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日ロ平和条約問題
-ロシア側発言の重要な対日メッセージ-

2019.01.19.

昨年11月25日のコラムで「プーチン大統領の領土問題発言」を取り上げました。安倍首相が本年6月に予定されている日露首脳会談において「北方領土」問題で目に見える成果を上げることによって7月の参議院選挙(衆参同時選挙?)の勝利につなげ、憲法改正への道筋を確かなものにしたいという「(捕らぬ狸の)皮算用」をしていることは誰の目にも明らかです。しかし、安倍首相周辺の様々な「不規則発言」は、もともとこの問題に「前向き」に取り組むことに消極的なロシア側の姿勢をますます硬化させ、安倍首相自身に対する不信感すらのぞかせるに至っています。
そのことを余すところなく明らかにしたのが、1月14日の日露外相会談・交渉後及び1月16日の2018年のロシア外交に関する年次記者会見において行われたラブロフ外相による記者会見での発言でした。明確にロシア側の本音・立場を詳細に明らかにしたので、さすがの日本のメディアももはや安倍政権に対するおもねり報道に終始するわけにはいかなくなり、日ロ平和条約交渉なかんずく「北方領土」問題に関するラブロフ発言内容を紹介せざるを得なくなりました。しかしその紹介の仕方は中途半端であり、全容を正確に伝えるものではありません。ラブロフ発言の詳細を紹介しておく必要があると思い立ったゆえんです。
 ラブロフ外相の極めて率直な発言の背景を理解する上では、昨年(2018年)12月20日にプーチン大統領が行った年次記者会見での共同通信記者の質問に対する回答発言及び、本年1月11日のロシア外務省定例記者会見におけるザハロワ報道官の発言(日本の特派員の質問に回答したもの)を踏まえる必要があると思います。ロシア側の問題意識をまったくわきまえず(他者感覚ゼロ)、不勉強と日本人特有の天動説的国際観(自己中)を余すところなくさらけ出しての質問に対して、プーチンとザハロワが遠慮会釈なしに思いのままを明らかにしています。
 プーチンに対する質問者の発言は、「日本は軍事的にほぼ完全にアメリカに依存している」ことを動かしようのない与件・前提としている点でもう失格です。なぜならば、プーチンが領土問題を日米軍事同盟との関連性において考える必要があるとする指摘を行ったのは、「日本が日米軍事同盟について抜本的に考え直さない限り、領土問題については何らの進展の可能性もない」といっているに他ならないからです。しかし、これほど明確なメッセージが発せられたというのに、安倍首相は一切頬被りをしており、日本のマスメディアも「日米軍事同盟先にありき」の硬直した考え方に立って、厚かましく(とプーチンはあきれたに違いない)愚問を発したというわけです。
 プーチンがこの質問部分に対しては答えることもせず、日米軍事同盟関連の質問部分だけを取り上げ、辛辣な発言(在日米軍基地問題について日本が主権を持っているのかを疑問視したもの)を行っているのは、この問題を避け続けている安倍首相に対する強烈パンチというべきでしょう。

(質問)我が国の人々の唯一の関心はどれだけの島嶼を得ることになるかだ。ゼロか2か3か4か、我々は分からない。他方でロシア人も「なぜ島嶼を戻すべきなのか」などと問いかけていると私は理解している。人によっては「一寸たりとも譲らないぞ」と脅かしてくる始末だ。問題は境界設定についてだ。しかし、平和条約が国境の境界設定だけに限られるのならば我が国民には十分でも関心を引きつけるものでもなく、これを理解しないだろう。両国関係を新しいレベルに持っていくためにどんな新しいアイデアが盛り込まれるべきだと思うか。
 もう一つの関連質問は、ロシアそしてあなた自身が最近、安全保障問題、すなわち、これらの島嶼が日本に引き渡される場合、日本へのアメリカのミサイル防衛システムの配備並びに米軍及び軍事インフラ配備の可能性を持ち出したことだ。日本は軍事的にほぼ完全にアメリカに依存している。これらの問題は二国間で解決できると思うか。それとも、あなたはアメリカと直接取引するつもりか。
(回答)あなたの質問の最後の部分について話そう。安全保障の諸問題は、いつ平和条約を署名するかを含め、決定的に重要だ。あなたは日本での米軍インフラ配備について述べたが、それはすでにあるし、アメリカの最大の基地は沖縄にある。数十年にわたってだ。さて、この決定に日本が関与する能力についてだが、我々には明確ではなく、閉ざされた問題だ。それらの決定を行う上での日本の主権のレベルが分からない(Now, about Japan's ability to take part in this decision-making. To us, this is an unclear, closed issue. We do not understand the level of Japan's sovereignty in making such decisions.)。基地の改善及び拡張に関するいくつかの決定に沖縄知事が反対していることも知っている。彼は反対であるのに何もできない。沖縄に住んでいる人々も反対している。この点に関する証拠はたくさんある。世論調査があり、この基地を撤回することを要求する抗議もある。米軍基地拡張計画はみんなが反対しているのに進められている。平和条約締結後に何が起こるかは知らないが、この問題に対する回答なしに重要決定を行うことは極めて難しい(We do not know what will happen after the peace treaty is concluded, but without an answer to this question it will be very difficult to make any crucial decisions.)。
 また我々は当然ながら日本にABMシステムを配備する計画も憂慮している。この問題についてはアメリカに何度も話しているし、繰り返すが、ABMが防衛的な兵器だとは考えていない。ABMは海外に配備されるアメリカの戦略的核能力だ。ABMシステムはミサイル攻撃システムと一体になっている。
 したがって、我々は何らの勘違いもなしにすべてについて分かっている。  それにもかかわらず我々は、日本との平和条約を署名することに誠実に取り組んでいる。それは、現在の状態は正常ではないと確信しているからだ。この確信は安倍首相も共有している。日本とロシアは両国関係の完全な解決に関心があり、それは我々が経済的に日本から求めるものがあるからというだけのことではない。ロシア経済はそこそこに発展している。
本年1月11の定例記者会見におけるザハロワ報道官の発言は、日本の記者が性懲りもなく繰り返す愚問に拒絶反応を示しています。そして、日本側から出される「不規則発言」を「公式声明、交渉、予備的話し合いが行われる後に毎回、双方または一方の側のアプローチについて矛盾を見つけ、齟齬を暴き出そうとする試み」と批判し、「外交当局トップが仕事するために、正常で建設的な雰囲気、憶測や間違った情報から自由な、状況が必要だとする日本外務省の意見に同意する」と皮肉交じりに答えているわけです。
(質問)昨年末、露日指導者は1956年の共同宣言に基づいて平和条約署名プロセスの交渉を加速させることに合意した。共同宣言では、平和条約署名後にソ連が2島を引き渡す用意があるとしている。ということは、日本が一定の条件を満たせば、2島を取り戻すことができるという理解で良いか。これらの条件を明らかにできるか。
(回答)メディア代表であるあなたに対する敬意をもってしても、この質問を聞いて驚いている。なぜならば、我々はブリーフィングにおいて多くの材料を示し、外務省のWSにも掲載してきているからだ。あなたがこのような質問をする理由が分からないし、特に日露外相会談直前だけになおさらだ。
 日本側の様々な人物が多くの発言をしているのを聞き及んで、日本大使を外務省に呼び出さざるを得なかった。交渉プロセスが始まる前に奇怪な情報の雰囲気を作り出す点では、日本メディアに少なからぬ責任がある。我々は公かつ明快にこの問題に対するロシア側のアプローチを示してきた。すべては公ルートで公開されている。ところが、公式声明、交渉、予備的話し合いが行われる後に毎回、双方または一方の側のアプローチについて矛盾を見つけ、齟齬を暴き出そうとする試みが行われる。現在最善なことは、専門家特にハイレベルそして両外務省のトップにこの特別任務を開始する機会を与え、その後に交渉に関するコメントを聴取することだと思われる。
 私はまた、日本大使がロシア外務省に呼び出された後になされた質問に対する日本外務省の対応の仕方にも留意している。そこでは交渉には静かな雰囲気と沈黙が必要だと述べられている。私は日本語に堪能ではない。しかし翻訳によれば、専門家が仕事できるようにするための一定の静かな雰囲気を作ることが必要ということのようだ。専門家の仕事を邪魔しようとしているのは我々ではない。日本側から不適切で奇怪な発言が行われるのがほとんどだ。したがって今は、まもなく会談を予定している外交当局トップが仕事するために、正常で建設的な雰囲気、憶測や間違った情報から自由な、状況が必要だとする日本外務省の意見に同意する。
 以上から明らかになることは、第一、プーチン大統領は昨年11月15日で述べた、「日米軍事同盟で日本がアメリカに対して負っている義務が「引き渡し」にいかなる影響を及ぼすかを考えなければならない」という問題を最大限に重視しており、しかも、安倍首相を含む日本政府の対米追随姿勢に強い不信感を持っていること、第二、ザハロワ発言から明らかなように、日本側からひっきりなしに出される「不規則発言」にもロシア側がうんざりしており、この点からも安倍首相に不信感を募らせていることです。以上の2点を踏まえてラブロフ外相発言(要旨)を紹介します。
 ラブロフ発言・回答の核心は、日本が第二次大戦の結果を完全かつ全面的に承認するという出発点を踏まえることを要求していうこと、そしてその承認なしには領土問題に関する実のある交渉はあり得ないということの2点にあります。その点を、降伏文書(1945年9月2日)、国連憲章(第107条)等、「今日の国際システムのもとにおける避けることのできない一体」と指摘し、「第二次大戦の結果を完全に承認できないのは世界で日本だけ」として、安倍首相をはじめとする日本の歴史認識のいい加減さを痛烈に批判していることが極めて重要だと思います。これほど明確に日本側の対外政策における問題の根本がその歴史認識のいい加減さにあることを剔抉した外国指導者はラブロフを以て嚆矢とする、といっても過言ではないのではないでしょうか。今、日韓関係もいわゆる「従軍慰安婦」問題、強制徴用問題で深刻な状態に陥っていますが、これも同根なのです(日中関係が根底で抱えている問題も同じ)。
 ちなみに、この歴史認識のいい加減さはひとり安倍首相(日本会議の面々)に限られるものではありません。1月18日付の朝日新聞は、「北方領土 70余年の懸案」を特集しています(第7面)が、私が驚いたのは、ポツダム宣言及び降伏文書が戦後日本の出発点であることに対する認識が欠落していることでした(関連記述:「ソ連は、日ソ中立条約の不延長を日本に通告したうえで、条約の期限が切れる前の同年8月9日に参戦。日本がポツダム宣言を受諾した14日以降も侵攻を続けた。日本が降伏文書に署名した9月2日を過ぎても攻撃は止まらず、同5日までに北方4島を占領した」とするのみ)。ポツダム宣言第8項(「カイロ宣言ノ條項ハ履行セラルベク又日本國ノ主權ハ本州、北海道、九州及四國竝ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルベシ」)及び降伏文書(「「ポツダム」宣言ノ条項ヲ誠実ニ履行スルコト‥ヲ天皇、日本国政府及其ノ後継者ノ為ニ約ス」)は一切無視なのです。この最重要ポイントに関する認識がゼロであるために、下記16日の馬鹿げた質問を行う記者がいる(自分の愚かさを気づいてもいない)のです。
 ラブロフ発言でもう一点是非指摘しておきたいことがあります。それは「日本を軍事化する意図からグローバルなミサイル防衛システムを日本に展開しようとするアメリカの努力、そして北朝鮮の核の脅威を無力化するために必要だとするアメリカの公式的説明について関心を払った。しかし実際は、これらの行動はロシアと中国にとって安全保障上のリスクを生み出しているのだ」としている点です。1月17日にアメリカ・トランプ政権が発表した「ミサイル防衛見直し」(MDR)は、これまでイラン及び朝鮮を対象・口実としてきたミサイル防衛について、中ロを対象とすると本音をさらけ出していること、また、この点で日本を強力なパートナーと明記している(19日付朝日新聞)ことからも、ラブロフの上記発言は見逃すことはできません。
 本論から外れますが、ラブロフの上記発言は、朝鮮半島非核化という問題との関連でも重要です。私たちはもっぱら「朝鮮の非核化」を問題視していますが、ロシア(及び中国)は文字通り「朝鮮半島の非核化」の実現を重視して朝鮮の側に立っています。極端に言えば、朝鮮は朝米平和協定(さらには朝米国交正常化)が実現すれば、アメリカが韓国(及び日本)にミサイル防衛システムを配備すること自体には反対する必要を感じないでしょう。しかし、ロシア(及び中国)はあくまでも朝鮮半島の非核化、したがってアメリカの韓国(及び日本)へのミサイル防衛システムの展開には絶対反対の立場です。ラブロフの上記発言はそういう意味合いが込められているのです。
<1月14日>
 我々は長々とした交渉を終えた。日本側から出された共同記者会見は行わないという提案に同意したので、今日起こったことについて若干述べておく必要があると考える。河野外相は今晩ブリーフィングを行うだろう。
 わたしは本質的な違いがあったことを否定しようと思わない。何度も述べてきたとおり、双方の立場ははじめから正反対だった(Initially, our positions were diametrically opposed, as we have said multiple times)。今日、我々は1956年の宣言の基礎の上で仕事する用意について確認した。ということは何をさし置いてもまず日本側が、南千島のすべての島嶼に対するロシアの主権を含めて第二次大戦の結果を完全に承認すること、この第一歩は変わることがあり得ないことを再確認したということだ(Today we have reaffirmed our readiness to work on the basis of the 1956 Declaration, which means, above all, the immutability of the very first step – the full recognition by our Japanese neighbours of the outcome of World War II, including the Russian Federation's sovereignty over all the islands of the South Kuril Ridge)。
 さらに、以上のことは国連憲章及び第二次大戦終了時に署名された多くの文書、なかんずく1945年9月2日に署名された文書(浅井注:降伏文書)そしてその後の多くの文書でも成文化されている。これが我々の基本的立場であり、この方向でのステップなしには多の問題でいかなる進展も極めて困難だ(This is our basic position and without a step in this direction it is very difficult to count on any progress on other issues)。
 我々は日本からの友人にこれら島嶼に対する主権は議論の対象にならないと指摘した(We have pointed out to our friends from Japan the fact that sovereignty over the islands is not subject to discussion)。これはロシアの領土だ。我々はまた、日本の法律ではこれらの島嶼が「北方領土」とされているが、ロシアとしてはもちろん受け入れられないと指摘した。
 我々は日本側に対して、以上の問題を克服することに向けてどのようにするつもりか、そして日本の国内法上の問題をどう扱うのかについて一連の質問を行った(We asked a series of questions about how our Japanese colleagues are planning to work toward overcoming this particular problem and how the Japanese domestic legislation issues will be addressed)。これは内政干渉ということではなく、日本側がロシア側と議論し、そしておそらく解決しようとしている問題だからだ。我々は(解決への)道筋のスタートラインにある。
 (日露関係の他の問題点にも言及した後)私が触れなければならないもう一つ重要な問題は安全保障協力だ。1956年宣言が署名されたのは日本がアメリカとの軍事同盟条約を持っていないときだった(浅井注:ラブロフの発言から判断するに、ロシア側は、1952年日米安保条約は対日平和条約とセットでアメリカが日本に押しつけた片務的なものであり、双務的であるべき軍事同盟条約と呼べる性格のものではないと認識しているのではないかと思われます)。(軍事同盟)条約は1960年に署名され、その後日本側は1956年宣言から離れていった。我々はこの宣言に基づいて交渉を再開しようとしているのであるから、その後に日本の軍事同盟について起こった抜本的な変化について考えなければならない。今日の会談の際我々は、日本を軍事化する意図からグローバルなミサイル防衛システムを日本に展開しようとするアメリカの努力、そして北朝鮮の核の脅威を無力化するために必要だとするアメリカの公式的説明について関心を払った。しかし実際は、これらの行動はロシアと中国にとって安全保障上のリスクを生み出しているのだ。(以下省略)
(質問)自民党総裁の外交特別補佐である河井克行の最近の発言、つまり、東京はモスクワと平和条約を締結することについてワシントンの支持を頼りにしているというもの、そして安倍首相の発言、すなわち住民たちは色丹が日本に引き渡された後に島を離れる必要はないというものについて、河野外相はコメントを行ったか。我がロシアの立場は如何。
(回答)安倍首相の発言に関してはしかるべき声明を行った。安倍氏がその発言を行った数日後、日本大使はロシア外務省に呼び出された。我々は、こういったアプローチは絶対に受け入れられないこと、また、そういうやり方は平和条約に関連する対話をどのように進めるかについて露日指導者間で達成された了解合意とまったく矛盾するものであることを言明した。
 アメリカは露日間に条約が締結されることに関心を持つべきだ、なぜならば、そのことは中国を閉じ込める「ブロックを強化する」からだ、という河合氏の発言は言語道断だ。日本側は、彼は政府を代表しておらず、自民党総裁補佐であると述べた。多分そうだろう。しかし問題は自民党総裁が安倍首相であるということだ。そういう類いの声明がどれほど不適切であるかについて厳重な警告を発した。我々はまたより概括的に、アメリカにまったく頼り切りの日本がいかなる問題を扱う上でもどれだけ独立であり得るのかについても質問した(We have also inquired more broadly about how independent Japan can be in addressing any issues at all with such heavy dependence on the United States)。日本は自国の国益に基づいて決定を行うと説明を受けた。そうであってほしいものだ。
(質問)私の質問は第二次大戦の結果を承認することに関してである。あなたは日本が真っ先にそれを承認しなければならないと言った。この問題に対する日本側の回答に満足しているか。
(回答)第二次大戦の結果に関する我が方の立場については詳細に説明した。サンフランシスコ条約に加え、その他の文書と1956年宣言はサンフランシスコ条約とともに一つの全体を構成しており、第二次大戦のもとでの最後の線を引いている(I noted that in addition to the San Francisco Treaty, other documents and the 1956 Declaration, which, together with the San Francisco Treaty, form a single whole and draw the final line under World War II 浅井注:私のこれまでの理解は、旧ソ連は「サ」条約交渉には参加したものの結局署名せず、爾来同条約を承認しないという立場であるというものです。今回のラブロフ発言は同条役の法的効力を認めているかのごとくであり、その点は興味深いです)。それに加え、国連憲章第107条として知られている重要文書があり、第二次大戦の結果を承認することがすべての同盟諸国によって不可侵として承認されている。今日我々は日本側にもう一度詳細にリマインドした。それに対する反対は特になかった。
<1月16日>
(質問)条約は両国国民に支持されなければならない。多分日本全体がそうだと思うのだが、あなたが我々に対して前提条件を設定したことが理解できない。日本が何にもまして紛争島嶼に対するロシアの主権を含め、第二次大戦のすべての結果を承認しなければならないという点だ。これは最後通牒ではないか。ロシアは再び日本の無条件降伏を要求しているという印象を受ける。私にはロシアのロジックが理解できない。我々は島嶼の所有権を論じている。千島列島に対するロシアの主権を日本が承認するとなれば、問題は閉じられ、何も問題はないということになる。そうなると、我々は何を交渉することになるのか。
(回答)第二次大戦の結果を承認することは最後通牒でもなければ前提条件でもない。これは今日の国際システムのもとにおける避けることのできない一体となっている要素である(This is an unavoidable and inextricable factor in the modern international system)。
 1956年に日本はソ連の支持によって国連加盟国となり、国連憲章を署名し、批准した。国連憲章には第107条がある。同条では第二次大戦のすべての結果を揺るがすことはできない(unshakable)と規定している。したがって、我々は日本に何も要求していない。我々が日本に主張しているのは、国連憲章、サンフランシスコ宣言及びあなたが言及したものも含む他の文書に基づく義務に沿って現実的な行動に進むということなのだ(We urge our Japanese neighbours toward practical actions in line with their obligations under the UN Charter, the San Francisco Declaration and a number of other documents, including those you mentioned)。
 日本がそのアプローチを国連憲章に合わせて調整すべきだとする我々の立場は何を意味するか。貴国の法令では「北方領土」という言葉が使われている。その言葉は多くの法令に含まれているし、プーチン大統領と安倍首相の合同イニシアティヴによるこれら島嶼での合同経済活動の実施を北方領土の返還の必要に結びつけるとする2018年9月に採用された文書にも含まれている。しかし、誰もそのことに同意してはいない。このことそのものが国連憲章の義務に違反している。
 したがって、これは予備的な要件ではなく、第二次大戦の結果を完全に承認できないのは世界で日本だけなのはなぜかを認識してほしいという希望なのだ(So, this is not a preliminary requirement, but a desire to understand why Japan is the only country in the world that cannot fully recognise the outcome of World War II)。(アメリカとの軍事政治同盟問題、在日米軍基地の展開については十分にカバーされているので立ち入らないと付言)。
 もちろん我々は、国際舞台でバリケード越しににらみ合う国同士ではなく、パートナーでありたい。しかし日本はロシアに対して課される一連の制裁に加わってきており、これでは質的に新しいレベルの関係を築き上げるという了解からはほど遠いものだ。日本はG7で採択された反露声明に加わった。ロシアにとって関心がある国連のすべての決議について、日本はロシア側で投票したのではなく、ロシアに反対してきた。
 河野外相はロシア訪問に先立って日仏間の2+2会合のためにパリにいた。会合の後に宣言が採択された。これを読むと、日露両国が国際問題におけるパートナーであることからはほど遠く、両国の立場を近づけるためには建設的なアプローチを探す必要があるということにさえ気づかされる(日本が主催国であるG20とフランスが主催国であるG7に言及して、G7もG20の一部であることに注意喚起し、日本がG20の立場に立ってG20のとりまとめを行うように促す言及が続く)。
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