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ペンス副大統領の中国非難演説(環球時報社説)

2018.10.08.

アメリカのペンス副大統領は10月4日、ワシントンのハドソン研究所で中国を全面的に批判・非難する演説を行いました。この演説について中国内外では、1946年にイギリスのチャーチル首相が行ったソ連に対するいわゆる「鉄のカーテン」演説と同じように、米中冷戦の幕開けになると見るものも出てきたとされています。10月7日の環球時報社説「アメリカ人よ ソ連に対したように中国に対しようと考えることなかれ」は、そういう見方があることを指摘しつつ、中国としては、「より高所に立ってひっきりなしに騒ぎ立てるアメリカを眺め、その衝動的感情に煩わされず、中国の発展に対して影響する最大の外的力を認識する上で理性を保つことを確保する」として、以下のように述べています。相変わらずの冷静沈着さであり、仮に日本がアメリカからこのような激しい批判に遭遇したらパニックに陥ることは想像に難くないと思うと、余計に中国の落ち着きに感心する次第です。参考までに紹介します。

 第一、アメリカは、ペンスが主張するほどに中国に対して良いわけではないし、中国もアメリカに対して申し訳ないことをしているわけでもない。近代になってからのアメリカが中国国家の運命に対して演じてきた役割は複雑であり、中米両国の歴史に対する認識はともに「我を以て主となす」ではあったが、事実としては、アヘン戦争から新中国成立に至る中国の命運は極めて悲惨なものだった。世界No.1になる過程で、アメリカが中国の命運に対して発揮した影響力はペンスが騒ぎ立てるほどに大きなものではなかった。
 第二、ニクソンが中米関係の扉を開いてから中国の改革開放に至る間に、中米は初めて平等という基礎の上にまったく新しい関係を築いた。この期間中、双方の間には様々な齟齬及び摩擦はあったが、総じて見れば、アメリカは中国の発展に建設的な役割を果たしてきた。また中国も、アメリカの発展と安全に積極的な役割を果たした。すなわち、中米和解は冷戦後期のアメリカの対ソ優位を高め、中米協力はグローバル化時代におけるアメリカの国際的指導力を固めた。
 第三、今日に至る中米の摩擦とゲームは、人類史上における「守勢大国」と「台頭大国」との間のものの中ではもっとも温和なものであり、過去数年に及ぶ戦略的相互疑心並びに経済的及び安全的摩擦に関しても平穏にコントロールしてきたといえるだろう。実際、中米のような大国は軍事的対決の方向に向かわない限り、両国間の様々な争い及び摩擦はすべてコントロールできるものだ。
 第四、アメリカが中国に対して鬱憤をぶちまけることは易しいが、中国を押しとどめるためのテコは非常に限られている。貿易戦争は必ず自らに跳ね返ってくるものであり、手段としては極めて愚かである。アメリカが中国に対してNATOのような同盟を作ることも極めて非現実的であるし、アメリカが向き合っているのは世界で商売を行い、国内市場も急速に拡大している中国であって、アメリカとしては中国を孤立させ、押しとどめるための同盟・友好国を募ることはほぼ不可能である。  中国が戦略的にアメリカと全面的に対決しようとでもしない限り、ホワイトハウス及び議会がアメリカの社会をあげて反中に動員することは極めて難しいことだ。今日はもはや国民がいわゆる「ナショナル・インタレスト」のために出動し、リスクに満ち満ちた遠征を行うような時代ではなくなっており、中国がアメリカの政治的エリートのクレージーさに対して冷静を保ち、彼らをシカトしさえすれば、いわゆる「新冷戦」は起こりえず、彼らの大騒ぎも早晩鬱憤晴らしのおもちゃに終わるだけのことだ。
 アメリカが怒りに狂っているとき、中国はアメリカに対して太極拳で対処する必要がある。それは恐れおののき、退却し尻込みするということではなく、中国民族特有の戦略的知恵である。中国は貿易戦争では必ずやアメリカに痛みを伴わせるし、南海、台湾海峡でもアメリカが勝手をすることを許さない。しかし我々は平静心を以てこれらのことをするのであり、そうすることによって、アメリカをして無茶を仕掛ければ代価を支払わなければならないが、中国としては常にアメリカに対して友好協力のゲートを開けていることを知らしめるということなのだ。中国はこれからも開放を拡大していくし、このことは外部の環境が悪化するからといって変えるものではない。
 中国が以上のようにすることができれば、いずれ戦略的効果が生まれるだろう。中国は独特であり、ソ連ではない。ソ連に対処したような仕方で中国に対処しようという発想は持たないことだ。