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第2回米朝首脳会談:米韓首脳電話会談とハンギョレ分析記事

2019.02.21.

2月19日に韓国の文在寅大統領とアメリカのトランプ大統領が電話会談を行いました。文在寅大統領は朝鮮の非核化措置に対応するアメリカのとる措置として「南北間の鉄道・道路連結から経済協力事業まで」韓国の役割を活用するように伝え、「トランプ大統領が求めるならその役割を引き受ける覚悟ができている。それが米国の負担を減らす道」と述べたと2月20日付の連合通信が伝えました。鉄道道路連結、金剛山観光事業再開、開城工業団地再開は南北経済協力におけるトップ・ランナーの役割を担っていますが、アメリカは南北関係先行を警戒し、待ったをかけています。2月6日のコラムでは、ビーガン特別代表の1月31日の発言を紹介して、アメリカが南北交流の前進を前向きに評価していると紹介しましたが、2月に訪米した韓国のムン・ヒサン国会議長と国務省のサリバン副長官との会見に同席したビーガンは、南北交流の前進を強く牽制し、アメリカの対朝鮮政策と歩調を合わせることを明確に要求しました。文在寅大統領の上記発言は、「人の褌で相撲を取る」方式(以下に紹介するイ・ジェフン記者署名文章における見事なたとえ)を好むトランプ大統領のアプローチを逆手にとりつつ、朝鮮が一貫して主張してきた「行動対行動」「同時行動」原則の中に南北交流計画を取り込むことで、トランプに「花」は与えつつ、自らは「実」をとるという「一挙両得」の見事な提案だと感心しました。
 2月20日付のハンギョレ・日本語WSは、イ・ジェフン先任記者署名文章「対北朝鮮制裁緩和、"例外の認定"か"構造の解体"か」を掲載しています。韓国語の文章は19日付ですので、文在寅大統領がトランプ大統領に提案した内容を織り込んだ上で、文在寅提案が安保理制裁決議2397に基づく「例外認定」として、新安保理決議を得ることなく実行できるというメリットがあると指摘しています。他方、文在寅提案の問題点として、朝鮮が要求しているのは「特定事業に対する"例外の認定"ではなく、"制裁レジームの緩和"」であり、その点に即せば、文在寅提案は朝鮮の要求に即したものとはならないことを指摘しています。イ・ジェフン先任記者には今や一目も二目も置く私ですが、改めて真にジャーナリストの名に値する存在だと感じ入りました。彼がBDA(バンコ・デルタ・アジア)問題のケースにまで遡っていることもすごいです。
 ただし、朝鮮の要求する「行動対行動」原則は第一ステップから安保理制裁決議の「解体」に踏み込むことまでを要求しているとは私には思えません。また、文在寅が上記提案を行うに当たっては金正恩の意向を何らかの形で確認している可能性は大いにあると思うので、イ・ジェフンの指摘する問題点はクリアされている可能性があると思います。
 同日付のハンギョレ日本語WSは、キム・ジウン記者署名文章「朝米首脳会談、国交正常化の入り口の連絡事務所設置につながるか」も掲載しています。この文章は、歴代米政権が中国、ヴェトナム、リビア、キューバとの関係改善過程の第一ステップとして連絡事務所の設置を行った先例を踏まえ、第2回米朝首脳会談で連絡事務所設置に合意する可能性を示唆したものです。この文章の最大の問題点と私が感じることは、トランプはとにかく歴代米政権(既成エスタブリッシュメント)がやってきたことには反発して逆のことを行うということを見落としていることです。他方、トランプが連絡事務所設置のアイデアに乗るとすれば、彼のそれなりの柔軟性、したたかさをも示す具体例ということにもなりますので、第2回米朝首脳会談の「見所」を増やすことにもなります。
 長い前置きになりました。3つの文章を紹介します。

韓米首脳が米朝会談向け電話協議 トランプ氏「大きな成果予想」
【ソウル聯合ニュース】韓国の文在寅大統領は19日、2回目の朝米(米朝)首脳会談を8日後に控え、トランプ米大統領と電話で35分間会談し、北朝鮮の非核化措置を引き出すための相応の措置として、韓国の役割を活用するよう伝えた。青瓦台(大統領府)の金宜謙(キム・ウィギョム)報道官が発表した。
 文大統領は朝米再会談が昨年6月の史上初の朝米首脳会談での合意に基づき、完全な非核化と朝鮮半島平和体制、朝米関係発展を具体化する大きな転換点になるよう期待を表明。「南北間の鉄道・道路連結から経済協力事業まで、トランプ大統領が求めるならその役割を引き受ける覚悟ができている。それが米国の負担を減らす道」と強調した。
 これに対しトランプ氏は首脳会談の準備状況や北朝鮮との協議の動向を説明した。両首脳は朝米再会談に向け具体的な連携策について幅広く踏み込んだ議論を行った。
 トランプ氏は朝米再会談で大きな成果が予想されると期待を表し、会談の結果の共有や後続措置について文大統領と緊密に協議を続ける意向を示した。さらに、朝米再会談後に電話で文大統領に会談の結果を伝えることを約束したほか、直接会って結果を共有することにも期待を示した。
イ・ジェフン:[ニュース分析]対北朝鮮制裁緩和、"例外の認定"か"構造の解体"か
 「付けておいてください」。「現金以外はお断りします」
 第2回朝米首脳会談の難題である"制裁緩和"をめぐる朝米両国の基本的な態度だ。米国は「寧辺プラスアルファ」など、北朝鮮側の意味ある非核化措置を前提に「制裁緩和を考慮できる」という"ツケ"を、北朝鮮側は「非核化と制裁緩和の交換」という"現金"方式を好む。隔たりは大きいが、両方とも(核問題を解決するためには)調整が不可欠であることを分かっている。
 スティーブン・ビーガン国務省北朝鮮特別代表の平壌交渉後、米国の最上層部は調整のメッセージが込められたガイドラインを示した。マイク・ポンペオ国務長官が「制裁を緩和する見返りとして良い結果を得るのが我々の意図」(13日のインタビュー)と述べたのに続き、ドナルド・トランプ大統領が「北朝鮮に数十億ドルを渡した前轍を踏まない」(15日のホワイトハウス会見)と強調した。"制裁緩和"をカードに使うものの、"米国のカネ"は使わないという「人の褌で相撲を取る」方式だ。
 南北経済協力事業に対する包括的制裁免除がまず取り上げられている。韓国政府が強く望んでおり、米国も否定的ではないというのが消息筋の話だ。国連の最新の制裁決議第2397号の「事案別免除決定」(第25条)と「朝鮮半島の平和・対話・緊張緩和活動の歓迎」(第27条)条項を援用すれば、別途決議を採択しなくても可能だ。米国にとっては、"国際制裁レジーム"に手をつけなくても北朝鮮側の意味のある非核化措置を引き出すアメとして使える利点がある。米国は、各種の制裁にかかった開城(ケソン)よりは、原則的に制裁対象でない金剛山(クムガンサン)カードを優先的に考慮しているという。
 北朝鮮にとっても、金正恩国務委員長が新年の辞で「前提条件と見返りを求めない再開」を提案しただけに、金剛山・開城事業の再開は優先課題だ。ただし、問題がある。まず、北朝鮮側は、両事業は「南北経済協力」であるため、米国の交渉カードにはなり得ないとし、「干渉するな」という態度だ。 「受け取らない」わけではなく、「もっと多くのもの」を得るための交渉上の戦術だ。何よりも北朝鮮は特定事業に対する"例外の認定"ではなく、"制裁レジームの緩和"を望んでいるというのが本質的な争点だ。事情に詳しい消息筋は19日、「BDA(バンコ・デルタ・アジア)問題のときの北朝鮮のアプローチに注目する必要がある」と助言した。
 北朝鮮の1回目の核実験(2006年10月9日)と6カ国協議の長期空転の触発要因となった「BDA問題」の際、北朝鮮は「口座凍結を解除するから、2500万ドル(約4億6000万円)を下ろせ」という米国側の提案を拒否し、「国際金融網を通じた送金」方式を強く主張した。結局、韓米中ロの協力でロシア銀行を経て送金する方式で、発生から2年目の2007年に一段落した。消息筋は「北朝鮮がBDA問題で重視したのは、2500万ドルではなく、国際金融網への接近権」だとし、「制裁問題でも、北朝鮮は"例外"ではなく"レジームの緩和"を望んでいる」と指摘した。同消息筋は「経済成長を追求する金委員長にとっては、南北経済協力だけでなく、朝中経済協力を含む国際社会と経済交流をする糸口を探るのが死活問題」だと付け加えた。
 金剛山・開城を論外とすれば、国連決議第2397号が規定した「1年に製油50万トン」(第5条)の上限を引き上げるか、一部の民生分野を制裁対象から除外する案もある。ただし、このためには新しい国連決議を採択しなければならず、トランプ大統領の政治的負担が大きい。
 "第3の解決策"もある。2回目の朝米首脳会談の合意履行の過程で、非核化と制裁緩和など相応の措置をあわせて協議・実行する委員会を設ける案だ。"ツケ"と"現金"との折衝である。
 外交安保分野の高官は「制裁緩和方式が国連の別途の決議文の採択なのか、対北朝鮮制裁委員会の"免除決定"なのかは、朝米交渉にかかっている」とし、「金正恩委員長とトランプ大統領が談判を終えて会談場に出るまでは、誰にも分からない問題」だと述べた。
キム・ジウン:[ニュース分析]朝米首脳会談、国交正常化の入り口の連絡事務所設置につながるか
 米国は、中国やベトナム、リビアなど、過去の敵対国との関係正常化を控え、連絡事務所や利益代表部を設置してきた。連絡事務所は関係正常化の"入り口"だったわけだ。2回目の朝米首脳会談を控え、連絡事務所の設置と役割が注目されるのもそのためだ。
 両国が公式の外交関係を樹立する協約を結んで開設する大使館と異なり、連絡事務所(liaison office)は明確に規定された機能と役割がない。合意に基づき「事実上の大使館」機能を担当することも、初歩的な"疎通の窓口"の役割を果たすこともある。これは、利益代表部(interest section)も同じだが、共通点は国交のない国の間に設ける"常設外交代表部"の性格を持つという点だ。
 バラク・オバマ米大統領の"業績"とされる米国とキューバの54年ぶりの国交正常化過程にも、利益代表部が存在した。キューバ革命から2年後の1961年に断交して以来16年間、米国の代理代表はスイスの駐キューバ大使館が務めた。ところが、ミサイル危機を経て、最小限の外交チャンネルを維持する必要性を感じた両国は、1977年にワシントンとハバナに相互利益代表部を設置し、以後40年近くこれを運営した。米国の利益代表部はスイス大使館の保護の下、キューバの利益代表部は当時チェコスロバキア大使館の協力によって設置された。
 米国と中国も1979年の国交樹立の6年前である1973年に、それぞれワシントンと北京に連絡事務所を設置した。1972年当時、リチャード・ニクソン米大統領と毛沢東中国国家主席が上海共同声明を発表し、関係正常化に向けて努力することで合意した。ちょうど1年後の1973年2月、両国は相手国の首都に連絡事務所を開設するという内容の共同合意文を発表した。当時、米国務省側が連絡事務所と大使館の違いを尋ねる取材陣の質問に即答できない場面もあった。両国が国交樹立に合意した1978年まで、連絡事務所は両国関係全般を扱う実質的な外交チャンネルの役割を果たした。北朝鮮の外交官たちが北京の米国連絡事務所を訪れ、米国側と接触したという記録もある。
 米国とベトナムの場合、ワシントンとハノイに連絡事務所を設置した期間は6カ月に過ぎなかった。両国が公式の外交関係を樹立した1995年のことだ。ただし、それに先立ち、両国の国交樹立の土台となったベトナム戦争での米軍捕虜及び行方不明者問題の解決と遺骨発掘事業のため、米国は1991年からハノイで事務所を運営した。ベトナムは別途米国に"事務所"を設けなかったが、米国は1991年、ニューヨーク国連本部に勤務するベトナム外交官たちの旅行規制を解除した。
 米国と核交渉を経て国交正常化したリビアにも、非核化過程における相応の措置として、首都トリポリに米国の連絡事務所が設置された。リビアが2003年、核を含む大量破壊兵器(WMD)計画の廃棄に合意したことを受け、米国は2004年2月に利益代表部を開き、それから4カ月後に連絡事務所に格上げした。同連絡事務所は、リビアの非核化措置が終わった2006年5月に大使館となった。