付与することでマルクス主義、デモクラシーの「中国化」を意識的に推進してきたことについて詳述しており、第19回党大会における「習近平思想」提起及び中国共産党規約への「習近平思想」盛り込みについての根拠づけを提供するものになっています。私はこの文章を読むことで初めて「習近平思想」に関するモヤモヤ感のかなりの部分が解消することになりました。
 習近平の率いる中国及び中国共産党に対しては、日本国内では「左」「右」を問わず批判的な見方が圧倒的です。しかし、鄭必堅のこの文章は習近平・中国が何を考え、何を目指そうとしているのかを理解する上でも是非味読する価値があると私は思います。敢えて全文を翻訳紹介するゆえんです。
 中国共産党は96歳になった。中華民族の5000年以上の歴史と比較すれば96年は非常に短いものだ。しかし、この96年という短い時間の中で、中国共産党は近代以来の中華民族の発展方向及びプロセスを巨大に変化させてきた。
 この「巨大な変化」は中華民族の文明伝統を捨て去るものではなく、中華文明と異なる他の文明を作り出すというものでもなく、悠久で輝かしい文明の歴史を有する中華民族が半植民地半封建の足かせを打ち砕いて立ち上がり、社会主義の道を歩み出し、さらに改革開放を経て中華民族文明伝統が中国の特色ある社会主義現代化プロセスの中で新たなはつらつとした生命力を渙発することを実現した。
<中国共産党が何故に中華文明の新たなはつらつとした生命力を渙発することを可能ならしめたかを理解するには、まずは中国共産党の根本的性格を理解し、中国共産党と中華民族がどのような関係にあるかを理解する必要がある>
(一)中国共産党はいかなる党か。中国共産党規約は次のように規定する。「中国共産党は中国労働者階級の前衛であり、同時に中国人民及び中華民族の前衛であり、中国の特色のある社会主義事業の領導的核心であり、中国の先進的生産力の発展という要求を代表し、中国の先進的文化の前進方向を代表し、中国のもっとも広範な人民の根本的利益を代表する。」これがすなわち「二つの前衛」という位置づけである。
 実際においても、この「二つの前衛」という位置づけは中国共産党の自らの性格に関する重要な考え方である。早くも1935年12月に中共中央政治局は、「中国共産党は中国プロレタリアートの前衛である」「中国共産党は同時に全民族の前衛である」と明確に強調した。これはすなわち、中国共産党は「共産党」としてプロレタリアートの前衛である、同時に中国共産党はまた「中国」の共産党であるということであり、したがって中国人民及び中華民族の前衛であるということだ。
 このように「二つの前衛」として自らの性格を規定した党は国際共産主義運動において未だかつてないことであり、世界政党史上において世に並ぶものがないことである。
(二)「二つの前衛」は鮮明かつ集中的に中国共産党の特色を備えた立場、観点、方法を表しており、鮮明かつ集中的に近代以来の中国及び他のすべての政党と区別する中国共産党の本質と特徴を表しており、鮮明かつ集中的に中国共産党の「根」と「魂」を表している。
 見てほしい。中国共産党は正に中華民族が滅びるのを救い、存在を図ろうとする時代の大潮流及び歴史的背景のもとで生まれたことを。我々が常に言うことは、中国共産党はマルクス・レーニン主義とプロレタリア運動とが相結合した産物であるということだ。中国においては、マルクス・レーニン主義の伝来にしても、中国プロレタリア階級の歴史舞台への登場にしても、民族の危機と滅亡を救うためだった。中国共産党は民族救亡という時代の大潮流の中で時代の要請の中で生まれたのであり、党成立のその日から民族解放のために奮闘することになった前衛である。
 見てほしい。党創設時代の中国共産党員は、李大釗、陳独秀、あるいは毛沢東、周恩来にせよ、全員が中華民族文明伝統の薫陶を深く受けており、強烈な愛国の心情を有していた。彼らが西側に真理を探し求めたのも救国救民のためであり、彼らが愛国主義から共産主義の道に進み、中国共産党を創立してからも、依然として偉大な愛国主義者であった。このような愛国の心情は、中国共産党員の中ではすでに動かすべからざる偉大な伝統となっている。毛沢東同志が心を込めて指摘したとおり、中国共産党員は「偉大な中華民族の一部であり、この民族と血肉で相つながっている」のだ。
 見てほしい。中国共産党が革命、建設及び改革を領導してきた各歴史的時期において制定した救国、興国、強国の政治路線はすべて「中華民族の偉大な復興」という同一主題に貫かれている。これらの政治路線は、この党が民族のために敢えて請け合い、善くするし、中華民族の歴史的命運を転換し、中華民族が持続的に繁栄富強に向かって進むことを引率することができる前衛であることを集中的に体現している。
 見てほしい。1840年のアヘン戦争後の中国は大波が砂を洗い流すかのごとき民族民主革命の中にあって、封建復古グループはだめ、西欧化グループはだめ、西側に頼って半植民地半封建統治を行うことはだめ、さらには中国共産党内部のマルクス・レーニン主義を教条化するやり方もだめだった。「二つの前衛」として中国化されたマルクス・レーニン主義で武装した中国共産党員のみが真に中国を救うことができたのだ。これは、中国人民が長期の救国闘争の反復した検証に基づいて行った歴史的選択である。これはまた、近代以来、中国の様々な政治勢力が繰り返し力比べした結果として得た総結論である。
(三)まさにそうであるが故に、中国共産党は96年の長きに及ぶ革命、建設及び改革の各時期において、国内の大局及び国際の大局というこの二つの大局から真に出発し、国家、民族、人民の大義から出発し、チャレンジがいかに巨大で、情勢がいかに複雑であろうとも、ひいては間違い及び曲折が少なからず存在したとしても、最終的には恐れることのない革命的気概によって時代に追いつき伝統を継承して、愛国主義(ナショナリズム)と共産主義を相結合させた偉大な業績を成し遂げてきたのだ。
 歴史の事実とはこういうことだ。すなわち、時代に追いつかなければ落後して叩かれるだけである。伝統を継承しなければ土台・基礎を失うだけである。中国大地に根を張らなければ一切のことが話にならない。これがまた、「中国を改造することから中国を認識すること、また、中国を認識することから中国を改造することを分かっていないのであれば、善い中国のマルクス主義者ではない」と毛沢東同志が述べたことでもある。
(四)96年を経た今ここに、我が党がすでに正式に明確な結論を出したマルクス主義中国化の二つの大きな理論的成果、すなわち、毛沢東思想及び鄧小平理論によって創始された中国の特色ある社会主義理論体系がある。
 マルクス主義中国化の一つ目の大きな理論的成果である毛沢東思想は、中国共産党が伝統を継承する中で中国人民が時代に追いつくのを引率することを先導した。その結果、中国人は立ち上がり、新中国を成立させ、社会主義制度を樹立した。
 マルクス主義中国化の二つ目の大きな理論的成果である、鄧小平理論によって創始された中国の特色ある社会主義理論体系は、中国共産党が伝統を継承する中で中国人民が時代に追いつくのを引率することを先導した。その結果、中国人は豊かになり、経済総合力は世界第二位となり、社会主義制度は様々な困難かつ巨大なチャレンジを経て不断に改善され、ますます強大となってきた。
 中国の特色ある社会主義は今なお実践継続のさなかにあり、マルクス主義中国化は今なお深化継続のさなかにある。第18回党大会以来、習近平同志を核心とする党中央は、中国の特色ある社会主義というこの大文章を書いていく高度の自覚を堅持し、改革発展安定、内政外交国防、治党治国治軍等各分野において治国統治の新理念、新思考、新戦略を創造的に形成し、中国の特色ある社会主義理論体系を豊富にし、発展させてきた。
<「伝統継承」に絞って論じるならば、中国共産党はマルクス主義中国化の偉大なプロセスにおいて、党の思想路線及び政治路線の高みからどのように中華民族の文明伝統を継承しているか>
(一)我々が「党の思想路線及び政治路線の高みから中華民族の文明伝統を継承している」というとき、それは指導者の個人的学識及び修養に重点を置くのではないし、学術における様々な個人・グループに重点を置くのでもなく、また、文化領域に限るということでもないのであって、中国共産党の各時期における思想路線及び政治路線の高みから、成功の経験及び失敗の教訓を緊密に結びつけ、失敗に関する反省を経て成功に到達した曲折のある歴史プロセスをも含めて、党がどのように中華民族の文明伝統を継承してきたかに重点を置くのである。
(二)基本的な事実として、中国共産党の歴史的実践から来る主要なポイントは以下の16点である。
 第一、中国共産党は国際共産主義運動の常規を突破し、「中国プロレタリアートの前衛であると同時に中国人民及び中華民族の前衛である」という偉大な旗を高く掲げ、自らの時代的歴史的使命は中華民族の偉大な復興を実現すること、すなわち中華民族の偉大な復興を実現することであると明確に宣告した。このポイントは96年来、中国共産党員の特色を備えたすべての立場、観点、方法を貫通しており、中国共産党のすべての奮闘の道程を貫通している。
 第二、中国共産党の中華民族文明伝統に対する総合的態度及び方針は毛沢東同志の著名な論断にある。すなわち、一つは「我が民族は数千年の歴史を有し、特徴を持ち、多くの貴重なものを持っている」ことを十分に肯定すること、二つ目は「孔子から孫文に至るまで、この貴重な遺産を総括し、継承するべきである」と明確に強調すること、三つ目に「我々の歴史遺産を学び、マルクス主義の方法で批判的に総括することは我々の学習における今ひとつの任務である」と厳粛に提起すること。正にこの総合的な態度と方針に基づき、困難を極めた戦争時代においても、中国共産党は組織的にマルクス主義の観点で中国伝統文化を研究する成果を発表し、「共産主義は中国の国情に合わない」等の反共の叫びに反撃し、民族救亡闘争の中でも「民族新文化を発展させ、民族の自信を高め」、マルクス主義中国化を推進した。
 第三、中国共産党誕生を直接導いた1919年の五・四運動について、中国共産党は、これは「反帝反封建の愛国運動」であり、中国の旧民主主義革命から新民主主義革命に至る偉大な転換点であると厳粛に確認した。中国共産党は五・四運動の功績と問題点を分析し、この運動の「生き生きとして活発、前進的、革命的」主流を継承するとともに、自らの党風学風の改造と人民大革命を強力に推進した。
 第四、中国共産党が農村を主要な陣地とし、農民を主力軍とし、農村で都市を包囲し、最終的に全国の政権を奪取するという勝利の道を切り開くことができたのは、中国の国情及び中国歴代農民戦争の歴史経験を真剣に観察したことともちろん分かつことができない。
 第五、党が領導する人民遊撃戦争の戦略的地位、防御から対峙、さらに反攻に至る抗日戦争の戦略的道程、さらには全国解放戦争時期の戦略決戦思想の偉大な実践を含む中国共産党の軍事思想は、農民戦争の経験教訓の把握を含む中国歴代軍事思想及び軍事闘争を離れてはあり得なかった。中国古代軍事思想は中国共産党軍事思想の重要な源である。
 第六、統一戦線の運用成功もまた中国共産党の基本的な歴史経験である。中国共産党の統一戦線思想は、歴史唯物主義の分析方法及びマルクス主義の戦術思想に由来するだけではなく、中華民族の古来から人心に深く入り込んだ「大義を重しとなす」「和して同ぜず」「小異を残して大同を求める」等の貴重な思想にも由来している。
 第七、党の建設問題においては、中国共産党が真っ先に重視するのは思想路線であり、「実事求是」であり、しかも「実事求是」という古代の成語にマルクス主義認識論の新たな意味づけを行っている。延安における整風時に教条主義を克服するために「古今中外法」(歴史を研究し、現状を研究し、国際的経験及びマルクス主義理論を研究すること)を提起し、これは中国共産党員が必ず遵守するべき科学的態度及び基本的方法となった。これと同時に、中国共産党はまた「前の誤りを後の戒めとする 病を治し、人を救う」及び「団結-批判-団結」という中国の特色ある言葉を以て党内政治生活の原則としたが、これまた国際共産主義運動においてかつてなかったことである。
 第八、「人民に服務する」及び「大衆(群衆)路線」は中国共産党が長期にわたって堅持する、もはや中国人民の誰もが知っている根本信条及び工作路線である。これは中国古代からある「民貴にして君軽し」「民惟邦の本」「君は舟なり、人は水なり。水は舟を載せるべく、また舟を覆すべし」等の道理と同じ流れをくむものである。
 第九、「人はいささかの精神を有するべきものだ」。中国共産党は長期の革命プロセスの中で、井崗山精神、長征精神、延安精神、西柏坡精神等一連の崇高な精神を形成してきた。これらの精神は、根本的にいって、党及び人民の奮闘する実践から来るものであり、同時にまた中華民族の優れた文明伝統から来るものである。中国共産党の革命精神は内在的に中華民族の精神の光を包含している。
 第十、新中国成立前夜に毛沢東同志が提起した「進京趕考」及び李自成が北京に討ち入って以後腐敗し敗れたことに関して郭沫若が著した『甲申三百年祭』を整風文献にしたことはすでに、幾世代にもわたって中国共産党員が歴史の新たなテストに向かい合う際の自己警醒の箴言となっている。
 第十一、「統籌兼顧」及び異なる性質の矛盾を正確に区分し処理することは、中国共産党が複雑な社会矛盾を処理する基本方針である。これは中国人の「兼容(様々なものを同時に受け入れる)」思想の治国方針である。毛沢東同志がいう「これはいかなる方針か。すべての積極的力を動員し、社会主義を建設するためのものだ。これは戦略方針である」。
 第十二、中国共産党が1950年代に学術文化指導方針として提起した「百花斉放、百家争鳴」は、春秋戦国時代の「百家争鳴」という提起を直接引用する方法によって、中華民族文明伝統中の思想活発、兼容秉包という重要な特徴を発揚することを強調し、中国共産党員及び中国人民の中に巨大にして深遠な解放作用を引き起こした。
 第十三、マルクス主義中国化の第二の飛躍となった中国共産党第11期三中全回及び第11期六中全回で採択した「建国以来の党の若干の問題に関する決議」はやはり「思想解放、実事求是」を以て全局を貫く主題としている。第11期三中全回を経て、鄧小平同志を代表とする中国共産党員は改めて「実事求是」の思想路線を確立し、経済建設を中心とし、4つの基本原則を堅持し、改革開放を堅持するという「一つの中心、二つの基本点」の基本路線を制定した。
 第十四、中国古代人は「小康」を「大同」と対をなす社会理想としていたが、「小康」は現代中国が21世紀中葉までに社会主義現代化を実現するという科学的布石において強力な昇華を得ることになった。すなわち、「衣食問題解決」後に「小康進入」及び「全面小康」の2段階を経て、さらに30年の努力奮闘を経て「社会主義現代化」に至るということである。今日の中国の現実が生き生きと示しているように、「全面小康」と「社会主義現代化」の目標は全国人民の熱烈な賛同と切望を受けており、全党全社会のコンセンサス作りに巨大な役割を果たしている。
 第十五、中華民族の偉大な復興を実現することは中華民族の過去、現在及び未来をかくも緊密に、かくも生き生きと結びつけて追求するところのものであり、近代以降における中華民族のもっとも偉大な夢である。この中国の夢は中国共産党の「二つの前衛」という性質の十全な体現であり、中国共産党が中華民族を引率して「伝統継承」そして「時代に追いつく」という二重の使命の生き生きとした反映であり、中国人及び中国共産党員の愛国心情及び文化的自信のもっとも集中的な表れである。
 第十六そして最後にさらにありのままに指摘しておくべきは、中国共産党の96年の戦闘過程における誤り及び曲折についてである。96年間歩んでくる中でこの党は多災多難であった。しかし、この党はまた一つの長所を持っている。すなわち、自らその誤りを正し、誤りから教訓をくみ取り、誤りから立ち直り、進んでさらに大きな進歩を勝ち取るということである。96年の歴史はこのように歩んできたものではなかったか。冷静に反省するに、このような状況はまず、党の「二つの前衛」という根本的性質及び立党為公・執政為民という根本原則と分かつことはできず、中国人民の中における党の長期にわたる深い影響力と分かつことができず、党のメカニズム及び奮闘精神、経験の蓄積そして特に自覚的な整風という伝統と分かつことができない。しかし同時にこれはまた、中華民族の「以史為鍳」「知錯能改 善莫大焉」という深刻な文化的影響をも反映している。
(三)以上の16ポイントは必ずしも完全ではないが、この16点だけでも中国共産党がどのようにして思想路線及び政治路線の高みから中華民族の文明伝統を継承してきたかをおおよそ反映しているだろう。この種の継承は全局的であって文化領域に局限されるものではない。この継承は革命、建設及び改革の全プロセスを貫いており、新中国成立以後だけに限られるものでもない。以上、16ポイントを重点的に列挙することで「二つの前衛」である中国共産党と中華民族の文明伝統との関係を表し、中国共産党の「根」と「魂」の歴史的由来及び発展を表そうとするものである。
<第18回党大会以来、中国共産党は新たな歴史的起点から出発し、中華民族の偉大な復興という中国の夢の実現をめぐって、「伝統継承」及び「時代に追いつく」をどのようにより緊密に結合してきたのだろうか>
(一)第18回党大会以来、第11期三中全回が創始した偉大な思想解放運動は新たな歴史的段階に入った。習近平同志を核心とする党中央は中国の特色ある社会主義事業の偉大な道程の中で、新たな思想解放の中で中華民族の文明伝統の継承及び創新を新たな高みへと引き上げた。わずか4年にして「時代に追いつく」には重要な発展があり、「伝統継承」においても重要な発展があったと言うべきである。
(二)ここでは、第18回党大会以来、治国理政について提起した10項目の重要な方針に関し、党中央による「伝統継承」という指導理念についての突出した発展を見ることにする。
 第一、中国の特色ある社会主義と中華民族の文明伝統。習近平同志は何度も次のように強調している。「一つの民族、一つの国家たるもの、自分が誰で、どこから来て、どこへ行くのかを知らなければならず、それが明確に分かり、正しいと分かったならば、目標に向かって確固と移ろうことなく前進するべきだ。」彼は、中国の特色ある社会主義の道は改革開放の30年以上の実践、新中国成立60年以上の継続的探求及び近代以来の170年以上の中華民族の発展の道程についての深刻な総括から出てきたものであるだけではなく、中華民族5000年以上の悠久な文明の伝承から出てきたものであると指摘した。「二つの百年」という奮闘目標及び中華民族の偉大な復興という中国の夢は、今日の中国人の理想を深々と体現するとともに、先人たちが進歩を倦むことなく追求した光栄ある伝統をも深々と反映している。
 第二、「四つの全面」という戦略的布石と中国の文明伝統。第18回党大会以来、党中央は「四つの全面」という戦略的布石を形成し、十全なものとし、全党に対し、小康社会を全面的に建設するという戦略目標について、全面的な改革深化、全面的な依法治国及び全面的な従厳治党のプロセスの中で、中国の特色ある社会主義制度を十全にし、発展させ、国家の統治システム及び統治能力の現代化を推進することを要求した。習近平同志は、一つの国家がいかなる統治システムを選択するかはその国家の歴史伝承、文化伝統、経済社会発展レベルによって決定するものであり、その国家の人民により決定するものだと指摘した。彼はさらに中央政治局の同志たちを率いて中国歴史上の治国統治の経験を学習し、国家統治システム及び統治能力の現代化を推進する上での有益な参考を提供した。
 第三、新発展理念と中華民族の文明伝統。経済発展の新常態下の様々な挑戦を解明するため、党中央は主導的に新常態に適応し、新常態を把握し、新常態を牽引することを強調し、創新、協調、グリーン、開放、共享という新発展理念を提起した。新発展理念が対象とするものは経済発展の新常態及びそれが提起する時代的課題であり、それが反映するものは経済社会発展の客観的法則であり、同時に中華民族の「自強不息」(出典:周易)、「厚徳載物」(出典:周易)、「笱日新、日々新、又日新」(出典:大学)、「尚和合」、「竭澤而漁」(出典:呂氏春秋)はダメ等の文明伝統が貫徹している。
 第四、社会主義民主政治(デモクラシー)と中華民族の文明伝統。習近平同志は、社会主義協商民主制度は「我が国政治システム改革の重要な内容である」と指摘した。彼は、毛沢東同志の「国家各分野の関係はすべて協商する必要がある」、周恩来同志の「新民主主義の議事精神は最後の表決にあるのではなく、重要なのは事前の協商と反復した討論にある」等の論述を引用して、「事があればよく協議し、衆人に関わる事柄は衆人によって協議し、全社会の意向及び要求の最大公約数を探し出すことが人民民主の要諦である」と強調した。協商民主は中国社会主義民主政治における独特の、独自の、ユニークな民主形態であり、それは中華民族が長期にわたって形成してきた「天下為公」「兼容秉蓄」「求同存異」等の優れた政治文化、近代以来の中国政治発展の現実のプロセス、中国共産党が人民を領導して革命、建設、改革を行ってきた長期の実践、新中国成立後に各党派、各団体、各民族、各階層、各階人士が政治制度において共同した偉大な創造、改革開放以来の中国政治システムにおける不断の創新に源を持ち、重厚な文化的、理論的、実践的、制度的基礎を備えている。
 第五、社会主義核心的価値観と中華民族の文明伝統。現実の社会生活の中に存在する価値目標の喪失、価値の多元化、価値法則の混乱等の問題に対して、党中央は社会主義核心価値観を唱道することを全社会思想文化建設の重点とする。習近平同志は、社会主義核心価値観の内容について、国家、社会、個人という三つのレベルで透徹した解明を行った。彼はさらに、中国古代から「格物致知」「誠意正心」「修身斉家」「治国平天下」が言われてきたことを指摘した。ある角度から見るとき、「格物致知」「誠意正心」「修身」は個人レベルの要求であり、「斉家」は社会レベルの要求であり、「治国平天下」は国家レベルの要求である。社会主義核心価値観の提起は、国家、社会、公民の価値の要求を一体に融合したものであり、社会主義の本質的要求を体現するとともに、中華の優秀な伝統文化をも継承し、世界文明の有益な成果をも吸収したものである。
 第六、反腐倡廉と中華民族の文明伝統。「民心は最大の政治であり、正義は最強の力だ。正に言う「天下は何を以て治るか。民心を得るのみ。天下は何を以て乱るか。民心を失うのみ」。」「民心を得るものは天下を得、民心を失うものは天下を失う。人民の擁護及び支持は党執政のもっとも堅固な基礎である。」習近平同志の政治の知恵に満ち満ちた、従厳治党の決心を下した力強い論述は、現実問題に対するものであると同時に中国歴史の経験教訓をも反映したものである。反腐倡廉推進プロセスの中で、習近平同志はさらに中央政治局を主催し、中華民族の歴史における反腐倡廉を特定テーマとした学習を行った。彼は、「我が国の反腐倡廉の歴史を研究し、我が国の古代の廉政文化を理解し、我が国歴史上の反腐倡廉における成敗得失を考察することにより、深刻な教えを得ることができ、我々が歴史の知恵を運用して反腐倡廉建設を推進することにプラスとなる」と述べた。
 第七、幹部隊伍の建設と中華民族の文明伝統。習近平同志が繰り返し強調するのは、「尚贤者,政之本也」(出典:墨子)、「为政之要,莫先于用人」(出典:司馬光『資治通鍳』)、「宰相必起于州部,猛将必发于卒伍」(出典:韓非子)である。彼は組織部門が「徳才兼備、以徳為先」の任用基準を堅持し、幹部の選抜任免及び「能上能下」制度を健全にし、党及び人民が必要とする優れた幹部を育成することに力を入れてきた。彼は「君子为政之道,以修身为本」(出典:大学)を強調する。共産党員はさらに自己修練、自己規律、自己形成を強化し、廉潔自律において模範となるべきである。彼は全党各レベルの幹部に対して「吾日三省吾身」(出典:論語)を課し、修身、用権、律己を厳格に行い、謀事、創業、做人において実なることを希望した。特に重要なことは「空談誤国、実幹興邦」という歴史的経験である。
 第八、中国の平和発展の道と中華民族の文明伝統。習近平同志は、終始変わることなく平和発展の道を歩むことは我が党が時代の発展の潮流及び我が国の根本利益に基づいて行った戦略的選択であるだけではなく、中華民族の優良な伝統の継承と発展でもあると強調する。彼は次のように言っている。「中華民族は平和を愛好する民族である。戦争を消滅させ、平和を実現することは、近代以降の中国人民のもっとも切実で、もっとも厚い願望である。平和的発展の道を歩むことは、中華民族の優秀な文化伝統の継承及び発展であり、中国人民が近代以後の苦難な遭遇の中から得た必然的な結論でもある。」
 第九、「一帯一路」建設と中華民族の文明伝統。21世紀に入ってからのグローバルな経済発展の新たな変化に面して、習近平同志は、2000年以上前に張騫がシルク・ロードを切り開いたように、ユーラシア諸国と共同で「シルク・ロード経済ベルト」及び「21世紀海のシルク・ロード」を共同で建設することを提起した。彼は、2000年以上の対外交流の歴史が証明しているように、団結互信、平等互利、包容互鍳、合作共嬴を堅持する限り、種族、信仰、文化背景を異にする諸国家は完全に平和を共有し、共同で発展することができると強調する。
 第十、中国の特色ある社会主義の道に関する自信、理論の自信、文化の自信と中華民族の文明伝統。習近平同志は、中華民族が数千年の歴史の中で創造し、続けてきた中華の優秀な伝統文化は中華民族の根と魂であると繰り返して強調している。中華の優秀な伝統文化は今や中華民族の遺伝子となっており、中国人の内心の奥底に根付いており、中国人の思想様式及び行動様式に対して知らず知らずのうちに影響しており、中華民族独特の世界観、人生観、価値観、審美観等を形成している。習近平同志は次のように深刻に指摘している。「我々が中国の特色ある社会主義の道についての自信、理論的自信、制度的自信を固めるべきだと言うとき、詰まるところ文化的自信を固めるべきだということだ。文化的自信はより基本で、より深く、より持久的な力である。歴史及び現実はすべて、自らの歴史及び文化を放棄しあるいはこれに背いた民族は発展することができないのみならず、歴史的悲劇を演じる可能性が極めて大きいことを示している。」
(三)以上の10ポイントも必ずしも完全ではない。しかしこの10ポイントからだけでも、第18回党大会以来党中央が制定した一つ一つの鮮明な時代性のある重要方針がすべて深い伝統性を包含していることを十分に体得することが可能である。それと同時に、新陳代謝は思想文化の発展及び社会進歩の基本法則であることをも十分に体得することができる。習近平同志が中央政治局第13回集団学習の際に指摘したように、中華の優秀な伝統文化を大いに発揚するためには、「継承と創造的発展の関係を巧みに処理し、創造的転化と創新的発展を重点的にうまく行うべきである。」これすなわち新たな情勢のもとにおける中国共産党の伝統文化に対する基本態度及び基本方針である。
<中国の特色ある社会主義の旗の下、「伝統継承」と「時代に追いつく」を堅持し、「二つの百年」の奮闘目標の実現に努力する>
(一)中国共産党は世界無二の「二つの前衛」として、中国化したマルクス主義を指針とし、愛国主義と中国化したマルクス主義を一体とし、「伝統継承」と「時代に追いつく」を緊密に結びつけ、しかもこれを以て自らの「根」と「魂」としている。これが中国共産党96年の全歴史を貫徹している根本的な歴史経験である。
 国内の大局及び国際の大局という二つの大局が深刻な大変動を継続していることに面して、習近平同志は「初心を忘れず、前進を継続する」ことを要求しているが、これは伝統継承と時代に追いつくという根本的な歴史的経験の新たな歴史的条件下での堅持及び深化である。「初心を忘れず」とはすなわち「伝統を継承する」ということである。「前進を継続する」とはすなわち「時代に追いつく」ということだ。つまるところ、中国の特色ある社会主義という偉大な旗を高く掲げ、中国共産党員の指導思想上のマルクス主義の中国化、時代化、大衆化を一貫して堅持し、中国人の精神生活において中国の特色ある社会主義と相統一した愛国主義を一貫して堅持するということである。
(二)愛国主義が中国の歴史において特別に巨大な精神力となることができたのは、帰するところ、中国各民族人民、特に各民族労働人民がもっとも偉大な歴史創造力を備えていることを説明している。
 中華民族のすべての巨大な物質的精神的財産は、帰するところ、体力労働及び頭脳労働に従事するすべての人々が共同で創造したものである。中華民族の5000年以上の歴史は繰り返し、かくも偉大な人民、偉大な民族の活力と天賦の才能は尽きることはあり得ず、その前途に限りもあり得ず、その愛国主義の伝統は必ずや特別に巨大な思想上、政治上及び道義上の威力を備えていることを証明している。中華民族の偉大な力を抹殺しようとするいかなる試みも、すべて根拠のないものである。
(三)我々が今日発揚する愛国主義は社会主義と緊密に結合した新時代の愛国主義である。
 今日の我が社会主義祖国が愛するべきゆえんは、山川が壮麗で、領域が広大であるだけのためではなく、悠久な歴史と文化を有しているだけのためではなく、我々が世世代代ここに生まれ、ここで育った祖国母親であるだけのためでもなく、さらに重要なことはそれが真に人民に属することになったためである。
 今日の中国人民の愛国主義は、我が偉大な社会主義祖国を熱愛し、我が祖国の国土、歴史及び優秀な文化伝統を熱愛し、我が国土において労働及び戦闘により偉大な歴史を創造しかつさらに偉大な歴史を引き続き創造している人民を熱愛し、我が祖国が社会主義現代化の強国に向かって先進する明確な道を熱愛することである。
 このような愛国主義精神は、今日の中国各民族人民におけるもっとも広範な大団結の重要な思想的基礎及び政治的基礎であり、今日の我が中国の特色ある社会主義現代化事業が必ず依拠しなければならない強大な精神力である。
(四)初心を忘れず、前進を継続する中国共産党、伝統を継承し、時代に追いつく中国共産党は必ずや、中国人民を率いて中華民族の偉大な復興を実現するに違いない。それは全人類的な意義を備える大事件となるだろう。