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バンクーバー外相会議と文在寅大統領の年初発言

2018.01.21.

金正恩「年頭の辞」をきっかけに動き出した南北関係ですが、二つの問題が早くも先行きは楽観できないことを予感させています。一つは文在寅大統領の新年記者会見での発言であり、今ひとつは米加両国外相が招集したバンクーバー会議です。時間的には文在寅発言の方が先ですが、南北関係を考えるうえではバンクーバー会議から見る方がよいと思います。

1.バンクーバー会議

「おろか」としか形容のしようがない、米加両国外相主催の朝鮮半島問題に関する会議が1月15-16日にカナダのバンクーバーで開催されました。この会議は、「昨年11月に北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)級「火星-15」型を発射した直後に米国とカナダが提案したもの」(1月18日付ハンギョレ・日本語WS)で、具体的には、昨年(2017年)12月19日にティラーソン国務長官がカナダを訪問した際の米加外相会談の際に開催を決定したものであり、それは、朝鮮に対する最新の安保理制裁決議2371が採択されたわずか2日後のことでした(ラブロフ外相)。しかも会議参加を招請された国は朝鮮戦争(1950-53年)に「国連軍」として参戦した国々を中心とした20カ国であり、それを大義名分として、朝鮮はもちろん、中国及びロシアは招待されませんでした。国連事務局も会議に参加しなかったのです。
 会議開催の決定は確かに金正恩「年頭の辞」に先立って行われましたが、南北関係改善の気運が高まる中でも「予定通り」に行われたということは、この会議の性格をあからさまに物語っています。「(会議で)米国と日本は…北朝鮮に対する圧力を最大限高めるべきと強調した」と1月17日付朝鮮日報・日本語WSが報じたとおり、この会議では、安保理決議では中ロの消極姿勢で盛り込まれなかった朝鮮船舶に対する海上臨検(朝鮮はこれを「戦争行為」と見なすとしています)などの強硬措置をとる方向で合意しました。
 日本国内でも報道されたとおり、この会議における河野外相の発言は際だって突出したものでした。上記の朝鮮日報WSが、同外相の「北朝鮮は、核・ミサイル開発を続けるための時間稼ぎをしたいだけだ」、「北朝鮮が核・ミサイル計画に執着しているという事実から目を背けるべきではない」として、北朝鮮の「微笑外交」に目を奪われてはならないと強調した、と紹介しているほどです。要するにこの会議は、南北関係改善の動きを牽制し、妨害し、関係改善に動こうとする韓国に「待った」をかけたに等しいものです。
というより、対話による問題の平和的解決を主張する中ロの存在のために、安保理で思い通りの決議を採択させることができない米日両国が、別枠の「国際会議」をでっち上げ、対朝鮮強硬政策の「正当性」を無理矢理作り出そうとした、姑息かつおろかきわまる茶番劇なのです。中国及びロシアがこの会議に対し厳しい反応と批判を行ったのは当然至極のことでした。
 すなわち、アフリカ4カ国を歴訪していた王毅外交部長は1月16日滞在先のサオトメプリンシペで、香港の鳳凰テレビ局のインタビューに答える形で朝鮮半島情勢に関して次の発言を行いました(1月17日付中国外交部WS)。バンクーバー会議に直接言及しているわけではありませんが、同会議の本質を突いた、アメリカ及び日本に対する痛烈な批判であることは明らかです。

現在、朝鮮半島情勢には得がたい緩和局面が現れており、みんなが大事にする価値がある。これは各国が共同で努力した結果であり、韓国及び朝鮮は積極的役割を発揮した。しかし、歴史的経験が告げているように、半島情勢が緩和に向かうたびに、かき乱し、甚だしきは故意にひっくり返そうとする動きが現れることがある。今は各国の誠意を検証するときだ。国際社会は、目を大きく見開き、誰が半島核問題の平和的解決の推進者か、誰が情勢を緊張に引き戻そうとする破壊者かを見届ける必要がある。

中国外交部の陸慷報道官も1月16日及び17日の定例記者会見の席上、「この会議ははじめから合法性及び代表性を備えておらず、中国は最初から反対した」、「世界はすでに21世紀に入っており、国際社会はいかにして半島核問題を平和的に解決することができるかについて努力しているときなのに、一部の国々が冷戦時代の「国連軍」の名目を持ち出して、このような会議を行うとは、いったいどういう目的があるのか理解できない」(以上16日)、「(米加共催のこの会議は)国際社会に分裂を作り出し、朝鮮半島核問題を適切に解決しようとする共同の努力を傷つけるだけだ」(17日)と切り捨てました。
 ロシアもこの会議を痛烈に批判しました。ラブロフ外相は1月15日に行われた記者会見の席上、記者からの質問もないのに自らこの会議を取り上げ、要旨次のように語りました(1月15日付ロシア外務省WS(英語版))。

ところで、アメリカとカナダが呼びかけた北朝鮮に関する会合が本日、朝鮮戦争時に国連主導の連合軍のメンバー国によって開催される。この会合について聞いたとき、我々は何故にこの構成なのかと尋ねた。これらの国々が朝鮮半島の現在の問題を解決する努力にどのように関わっているのか。何をするつもりなのか。会議の主題は平壌に追加的圧力のメカニズムを作るということだ。数週間前に(安保理の)決議が採択された。その2日後に、バンクーバーでの会合が発表された。ロシアも中国も招待されなかった。
 最近のアメリカ外交について若干触れておく。一昨日に国務省のブリーフィングがあった。スポークスマンは、中国とロシアがどうして招かれなかったのかという質問に対して曖昧な答え方をしたが、要するに、中ロは会合の準備について知らされており、両国はその努力を支持した、ということだった。これは真っ赤なウソだ。我々は率直に、この会合は有害であると考える、と述べた。

ロシア外務省情報プレス局は1月17日、バンクーバー会議の結果を踏まえたコメントを発表し、要旨以下のとおりロシアの立場を表明しました(同日付ロシア外務省WS)。

朝鮮に関するバンクーバー会議の結果に関する米加共同議長の声明内容(「共同議長要約文」)はこの行事の有用性に関する我々の疑いを強めるものだった。「安保理諸決議に規定された要求以上の一方的制裁その他の外交的措置について考慮する」との会合参加国の「決定」は絶対に受け入れられず、非生産的だ。国連の授権に基づいていない、一部の国々による安保理諸決議の重要性を損なおうとする乱暴な試みは、すべての国々に対して拘束力があるこの重要な国際機構に対するこれらの国々の全面的な無視を証明するものだ。我々は、17カ国(ママ。インド、スエーデン等も招かれて参加したという報道がありますので、これらの国々は決定に参加しなかったということでしょう。)が国連安保理の「助手」の役割を僭称し、安保理の権威に挑戦することを絶対に受け入れることはできない。

以下で取り上げる文在寅大統領の発言に潜む韓国政府の腰の定まらない姿勢を考えるうえでも、この会議に出席した康京和外相の言動をも見ておく必要があります。1月16日付のハンギョレ・日本語WSは次のように紹介しています。

カン・ギョンファ外交部長官は15日午後、「朝鮮半島の安全保障と安定に関するバンクーバー外相会議」(バンクーバー会議)に参加するため出国した。カン長官は16日の開会式での基調演説を皮切りに、今回の会議の各セッションで、文在寅政権の対北朝鮮政策を説明し、再開された南北対話が非核化対話につながるよう、参加国の支持を求める方針だ。ある政府関係者は「(カン長官が)制裁と対話の並行という政府の基本的立場を表明する計画」だとしながらも、「南北対話が行われており、(北朝鮮の)平昌(五輪への)参加も確定した中、参加国たちに、私たちが単純に現在の状況を(楽観的に)見ているわけではないが、(北朝鮮核問題を解決する)機会が与えられたのは明らかではないかという趣旨の説明をすることになるだろう」と話した。

また、会議における米日と韓国との立場の隔たりについては、1月17日付の朝鮮日報・日本語WSが次のように紹介しました(河野外相発言などはすでに紹介しましたが、再録します)。

米国と日本は16日(現地時間)、韓半島(朝鮮半島)の安全保障問題などをテーマとしてカナダ・バンクーバーで開催された外相会合で、北朝鮮に対する圧力を最大限高めるべきと強調した。韓国と北朝鮮が対話に乗り出したことは評価しながらも、国際社会全体で北朝鮮への圧力を高めることが重要だと主張した。
 韓国政府と与党は南北対話を機に「新デタント(緊張緩和)」時代に言及しているが、米国と日本の韓半島情勢に対する見方は依然として韓国とは異なっているわけだ。
 この日の会合で、日本の河野太郎外相は最近の南北対話について「北朝鮮は、核・ミサイル開発を続けるための時間稼ぎをしたいだけだ」として、北朝鮮が南北対話に応じているからといって制裁を中断したり何かを報いたりすることに批判的な見方を示した。さらに「北朝鮮が核・ミサイル計画に執着しているという事実から目を背けるべきではない」として、北朝鮮の「微笑み外交」に目を奪われてはならないと強調した。
 米国のティラーソン国務長官も、強い口調で国際社会による制裁・圧力強化を訴えた。ティラーソン氏は、北朝鮮が信頼できる態度で非核化の交渉テーブルに着くまで圧力を加えるべきとした上で「北朝鮮が、同盟の決意や結束にくさびを打ち込むことがあってはならない」と主張した。
 ティラーソン氏は、中国が北朝鮮核問題の解決策として提示してきた「北朝鮮による核・ミサイル挑発の中断」と「韓米合同軍事演習の中断」の2点についても、受け入れられないとの立場をあらためて示し、各国政府が北朝鮮の海上封鎖など対北制裁に積極的に乗り出すよう求めた。
 両氏の発言は、北朝鮮の平昌五輪参加をめぐる南北対話を強調した韓国の康京和外交部長官とは微妙な温度差があった。康長官はこの日の会合で「強力な対北制裁と圧力、そして北朝鮮により明るい未来を提供できるというメッセージ、この二つの道具は相互補完的に作動している」と述べ「制裁と圧力の効果が現れる証拠が蓄積される状況で、北朝鮮が平昌五輪への参加に向けて南北対話に戻ってきたことに注目すべき」と主張した。

朝鮮のバンクーバー会議に対する反応としては、1月18日付の朝鮮中央通信が、同日、朝鮮外務省米国研究所のスポークスマンの同通信記者に対する答えとして、次のように述べたことを紹介しています。

最近、米国はカナダと共謀して15、16の両日、カナダのバンクーバーで1950年―1953年、米国に追随してわが国に対する侵略戦争に加担した国々をはじめ20カ国の参加の下で朝鮮戦争参戦国外相会議という戦争謀議をした。
会議で米国務長官なる者は、われわれが核計画を中止する時まで対朝鮮原油および工業製品輸出制限、海上統制強化、われわれの海外労働者追放など、対朝鮮圧迫攻勢をいっそう強めなければならないと公然と言いふらして軍事的選択をうんぬんした。
今、全世界はわれわれの大らかで雅量のある提案によって凍りついていた北南関係において劇的な変化が起こり、朝鮮半島で情勢緩和の兆しが見えていることに対して極力歓迎している。
しかし、米国はこのような雰囲気に水を差し、自分らに追従してわが共和国に対する侵略戦争に加担した国々をはじめ追随勢力を集めてわれわれに対する野蛮な制裁と圧迫をいっそう強め、朝鮮半島で新たな戦争を挑発する悪巧みを公然と企てた。
周辺諸国をはじめ多くの国が今回の会議の性格と討議内容が朝鮮半島の情勢緩和に何の助けにもならず、むしろ逆効果をもたらしかねないと異口同音に非難しているのは理由なきことではない。
米国が今回の会議で密議を凝らしたわれわれに対する海上封鎖のような制裁強化は、われわれがすでに累次明らかにした通り、戦争行為同様である。
米国は今回の会議を通じて、口先では対話をうんぬんしながらも実際においては朝鮮半島でなんとしても新たな戦争の火の元をつつこうとしているということを自らさらけ出した。
われわれは、米国の今回の会議招集劇を国家核戦力完成の歴史的大業を成就し、世界が公認する戦略国家の地位に堂々と立ったわが共和国の威力に恐れおののいたトランプ一味の笑止千万な身もだえとしか見なさない。
朝鮮半島問題をなんとしても力で解決しようとする米国の策動は、われわれをしてわれわれが歩んできた道が至極正しかったし、今後も変わることなくこの道を揺るぎなく進まなければならないということをよりはっきり刻みつけさせている。
われわれはこんにち、この時刻も朝鮮半島とその周辺に核戦略資産を引き続き引き込んで尋常でない軍事的動きを見せている米国の一挙一動を一つも見逃さず、注視しており、恒常的な臨戦状態を堅持している。
この機会に、定見もなく米国に盲従盲動して法律的名分もなく、性格もあいまいなこのような会議に参加した国々に注意を喚起させ、それから招かれる結果に対して熟考することを忠告する。

2.文在寅発言

1月14日付の朝鮮中央通信は、「南朝鮮当局は錯覚してはならない」と題して、以下の文章を掲載しました。なお、1月17日付の労働新聞も署名入り論評で、「南朝鮮執権者の新年記者危険での発言」を同じように厳しく批判しています(同日付の労働新聞の別の署名入り論評では、「南朝鮮当局は外部勢力との核戦争演習を中止すべきだ」という要求も掲げています)。

われわれのおおらかな雅量と主動的な措置によってもたらされた北南和解の劇的な雰囲気は、南朝鮮の各階層と全同胞の胸を興奮させている。
国際社会も北と南の努力を肯定的に評しながら、朝鮮半島情勢緩和の流れが続くことを期待している。
このような時、南朝鮮では和解の局面に水を差す不穏当な妄言が吐かれて人々を唖然 とさせ、失望させている。
先日、新年の記者会見で南朝鮮当局者が言った言葉がまさにそうである。
南朝鮮当局者は、南北間の対話が始まったのは米国が主導する制裁・圧迫の効果だと言える、トランプ大統領の功がとても大きい、感謝を表したいととんでもないたわごとを並べ立てたかとすれば、北を対話に誘導したのは南北関係改善のためではなく、「北の非核化」のための対話の章をもたらすためのことであるという間抜けな詭弁もためらわずに吐いた。
そして、北と幼弱に対話だけを追求しない、対話が始まったといって「北の核問題」が解決されたのではない、国際社会の制裁に歩調を合わせていくであろうし、独自的に制裁を緩和する考えはない、北との関係改善は「北の核問題」の解決と共に行かざるを得ないという腹黒い下心をさらけ出した。
言いふらす「北の核問題」の解決とは事実上、「北の核廃棄」の変種にすぎない。
はては、会談のための会談が目標であるはずがない、首脳会談も与件が作り出され、結果物があってこそ行えるという理に合わない無知なことまで言った。
それこそ、とげのある陰険な悪態一色だと言わざるを得ない。
いくら上司の顔色を見るべき哀れな境遇であっても、対話の相手を前にしてこんなにまで無礼で愚昧であるかということである。
最近、米国が北南対話について見かけでは「支持」だの、「歓迎」だのと言いながらも、内心はあわてふためいて「北の核廃棄」に役立たない南北関係の改善は意味がないと言いふらし、南朝鮮当局を圧迫しているということは周知の事実である。
南朝鮮当局者の新年の記者会見の発言が、上司の不便なこの心気を意識したお粗末な機嫌取りだということは言うまでもない。
内・外信が南朝鮮当局の態度は米国の気分状態を推察できるようにする風向計だと嘲笑するのは、決して理由なきことではない。
善意には善意で、真心には真心で対するのが人間の道義である。
最悪の対決局面状態でようやく和解と関係改善の火種を生かし始めた北南当局間にはなおさらそうである。
南朝鮮当局者の態度を見れば、果たして誰が北南関係を改善して信頼を築こうという考えがいささかでもあると考えるかということである。
むしろ、何かの成果があってこそ会談も行えるということに対して、おそらく「大統領」であるというあの人はご飯も炊かずにご飯を食べる考えだけをすると言うべきであろう。
会談をしてこそ共同声明も発表され、共同報道文も作成されるし、意を合わせた合意書も発表することができるということは一つの常識である。
誰をとわず会談も始める前に成果から考え、結果物が与えられることを願うあの人が、「大統領」が確かであるかと異口同音に言っている。
北南関係の改善のために対座し始めたこの場で、自分の体面から重視すべきか、でなければ民族のために作り出す結果物を重視すべきか。
よい結果を作り出すには真摯な姿勢で対座して努力すべきであって、初めから結果物があってこそ会えると言いふらしているのだから、常識外だと言わざるを得ない。
このような相手に対していかに北南関係を解決していく姿勢が正しく立っていると言えるか。
恥も知らずに北南対話という結果がまるで自分ら主導の国際的制裁・圧迫のために成されたものであるかのように言いふらすトランプに、事実がそうだと感謝まで表しながら北南会談を「北の核廃棄」のための朝米会談につながせるとせん越にへつらう南朝鮮当局者の卑屈な行為はなおさら見るに耐えないものである。
これは、南朝鮮当局がわれわれの冬季オリンピックの参加を実現させてみようとやっきになっていることも結局、北南関係の改善問題を超越して「北の核廃棄」を実現することを見通してわれわれを誘導してみようとする陰険な企図をそのままさらけ出したこととしかほかには見られない。
われわれは、全民族の切々たる期待と念願に即して心から北南関係を改善する意志を持ってたとえ数日しかならない期間であるが冬季オリンピック参加に関連して、南朝鮮当局が願う全てのことを解決してやる方向で高位級会談まで実現させて努力の限りを尽くした。
今は、北南関係を改善し、信頼を築いていく初の工程としてこれを大切に見なしてこそ当然であろう。
そして、始めを立派に飾り、互いに信頼を築きながらよい感情を持てるように相互尊重する原則に基づいて可能なことから一つ一つ解決するための努力を傾ける考えをすべきである。
しかし、南朝鮮当局は歯も出ていない状態でトウモロコシを食べるというふうに無謀に振る舞いながら悪巧みをしている。
北南対話をいわゆる自分らの制裁・圧迫の結果に、自分らが誘導した「成果」として世論を流して治績宣伝に狂奔したあげく、米国との合同軍事演習を延期すると発表しては北と南が対座して平和の章を開く冬季オリンピックに時を合わせて南朝鮮とその周辺の水域に米国の原子力空母打撃団をはじめ戦略資産を引き入れて情勢を故意的に激化させる行為もためらっていない。
一体、このような軍事的妄動はなぜ振る舞い、その真の意図が何であるかということである。
われわれが真情と雅量を持って自分らの要求を全て受け入れたので、よろよろ顔色をうかがっていた南朝鮮当局が今や頭をもたげて、それこそごう慢に振る舞っている。
これは、南朝鮮当局が民族の利益と要求は眼中になく、冬季オリンピックと北南関係改善の貴重な芽をいけにえにしてでも上司の機嫌を取って権力だけを維持すればいいのだと見なす親米事大集団であることをそのまま示している。
南朝鮮当局者は、錯覚してはならない。
われわれは今後も、北南関係の改善のために極力努力するが、それに水を差す不純な行為に対しては決して傍観しないであろう。
今は、全てが始めにすぎない。
冬季オリンピックに参加するわが代表団を乗せた列車やバスもまだ平壌にあるということを知らなければならない。
誰かがご飯を炊いて口に入れてくれるという荒唐無稽な考えは、初めから捨てなければならない。
ご飯を食べるには、自分の手でご飯を炊かなければならない。
南朝鮮当局は自分らの上品でない行動がどんな忌まわしい結果をもたらすかについて熟考する方がよかろう。

私は、この文章を見てから改めて文在寅の新年記者会見に関する韓国3紙の報道をチェックし直しましたが、取り上げられているのはもっぱらいわゆる「従軍慰安婦」問題に関する文在寅発言だけで、朝鮮中央通信が厳しく批判した発言内容を紹介するものはゼロでした(日本語WSに限ってのことですが)。ただし、同日(1月10日)付けの中国新聞網北京電は、文在寅が次の諸点を明らかにしたと伝えていました。

○条件が成熟しさえすればいつでも韓朝首脳会談を行うことができる。
○韓朝関係改善と同時に朝鮮核問題を解決すべきだ。朝鮮核問題が解決された場合にのみ韓朝関係を改善することができるし、韓朝関係が改善された場合にのみ朝鮮核問題を解決することができる。
○朝鮮と韓朝関係改善について対話を行うことにより朝鮮を非核化の対話に戻すように導くべきだ。ただし対話は唯一の解決方法ということはできず、朝鮮が再び挑発するならば、国際社会は強力な制裁と圧力行使で対応するべきだ。
○韓国単独で対朝鮮制裁を緩和することは当面考えていない。韓朝対話は始まったばかりだが、朝鮮核問題が解決できない限り、韓国は対朝鮮制裁問題で国際社会と歩調を合わせる。国際社会の制裁の枠組みの下でのみ開城工業団地再開及び金剛山ツアという問題を考慮することができるし、5.24措置(浅井注:韓国の駆逐艦「天安号」沈没事件を受けて韓国政府がとった朝鮮に対する対抗措置)の経済制裁解除も考慮することができる。安保理の朝鮮に関する決議の枠組みの下での制裁措置は韓国が勝手に解除することはできない。

また、1月11日付の新華社ソウル電は、前日(1月10日)に文在寅がトランプと電話会談した中で、「韓朝ハイ・レベルの対話という成果は、トランプ大統領の確固とした原則と協力のおかげだ」と述べたと伝えています。
 以上の中国側報道に鑑みて、上記朝鮮中央通信が報じた文在寅発言は「でっち上げ」と決めつけることは無理です。そして、そのような発言を行った文在寅の見識には、私は重大な疑問符をつけざるを得ません。朝鮮が重大な警告を発したのはむしろ当然であるというべきでしょう。
 以上の朝鮮の警告が一過性のものではないことは、1月20日付の朝鮮中央通信が、「せっかく生かした北南関係改善の火種を消そうとするのか」と題する以下の文章を発表して、次のように警告を重ねたことから間違いありません。

今、われわれは全同胞の一様な期待と念願に即して南朝鮮で行われる冬季オリンピックの成功裏の開催のために誠意と努力の限りを尽くしている。
このような時、南朝鮮ではそれに相反するようにわれわれのおおらかな雅量と主動的な措置によってもたらされた北南和解の劇的な雰囲気を甚しく曇らせる怪異なことが公然と繰り広げられている。
南朝鮮当局者の不穏当な妄言とともに、われわれの冬季オリンピック参加に関連する実務的問題に対して「対北制裁違反」だの、何のという雑言が吐かれている。
保守メディアと論客は、競技大会の期間、北が「マンギョンボン―92」号や高麗航空を利用するのは米国と自分らの「独自制裁」に抵触すると唱えたかとすれば、北の選手団に対するスポーツ器具支援と代表団、応援団、記者団の滞在費用支援も「制裁違反」の素地がある、平昌を訪問する可能性がある北の高位級人士らの中の一部は「制裁」リストにのせられているというたわごとも言いふらしている。
これが、新年に入って北南間に醸成された関係改善の流れを快く思わない米国と南朝鮮の保守勢力の不便で不安な気持ちを代弁したことであるということは言うまでもない。
問題は、南朝鮮当局がこれに対して「北の平昌オリンピック参加に関連して対北制裁違反論難が生じないようにする」「国連制裁委員会と米国など国際社会と緊密に協議していく」と言って疑わしい態度を取っていることである。
大事を執り行う主人としての礼儀も、なすべきことも知らずに無分別に振る舞うのは世界の面前でとても恥ずべきことであり、自ら自分の手足を縛る愚かな行動である。
今は、北南関係改善の雰囲気に否定的影響を及ぼしかねない問題に対して警戒し、なんとしても互いに信頼を築き、よい感情を持てるように努力を傾けるべき時である。
南朝鮮当局の曖昧模糊(あいまいもこ)とした行動は、米国宗主の機嫌を取る一方、まるで誰かにおかげを被らせるかのように恩着せがましく振る舞って北南和解の局面を自分らの治績に宣伝しようとする不純な企図の発露としかほかに評価のしようがない。
南朝鮮当局は、われわれの真心と雅量に対する我田引水のような思考を捨てて、分別のある行動を取るべきである。
まだ、全てが始めにすぎない。
南朝鮮当局は、「制裁違反」可否だの、何のという軽々しい言行がせっかく生かした北南関係改善の火種を消してしまう結果を招きかねないということを銘記して、立場を明白にすべきである。

私はこれまでもこのコラムで、今後の南北関係が改善に向かって進むかどうかは文在寅政権の胆力と戦略眼の確かさにかかっていると指摘してきました。中国側の指摘にもあるとおり、韓国が「ノー」という限り、アメリカは朝鮮に対する戦争を発動することはできないはずです。韓国は確かな拒否権を持っているのです。ところが、文在寅がトランプに対して「お世辞」を言い、腰の据わらない態度に終始する限り、朝鮮が文在寅に見切りをつけるのは遠い将来ではないと考えるほかありません。
 具体的には、平昌冬季オリンピック終了までは何とか持ちこたえることができるとしても、「延期」されたに過ぎない米韓合同軍事演習に対して文在寅政権がいかなる方針で臨むかによって、直ちに重大な試練にさらされることは間違いないでしょう。朝鮮が発している以上の警告に、韓国政府及びメディアがことさらに無視する姿勢を示しているのは、私から見ればきわめて姑息であり、このような生半可な姿勢では、南北関係の前途は厳しいと考えるほかありません。
 私は以上の判断が杞憂にしか過ぎず、間違いに終わることを心から願っています。