朝鮮半島情勢
-米国の危うさと国際協調の必要性-

2018.10.04.

第2回目の米朝首脳会談に向けた動きが再開されています。しかし、私たちに必要なことは、目先の動きに惑わされず、朝鮮半島の平和安定とその非核化を実現させるための課題とは何なのかについて見定めることだと思います。
 たまたま執筆の誘いがあったので、以上の問題について記してみました。字数制限(2400字)があったためにかなり乱暴な文章になっていますが、ポイントは整理してあるつもりなので以下に紹介します。

<朝鮮半島をめぐる国際環境の変化>
 最初に、本年初の金正恩委員長の「新年の辞」から9月の北南首脳会談までの朝鮮半島情勢の展開を踏まえ、半島をめぐる国際環境の変化のポイントを、昨年までの国際環境との対比において整理したい。そのポイントを踏まえることにより、今米国に求められるものは何かという問題点を明確にすることができるとともに、トランプ政権がその問題点を認識して行動できるかという問題を明らかにする視座を得ることもできるからである。
 最大かつ最重要なポイントは改めて言うまでもなく、勇猛果敢の金正恩委員長、剛毅木訥の文在寅大統領、深謀遠慮の習近平主席そして猪突猛進のトランプ大統領(冷静沈着のプーチン大統領も出番の機会をうかがっている。頑迷固陋の安倍首相は蚊帳の外)という、偶然かつ絶妙な組み合わせを得て、60余年にわたる朝鮮半島冷戦構造が音を立てて崩れ始めたことだ。
 第二のポイントは、あえて大胆に簡略化すれば、昨年までの米中ロ日韓対朝鮮という構図が今や朝韓中ロ対米日の構図に激変したことだ。
 第三に、朝鮮半島に関わる国際的主題が、21世紀の国際環境(相互依存の不可逆的進行、人間の尊厳(普遍的価値)の確立、地球規模の諸問題の深刻化)に即して、共滅が不可避な軍事的対決(核戦争の危険)からウィン・ウィンの非軍事的対話(朝鮮半島の平和安定と非核化の取り組み)へと移ったことだ。
<半島の平和安定と非核化の実現>
 朝米首脳会談及び3回の北南首脳会談(注:朝鮮は金大中及び盧武鉉の訪朝をカウントして5回の北南首脳会談とする)を通じて朝米及び北南間で了解された、朝鮮半島の平和安定と非核化を実現するためのポイントは以下の数点に要約できる。
 第一(基本):朝鮮半島の平和安定とその非核化の実現は、米朝首脳会談で合意された「相互不信から相互信頼へのパラダイム転換」(ハンギョレ・イジェフン先任記者)の精神に立脚して進めること。
 第二(目標):朝鮮半島の平和安定の実現とはアメリカの対朝鮮敵視政策の終了であり、具体的には休戦協定の平和条約への転換及び米朝国交樹立であること。また、朝鮮半島の非核化の実現とは朝鮮の非核化及び米国の朝鮮半島拡大核デタランス戦略終結の双方を含むこと。
第三(プロセス):朝鮮半島の平和安定とその非核化は「段階別、同時行動原則を順守する」(朝米首脳会談に関する朝鮮中央通信報道文)プロセス(以下「プロセス」)で進め、その最終的実現を目指すこと。
 第四(タイミング):(トランプ政権がコミットした、朝鮮のレジーム・チェンジを追求しない政策を後継米政権が継承する保証がないため)プロセスはできるだけ短期間(トランプの任期中)に基本的に完了すること。
第五(出発点):プロセス開始の出発点として、停戦協定締結65年の今年中に終戦宣言を行うこと(板門店宣言第3項③)。
<米国に求められるものは何か>
 今、米国・トランプ政権に求められるものは、朝鮮半島に関わる国際環境の変化(既述)を認識し、朝米首脳会談共同声明を真摯に受け止め、半島の平和安定及び非核化の実現のために積極的に行動することに尽きる。具体的に求められることは、トランプ大統領が朝米首脳会談実現に当たって発揮したリーダーシップを、朝鮮半島の平和安定及び非核化実現のために政権全体として引き続き発揮していくことである。そのためには、トランプ政権は以下の問題に真摯に向き合わなければならない。
 第一、感情的、衝動的に速戦即決する猪突猛進のトランプのスタイルは、朝米首脳会談という一過性の外交イベント実現に当たっては奏功したが、半島の平和安定及び非核化実現というプロセスに対処するに当たってはまったく通用しないこと。プロセスに向き合うトランプ政権に必要とされるのは、明確なビジョン・戦略に基づいて粛々と事を進める忍耐強い姿勢である。
 第二、恫喝によって相手の一方的譲歩を引き出そうとするトランプの商売人的アプローチ及び対朝鮮政策を立案・実行するに当たって硬軟のスタッフ(ボルトン・ポンペイオ)を配して無手勝流に使い分ける投機的手法は、朝鮮(及びイラン)のような確固とした原理原則を重んじる相手には通用しないこと。政治指導者としてのトランプに求められるのは、国際関係規範・ルールを弁え、朝鮮を対等平等な交渉相手として遇する基本姿勢である。
 第三、トランプは反既成権力を売り物にしている(朝鮮のレジーム・チェンジを追求しない)が、彼の政権は全体として既成権力の代表者(対朝鮮敵視政策に傾斜)で占められており、政権全体としての対朝鮮政策の一貫性・安定性を期待しにくいこと。トランプには、自らの対朝鮮政策が21世紀の国際環境(既述)に即したものであることを認識し、政権内部の抵抗・反発を抑え込む胆力が要求される。
<国際協調の重要性>
 率直に言って、以上に要約した三つの問題をトランプがはっきりと自覚・認識し、主体的に克服することは期待しにくい。自尊心を満たすことにのみ執着する彼には学習能力が備わっていないことは、過去一年半余の現実が証明している。
そうであるとすれば、朝韓中ロ4カ国が国際協調を強化することにより、トランプ政権が朝鮮半島の平和安定及び非核化の実現に同調的行動を取らざるを得ないように仕向ける取り組みが不可欠となる。
 3回の首脳会談を経て北南首脳間の相互信頼が確立し、朝鮮半島情勢に関わる中ロ両国の対米自主独立が明確になった結果、文在寅政権の対米レジリエンスは強化され、朝韓中ロ対米日という構図が米中ロ日韓対朝鮮という昨年までの構図へと逆戻りする事態はもはや予想しがたい。むしろ、朝鮮及び韓国が結束し、中ロ両国の全面的支持・支援を背景に、半島の平和安定及び非核化の実現に向けた主導権を発揮する(米国を否応なしに従わせる)国際的条件が醸成されつつある。
 今一つ付け加えれば、今の朝米関係は"釈迦(金正恩・朝鮮)の掌の上で得意然としている孫悟空(トランプ・米国)"に比定することができる。孫悟空が掌から転げ落ちないように釈迦は手綱を操る必要がある。