シリア全国対話会議(最終声明と参加者挨拶)

2018.02.06.

1.国連事務総長の高い評価

1月29-30日にロシアのソチで開催されたシリア全国対話会議は、最終声明と参加者挨拶の2つの文書を発表して終了しました。当初のロシア側発表では約1600人の参加が見込まれていましたが、一部の海外亡命者グループとクルド人武装組織等が最終的に会議参加を拒んだこともあり、会議に出席したのは約1500人(国外反対派が107人)となりました。
 この会議の結果について、アメリカをはじめとする西側諸国の反応は概して冷ややかですが、私がもっとも注目したのは国連のグテーレス事務総長が会議の成果を歓迎し、高く評価する発言を行ったことです。グテーレスは2月2日に国連本部で行った記者会見で、会議参加者が、国連主催による、安保理決議2254の精神に基づいたシリア憲法委員会を成立することに同意したこと、同委員会の委任及び職権の範囲、議事規則並びにメンバー選出基準等はすべて国連主導のシリア問題ジュネーヴ和平会談で確定することだと紹介し、国連事務総長シリア問題担当特使のデ・ミストラのこれからの仕事は、シリア全国対話会議の成果の基礎の上で安保理関連決議の全面的な実現を推進することだと指摘しました。またグテーレスは、シリア国内情勢に対する危惧を表明し、シリア政府、反対派及びシリア情勢に影響力を持つ諸国がデ・ミストラと協力し、ジュネーヴ和平交渉プロセスを推進するように呼びかけました(国連WSにはまだ2月2日の記者会見がアップされていないので、以上は2月3日付の新華社国連電に拠っています)。
 またグテーレスは、今回の会議の成果によって和平プロセスはすでに「意味のある」段階に入ったとし、ソチ会議の成果として3つのカギとなる内容を指摘しました。第一は、「シリア人全体のシリア」という重要な観点を体現したこと、第二は、会議参加者が安保理決議2254の精神に基づき、国連主催下でシリア憲法委員会を成立することに同意するとともに、委員会の構成はジュネーヴ交渉に参加しているシリア政府及び反対派代表、さらにシリア専門家、独立人士、氏族指導者並びに女性を包括するべきことに同意したこと、第三は、会議声明が憲法委員会の委任及び職権の範囲、議事規則並びにメンバー選出基準等はすべて国連主導のシリア問題ジュネーヴ和平会談で確定することを明確に指摘したこと、です(以上の内容は、同日付の中国新聞網WSによるものです)。
さらにグテーレスは、ソチ会議に国連が参加したことに対する批判を拒否し、デ・ミストラが会議に参加したのは、会議の性格と結果及びそれが果たす国連主催のジュネーヴ・プロセスに対する貢献に関する国連とロシアとの間の共通了解に基づいたものだとし、「会議は以上の共通了解に完璧に即した声明をもって終了した」と強調しました(同日付のイラン放送英語版WS)。
 また、グテーレスの断固とした態度表明の重さを考える上では、アメリカ及びフランスを中心とした西側5カ国がシリア問題解決の別案を提起しているという事実をも考慮に入れる必要があるでしょう。西側諸国の動きに対しては、ソチ会議に際して記者会見を行ったロシアのラブロフ外相が、ジュネーヴ・プロセスを妨害するものだと厳しく批判しています。2月2日の記者会見でグテーレスが西側諸国の動きに関しても見解を述べたかどうかはまだ分かりませんが、以上の発言はロシア(及びイラン、トルコ)が主導して実現した今回の会議の成果にグテーレスが軍配を上げたものであることは間違いないと思います。
 私は、グテーレスが事務総長に就任してからの国連事務局の言動を注視していますが、イラン核合意(JCPOA)、朝鮮半島核問題に引き続き、今回のシリア全国対話会議に関しても、グテーレスがアメリカをはじめとする西側諸国とは明確に一線を画して、以上のようにソチ会議の成果を高く評価したことに快哉を叫びたい思いです。これこそが国連事務局の本来あるべき姿です。

2.会議の最終声明と参加者挨拶

シリア全国対話会議の最終声明と参加者挨拶に関しては、1月31日の定例記者会見の席上、ロシア外務省のザハロヴァ報道官がWSに載せてあると発言しましたので、調べてみたところ、確かに私も読める英文版も掲載されていました。
 最終声明は12項目から成っています。かなりの分量なので、要点のみを紹介しておきます。私のとりあえずの印象としては、確かにグテーレスが高く評価したように、きわめてバランスがとれた内容です。領土を分割させないというポイントは、クルド人武装勢力にてこ入れする形でシリア領内に長期にわたって居座る姿勢を強めているアメリカに対して釘を刺すものです。

我々参加者の目標は、軍事衝突、社会的経済的破壊から祖国を救済すること、国家の尊厳を回復すること、すべての市民に基本権と自由を提供することであり、この目標を達成する唯一の方途は、以下の原則に基づいて祖国の諸問題を政治的に解決することである。
1.シリアの主権、独立、領土保全及び団結を尊重すること。国家の領土(ゴランを含むは分割されてはならない。
2.国連憲章及びその諸目的と諸原則に則して、不干渉に関わるシリアの国家としての主権的平等を尊重し、全面的にこれにコミットすること。
3.シリア人のみが民主的手段により、投票を通じて自国の将来を決定し、外部の圧力または干渉を受けることなく自らの政治的、経済的及び社会的制度を決定しなければならない。
4.シリアは、政治的多元主義並びに宗教、民族及びジェンダーに関わりない平等の市民権に基づき、法の支配、権力分立、司法の独立、すべての市民の完全な平等、シリア社会の文化的多様性を尊重する、民主的かつ世俗的な国家でなければならない。
5.全国的な団結、社会平和、及び地方自治における公正な代表制を伴った包括的でバランスのとれた開発を約束する国家であること。
6.国家及び公共の諸機関の継続性と任務遂行の改善(所要の改革を含む)。
7.憲法に従って任務を遂行する強力で、統一された、能力本位の国民的軍隊。
8.テロリズムに対する無条件の拒否及びこれとの積極的な闘いへのコミットメント。
9.人権及び公の自由の尊重と保護(女性の政治的及び平等な権利と機会を特記し、最低限30%の女性の諸機関及び決定への参画を明記)。
10.シリアの社会的及び民族的アイデンティティ、歴史的多様性等の重視と文化的多様性の保護。
11.貧困との闘い及び根絶並びに弱者に対する支援の提供。
12.民族的遺産及び国家的環境を将来の世代のために保全し、保護すること。
 以上の諸目的のため、我々は、シリアアラブ共和国政府及び広範に代表される反対派代表によって構成される、安保理決議2254に従った、国連主催のもとでの政治解決に資するべき、憲法改正を起草する憲法委員会を作ることに合意した。
 憲法委員会は最低限、以下によって構成されるだろう。すなわち、政府、反対派代表、シリア人専門家、市民社会、独立人士、氏族代表及び女性。その際、シリアのエスニック及び宗教的構成者の十分な代表権が保障されるべく配慮されるだろう。最終合意は、国連主導のジュネーヴ・プロセスにおいて達成されることになる。
 我々は、国連事務総長に対し、ジュネーヴにおける憲法委員会の仕事を支援するよう、シリア問題特別代表に仕事を割り振ることを要請する。

参加者挨拶は短いものです。それは、国連、国際人道諸機関、そして国際社会全体に対して、シリアの復興及び再建に対して貢献するように呼びかけるとともに、シリアが国際社会の一員としてその立場を回復することを支援するようにアピールすることを内容としています。
 ちなみに、シリア外務省は2月1日に声明を発表して、今回の会議の成果は今後開催される和平交渉及び対話に対して堅固な基礎を据えるものだと積極的に評価し、この会議を主催したロシア政府及びプーチン大統領に対する謝意を表明しました(2月2日付中国新聞網WS)。この声明はまた、最終声明が政治行程における基本的礎石になると指摘し、今後の対話・話し合いを始める上での堅固な基礎になるという認識をも表明しました(2月3日付イランIRNA通信が引用したシリア通信社報道)。

シリア情勢が好転するためには、まだまだ多くの障碍が立ちはだかっています。2月3日には、テロリスト集団によるロシア軍機の撃墜(携帯型地対空迎撃システムMANPADによるもの)が起こりました。ロシアは報復攻撃を行うとともに、これまでテロリストがMANPADによる攻撃を行ったことがなかったことを重視し、その入手先を特定する作業を進めています。調査結果如何では、ロシアとアメリカをはじめとする西側諸国との対立にまで発展する可能性も排除できません。
しかし、曲がりなりにも約1500人のシリア各派が一堂に会した上、最終声明を作ることに成功したことの意義を過小評価するべきではないと思います。アフガニスタンにおけるロヤ・ジルガ(国民大会議。2002年6月開催)のごとき位置づけを与えられることになる可能性もあり得ます。日本国内ではアメリカ発の情報が垂れ流しで、シリア情勢について正確な判断を行うことは、朝鮮半島情勢と同じくきわめて困難ですが、私としては、できる限り情報源を多角化することによって、正確かつ公正な情勢判断を行うように今後も心がけていきたいと考えています。