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安倍外交批判(中国専門家分析)
-その一:日ロ平和条約交渉-

2019.01.27.

私は、安倍外交(その路線を一歩も踏み外すまいと汲々としている河野外交を含む)は「下手な鉄砲数打ちゃ当たる」の俗諺も妥当しない、成果ゼロ(安倍外交で何か成果があったと指摘できる人はいるでしょうか?)であるにとどまらず、日本の対外的イメージそのものを損なっている惨憺たる内容、深刻なマイナス評価に値すると考えています。最近の極めつけは国際捕鯨条約からの脱退です。しかし、本質的にもっとも深刻なのは対米関係です。トランプ政権に対しておもねることしか考えていない安倍外交の哀れなまでの卑屈さ(膨大な税金を使った対米先進兵器購入はその集中的表れ)に関しては、イラン核合意から脱退し、対イラン全面制裁に乗り出したトランプ政権に対し、SPV(特別目的装置 special purpose vehicle)を作ることで欧州企業がイランと取引する金融的担保制度を作り、イラン核合意(JCPOA)を守ろうとしているEU(独仏英も積極的に参加)、また、トランプの露骨を極めるアメリカ・ファースト政策に対して欧州独自の安全保障政策(欧州軍創立を含む)に向かって共同歩調をとろうとしている独仏首脳の動き(その実現性はともかくとして)と比較するだけでも歴然としたものがあります。
 中国の日本問題専門家が安倍外交に関して最近特に注目しているのは日露関係と日韓関係です。その分析は正に「傍目八目」です。政府の垂れ流し情報をそのまま記事にするだけの日本のマス・メディアのこれまた惨憺たる実情を見るにつけても、中国の専門家の鋭い分析は際立ちます。日露関係及び日韓関係について2回に分けて中国専門家の文章を紹介しておこうと思い立った次第です。
今回はまず日露関係特に日ロ平和条約交渉に関して。私がチェックしている網に引っかかった本格的なものとしては、1月23日付の中国網所掲の周永生(外交学院国際関係研究所教授)署名文章「北方4島交渉:ロシアの頭のキレにはかなうはずもない日本のワン・パターン」が安倍外交に対してもっとも辛辣です。一読したときは、いかに脳天気で自己中(天動説的国際観)の安倍政権でも、本気でロシアを反中同盟に誘い込むことを考えるほど愚かではあるまい、周永生の思い込みが一人歩きしていると思いました。
しかし、安倍総裁の外交特別補佐・河井克行の発言に対するラブロフ外相の反応(「アメリカは露日間に条約が締結されることに関心を持つべきだ、なぜならば、そのことは中国を閉じ込める「ブロックを強化する」からだ、という河合氏の発言は言語道断だ。日本側は、彼は政府を代表しておらず、自民党総裁補佐であると述べた。多分そうだろう。しかし問題は自民党総裁が安倍首相であるということだ。」 1月19日付コラム参照)を想起すれば、周永生の分析を一笑に付すこともできないと思います。つまり外国(中ロ)から見た場合、河井克行発言を放言、戯れ言として片付けるには、彼の肩書きは重すぎるのです。

 日本はロシアとの領土交渉の中で毎回中国を取り上げる。原因としては主に3つある。第一、ロシアは日本の「北方領土」という呼称が不満で、日本に対して第二次大戦の結果を承認し、北方4島がロシアの主権に属する領土であることを承認するように要求していること。しかし日本は、いったん承認したら北方4島を無心する望みがなくなるだけではなく、釣魚島(尖閣)問題でも中国からの連鎖反応を引き起こし、中国は釣魚島を第二次大戦の勝利の結果とするから、中国を最大の勝ち組にしてしまうと考えている。第二、安倍政権の高官は、ロシアと平和条約を結ぶのは中国を牽制するためだと言及していること。第三、日本への2島返還を通じて日ロ平和条約を締結し、中国を抑え込むこと。以上から分かるとおり、日露両国の領土紛争問題の協議においてさえ、日本は中国をまな板にのせ、中国脅威を喧伝することにより、ロシアをだまして中国を主要な脅威と見なすように誘い込み、2島を放棄することを通じて日本との連合を獲得し、連合して中国を牽制するという結果を達成しようとしている。
 しかし疑問の余地がないところだが、ロシアのキレは安倍のソロバン勘定を上回っている。ロシアは、自分たちの主要な敵はアメリカであり、中国はロシアの全面的な戦略パートナーであって、このようなもっとも基本的な国際関係のパラダイムに関わる問題についてロシアは百も承知であり、日本にだまされることはあり得ないだけではなく、ロシアの戦略的考慮と日本の領土要求との間には深淵が横たわっている。ロシアは主として領土問題交渉を餌にして、一方ではロシア国内に対する日本の投資を誘い入れてその技術と資金を獲得するとともに日米関係を分裂させ、他方ではチャンスを捕らえて極東地域で南下し、北海道で自由に活動しようとしている。
 日本はロシアとの交渉過程において北方4島に対する実効支配もなく、政治上安全保障上のいかなる優位性もなく、技術及び資金上の優位性だけを頼りにロシアを罠に陥れようとしているのであって、ロシアの知恵とやり口からしてほとんどまったく可能性がない。日本も自国の劣勢さを意識しており、中国が得する口実を与えないようにするべく、北方4島が第二次大戦におけるロシアの勝利の成果であることを承認することを拒否することでロシアの要求に抵抗し、北方4島に対する日本の最後の権利のよりどころを維持するとともに、「中国脅威論」をさらに喧伝することでロシアをだまし、2島を放棄し、その後で中国を対象とする日露同盟を結成しようとしているのだ。
 ロシアは国際関係及び外交条理において百戦錬磨の老練国家であり、海千山千と形容しても良く、日本の浅はかな交渉力がどうしてたぶらかすことができようか。逆に、日本が設定したワン・パターンが自らを欺くことになっている。すなわち、最初の計画では以上に述べたプレゼン及びロジックが功を奏すると考え、力を余すところなく繰り返し宣伝し、説得したのだが、結果としてはロシアに対して効果ゼロだっただけではなく、中国の反感をも引き起こすこととなった。
 同時に日本国内でも極めて悲観的な論調が現れている。それはすなわち、ロシアには領土返還の誠意はまったくなく、安倍首相自身もそうした判断を持つようになっているというものだ。しかし、不断に北方4島の返還を誇張してきた日本国内世論は日本国民の食欲をつり上げてしまっており、このような世論の「総監督」たる安倍としては中途で幕引きしようがなく、前途に見込みがないことを認識しながらも無理矢理この劇の監督を続けるほかないのだ。奇跡が起こるかもしれないという幻想に頼り、あらゆる手段を尽くすことでプーチンが突然日本の願望に応えるようになること、これが多分領土問題に対する安倍の最後の望みの賭けどころだろう。メンツを保つための工程を続け、格好をつけてロシア側と交渉し、安倍首相のロシア訪問を正常にアレンジし、日露サミットを行う等々ということになる。
 しかし現実は、プーチンが敷いた罠によって日本はすでに完全にわけが分からなくなっている。罠に引っかかった北海道のヒグマのごとく、むやみやたらに暴れ回るだけだ。プーチンが敷いた罠の収めどころとしてはどんな方法があるだろうか。外の人間には断言するすべはなく、ひとりプーチンのみが知っている。しかし総じていえば、日本は劣勢にあり、ロシアの優位性は強まっている。日本が本来考えたのは、資金投入、経済協力、技術支援等の手段を通じてロシアの立場を軟化させることだった。しかしロシアは領収書をちゃっかり受け取るだけにとどまらず、ロシアにとって有利なことについては一切手を緩めず、一律に拒絶している。つまり、日本はロシアからうまい汁を吸うことが至難であるとともに、ロシアは簡単には損をしないということだ。こうして安倍は今後のロシアとの交渉において困難が増していくばかりであり、先行き予測はすこぶる難しい。
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