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朝鮮半島問題(王毅外交部長発言)

2019.03.10.

全国人民代表大会開催中の3月8日に中国の王毅外交部長は今や定例となっている、中国内外記者団を相手に中国外交の諸問題に関する会見を行いました。焦点になっている諸問題に関する王毅の発言は私にとってそれほど新鮮味がある内容ではなかったのですが、唯一の例外は朝鮮半島問題、特に第2回米朝首脳会談の結果を踏まえた中国の立場・政策に関する発言でした。
 王毅は、朝鮮半島問題解決のプロセスとして、「半島の非核化実現及び平和メカニズム樹立の全体的路線図を共同で制定し、その基礎の上で段階を分け、同じステップで(同歩)進む考え方に基づき、各段階で相互に連携し、相互に促進する具体的措置を明確にし、関係当事国が同意した監督メカニズムのもとで、容易なものから難しいものへ順序を追って推進する」という具体的な提案を行いました。これはトランプが金正恩に突きつけた「ビッグ・ディール」の考え方を明確に否定するものであると同時に、金正恩がトランプに要求したハード・コアの制裁措置(5つの安保理制裁決議)の解除提案をも遠回しに性急すぎるとする中国側判断を示したものです。
 さらに私が注目したのは、今後の中朝関係に関する質問に対して王毅が、朝鮮の社会主義建設事業、朝鮮の新戦略(経済建設と民生改善)並びに朝鮮の半島非核化に関する大方向及び非核化実現プロセス実現途上における朝鮮の正当な関心の解決を中国が「全力で支持する」と明確に述べたことです。特に3つめの全力支持は、金正恩のアプローチに対する中国の全面支持表明であり、米朝交渉に臨む金正恩に対して中国が全面的に支援するという意思表示です。「全力支持」という言葉は中国外交に関して滅多にお目にかからないものです。
 私はこれまでのコラムで、朝鮮半島の平和と安定の実現及び半島の非核化実現という課題は米朝2国だけで解決できる問題ではなく、朝鮮南北、アメリカ、中国及びロシア(おまけとして日本)の6カ国が知恵を集めてのみ解決できる問題であることを指摘してきました。最初のステップからつまずいた米朝交渉はますますそのことを示しています。王毅発言は正にそのことを指摘するものです。
 問題は、唯我独尊、支離滅裂なトランプが多国間交渉に応じるだけの器量があるかということです。他方、金正恩としては、習近平及び文在寅との意思疎通を通じて、第2回米朝首脳会談に臨んだ自らの方針について軌道修正を行う可能性は十分にあると思います。
 以上を確認した上で、王毅発言を紹介します。

(質問)朝米指導者第2回会談は成果がなかった。半島情勢は再び複雑となり予測が難しい。朝鮮半島の非核化及び半島の平和メカニズムの建設について、中国は今年どのような役割を担うのか。
(回答)朝米指導者のハノイ会談は半島核問題を政治的に解決するプロセスにおいて重要な一歩である。双方が障害を克服して再び会談し、直接率直に意見を交換したこと自体が積極的な進展であり、十分に評価する価値がある。国際社会は、朝米双方が忍耐心を保ち、半島非核化の推進及び半島平和メカニズム構築という正しい方向に沿って引き続き前進することを促すべきである。対話が停止せず、方向が変わらない限り、半島非核化の目標は最終的に必ず実現できる。もちろん、半島核問題は数十年間遅延し、様々な矛盾が錯綜して複雑であり、解決しようとしても一気にできるものではあり得ない。各国はこの点について理性的に予期するべきであり、始まってすぐ高すぎるハードルを設けるべきではないし、一方的に非現実的な要求を提起するべきでもない。問題解決のカギは、各国が歴史的制約を飛び越え、相互不信の呪いを打破することである。問題解決のプロセスは、半島の非核化実現及び平和メカニズム樹立の全体的路線図を共同で制定し、その基礎の上で段階を分け、同じステップで(同歩)進む考え方に基づき、各段階で相互に連携し、相互に促進する具体的措置を明確にし、関係当事国が同意した監督メカニズムのもとで、容易なものから難しいものへ順序を追って推進することだ。
 中国は、朝鮮半島問題では非核化の目標を一貫して堅持し、対話と協議による問題解決を堅持し、半島の平和と安定の維持を堅持している。そのために中国は20年以上も努力してきており、中国の役割は余人をもっては代えがたい。今後中国は、各国とともに既定の目標に向かって引き続き貢献を行っていく。
(質問)昨年以来、習近平は金正恩と4回会見し、両国関係の新しいページを切り開いた。中国は中朝関係の今後の発展についてどのような展望を持っているか。
(回答)過去1年もたたない時間の中で習近平総書記と金正恩委員長は4回会談し、中朝国交樹立70年において未だかつてない記録を作り出し、中朝関係史に刻み込まれることになった。両国最高指導者の指導推進のもと、中朝の伝統的遊戯は生き生きとした生気を渙発し、両国関係も新たな歴史的ページをめくっている。
 中朝伝統的友誼は両国の老指導者が手塩にかけて作り出し、育んだものであり、双方共同の貴重な財産であり、一時的単発的出来事によって影響を受けるものではない。今年は中朝国交樹立70周年に当たっており、両国関係にとって承前啓後、継往開来の重要な意義がある。中朝の伝統的友誼を引き継ぎ、発展させることは双方の共同の利益に合致し、中国の確固とした選択でもある。我々は、朝鮮が自国の国情に合致した発展の道を歩み、社会主義建設事業において不断に新たな進歩を勝ち取ることを全力で支持し、朝鮮が実行する新国家戦略、経済建設と民生改善に力を集中することを全力で支持し、並びに朝鮮が半島非核化に関する大方向を堅持し、非核化実現プロセス実現途上において朝鮮の正当な関心を解決することを全力で支持する。詰まるところ、我々は朝鮮と手を携えて新時代の中朝関係を共同で作り出し、両国人民の根本的利益を擁護し、半島問題の政治解決プロセスを擁護し、地域の平和と安定を擁護したい。