21世紀の日本と国際社会 浅井基文Webサイト

安倍外交批判(中国専門家分析)
-その二:日韓関係-

2019.01.27.

私は、昨年来の日韓関係の緊張に関する日本マス・メディアの一方的な「韓国叩き」報道にすこぶる違和感を覚えています。元々の発端は、いわゆる「従軍慰安婦」問題及び強制徴用韓国人被害者賠償請求訴訟に関する日韓両政府の基本的立場の相違にあります。私は後者(強制徴用問題)に関する日本政府の主張の失当性については昨年11月22日のコラムで詳説しました。また、前者(「従軍慰安婦」問題)に関する安倍政権の立場の失当性については2017年12月31日付のコラムで指摘しました。両者に共通するのは、文在寅政権が人間の尊厳を重視する基本認識から両問題にアプローチしているのに対して、安倍政権は終戦詔書史観(一般的には靖国史観という呼称が流通していますが、それは正確ではなく、終戦詔書史観とするべきだと考えます)にしがみついてアプローチしていることに起因するものだということです。しかし、日本も批准した国際人権規約を根本的指針とする限り、文在寅大統領と安倍首相のいずれが正しいかは明々白々です。朝日新聞を含む日本のマス・メディアの「韓国叩き」報道の根本的誤りも、国際人権規約で確立した法規範をまったくわきまえないで勝手な主張を行っていることにあるのです。
昨年末以来のいわゆるレーダー照射問題に端を発する日韓両国の激しい応酬に関しては、事実関係を客観的に判断しようがない(日韓双方がアメリカに情報提供しているはずなので、事実関係を正確に掌握しうる立場にあるのはおそらくアメリカですが、トランプ政権は「我関せず」を貫いているので、白黒がつくのはおそらく不可能でしょう)ので、私はいずれの主張が正しいのかは判断できません。しかし、日本のマス・メディアが一方的に日本政府の主張が正しく、韓国政府の主張は取るに足らないと決めつけるのは、「従軍慰安婦」問題及び強制徴用工問題以来の「韓国叩き」の延長線上にあることは間違いないと思います。
 以上を踏まえた上で、中国側が日韓関係の現状をどのように観察分析しているかについて見ておきたいと思います。尊厳・人権に関わる日韓間の係争については、私が満足できるような観察分析を行っているものはありません(中国にとってのこの問題の微妙性に鑑みれば、正面切った分析に接し得ない事情は理解できます)。その点に目をつぶれば、1月23日付の解放軍報が掲載した凌勝利署名文章「レーダー照射の波風収まりがたく、徴用工争議なお発酵中 日韓関係齟齬の絶えない「旧態依然のシナリオ」に回帰」が「傍目八目」ぶりを遺憾なく発揮していると思います。ちなみに検索サイト「百度」によれば、凌勝利は外交学院国際関係研究所副教授とのことです。1986年生となっているので、気鋭の学者というべきでしょう。

 最近の日韓関係はレーダー照射及び徴用工争議によって不断に悪化している。安倍首相と文在寅大統領が朝鮮核問題で頻繁に意思疎通していた時と比較すると、日韓関係は再度齟齬が絶えない「旧態依然のシナリオ」にのめり込んでいる。
 (レーダー照射を理由とする日本による韓国の謝罪要求、これに対する日本の哨戒機の低空飛行を理由とする韓国による日本の謝罪要求を説明した後)この事件による現実の被害は起こっていないものの、日韓の安全保障協力の敏感性と脆弱性を映し出しており、「盟主」であるアメリカにとっても日韓安全保障協力の仲を取り持つという難題に直面している。
 (昨年10月30日の韓国最高裁による新日鉄住金に対する賠償命令判決と安倍首相の強硬対応姿勢を説明した上で)日韓外交当局はこの問題について交渉を行ってはいるが、この案件がモデル的性格を有しているので、解決はおそらくそれほど容易ではないだろう。日本が恐れるのは、韓国最高裁のこの判決が韓国さらにはアジア諸国でさらに多くの類似の訴訟を触発する可能性があるということだ。最近、この心配が裏付けられようとしている。すなわち1月18日、韓国ソウル高裁は不二越に対して強制徴用された韓国女性労働者及び家族に対する賠償命令の判決を行った。強制徴用工争議問題における日韓間の争点は二つだ。一つは両国政府と国民との間の対立、すなわち政府レベルで解決した歴史問題が必ずしも国民レベルでは承認されないという問題。もう一つは、紛争解決の道筋に関する対立、すなわち日韓がそれぞれ自国の裁判所で法律的に解決するのか、それとも両国政府が外交解決を目指すのかという問題。
 レーダー照射問題にしても強制徴用工争議問題にしても、日韓関係の限定的性格を反映している。日韓間の経済協力は密だし、ともにアメリカの同盟国ではある。しかし、歴史問題と領土紛争問題で日韓間の争いは絶えることがなく、双方の協力の進展は緩慢だ。
 歴史問題に関しては、日韓両国政府は過去何度も解決の取り決めを行ったが、韓国民間レベルの不満感情は一貫しており、両国政府が達成した取極めを承認せず、そのため、慰安婦、強制徴用工等の問題でピシッとした解決策を探し出すことができないでいる。島嶼紛争においては日韓がさらに互いに譲らない。朝鮮核問題では日韓間に共通利益は少なくなく、関連する問題に関する日韓協議もかなり多く行われてきた。文在寅政権は朝鮮核問題の解決を推進するため、日韓関係を不断に改善しようとしてきた。しかし見るところ、朝鮮核問題に関する日本の韓国に対する支持は限定的であり、両国間の歴史問題等も常に頭をもたげる可能性があるので、歴史及び島嶼等での文在寅の一貫して強硬な姿勢を考えると、日韓関係が近時悪化しているのも必ずしも偶然とはいえない。
 日韓関係が不断に波立ち、双方の不信感が不断に高まっている状況下で、日本メディアは両国関係の改善について短期的には楽観していない。NHKの報道によれば、強制徴用工をめぐる事態は短期間で収まることは難しく、日本政府内部では日韓関係が近いうちに改善することは極めて難しいとする声が出ているという。
 もっとも留意するべきことはある。日韓は歴史問題等で齟齬が絶えないとはいえ、全体としていえば、それらによって両国関係が極端に損なわれることはないだろう。なぜならば、似たような問題で両国は大量の経験を蓄積しており、両国関係において波風が絶えないとしても、関係そのものが崩壊し、崩れ落ちてしまうことはないだろうからだ。
-その二:日韓関係-|21世紀の日本と国際社会 浅井基文Webサイト" data-title="Share">