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労働新聞「金正恩将軍、平和の新しい歴史を書く」寄稿文

2019.02.19.

2月18日付のハンギョレ・日本語WSは、2月13日付の労働新聞(5面)に掲載された在日コリアンのオ・ジンソ署名文章に関するイ・ジェフン先任記者署名文章と社説を掲載しています(韓国語原文は2月17日掲載)。金正恩の「朝鮮半島非核化という予想外の破格的決断」は「背を向けたり後戻りすることのない道」であることを国内に向けて初めて明らかにしたものであり、そのタイミングからいって、第2回米朝首脳会談を念頭に置いた対米メッセージが込められているとするイ・ジェフン及び社説の指摘は正しいと思われます。
2月4日のコラムで紹介したビーガンの発言の中で、「金委員長の新年の辞を見たとき、彼はアメリカに対してではなく朝鮮の人民に対して非核化する決定を行ったと宣言していた。そのことは、我々の追求するゴールに向かえるという希望に基づいてこの交渉を始める空間を作り出した。」とする部分を想起するならば、今回も国内に対して非核化への道が不可逆であることを明らかにしたことの意味は明らかです。うがった見方をするならば、朝鮮もビーガンの1月31日の発言を綿密に検証したことは疑う余地もないことであり、ビーガンの上記発言を踏まえて「国内向け」に金正恩の決意を明らかにしたと見ることは大いに可能です。
 残念ながらハングルが分からない私には原文を読むことはできません。朝鮮中央通信をチェックしたところ、以下のように日本語版も英語版もオ・ジンソ文章のことをトップで紹介しています。ということは、労働新聞だけではなく各紙がオ・ジンソ署名文章を掲載したことが分かります。しかし、朝鮮中央通信は同文章の中身については、日本語でも英語でも紹介していませんでした。

チュチェ108(2019)年2月13日の新聞概観
【平壌2月13日発朝鮮中央通信】13日付の朝鮮各紙の主要ニュースと記事
―最高指導者金正恩党委員長が開く平和時代の真の意味について書いた在日同胞オ・ジンソ氏の文
―朴奉珠総理が複数の単位を視察
―第34回平壌機械総合大学科学技術祭典が開幕
―駐朝武官団が金日成総合大学を参観
―駐朝諸国大使館の文化・友好関係者が平壌教員大学を参観
―駐朝外交および国際機構代表部のメンバーが柳原履物工場を参観
「労働新聞」
―これまで金正日花祭典に43万余鉢の不滅の花を展示、ほぼ900万人が参観
―太陽節(金日成主席の誕生日)および光明星節(金正日総書記の誕生日)祝賀準備委員会を諸国で結成
―光明星節に際して朝鮮図書寄贈式 ロシアで
―日本反動層の独島強奪野望は絶対に実現されない妄想と主張した日本研究所研究員の論説
「民主朝鮮」
―人民経済の各部門で収められた成果
Press Review
Pyongyang, February 13 (KCNA) -- Following are major news items and articles in newspapers of the DPRK on Wednesday:
O Jin So, a Korean resident in Japan, in an article deals with the real meaning of the peace era ushered in by Supreme Leader Kim Jong Un.
Pak Pong Ju inspected various units.
The 34th Festival of Science and Technology of Pyongyang University of Mechanical Engineering opened.
The military attaches corps here visited Kim Il Sung University.
Officials in charge of cultural and friendly relations of foreign embassies here visited Pyongyang Teacher Training College.
Officials of foreign embassies and missions of international bodies here visited the Ryuwon Footwear Factory.
Rodong Sinmun
More than 430 000 potted Kimjongilias have been displayed at the venues of the Kimjongilia festivals over the past years, drawing nearly nine million visitors.
Preparatory committees for celebrating the Day of the Sun and the Day of the Shining Star were formed in different countries.
Korean book-donating ceremony took place in Russia on the occasion of the birth anniversary of Chairman Kim Jong Il (Day of the Shining Star).
An article written by a researcher of the Institute for Japan Studies says that the Japanese reactionaries' ambition for grabbing Tok Island is a daydream never to be realized.
Minju Joson
Successes were made in various sectors of the national economy.
イ・ジェフン署名文章とハンギョレ社説を紹介しておきます。
イ・ジェフン:労働新聞「金正恩の非核化決断は、後戻りのない道」
 北朝鮮の「労働新聞」が、金正恩国務委員長の「朝鮮半島非核化という予想外の破格的決断」は「背を向けたり後戻りすることのない道」と明らかにした。金委員長が昨年、3回の南北首脳会談と朝米首脳会談、今年の新年の辞などで明らかにした「完全な非核化」の意志が「不可逆的決断」であることを強調したということだ。
 金委員長が繰り返し約束した「完全な非核化」の意味と背景を解説する記事が労働新聞に掲載されたのは今回が初めてだ。労働新聞は、4・27板門店宣言、6・12朝米共同声明、9月平壌共同宣言の全文を載せる方式で、金委員長の「完全な非核化」の約束の事実を紹介したが、その意味を解説する文は載せなかった。2回目の朝米首脳会談を控え、北朝鮮で最も権威あるメディアである「労働党中央委員会機関紙」の「労働新聞」がこのような前例のないメッセージを発信した背景に注目が集まっている。外交安保分野の高官は17日「非常に重要な意味が込められた文」と評価した。
 労働新聞は13日付5面に掲載された「金正恩将軍、平和の新しい歴史を書く」という長文の寄稿文で、金委員長の「非核化決断」を「ゴルディアスの結び目」切断に比喩した。労働新聞は、アレクサンダー大王がゴルディアスの結び目を切断したギリシャ神話には「既成観念の打破に対する肯定的評価が込められている」と解説した。そして、金委員長の歩みを「既成の観念と根深い敵対意識を火で燃やす果敢で新しい闘争方式」と規定した。特に労働新聞は「平和への道は艱難辛苦で時には高価な犠牲を伴いもする」とし、「前途が遠いからといって座り込むことはできず、休んでいることもできず、試練と難関が立ち塞がっているからといって背を向けたり後戻りすることはできない道」と強調した。米国・国連の制裁が変わっていない状況を問題視する一部の内部勢力の憂慮と不満に釘を刺すような表現だ。
 寄稿文の筆者は、労働新聞の論評員や記者ではない「在日同胞 オ・ジンソ」とされている。この文の核心メッセージが呼び起こす内部世論の"衝撃"を緩和するための安全装置と解説される。"人民の必読新聞"に載せられた文らしく、論理が北朝鮮式だ。「米国と強力な力の均衡を成し遂げた共和国の戦争抑止力」が「戦争と対決、不信と誤解の悪循環を一挙に壊してしまった平和の宝剣」という主張がその代表例だ。ただし「共和国の戦争抑止力」を強調しながらも、金委員長の非核化の意志を確信できない外部の視線を意識したように「核抑止力」という表現は努めて避けた。
 労働新聞のすべての文は、労働党宣伝煽動部の検討と承認を経る。したがって「在日同胞寄稿文」という形式であっても、実際には金委員長を含む「党中央委」の意中が込められた文といえる。
 一方、金委員長は16日、金正日国防委員長の誕生記念日である「光明星節」に合せて錦繻山(クムスサン)太陽宮殿に参拝したと労働新聞が伝えた。参拝には党中央委のチェ・リョンヘ副委員長、金与正(キム・ヨジョン)第1副部長など「組織指導部と宣伝煽動部の人々」が共にした。
[社説]注目される労働新聞の「金正恩非核化決断」報道
 2回目の朝米首脳会談を2週間後に控え、北朝鮮の労働党機関紙の「労働新聞」が金正恩国務委員長の「非核化決断」を高く評価する長文を載せ、注目されている。13日付で載せられたこの論評は、金委員長の決断をアレクサンダー大王が荷車に縛った綱を刃で断ち切ったというゴルディアスの結び目のエピソードにたとえて「想像を超えた重大決断」と紹介した。労働新聞が金委員長の非核化決断の意味をこのように詳細に大きく解説したのは初めてだ。朝米首脳会談に臨む北朝鮮の姿勢と覚悟が垣間見られる。
 特に、この文章が金委員長の非核化の決断を「不可逆的なもの」として強調している点に注目する必要がある。「前途が遠いからといって座り込むことはできず、試練と難関が立ち塞いでいるからといって背を向けたり後戻りすることはできない道」という表現は、北朝鮮が非核化路線の他に方法がないことと認識していることを示している。筆者を在日同胞名として婉曲的にしているものの、労働党の機関紙に載せられた以上、北朝鮮の公式の立場と見ても無理はないだろう。
 この文の掲載目的は、まず北朝鮮内部の非核化に対する一部の憂慮と不満を落ち着かせようとしていると見られるが、同時に会談を控え米国に対して金委員長の非核化の意思を鮮明に表わそうとしていると見ることができる。これまで北朝鮮は非核化の履行約束を繰り返し明らかにしたが、米国内部では相変らず懐疑論が絶えることなく続いている。北朝鮮が非核化の意思を異例にも強く明らかにしただけに、会談でいっそう果敢な非核化の実行の約束としてこの「決断」が形になることを期待する。
 もちろん、北朝鮮が果敢な非核化に出るには米国の十分な相応の措置によって後押しされなければならない。トランプ大統領は、会談は「非常に成功的になるだろう」と明らかにしており、ポンペオ国務長官も初めて「制裁緩和カード」を持ち出した。しかし、まだ北と米国の合意の水準と内容は明らかにされておらず、予断は許されない。朝米両国は今週中に開かれる今後の実務者協議で合意文書をまとめなければならない。首脳会談は第1回に続き、改めて朝鮮半島の命運がかかった話し合いになるだろう。北も米国も毅然とした態度で交渉に臨み、「非核化と相応の対応」の最も良い協調を見い出すように願いたい。