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米朝首脳会談への動き-歴史的意義と課題-

2018.03.11.

朝鮮半島情勢に関するビッグ・ニュースが続いています。文在寅大統領特使として訪朝した韓国の鄭義溶国家安保室長が訪米し、トランプ大統領に金正恩委員長の親書を渡すとともに、同委員長の米朝首脳会談開催希望を伝え、トランプ大統領が原則的に応じたというものです。

1.トランプによる米朝首脳会談同意-事実関係-

<アメリカ政府>
3月9日付の朝鮮日報・日本語WSは、鄭義溶安保室長とトランプとの会談について、次のように伝えました。

 韓国大統領府の鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長(閣僚級)は8日(現地時間)、ドナルド・トランプ米大統領に、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の親書を手渡した。
 これは、鄭義溶室長が同日午前、米ホワイトハウスでトランプ大統領と会談した後に記者会見を開いて明らかにしたものだ。
 鄭義溶室長がトランプ大統領に渡した金正恩委員長の親書には、北朝鮮の非核化意思に関する内容、核とミサイル実験を中止するという内容、トランプ大統領と早期に会談を希望するという内容などが書かれているという。
 鄭義溶室長は「『(韓国の特使団が)北朝鮮の指導者・金正恩委員長と会った時、金委員長は非核化に対する意思を持っていることに言及した』とトランプ大統領に伝えた。金委員長は、北朝鮮が今後、どのような核またはミサイル実験も自制することを約束した」と述べた。
  また、鄭義溶室長は「金委員長は、韓米両国の定例的な合同軍事演習が継続されなければならない点を理解している」「金委員長は、トランプ大統領にできるだけ早期に会いたいという考えを表明した」と述べた。
 さらに、鄭義溶室長は「トランプ大統領は(このような)ブリーフィングに感謝の意を表し、『恒久的な非核化を達成するため、金委員長と今年5月までに会うだろう』と言った」と伝えた。
 続いて、「大韓民国は米国、日本、そして全世界の多くの友好国と共に韓半島(朝鮮半島)の完全な非核化に対する完全かつ断固たる意志を堅持していく」「トランプ大統領と共に、我々は平和的解決の可能性を試みるための外交的プロセスを持続することにおいて楽観している」と述べた。
 鄭義溶室長は「大韓民国、米国、そして友好国は過去の失敗を繰り返さず、北朝鮮がその言葉を具体的な行動で示すまで圧力が続くことを強調する点において、一致団結した立場を堅持している」と付け加えた。

「トランプ大統領と早期に会談を希望する」における「早期」と「希望」という表現は、CNNによれば、それぞれ"as soon as possible"と"eagerness"だったそうです(3月9日付の上海に基盤を置く澎湃新聞WS)。
 さらに同日付の朝鮮日報・日本語WSは以下の聯合ニュースの記事を紹介しました。

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は5~6日に平壌を訪問した韓国の特使団に「トランプ米大統領と会って話し合いをすれば、大きな成果を出せる」と発言していたことが分かった。
 青瓦台(大統領府)の金宜謙(キム・ウィギョム)報道官によると、特使団の団長を務めた青瓦台の鄭義溶国家安保室長(閣僚級)は9日午前(日本時間)、ホワイトハウスで行われたトランプ氏との面会で、こうした内容を伝えた。
 鄭氏はまた、トランプ氏に「金委員長は率直に話をするし、誠意を感じた。過去の過ちを繰り返してはならないが、金委員長に対するわれわれの判断を受け入れ、今回のチャンスを逃さないでほしい」と呼びかけたという。

ホワイトハウスのサンダース報道官は、3月8日(現地時間)、トランプは朝鮮最高指導者の会見の要請を受け入れたこと、時間と場所は今後の決定に待つこと、アメリカは朝鮮半島の非核化を期待していること、しかし、それまでの間は朝鮮に対する制裁は継続すること等を明らかにしました(3月9日付の中国中央テレビ)。また、トランプもツイッターで、金正恩との会見を「計画中」であること、朝鮮半島問題において「重要な進展が得られつつある」こと、アメリカの対朝鮮制裁は合意達成まで継続されることを書き込みました(同日付新華社WS)。トランプの書き込みは、"Great progress being made but sanctions will remain until an agreement is reached. Meeting being planned!"だったとのことです(3月9日付イラン放送・英語版WS)。
 また、このイラン放送・英語版WSによれば、ティラーソン国務長官は訪問地ジブチで行った記者会見で、「交渉というのは正しくなく、我々はずっと話し合いにはオープンだと言ってきた」として、金正恩との「話し合い」に応じる用意はあるけれども、それは「交渉」ではないという認識を示しました。さらにティラーソンは、北朝鮮指導者は「かなりドラマティックな」態度の変化を示し、これはアメリカ政府を驚かせ、トランプが話し合いを行うことを決定することを促したとも述べて、金正恩の対米アプローチはアメリカにとって大きな驚きだったとするアメリカ側の受け止め方を正直に表しました。さらにティラーソンは、問題は最初の会合のタイミングと場所であり、それを決めるには数週間かかるだろうという見通しも付け加えました。

<トランプの決定に対する文在寅大統領の受け止め>
トランプ大統領の決定に対し、文在寅大統領は高く評価し、歓迎する立場を明らかにしました。3月9日付の韓国中央日報・日本語WSは次のように紹介しています。

文在寅大統領は9日、ドナルド・トランプ米国大統領と金正恩北朝鮮労働党委員長間の米朝首脳会談に関連し、「5月の会談は、後日、韓半島(朝鮮半島)の平和を築いた歴史的節目として記録されるだろう」と述べた。
文大統領はキム・ウィギョム青瓦台報道官を通じて、米朝首脳会談開催に関連し、このような立場を明らかにし、「南北首脳会談に続いてトランプ米国大統領と金正恩委員長が会えば、韓半島の完全な非核化は本格的な軌道に乗るだろう」と述べた。
続いて文大統領は「難しい決断を下した2人の指導者の勇気と知恵に深く感謝の気持ちを伝える」とし「特に、金正恩委員長の(北朝鮮)招待の提案を快諾してくれたトランプ大統領の指導力は、南北住民、さらには平和を望む世界の人々から称賛を受けるだろう」と述べた。
また「韓国政府は奇跡同様にもたらされたこの機会を大切に扱っていく」とし「誠実かつ慎重に、しかしもたもたしないように進展させていく」と述べた。
あわせて「今日の結果が出るまで関心と愛情を示してくれた世界各国の指導者にも感謝を伝える」と付け加えた。

<米中首脳電話会談>
3月9日付の中国外交部WSは、同日行われたトランプ大統領と習近平主席との電話会談の内容を次のように伝えました。

 習近平主席は求めに応じてトランプ大統領と電話し、当面の朝鮮半島情勢…に関して突っ込んだ意見交換を行った。
 トランプは次のように述べた。朝鮮核問題の接触を巡って、最近積極的な進展が現れ、朝鮮側が積極的な態度表明を行った。米朝がハイ・レベルで会合することは各国にとってよいことであり、朝鮮核問題が最終的に平和的に解決できることを希望している。事実が証明するとおり、アメリカは朝鮮と対話を行うべきだとする習主席の主張は正しかった。アメリカは朝鮮半島問題における中国の重要な役割に大いに感謝し、これを高度に重視しており、引き続き中国と密接に意思を疎通し、協調していきたい。
 習近平は次のように指摘した。中国は確固として、朝鮮半島の非核化、朝鮮半島の平和と安定の擁護に力を尽くしており、対話と協議を通じて問題を解決することを堅持している。現在、朝鮮半島情勢には積極的な変化が現れており、このことは、朝鮮半島非核化プロセスを再び対話による解決という正しい軌道に乗せることにとって有利であるとともに、国連安保理朝鮮関係決議が確定した方向性とも合致するものである。私は、朝鮮半島問題を政治的に解決するという大統領の積極的意図を賞賛し、米朝双方が速やかに接触と対話を起動させ、積極的な成果を勝ち取ることを希望する。我々はまた、朝鮮半島情勢が持続的に緩和の方向に向かうことに影響を与え、干渉妨害となる可能性があることを行うことを避け、現在現れた積極的方向性が維持されるように努力するよう、関係諸国が善意を示すことを希望している。私は、各国が政治的外交的解決という大方向を堅持しさえすれば、国際社会が共同で期待している方向に向かって朝鮮半島問題で不断に進展を得るよう推進することができると信じている。

<日米首脳電話会談>
安倍首相は3月9日朝にトランプ大統領と電話会談を行ったとの記者会見で次のように述べました(3月10日付朝日新聞)。

 トランプ大統領と日米首脳会談を行った。非核化を前提に話し合いを始めると北朝鮮の側から申し出た。この北朝鮮の変化を評価する。日本と米国が連携し、さらに日米韓、国際社会と共に高度な圧力をかけ続けてきた成果だろうと思う。
 核・ミサイルの完全、検証可能かつ不可逆的な形での放棄に向けて北朝鮮が具体的な行動を取るまで最大限の圧力をかけていく。この日米の確固たる立場は決して揺らがない。日米はこれまでもこれからも100%共にある点でもトランプ大統領と一致した。
 予算成立後、4月中にも訪米し、日米首脳会談を行うことでも合意した。核・ミサイルそして拉致問題の解決に向けて、今後ともトランプ大統領と一層緊密に協力して取り組んでいきたい。

ホワイトハウスもトランプ-安倍電話会談について声明を出し、次のように述べました(3月9日付新華社WS)。

 ホワイトハウスは8日、トランプが安倍晋三と電話し、双方は朝鮮半島情勢を議論し、引き続き密接に協調して朝鮮に対して圧力を維持することを表明した。
 安倍との電話の中でトランプは、朝鮮が「全面的で、検証可能、不可逆的な非核化」に向かって確実な段取りに踏み出すに至るまでは、双方は引き続き韓国との緊密な3国協力を行うことで、朝鮮に対する圧力を保ち、国際制裁を行うことを強く希望すると表明した。

2.米朝首脳会談の歴史的意義と今後の課題

<歴史的意義>
私は3月8日のコラムを書いた時点では、トランプがかくも速やかに金正恩との首脳会談に応じる用意があることを表明するとは予想できませんでした。トランプはとにかく商売人特有の損得勘定だけで判断して行動する、政治哲学とは無縁の、低俗な政治屋であるという私の基本判断は、今回のトランプの行動によってもまったく変わりませんし、むしろそういう彼であるが故に今回のような「良い方向での突発的歴史的事件」を、深謀遠慮もなく決断したと見るのが正しいでしょう。彼が伝統的エスタブリッシュメントを排除し、国務長官として素人のティラーソンを起用しているからこそ可能となった「決断」と言うべきです。
 そのことを確認した上ですが、朝鮮半島分断以来一貫して敵対関係を続けてきた米朝首脳が史上初めて直接会談することに原則合意に至った事実は、客観的に言って、特筆大書するべき画期的な出来事です。特に、トランプ政権が「すべての選択肢はテーブルの上にある」として戦争に訴える可能性を常にちらせつかせ、これに対して金正恩政権が核ミサイル開発を断固推進することで正面から対抗して息詰まる緊張状態が続いてきたことを思えば、このような急転直下の良い方向での展開という事実は、それ自体において高い評価に値すると思います。
金正恩の「新年の辞」、そこに込められた文在寅政権に対するメッセージを受け止めた同大統領のトランプ大統領との1月4日の電話会談(私にとっては初見であり、確認のすべはないのですが、3月10日付朝鮮日報・日本語WSは、この電話会談において、「トランプ大統領は「北朝鮮との対話を推進してみてはどうだろうか」という文大統領の提案に「そうしてみよう」と答えたという。その上で、「成果があったら私に教えてくれ」とも言ったとのことだ。トランプ大統領はこの時、平昌冬季五輪期間中の韓米合同軍事演習延期にも同意した。」というやりとりがあったと紹介しました)、平昌冬季オリンピックへの朝鮮の高位代表団派遣(青瓦台筋は、この機会に韓国側が金与正等に韓国の関心事項を伝え、金正恩が韓国特使代表団に6項目として整理回答することにつながった、と説明しています)、南北首脳会談開催合意、訪朝した鄭義溶安保室長のトランプに対する金正恩の意向伝達とトランプの即断。このめまぐるしい展開を可能にしたのは、金正恩、文在寅そしてトランプでした。
もう一点、私が重視したいのは、トランプと金正恩が直接相まみえることの意義です。金正恩が胆力と戦略眼を備えた政治家であることは、韓国特使代表団に対して強烈な印象を与えたように、国際的にも確認されました。私のトランプに対する評価は、すでに述べたとおり最低ですが、私として無視できないのは、トランプと会談した中国の習近平、ロシアのプーチンなど、私が世界のトップ・クラスの政治家と評価する人物がトランプを評価している事実です。特にプーチンは、トランプは「人の意見に耳を傾ける能力」を持った人物と評価しています。したがって、金正恩とトランプが直接会って互いを知る機会を持つこと自体、今後の朝鮮半島情勢に対して積極的な意味を持つであろうことは十分期待できます。そういう可能性を持ち込むという点でも、米朝首脳会談開催に原則的合意がなされたことはきわめて大きい意義があります。

<今後の課題>
しかし、米朝首脳会談に向けて、そしてより根本的には朝鮮半島核問題の平和的解決及び朝鮮半島における恒久的な平和と安定の実現に向けて、今後もずっと「よい方向での突発事件」が起こり続けるという保証はなんらありません。金正恩の「対話の相手として真摯な待遇を受けたいとの意向」をトランプが正確に理解しているかどうかもきわめて疑問です。したがって、米朝首脳会談の実現は確約されたものではなく、実現のためには今後多くのハードルを乗り越えなければならないのです。
 私が第一に指摘しなければならないのは、金正恩には明確な戦略方針があるのに対して、トランプにはそれがないということです。
金正恩にとって、核ミサイル開発は朝鮮の国家的生存を確保するという目的を実現するためのもっとも確かな手段という位置づけです。「朝鮮の国家的生存を確保する」とは具体的には、米朝休戦協定を平和条約によって置き換えること(米朝敵対関係の終了)及び米朝国交正常化の実現(そのことは、安保理制裁決議終了、朝鮮の国際社会への円満復帰による経済建設のための国際環境整備につながります)です。この2点にアメリカが応じることについて確証が得られるのであれば、金正恩としては、アメリカが要求してきた核ミサイル開発放棄に応じる用意があります(2月3日のコラム参照)。
 蛇足ですが、韓国国内では、国際約束を破った前科がある朝鮮、そして金正恩が在韓米軍の撤退を要求するのではないかという警戒感が強く表明されています。例えば、3月10日付の中央日報社説「韓半島の運命を左右するトランプ-金正恩会談」は次のように論じています。

北朝鮮は1次(1993年)、2次(2003年)北核危機当時、国際社会の解決努力をすべて水の泡にした前歴がある。今回、北朝鮮が核実験とミサイル発射を暫定中断すると述べたが、非核化に誠意があるかという点が重要だ。米国をはじめとする国際社会は北朝鮮非核化の条件として「完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄(CVID)」を要求している。CVIDは「北朝鮮の核施設および核兵器公開→国際社会の査察および検証→廃棄」の過程を経なければならない。ここには非核化に対する北朝鮮の透明性と協力が必須だ。
北朝鮮の非核化と併行して北朝鮮体制の安全を保障するための対応措置も容易でない。北朝鮮は米国が提供する防御的レベルの核の傘など戦略資産を韓半島に展開せず、さらには在韓米軍まで撤収すべきという立場だ。

朝鮮が米朝枠組み合意(1994年)と9.19合意(2005年)を破ったという理解は、米日韓では常識化されています。しかし、この理解はアメリカの言い分を丸呑みにしただけのものであり、客観的な証拠の裏付けがあるわけではありません。深入りはしませんが、アメリカが本気で朝鮮半島非核化問題に取り組む意思があったならば、両合意を「核疑惑」「マネー・ローンダリング疑惑」のような些細な問題を取り上げて朝鮮を挑発するのは理解できない行動でした。中国の朝鮮問題の大家・李敦球も、両合意をチャラにしたのはアメリカだと述べていますが、私も同感です。
 在韓米軍の撤退については、私は金正恩がこの要求を前面に押し出すことはないと確信します。米朝が平和協定を締結し、国交を正常化した暁には、米軍が引き続き韓国に駐留するとしても、その目的は質的に変化することになる(対朝対決戦力から在日米軍のようにAPRにおける軍事プレゼンスの一環としての戦力へ転換)わけですから、朝鮮にとってその撤退を「譲れない要求」とする理由はないのです。
 問題は、金正恩ではなくトランプにあります。トランプは、自らが推進してきた「最大限の圧力」が金正恩の今回の対米アプローチを引き出したという満足感(陶酔?)から米朝首脳会談開催に応じただけのことであり、金正恩と何を話し合うのかについては白紙状態であるに違いありません。トランプ政権内部には金正恩の以上の戦略的アプローチを正面から受け止め、これと四つに取り組むだけの能力を備えた戦略家(ブレーン)が見当たりません。マクマスターやマティスなどの職業軍人たちは、あり得ない「戦争シナリオ」という強迫観念から解放されてほっとしてはいるでしょうが、彼らがトランプに対して賢明な献策をするだけの能力を持ち合わせているかどうかは疑問なしとしません。
したがって、トランプ政権としては、中ロ韓日4カ国からのアドバイスを求めながら、今後の対朝アプローチを考えていくということにならざるを得ないでしょう。トランプ政権が、韓国(文在寅)、中国(習近平)、ロシア(プーチン)のアドバイスに耳を傾けるのであれば、米朝首脳会談の実現及び実りある会談を期待する可能性が出てきます。問題は、トランプ政権が日本(安倍首相)の「進言」をより重視する可能性があるということです。
そのことは、トランプが安倍首相と行った電話会談内容からすでに兆候が現れています。私は3月8日のコラムで、「トランプ-安倍晋三ラインをテコにして、安倍政権が南北関係の前進及び米朝対話の可能性を阻害しようとしてトランプ政権に強力な働きかけを行うことは明らかです」と記しましたが、3月9日のトランプ-安倍電話会談で早くも的中してしまいました。
トランプ・安倍電話会談に関するホワイトハウス声明は、「トランプは、朝鮮が「全面的で、検証可能、不可逆的な非核化」に向かって確実な段取りに踏み出すに至るまでは、双方は引き続き韓国との緊密な3国協力を行うことで、朝鮮に対する圧力を保ち、国際制裁を行うことを強く希望すると表明した」と紹介しました。この中にある「全面的で、検証可能、不可逆的な非核化」というのは、上記中央日報社説にも出ていましたが、2003年に始まった6者協議において、米日韓が頑なに主張した対朝方針の根幹です。しかし、トランプがそのような歴史的経緯及び「全面的で、検証可能、不可逆的な非核化」というような専門用語を正確にブリーフされ、その意味を理解しているとは考えられず、安倍首相が吹き込んだものであることは間違いありません。さらに安倍首相及び河野外相は訪米してトランプ政権に対する働きかけを強める意図をあらわにしています。

<問われる私たち自身の責任>
私たちは、南北首脳会談及び米朝首脳会談の合意という歴史的出来事をあっけにとられて見守っているというものがほとんどではないでしょうか。そして少なくないものが、「北朝鮮脅威論」を振りまく安倍政権のもとで、朝鮮半島において起こりつつある事態に不安感を抱いているのではないかと思います。それこそが安倍政権につけいる隙を与えてしまうのです。
 私が刮目したのは、一貫して文在寅政権のすべてを批判し続けてきた韓国・朝鮮日報ですら、米朝首脳会談開催の可能性を肯定的に受け止め、3月10日付社説で、「今最も望ましいことは北朝鮮と米国、日本が修好関係を結ぶことで北朝鮮が国際社会の正常な一員となり、一方で北朝鮮体制の安全は韓国、米国、北朝鮮、中国、ロシアなど東北アジアの関係国全てが参加する安全保障体制を築くことによって確保することだ」と述べたことです。南北関係好転の道筋を切り開いた文在寅大統領のリーダーシップに対して韓国世論は70%以上の支持を表明しました。
 国際社会がこぞって支持しているのに、ひとり安倍政権だけが躍起になってこの歴史的可能性をもみ消そうとしているのです。私たち国民のひとりひとりが目を覚まさなければ、私たちの無自覚は客観的に安倍政権の暴走を支持し、手助けすることになるのです(森友学園問題でピンチに陥っている安倍首相としては、朝鮮問題で「華々しい動きを示すことで、国民の視線をそらしたい」という姑息な打算もあるに違いありません)。そのことは、朝鮮半島の平和と安定の実現を妨げることに私たちが手を貸すことに他なりません。いつも繰り返していることですが、もう一度。「我が国民よ、いい加減に目を覚まし、安倍政権の暴走に鉄槌を下そうではないか。」