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日中関係改善に対する安倍首相の本気度を問う(環球時報社説)

2018.10.30.

安倍首相の中国公式訪問(10月25日-27日)に際して、中国の習近平主席及び李克強首相は意味深長な発言を行いました。
26日に安倍首相と会見した習近平主席は、1978年に締結された日中平和友好条約について、「法律の形式で両国の平和友好という大方向を確定し、…歴史、台湾等のセンシティヴな問題を適切に処理することについて確固とした準拠及び保障を提供した」、「相手側の発展及び戦略に関する意図を正確に把握し、「互いに協力パートナーとなり、互いに脅威とならない」という政治的コンセンサスを正確に把握し、肯定的なインタラクションを強化し、政治的な相互信頼を増進する」、「信用を重んじ約束を守り、中日間の4つの政治文献(浅井注:4つの政治文献とは、1972年の日中共同声明(毛沢東・周恩来vs.田中角栄・大平正芳)、1978年の日中平和友好条約(鄧小平・黃華vs.福田赳夫・園田直)、1998年の友好協力パートナーシップ構築に関する日中共同宣言(江沢民vs.小渕恵三)及び2008年の「戦略互恵関係」推進に関する日中共同声明(胡錦濤vs.福田康夫)を指す)及び双方がすでに達成した共通認識に基づいて事を行い、建設的に矛盾及び違いを処理し、中日関係の健全な発展のための政治的な基礎を守ろう」(同日付中国外交部WS)と発言しました。
 また、25日に安倍首相と共に日中平和友好条約締結40周年のレセプションに出席した李克強首相も、「条約を含む中日間の4つの政治文献は中日関係の政治的法律的基礎を定め、両国関係が健全に発展する上でしっかりと把握しなければならない基本指針及び準拠となっている」、「現在の地域及び国際情勢は深刻で複雑な変化を経験しており、…中日関係は…困難と挑戦に直面している」と述べ、26日の会談では「双方が…歴史、台湾、東海等のセンシティヴな問題を適切に処理することを希望する」と念を押しました。
 以上から直ちに分かることは、中国側がこれまでの日中首脳間で達成された基本的合意(4つの政治文献)に基づいた日中関係の構築の重要性を繰り返し安倍首相に説いているということです。以上の中国両首脳の発言に対して、安倍首相は26日の習近平主席との会見において、「競争から協調、互いに脅威とならない、自由で公正な貿易体制の進化発展」という3原則を示しました。新聞報道による限り、安倍首相がこれまでに達成された基本的合意(4つの政治文献)に言及したという紹介はなく、彼の3原則が4つの政治文献といかなる関係になるかは意味不明です。
私の率直な判断をいうならば、「自由で公正な貿易体制の進化発展」という3番目の「原則」はともかく、「競争から協調、互いに脅威とならない」という2つの「原則」は4つの政治文献にとっくの昔に含まれていることであり、「何を今更とぼけて言っているのか」ということです。安倍首相の問題意識をあえて「忖度」するならば、「未来志向」の彼としては、日中間の「過去」には一切お構いなしであり、むしろ桎梏となるから触れたくないということでしょう。
 10月29日に行われた中国外交部の定例記者会見(陸慷報道官)では、この「3原則」について次のようなやりとりが行われました。

(問)中国側は日本側とこの「3原則」を確認したか。
(答)中国側は安倍首相の上記表明を歓迎し、日本側が関連する積極的表明を実践し、中国側と積極的なインタラクションを強化し、中日関係を正しい軌道に回帰させる基礎の上で新たな発展を遂げるように推進することを期待する。
(問)「歓迎する」ということは、中国側は「3原則」を受け入れることに同意したということを意味するのか。
(答)安倍首相訪中に関しては、中国側が発表した習近平主席、李克強首相及び栗戦書委員長と安倍首相との会見会談についての発表文を詳細に読むことを勧める。その中では、中日双方が中日関係を深化させることについて高度の共通認識を達成したと表明している。双方が一致して確認したのは、中日の4つの政治文献の各原則を遵守し、歴史、台湾問題を適切に処理し、両国関係の政治的基礎を守り、実際の行動で互いに協力パートナーとなり、互いに脅威にならず、相手側の平和的発展を相互に支持するという政治的共通認識を実際行動で体現し、違いを建設的に管理、コントロールするということだ。
国交樹立後の日中関係の歴史もろくに勉強もしていない記者の幼稚な質問に、陸慷報道官が内心呆れかえりながらも、辛抱強く応対している情景が目に浮かびますが、その幼稚さは安倍首相にもそのまま当てはまります。よほど厚かましいか、まったくの無知でもなければ、薄っぺらさを極める「3原則」などという代物を、日中関係の現代史を知悉している百戦錬磨の中国の指導者にヌケヌケというなどということは考えられません。今回の安倍訪中に関しては、安倍ブレーンを自任する谷地正太郎が中国側の楊傑篪と事前に調整したはずですが、このような発言を安倍首相にさせるような谷地は完全にブレーン失格です。また私は、中国最高指導部は安倍首相との会見会談を通じて彼の薄っぺらさを改めて認識したに違いないと思います。
 その上で中国は、安倍首相が日中関係改善に前向きになったことをとりあえず諒とし、今後安倍首相が「実際の行動」で行った約束を守り続けるかどうかを見守るという最終判断を下したのでしょう。したがって、今回の安倍訪中で「すべてが片付いた」わけではありません。
 中国側が発表している論調を見ると、確かに安倍訪中を高く評価しているものが多いです。例えば、27日付の人民網-人民日報は鐘声署名文章(人民日報で権威ある署名文章は鐘声名で行われます)を、同日付の国務院配下の中国網は編集長・王暁輝署名文章(私はこの数年間中国網を毎日欠かさずチェックしていますが、王暁輝編集長名の文章は初めて見ました)はいずれも安倍訪中を高く評価することに徹しています。私の目にとまった文章の中で、日本(安倍政権)に率直な物言いをしているのは、これから紹介する3本の環球時報社説を除けば、2日付環球時報所掲の呉懐中(社会科学院日本研究所研究員)署名文章「日本は過去を超越する勇気と知恵を持つべし」だけです。
 3本の環球時報社説は、安倍訪中を受け入れるまでに中国内部で行われたであろう様々な議論の所在を私たちに垣間見せてくれるもので、とても重要だと思います。習近平及び李克強の上記発言に込められた日本(安倍首相)に対する奥深い問題意識の所在を環球時報の3つの社説は明らかにしています。これだけ心血注いだ内容の文章は環球時報社説の中でもまれに見るものです。他者感覚と自己内対話がふんだんに発揮されており、私たちに日中関係のあるべき姿はどういうものであるべきかを真摯に問いかけています。是非、襟を正し、正座して読んでいただきたいと思います。
10月25日付社説「中日社会は相互認識を再構築するべく心理状態を調整する要あり」
 安倍首相が25日から27日まで中国を公式訪問するが、これは中日関係が正常軌道に回帰する今ひとつのシンボル的出来事だ。中日関係は両国にとって最重要にしてもっとも複雑な二国関係の一つである。両国は隣国であり、互いを必要としかつ互いに警戒するという状況が不断に様々な方向から双方の関係に影響を及ぼし、加うるに、現実の摩擦とアメリカによるリモコン作用もあって、中日関係はいわば進まざれば退くというのが長期的様相だ。
 今回の中日関係における温度向上は数年間にわたる、厳しい挫折を経た後に実現したものだ。この間に中日はともに損失を被った。だからこそ、双方がともに努力して安倍首相訪中を成功させ、中日関係修復のために不断にエネルギーを加えることは中日の共通の利益に合致する。
 両国社会は、互いに対する視線を調整し、心理面から中日関係に対する再定義を行い、関係悪化によって生じたマイナス面から徹底的に抜け出して積極的に将来に向き合う努力をする必要がある。  そのためにはまず、中日社会は互いを尊重し、相手の長所を肯定し、受け入れ、自らの短所に虚心坦懐に向き合う必要がある。中日が絶対にやってはいけないことは、互いに軽蔑し合い、意地の張り合いをすることであり、互いに「遠交近攻」することである。そうすることの結果は、元々は単なる衝突に過ぎないことを深刻な対決とさせ、すべてのことが国家の運命及び尊厳の高みにまでエスカレートしてしまうのだ。
 しかし、互いを尊重し共存共栄するという大原則を確立しさえすれば、中日は容易に和して同ぜずの関係になることができる。そうなれば、中国人は、技術革新から精密管理にいたるまで、日本には中国が長期にわたって学ぶべき優れた点があることを見いだすだろう。中国の身近に、規模は必ずしも大きくはないが、洗練度においては極めて高い日本という国家が存在することは非常に素晴らしいことである。
 日本人からすれば、中国の現代化というメカニズムがいったん起動すれば、その規模の効果たるや日本としても驚嘆せずにはすまないことが分かるだろう。また、一定の技術領域では、中国が次第に追いついてくることは不可避なことでもある。日本としては中国の台頭を問題視するべきではない。そのようなことは自分を苦しめるだけのことだ。日本は台頭する中国と真正の互恵関係を作り上げるべきであって、中国の力が増大することを妨げるためにあらん限りのことをするということであってはならないのだ。
 なかんずく中日両国は、誇大視され、次第にホントとウソが見極められなくなる安全上の競争に落ち込むべきではない。中国が強大化するや、日本は瞬く間に歴史的な原因に基づく中国からの報復に見舞われることを心配している。その緊張たるや、インドや韓国が中国に対して抱く心配のほどを遙かに超えている。日本としてはこのような心理状態から抜け出す必要がある。
 中国社会について言えば、日本が軍国主義を復活させるという想像をコントロールし、日本が核大国となって再び中国を侵略するというリスクを持ち出して自らを縮みあげるべきではない。中日両国は、潜在的可能性を実際のリスクと見なし、それを以て戦略的相互認識をリードさせるべきではない。
 両国間には釣魚島(尖閣)の主権や東海(東シナ海)などの紛争があるが、両国のそれら問題に対する管理制御能力は世界最高レベルであるべきで、最低レベルであってはならない。中日が釣魚島紛争で関係を全面的に悪化させたことは極めて滑稽なことと言わざるを得ず、二つの成熟した国家がやるべきことではない。
 歴史問題が一直線であのように先鋭で敏感にまでなったことも正常ではない。日本の右翼が下心あって事を挑発したのは極めて悪辣であることは疑問の余地がない。しかし、あの連中が勢いづき、「闘志をたぎらせる」あの意気込みがどこから来るのかについて、中日社会はともに振り返って考える必要がある(浅井注:この下りの問題は、「右翼」の頂点に立っているのが安倍首相であり、安倍首相が自らの思想を180度転換することは"木によって魚を求める"の類いであることです)。歴史問題は徐々に薄めていくべきであり、日中双方は薄めることに資するような相互の行動を徐々に形成していくべきである。
 合すれば即ち共に利し、戦えば即ち共に傷つくという道理は中日間では特に正しいことだ。日本が絶えることなく動き回り、過激な行動を取ってきたことが、中日関係が過去数年間に悪化してきた主要かつ直接の変数だった。双方は両国関係の過去数年の曲折を総括し、戦略的心理のレベルで互いを近づけ、互いの疑念を減らし、相互の理解と適応性を増やし、両国関係を改善させるために不断に運動エネルギーを注入していくべきである。
10月26日付社説「安倍訪中 中日の内発的動力は外的推進力より遙かに大きい」
 中日関係改善の動力は主にワシントンによる貿易戦争の圧力によるものだろうか。安倍首相が中国を正式訪問するに当たり、多くの国際メディアはこのような角度から論じている。
 ワシントンは対中貿易戦争を極端に進めているが、同時に日本に対しても遠慮がないということは、中日が協力拡大の気持ちを増加させるだろうことはその通りだ。しかし、アメリカというファクターが中日関係において極めて影響力を持っているにしても、それによる変化は限られている。北京と東京がワシントンの態度如何で両国関係改善のプロセスを設計するとなれば、必ずや方向性を見失うに違いない。
 中日関係改善の長期的な動力は両国の中において探し求めなければならず。双方が安定した戦略互恵関係を樹立することは両国にとって益することはあっても害になることは何もない。日米関係に関しても、良好な日中関係は日米同盟における日本の主動性を増加させるだろうし、米中間で「バランス外交」という一種の優位を獲得することにもなるのであって、ワシントンにもたれかかることで米中双方から戦略的受け身によって制約されるということもなくなる。
 隣国はもめ事も多いが、協力する機会もまた多いだろう。世界を通観しても、隣国間でもめ事が多いということは、双方が大量の外交資源を消費し、良いところは他の国に持って行かれてしまうものだ。いわゆる「遠交近攻」はゆとりあるスマートな戦略プランでも何でもなく、往々にして迫られてやむを得ず行う選択である。経済競争がますます突出してきている今日、遠交近攻は環境を改善し資源を発展させることについて自ら苦しみを招く浪費ですらある。
 過去数年間における中日関係の悪化が両国の利益を消耗させたことは双方の社会に深刻な影響を残しており、両国関係が正常な軌道に回復することのメリットは極めてはっきりしている。中日が「和」を保ちさえすれば自然と収益が生まれる。逆に互いに「闘う」となれば、ありとあらゆる計略をめぐらせて得られるメリットは同日に論じることはできない。
 日本はアメリカの同盟国で、アメリカは日本に軍隊を駐留させている。日本の外交上の独立性を高めることは日本の核心的利益の一つであることは疑う余地のないところだ。中国を防遏しようというアメリカの思考が不断に台頭するに従い、東京が対中圧力に沿うようにしたいというアメリカの意志は高まるであろう。日本がその対中政策においてワシントンの影響を減らし、ひいてはその影響を脱することができるか否かは、日本の外交上の独立性にとっての試金石となるだろう。
 日本の対中姿勢がこの2年で熱心になったのはトランプの強硬な政策に対応するという考慮にもよるものであり、中日関係改善をワシントンに対する牽制カードにしようとするものだと心配するものもいる。こうした論者は、東京の対中思考が短期的で不安定なものであり、アメリカというファクターに変化が生じれば東京の姿勢もそれに伴って変化するのではないかと疑っている。
 外交における「三角関係」はどこにでもあり、懐疑論者の指摘するような影響があることは部分的には真実だが、それが絶対的であるということは極めて少ない。中日関係にとって必要なことは積極的なインタラクションによって不断に関係を作り上げていくということであり、相互関係に対する中日両国の決定力がアメリカの影響力を凌駕するということは十二分に現実的なことであり、そうした局面は双方にとってもっとも有利であり、したがって両国が共同で獲得していく価値があることである。我々としては日本側が今後さらなる政治的な知恵と勇気を示すことを期待している。
 中日間のイデオロギー上の争いは中米間のように先鋭ではなく、中日間の疎通は中米間の疎通より遙かに容易であることを見るべきである。中日間の距離は短いが、両国の安全保障に関わる心配は、長期的に見れば真っ向から対立するものではなく、双方の安全保障上の関心は協調的アレンジメントを通じて同じ目標に向かって進むことができる。21世紀という大勢から見れば、中日が戦略的パートナーとなるための条件は多い。
 過去2,30年の間、中日間では不断に摩擦を通じて相互理解を深めあってきたし、両国関係には大きな起伏もあり、相互の認識は幾たびの洗礼を経て、経験及び教訓には蓄積ができてきた。両国は、今回の関係改善を力にして中日の長期的な友好協力がさらに安定する上での心理的及びメカニズムの枠組みを構築し、両国関係におけるいくつかの「解けない結び目」を時間の中で徐々に解いていくべきだ。
10月27日付社説「中日のわだかまりを解く 難しさはあるが不可能にはあらず」
 安倍首相の中国公式訪問は中日関係改善に新たな動力を注入した。両国指導者は会見の中で等しく中日が「協力パートナーとなり、互いに脅威とならない」という願望と共通認識を表明し、さらに第三国市場でインフラ投資を行うなどの多くの協定に署名した。これらの成果は今後の中日関係にとって重要かつ積極的な蓄積となる。
 中日は今回の関係改善を新たな起点として、不断に協力を拡大し、これを不可逆にする趨勢を作り出すことができるだろうか。そのような判断を下すのはなお難しいが、そういう可能性は明らかに存在しており、両国が共同で獲得するべく努力する価値がある。
 中日対立は過去の一期間中に高度に先鋭な対外的衝突にまでなったが、仔細に見れば、中日関係の基礎はそれほどひどいものではなく、衝突を引き起こした原因の中には両国外交の他の分野でも存在するものである。
 例えば、釣魚島問題は長い間中日関係で不断に噴火する活火山だったが、中国は他の多くの国々とも領土紛争を抱えているし、関係する面積及び複雑さは遙かに大きく、日本とロシアとの領土係争面積も釣魚島よりも遙かに大きい。
 歴史問題についていえば、日本の右翼は戦争の罪行を反省することを拒否し、アジア全体ひいては世界に挑戦してきたが、昨今では主に中国を対象としている。日本の一部の連中は、歴史問題を利用して中国に対する別の感情を表明し、それを以て日本の国家的及び民族的なアイデンティティを強固にしようとしているようだ。
 道理からいえば、中日関係はそのように悪化するべきではなく、まして日本社会としては中国を忌み嫌う理由はない。なぜならば、第一に、明朝の時代から中国が日本に災いをもたらしたことは一度もなく、すべては日本が中国に騒ぎを起こし、侵略したのだ。第二に、中日間の貿易額は大きく、中国は日本の貿易パートナーとして第一位である。中国の台頭がアジアにおけるパワー・パラダイムに変化を引き起こしたことは日本に自失感を引き起こし、安全保障における不安感を生ぜしめたが、中日関係が中国の台頭によって受けた衝撃が他の分野で受けた衝撃よりも大きいというのは明らかに合理的ではない。
 我々は、過去における中日関係の深刻な動揺の原因をいずれか一方の国に帰することはできないのであって、両国間のインタラクションが適当ではなかったことの結果とみるべきだと考える。また我々は、アメリカというファクターが中日関係に対して長期にわたる戦略的なマイナスの影響を及ぼしたのであり、その影響たるや、時にはオープンな干渉であり、時には人知れずのものであった。アメリカの東アジア政策における一つの目標は、中日がアメリカのこの地域における政治的軍事的プレゼンスの強化にとって不利になるほど歩み寄ることを防止することにある。
 中国の台頭が中日間のパワー・パラダイムを再構成するという問題はすでに大体において完了しており、中国の台頭に対する日本の適応性も次第にできつつある。以上のことは中日関係における不安定要因を減らし、中日関係の長期的安定のための条件を強化し、増加させることを促しているのであって、両国が関係の激動を収束し、安定協力の時代を実現する可能性が正に到来しつつある。
 さらに長期的な角度から見ると、今後さらに面倒を引き起こすのは米日関係だろう。米日同盟の不平等性はアメリカと他の同盟国との関係と比較して突出しており、アメリカの日本における駐留軍は今日に至るまで占領軍の趣であり、このことは日本の国家主権を大きく抑え込んでいる。米日間の潜在的矛盾は中日間でオープンになっている矛盾よりも遙かに深刻だ。
 日本が「普通の国家」になる上での最大の障害は間違いなくアメリカである。今、日本はこの問題に関する最大の阻止力は中国だと見ているが、中国の現実の態度がどうであれ、日本のこの認識は客観的ではない。日本のナショナリズムのはけ口のほとんどが中国に向けられているが、このような状況は続けるべきではない。
 今、日米を衝突させるということは非現実的だ。アメリカは相変わらず世界最強最大の国家であり、アメリカに押さえつけられている日本にはワシントンと対立するだけの勇気はあり得ない。しかし、中日間の対立を収束させる根拠はますます十分になっており、日本の中国に対する不満がアメリカに対するよりも大きいというのは、一定の勢力が意識的にそうさせた結果であり、事柄の本質によって決定されたものではないことは間違いない。
 以上をまとめると、我々は中日関係改善の流れを好ましく見ており、双方が外交的消耗を停止し、ウィン・ウィンを獲得することは両国が力の限り行うべき戦略的軌道修正であると考える。以上の分析が空振りに終わらないことを願うものだ。