21世紀の日本と国際社会 浅井基文Webサイト

安倍外交の本質的問題(中国専門家文章)

2019.02.03.

安倍首相は1月28日の施政方針演説で、「この六年間、積極的平和主義の旗の下、国際社会と手を携えて、世界の平和と繁栄にこれまで以上の貢献を行ってきた。地球儀を俯瞰する視点で、積極的な外交を展開してまいりました。平成の、その先の時代に向かって、いよいよ総仕上げの時です」と述べ、中国、ロシア、北朝鮮との関係に触れた上で、「北東アジアを真に安定した平和と繁栄の地にするため、これまでの発想にとらわれない、新しい時代の近隣外交を力強く展開いたします」と結びました。私は正直この演説をまともに読んでいなかったのですが、1月31日付の環球時報に掲載された胡継平(中国現代国際関係研究院院長助理)署名文章「日本の「新近隣外交」困難山積み」を読んで、慌ててネット検索して読み、以上の発言を確認した次第です。
胡継平は冒頭で、「安倍首相は施政方針演説で、首相就任以来の「地球儀俯瞰外交」を「総仕上げ」するといった。その中で安倍が重点を置いたのが中国、ロシア、朝鮮を含む北東アジア外交で、「これまでの発想にとらわれない、新しい時代の近隣外交を力強く展開する」とした。安倍は外交にすこぶる抱負があるのだが、歴史及び現実の角度から総合的に観察するに、「新しい時代の近隣外交」を確実に実行する上では困難は少なくない」と述べ、歴史にかかわる困難のポイントを挙げています。私が安倍外交について日頃考えていることを代弁してくれているではないか、と溜飲が下がる思いでした。傍目八目の面目躍如といったところです。というわけで、胡継平の重みのあるこの文章を紹介します。

 安倍は自慢げに昨年の訪中を通じて日中関係が「完全に正常な軌道へと戻りました」とするとともに、首脳及び各レベルでの交流を通じて日中関係を「新たな段階」へ進めていくと表明した。安倍はまた、国際環境が日増しに厳しく、不確実性が急速に増しているとも指摘した。この状況下で、中国との関係を転換することは日本の経済、外交、安全の行動空間を拡大することは疑いない。しかし、現在における中日の共同利益の拡大は経済領域が主であり、歴史認識、領土紛争などの懸案は相変わらず存在しており、長期にわたって相互信頼、協力深化の双方の努力に対して影響を及ぼすだろう。
 安倍は対ロ外交においても大きな力を注いできているが、先般の訪ロ結果から見れば、双方が領土問題で妥協し、平和条約を締結することは必ずしも簡単なことではない。…仮に双方の首脳が妥協する意思があるとしても、両国の民意はおそらくそれを受け入れないだろう。
 日本と朝鮮は今日に至るも国交を正常化していない。朝鮮による日本人「拉致」問題は外交問題であるとともに政治問題であり、譲歩は難しい。朝鮮側は問題が解決済みとしており、交渉の余地はほとんどない(浅井補足:安倍首相は「次は私自身が金正恩委員長と直接向き合い、あらゆるチャンスを逃すことなく、果断に行動いたします」と述べていますが、朝鮮中央通信の対日論調をチェックしている私からすると、「盗っ人猛々しい」という朝鮮側反応は免れないと思います。)
 韓国との関係は現在の安倍外交における最大の「難関」である。安倍は過去の施政方針演説では韓国を「重要な隣国」と呼んでいたが、今回は韓国のことをほとんど取り上げなかった。その背景には、レーダー照射、強制徴用工賠償訴訟などの激しい論争問題があり、両国関係は国交樹立以来で最低にある。
 北東アジア外交全体から見るとき、歴史的に残された問題は相変わらず日本が「新近隣外交」を実行する上での主要な障碍である。日本が隣国との間で抱える領土紛争、歴史認識問題、侵略及び植民地支配が残した賠償訴訟等は、一つとして歴史と関係がないものはなく、日韓間のレーダー照射紛争もこの背景のもとで激化したものである。こういう局面を作り出した背景の一つは、冷戦という環境のもと、ソ連は1951年の対日平和条約に署名せず、中国、朝鮮、韓国に至っては条約交渉にも参加せず、そのために日本と隣国との戦後処理が徹底的に解決されることがなかったことにある。このことはアメリカの戦略的意図に合致するものであったかもしれないが、北東アジア地域の平和と発展に対しては長期にわたる潜在的禍根の種となっている。
 もう一つの原因は戦後日本が侵略植民地支配の歴史に対して真摯な総括を行わず、外交においては往々にして目先の利害にいちいちこだわり、歴史問題では隣国と値段的な駆け引きをすることに終始し、被害側の許しを積極的に得ようとせず、その結果、隣国との関係は第二次大戦終結後70年以上を経たのに相変わらず歴史問題の困難を脱却することができないでいることだ。
 現在における安倍の目標は、敗戦がもたらした「負の遺産」を徹底的に取り除き、日本と隣国との関係を正常な軌道に乗せることにある。そのためには、隣国との間の現実的な矛盾を解決するだけでなく、より必要なのは、長期的視野に立ち、問題の根っこから着手し、障碍を確実に除去することだ。そのためには、日本は第一に第二次大戦の結果及び関連する国際文献を尊重し、これを紛争解決の前提とする必要がある。第二に、自ら進んで隣国との歴史的和解を推進する必要がある。これだけが「新近隣外交」を実行する日本が必ず通らなければならない道であり、それがまた日本の長期的国家利益に合致することになるだろう。