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第2回米朝会談:成果と課題(ハンギョレ分析)

2019.03.05.

3月4日付のハンギョレ日本語WSは、第2回米朝首脳会談の成果と課題をまとめた分析(イ・ジェフンとパク・ミンヒ連名)を掲載しました(韓国語原文は前日付)。私が3月3日付のコラムで行った分析内容と大きな出入りがあるわけではありませんが、成果と課題という視点に絞り込んだ分析で明確な論点整理となっています。全文を紹介します。

[ニュース分析]朝米、「対話ムードの維持」確認したが、膠着の長期化防止を
 合意なしに終わったハノイでの朝米首脳会談は「朝鮮半島の恒久的かつ堅固な平和体制の構築」(6・12シンガポール朝米共同宣言)という長い旅の新たな出発点といえる。金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長とドナルド・トランプ大統領の「ハノイ談判」の結果は、新たな模索の糸口であり、推進力となる"成果"と共に、第3回首脳会談の実現に向けて解決すべき"課題"も浮き彫りにした。
成果1:確認された「状況管理」能力
  関係悪化を防ぐため相手を配慮
  後戻りしないという「逆行の防止」に共感
 「両首脳は会談後、互いに配慮し、状況の管理に努めている。今回確認された最も大きな成果の一つだ」(イ・ジョンソク元統一部長官)、「両首脳が『対話ムードを壊すつもりはない』ことを明確に示している」(キム・ジュンヒョン韓東大学教授)。政府高官は3日、「朝米首脳が"逆行の防止"に共感していることが確認された」とし、「後退さえしなければ、再び前進できる」と期待感をにじませた。実際、金委員長はハノイ会談で、「生産的な対話を続けていくことにした」というメッセージを「労働新聞」を通して示した。トランプ大統領も会談直後の記者会見で、「金委員長とは非常に良好な関係にある。最終的には合意できるだろう」と強調した。
成果2:明らかになった「取引条件」
非核化・制裁緩和のレベルを確認
不確実性の除去で次の会談の基盤に
 「北朝鮮が寧辺(ヨンビョン)の核施設を丸ごと放棄する用意があるという事実が、初めて確認された。寧辺が廃棄されれば、残りの非核化プロセス程が加速する可能性がある。最も大きな成果だ」(政府高官)、「不確実性が除去され、すべての争点が明らかになった。第3回首脳会談でさらに高いレベルの合意が実現する基盤ができた」(チョ・ソンニョル前国家安保戦略研究院先任研究委員)。イ・ジョンソク元長官は「北朝鮮が寧辺の核施設の永久廃棄、さらに米国専門家の査察・検証と朝米両国の技術者の共同作業による廃棄案を提案した事実が非常に重要だ」とし、「新たな模索の基盤になる」と指摘した。実際、リ・ヨンホ外相はハノイで開いた深夜会見で、寧辺の核施設の永久廃棄▽核実験・長距離ロケット発射の永久中止を文書の形で約束する見返りとして、「2016~2017年に国連制裁決議5件中、民需経済・人民生活に支障をきたす項目を先に解除」を求める意向を明らかにした。トランプ大統領とマイク・ポンペオ国務長官は寧辺の核施設の廃棄に加え、「我々が見つけたほかのもの」(寧辺以外のウラン濃縮施設)と「ミサイル、弾頭、兵器システム」を含む「申告リスト」を提出しない限り、制裁は解除できないと明らかにした。
成果3:補完された「トップダウン」方式
  両首脳の「トップダウンの短所」を補完する
実務交渉にかなりの権限が与えられたのは成果
 トランプ大統領は会談直後の会見で「宣言文が用意されていた」と述べた。キム・ヒョクチョル国務委員会対米特別代表とスティーブン・ビーガン国務省北朝鮮政策特別代表が、実務交渉で「首脳会談合意文の草案」を作成することに成功したという意味だ。「第1回会談に比べてトップダウン方式の短所がかなり補完された」(イ・ジョンソク元長官)や「トップダウン+実務交渉方式が依然として有効だ」(ヤン・ムジン北韓大学院大学教授)という分析は、このような実務交渉の前進に基づいている。
課題1:依然として信頼が不十分
「ビッグ・ディールかノー・ディール」という米国の戦略
北朝鮮の拒否感強く、障害になる可能性も
 ハノイ会談が投げかけた最大の話題は、非核化の概念と方式をめぐる朝米の"信頼不足"をいかに克服するかだ。米国側は北朝鮮側の「段階的同時行動原則」を非核化への意志が足りない証と見なしている。北朝鮮は今回明らかになった米国の「ビッグ・ディール」戦略を、交渉に向けた意志の不足の裏返しと見なしている。溝が深い。北朝鮮政策をめぐる米政府内の足並みの乱れは、解決策の模索をさらに困難にしている。ビーガン代表は1月31日、スタンフォード大学での講演で、「同時・並行」推進の原則を明らかにし、「核申告」を前面に掲げない考えを示した。ところが、トランプ大統領は米議会・世論の圧力に押され、「ビッグ・ディール」でなければ「ノー・ディール」に転じ、ポンペオ長官は「核申告」を要求した。朝米間の意見の隔たりだけでなく、米国内部の混乱も解消しなければならない課題だ。
課題2:膠着の長期化は危険
米国の大統領選挙戦が始まってからは交渉は難しく
年内に合意できなければ長期化の恐れも
 「来年は米大統領選挙があり、今年でなければ合意は難しい」(ヤン・ムジン教授)。キム・ジュンヒョン教授は、ハノイ会談で双方の交渉カードが明らかになったのが、"両刃の剣"になる可能性があると指摘した。不確実性の解消が、ともすれば両首脳のプライドをかけた戦いに拡大すれば、推進力が急激に失われる恐れがあるということだ。多くの専門家が「しばらく冷却期間をもつのは避けられないが、膠着の長期化は危険だ」とし、「交渉が早期に再開できるよう、韓国政府が最善を尽くさなければならない」と助言するのもそのためだ。消息筋は「北朝鮮政策をめぐり、トランプ政権内部の足並みの乱れが加速する恐れもある」とし、「これからは時間との戦いだ」と強調した。
課題3:足を引っ張られた南北関係
南北関係で朝米対話の動力を蘇らせ
朝米中と能動的外交に乗り出すべき
 多数の専門家は「金剛山観光や開城工業団地の再開などの基本的な要求も、今回の会談で合意が見送られたことで、不透明になった」と懸念を示した。慶南大学極東問題研究所のイ・グァンセ所長は「非核化までに南北関係を留保することはできない」とし、「南北関係で朝米関係の動力を作り出すこともできる」と話した。イ・ジョンソク元長官は「朝米と接触し、中国と協力する」一方、「熾烈な内部討論」で創意的な案を用意し、積極的・能動的外交に乗り出すべきだと指摘した。